問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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力の契約
「・・・五の道、今ここに相生する。木生火、火生土、土生金、金生水、水生木。五行互いを相生し、輪廻の輪を形成せよ。五行相生、輪廻。急急如律令!」
一輝は湖札を自らの背に隠し、すぐに攻撃に移った。
すぐに使える道具は、五行符が一枚ずつ。だからこそ、彼はその武器で出来る一番威力の高い攻撃を放つ。
木、火、土、金、水の順に円形に札を並べ、全ての札に対して真横の札と相生させる。これによって無限に相生が繰り返され、その威力は驚異的なものとなる術なのだが・・・それは、二人の目の前の異形によって防がれる。
正確にいえば、目の前の異形にあたり、情報に分解されてとり込まれた。
歯が立たず新たに呪札を掴めるだけ掴み取った一輝は、しかしどれが有効なのかと一瞬悩む。
少なくとも、ただのお札は相性が悪い。上位互換である五行符が効かなかった以上、そう考えるのが妥当だろう。そう判断して・・・腰に手を回し、小刀を逆手に引きぬく。
「・・・・・・愚者、敵対者。』
そして、一輝が小刀を構えた瞬間にそれは一輝に対して光を伸ばした。
その光は一輝のもとに向かいながら槍状に収束していき、
「霞切り!」
一輝はそれを実体のない物と判断して、実体のない物を斬る技、霞切りで対応する。
その判断は正しく、一輝が二度振るった小刀は槍の先端を切り落とし、勢いが収まらなかった槍を二度目で両断したが・・・それは、止まらなかった。
切り落とされた槍はトカゲの尻尾のように動いたと思ったら宙に浮いて、再び一輝へ向かって飛んでくる。
「うそっ・・・!?」
一輝はそう言いながらも飛んでくる物の片方を小刀で、今度は斬るのではなく打ち落として、もう片方は呪力を纏わせた手で弾こうとするが、触れたところから呪力を情報に書きかえられ、吸い取られる。
それを見た瞬間、恐怖から反射的に小刀でそれを斬り落としてしまい、合計三つになった槍は全て、一輝に突き刺さった。
「痛い・・・」
一輝は痛すぎて声をあげることも出来ず、二本刺さった左腕をぶらんとたらしながら、どうにか立ち上がり・・・平たく伸びた光をたたきつけられ、アバラを何本か折られながら樹にぶつかり続け、五本折ったところでその勢いは収まり、六本目に叩きつけられてようやく止まった。
一輝がその衝撃で立ち上がれずにいると、それは一輝に近づいていき、手の様なものを振り上げて・・・そこに突き刺さった黄金の矢によって、手の部分は霧散した。
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湖札は自分を守りながら戦う一輝を見て、震えながら、何もできないふがいなさを感じていた。
力がなく、昔から親の後ろに隠れてきた自分。戦うことが恐くて修業をすることも少なかったつけが回ってきたことを幼いながらにも自覚したのだ。
だがそれでも、腰が抜けてしまい、さらには指一本動かすことができない。
それ以前に五行符が効かないのは先ほど一輝が放ったのを取り込まれたのを見て理解している。自分が使うものの何百倍もの威力を持つそれが無効化されたのだ。元々ないに等しかった自信すら失っている。それでもまだ、何かできないかと手段を探せているのはもはや奇跡と言っていいだろう。
そして・・・それだけの強い意志に、神は答えた。
『強い意志・・・圧倒的な敵に対してそこまでの瞳を持つとは、感心です。』
「だ、誰・・・?」
虚空から聞こえてきた声に対して、湖札はそう声を漏らす。
その声に反応したのか何なのか、湖札の周りに強風が吹き荒れ・・・それが収まると、一人の女性が現れた。
いや、正確に言うのなら・・・一柱の女神が現れた。
「貴女は・・・?」
『おや、私の名を知りませんか・・・しかし、ここは異郷の地。さらには貴女は幼子なのですから、仕方のないことなのかもしれませんね。』
湖札がその神のことを知らない様子に、しかしその神は気分を害さなかった。
『なんにしても、私の名を知りたいのであれば自らの手で知って見せなさい。』
「私の、手で・・・?」
『ええ。もしもう一度出会う事があったなら、その時にまた聞きましょう。私の名を当てられたなら、褒美をあげましょう。』
楽しそうに話している女神に対して、湖札はだんだんと心を開いていた。
それもまた女神の持つ力の一つなのだが、湖札がそんなことを知っている道理はない。
『それで、どうしたいのですか?貴女はこの状況に対して、何をなそうと欲します?』
「何を・・・?」
『ええ、何を。・・・いえ、それよりもまず、貴女は彼のことをどう思っているのか。そこから訪ねさせて頂きましょう。』
その問いかけに対して湖札は何と答えればよいのか分からなかったが・・・しかし、心の中でざわめく何かを感じてはいた。
「どう?・・・?・・・???」
『なるほど、まだそう言った感情を理解できてはいませんか。ですが、それだけの自覚があれば十分でしょう。』
それだけの自覚。そこに込められているのは、少なくとも彼を失いたくないと考えているという意味だ。
『では、再び問います。貴女はこの状況において、どうしたいのですか?』
「どう・・・」
『ええ、どう。この場から逃げ出したいのか、今のこれがなかったことになってほしいのか。』
湖札は無意識のうちに、その二つを否定した。
そして、こちらもまた無意識のうちに口を動かして・・・
「・・・お兄さんの、力になりたい。」
そう、伝えた。
その言葉の中にも違和感が存在していたのだが、内容は完全に本人の気持ちだ。
『そうですか。その気持ちに偽りはありませんね?』
「・・・ありま、せん。」
『よろしい。では、一つ契約をしましょう。』
契約。それを市民登録もしていない異形と交わすことは、一部の特例を除いて禁忌とされている。
だからこそ、その言葉に対して湖札は戸惑いを見せたのだが・・・眼前で一輝が三つに分かれた槍に貫かれたのを見て、心はきまった。
「内容、は?」
『そうですね。では、二つ。』
急かす様子の湖札に対して、女神は慌てる様子を見せなかった。
『一つ目は、あれを討伐してください。』
「あれ、を・・・?」
『ええ。あの少年と協力してくださっても構いません。どのような手段であれ、あれを討伐することを約束してくだされば。』
「私に、出来るの・・・?」
『ええ。貴女の一族であれば、あれを討伐することが可能。そう言った血を引いているのです。』
女神はそれ以上の説明をせず、次の内容を告げる。
『二つ目は、そうですね・・・何か一つ、絶対にあきらめないものを定めましょうか。』
「・・・・・・・・・?」
『ふふっ。貴女を見ていて少し悪戯心が生まれてしまいました。あの少年に対して、決してあきらめない。そう誓ってください。』
小さく笑いながらそう伝えられ、湖札は理解できずに頷くと・・・視界の先で一輝が樹を折りながら飛ばされていくのが見えた。
『と、あまり余裕はないのでしたか。では、今伝えた内容で契約成立、それでよいですね?』
湖札は頷いた。しかし、女神を一切視界に入れないで。
『では、力を与えましょう。私の力の一端。初回ですし、少しサービスもしてあげましょう。』
そんな様子に再び微笑ましそうにしながら、女神は手に黄金の光を集めていき・・・それを、湖札に譲渡する。
「これ、は・・・!?」
湖札は流れ込んでくる力の質が異質にもほどがあることに気付き、しかしその強大すぎる力が自分を破壊しないことに、心から驚く。
『私が貴女の体に適応するよう、調整してながしこみました。貴女に最も合う形をイメージしつつ、それを具現化して見せなさい。』
「イメージ・・・具現化・・・」
湖札は女神に言われたまま、その力に形をイメージしていき・・・それは、黄金の弓となって湖札の手にあらわれた。
『それが貴女のイメージした、貴女に最も合う形の力。知を持って敵を誅する武具です。』
「知を・・・?」
『ええ、知を。今回は私から与えましたが、以後使う際には自らの手で得るのですね。』
では、契約をなしなさい。そう言い残して、女神は消えた。本体が来たのではなく、何かしらの手段で意識だけを飛ばす、それに近いことを行っていたのだ。
湖札は一瞬、女神について気になったのだが・・・すぐに気持ちを切り替えて、一輝に近づく何かに狙いを定めて――――初めて扱うはずなのに、その姿は様になっていた。――――矢を、放った。
放たれた矢は一直線に一輝に向けて伸ばされた手にあたり、その手を霧散させる。
そして、初めて自分に意識を向けたそれに対して、湖札は。
「お兄さん・・・お兄ちゃんに、手を出さないで!」
そう、いい放った。
その呼び方はこれまでのものと違い、やけにすんなりと受け入れることができた。
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