問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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王と女王 ①
一輝は閉じていた目を開き、同じように目を開いた湖札を確認してから示道とぬらりひょんを見る。
「あの記憶、あれから俺達のこのギフトが何なのかも分かった。でも、分からないことしかないぞ。」
「まあ、そうだろうな。ってか、あれで理解されたら驚きにもほどがある。」
そう言いながら肩をすくめ、示道は一族の役目を話した。
そして・・・それを聞いた二人は、目を見開いて驚きを示した。
湖札は、もはや声すら出せなくなっている。
「・・・確認しとくぞ。それはマジか?」
「ああ、マジだ。今話したのが鬼道という一族とあれ・・・俺は『歪み』と呼んでいる物を最も正確にあらわしたものだと、俺は思う。」
そう、あらわした。
いわばこれ、という言い方でしか表現できないものが、鬼道の一族と『歪み』なのだ。
「ま、この表現についてはワシも示道と同意見じゃ。これ以上の表現方法は、存在せんじゃろう。」
「・・・なら、それでいい。じゃあ次に・・・何で示道は、そんな重荷を背負うことにしたんだ?何で・・・そんな重荷を、後の一族に背負わせることにした。」
「アジ=ダカーハを倒すため、ノーネームのためだ。」
一輝の問いかけに対して、示道はそう即答した。
「アジ=ダカーハを?」
「ああ。あれを倒すために必要な要素、その答えは原典候補者であると言われたが・・・俺は、別の手段でそれをなすことにした。」
「そのために、その重荷が必要だったんだな?」
「ああ。前提条件として、それが必要だった。・・・俺がぬらりひょんと契約し、作り出し、封印して集めた要素。それを、今教えておく。・・・どうか、あれを倒してくれ。」
そして、示道はその術を・・・民から外道と呼ばれ、悪と罵られてでも集めたその手段を、二人の子孫に告げた。
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現在、一輝と鳴央、スレイブ、ヤシロの四人は一輝の放った式神が発見した神殿へと向かっていた。湖札は一輝の檻の中にいるので、実質五人である。
「さて、普段なら主催者権限を使わせる前に潰しにかかるんだけど・・・相手がオベイロンともなると、音央がゲームに組み込まれている可能性が十分に高い。」
「あの・・・一体いつ、相手の正体を知ったんですか?」
「ラプ子が、出発前にすんごく悔しそうにしながら教えてくれた。」
ラプ子からしてみれば、一輝は自身を確立してさえくれれば十分に戦力となる。生還のためにも、情報を渡す選択をしたのだ。
『それで兄さん、私はどうしたらいいの?』
「とりあえず、住み心地は悪いかもだけどそのまま中で待機だ。いざとなれば切り札として使えるし。」
『了解、兄さん。それと、中々住み心地はいい空間だよ?』
どうなっているのかは分からないが、一輝の中の空間は住み心地がいいらしい。
『ギフトは、基本こっちで?』
「そうなるな。どうにも、無景物を統べるものは制御できそうにない。」
一輝はそう言いながら手の上に水の渦を作り・・・それは一瞬形をなしたものの、すぐにはじけ飛んだ。
「う~ん・・・ギフトの制御ができなくなってるね?」
「どうにも、そのようですね。戦闘の最中は使えていませんでしたか、兄様?」
「途中で使うのやめちまったけどな。・・・まあ、あの時は神成りしてたおかげだと思う。・・・それでも、制御できてたわけじゃないんだけど。」
そうあっさりという一輝だが、彼の中にあるのは純粋な恐怖だ。
強すぎる力は、時に持つ本人に対して最も恐怖を与える。制御で来ているのならともかく、全然できていないのだから当然のことだろう。
そして、制御できるようになる方法にも心当たりはあるのだが・・・それをなすのは、さらに危険な賭けだ。今それをするのは、避けたいだろう。
「・・・っと、ついた。これだな。」
そんな話をしている間に、彼らは神殿の前へとたどり着いていた。
「され。話を戻すけど、俺はさっき言った理由から主催者権限を使わせるべきだと思うんだけど。」
そう問いかけると、それに反論する声は誰からも上がらない。
よって、一輝は倉庫の中からハンマーを取り出し、
「音央を返せこんちくしょー!」
入口を思いっきり破壊して、神殿に乗り込んだ。
「ん・・・君たち、一体何の用だね?」
「死ね!」
さらに、入ってすぐのところにいた人に向けて、たった今使っていたハンマーを投げつける。
が、ハンマーはその男にあたった瞬間に砕けちった。
「う~ん・・・やっぱり効かないか。」
「・・・どういう、つもりかね?」
頬をぴくぴくさせているのだが、一輝はそんなこと気にもしないで用件を告げた。
「魔王オベイロン。音央を返してもらいに来た。今大人しく返すのなら、殺す程度で済ませてやる。」
「音央?はて、誰の事やら・・・今ここにいるのは私と我が花嫁、パックくらいだが?」
「なら、そのお前が花嫁だと思い込んでるやつだな。さっさと返せ。」
一輝の発言と同時にオベイロンは立ち上がり、抑えていた霊格を解放したのだが一輝とヤシロの二人には、何の被害もない。
残りの二人は少し後ずさったのだが、それでもすぐ一歩前に出て、元の位置に戻る。
「・・・聞き間違いでなければ、私の花嫁を返せと言ったかね?」
「いや、テメエが花嫁だと思い込んでいる俺達の仲間、音央を返せって言ってるんだよこの精神異常の誘拐犯。」
「・・・・・・私が、誘拐犯だと?」
「ああ。前にいた世界にもいたよ、女の子をさらって奥さんですって言う変な人。お前がそれ以外のなんだって言うんだ?」
一輝はそう挑発しながらスレイブの手を握り、鞘をかぶせたままの大剣を構える。
「違う。私たちは愛で結ばれている!」
「うっわ、さらにそんな夢でも見ちゃったのか・・・?お互いに初対面だったってのにありえねえだろ。」
「違う!私とタイターニアは元々よき夫婦だった!タイターニアは一度死んでしまったが、こうして再誕し、再開した!まだ記憶は戻っていないが、それでも、」
「うっせえんだよ!」
そして、一輝がキレた。
「死んだ人間が再誕するだと?ふざけてんじゃねえぞ!そんなものは残された者の勝手な希望、妄想にすぎない!そんなものを関係のない音央に押し付けてんじゃねえ!」
「希望、妄想・・・私のこの気持が、そんなものだと・・・!?」
そして、一輝にそう言われて・・・それが図星であったがゆえに、オベイロンの怒りは一度頂点に達した。
頂点に達したら、後は下るだけである。
オベイロンは怒りが頂点に達したことにより、逆に冷静になっていた。
「ハハハ・・・ハハハハハハ!そうか、これが試練なのだな!」
「・・・根本的に狂ってやがるな。壊れてる。」
一輝のつぶやきは、もはやオベイロンに聞こえていない。
「ならばこの試練を乗り越え、貴様たちを贄とすることで彼女の記憶を取り戻そう!それが今、私の超えるべき試練!」
そして、オベイロンは主催者権限を発動した。
『ギフトゲーム名“王と女王”
・プレイヤー一覧
・鬼道 一輝
・六実 鳴央
・鬼道 湖札
・ヤシロ・フランソワ一世
・ダインスレイブ
・ホストマスター指定 プレイヤー側ゲームマスター
・鬼道 一輝
・ホストマスター側 勝利条件
・参加者全員を女王の贄とする。
・参加者全員の殺害。
・プレイヤー側 勝利条件
・王の殺害。
・女王の殺害。
・特殊ルール
・王よ、女王のために剣を収めよ。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
“オベーロン”印』
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