問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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乙 ⑬
「なんだか・・・あんな契約書類だったのに、ずいぶん平和的になったわね。」
「最初のゲームには命の危機がありましたけど、それも簡単に回避できましたし。」
鳴央の言う通り、水攻めに会った最初のゲームも命の危機は簡単に回避できた。
手段はごくごく単純なもので、鳴央が水を神隠しに会わせたのだ。それが叶わなかったら、その時は人を石盤ごと神隠しに会わせ、石板を完成させてから戻ってこればいい。とはいえ、ゲームが成り立たなくなるため本当に危険にならない限りは使わない、という結論に至ったため、使っていないのだが。
同様の理由で、白雪もギフトを使っていない。
頭を働かせれば、死ぬ可能性はゼロにまでなるゲーム内容。主催者の名前すら出さずにおこなうゲームとしては、いささか安全すぎる。
そして、今回のゲーム内容は・・・
「お料理、か~。確か、鳴央お姉さんは得意だったよね?」
「得意、といえるほどのものではないのですけど。」
鳴央はいつも通り謙遜を見せたが、それが嫌味にならないのは彼女の性格ゆえだろう。
「そんなことないわよ。鳴央の料理はおいしいわ。」
「そうでしょうか・・・?」
「うんうんっ!お兄さんの胃袋もがっしりつかめるんじゃないかな?目指せ籠絡!」
その瞬間、鳴央の顔が一気に紅くなる。
「ろろ、籠絡って・・・!?」
「お兄さん、たぶん色仕掛けとかよりもそう言うのの方が効果あるともうよ?」
「確かに、一輝はそんな感じよね・・・あれが色恋沙汰に興味あるのか、そこから謎なんだけど。」
音央がそう言った瞬間、目の前で黒ウサギたちがハムーズと話しているのを放置して三人での話が始まる。
「そう言えば、お兄さんはそこから怪しいかな。大人びてる?」
「いや、あれはむしろ中身結構子供でしょ・・・やりたいことは全部やる方向だし。」
「感情に正直ではありますね。・・・とはいえ、本気で怒ったところは見たことないです。」
音央と鳴央に対して一度怒ったことがあるが、それも本気で怒っていた様子はなかった。二人のいないところで一度キレてもいるのだが、それも自分が原因ではなくレティシアに対するペルセウスの態度にキレたことだ。
そして・・・
「・・・なんだかんだ、あいつって自分のために感情が動くこと少なくないかしら?」
「これまで一緒にいて、そういう傾向にあるのは確かですね。」
「その分、人のことで動くのは多いよね~。そして、人のために命がけに見えることも平気でしちゃう。|《あのギフトもそうだし》。」
最後にヤシロがつぶやいた言葉が、二人に聞かれることはなかった。
ヤシロは一輝のギフト、『無景物を統べるもの』に発生する代償の頭痛、これの正体が何なのかを知っている・・・というよりは、偶然知ってしまった。
一輝ですら知らない頭痛の正体。ヤシロは自身が破滅という存在であるがゆえに、それが本人の破滅へと向かう要因であることを理解してしまった。
《あれ、基本影響は無いに等しいんだけど、たまにお兄さん無茶して使うからな~。》
ヤシロはそう思いながら、しかしその正体を一輝に伝えていない。
伝えたところで一輝がそれを使うのは間違いなく、かと言って破滅を取り除く手段があるわけでもない。
変に心配させるくらいなら、という考えのもと、ヤシロは一輝のことを心配しながらもそれを心のうちにしまっている。
「ヤシロ!私たちも料理始めるわよ!」
「私が指示を出しますので、手伝ってください!」
「あ、うんっ!すぐに行くね~!」
《たぶん、元の世界にいる間はあのギフトをあそこまで行使することはなかった。だからこそ与えられたんだろうけど・・・箱庭では、使う頻度も増してるし、それが原因なのかな~》
ヤシロはそんなことを考えながら、調理台についた二人の元へと向かった。
限りなく正解に近い思考を走らせながら。
========
「えっと・・・あの七人ミサキが言ってたのってこの辺りだっけ?」
「それで合っていると思います。とてもそれらしき建物ですし。」
二人の目の前にあるのは、雰囲気が病院のような建物。と言っても、肝試しに使えそうな、という言葉が頭につくのだが。
「ま、そうだよな・・・それにしても、ずいぶんと大物が出てきたよな~。あれは驚いた。」
「確かに驚きましたが、同時に納得も出来ました。あれほどの存在であれば、神格の一つや二つ、簡単に渡せるでしょうし。七人全員に神格が宿っていたのも納得できます。」
「いや、あれは一つの神格を共用してたんだろ。七人で一つの存在なんだし。」
そう言いながら建物に進む二人の後ろには、様々な病魔の化身が転がっていた。
この建物に来るまでに相手にしたのだが、いかんせん神格を宿していても二人の相手にはならなかった。
そもそも、一輝には病魔なんて放っても自らの免疫能力を操る事で治してしまうし、スレイブは基本人間の姿ではあるものの本質は剣。無機物相手に放つ病魔ほど無駄なものはない。
「さて、最後の相手くらいは手ごたえがあるといいんだけど・・・」
「相手は神です。これまでの有象無象とは比べ物にならない実力があるかと。」
「だよな。・・・んじゃ、派手に始めるとするか。」
一輝がそう言いながらスレイブの手を握ると、スレイブはすぐに剣の姿に変わる。
鞘を腰に固定してから抜刀し、刀身に呪力を纏わせていく。
『今回はこちらなのですか?』
「ああ。とりあえず、妖力よりもこっちからやってみる。」
『了解しました。すぐに順応します。』
スレイブのその発言通り、刀身に纏っていた呪力は一切荒れた様子がなく、完全に順応して・・・
「鬼道流剣術、立ち、十二ノ型。一閃断斬。」
一輝がスレイブを横薙ぎに払うと、纏わせた呪力がそれに対応して刃を作り、そのまま進んでいき・・・建物を、上下に分断した。
「立ち、十五ノ型。崩し。」
さらに一輝がスレイブを一閃し、その瞬間に先ほど切り離された上半分が粉々になる。
「・・・よし。これで出てくるかな?」
『今ので斬られてでもいない限り、さすがに出てくるでしょう。』
「だといいんだけど・・・いや、期待には答えてくれそうだ。」
一輝がそう言いながら笑みを浮かべた瞬間、建物であったものが吹き飛び、もはや建物としての形を下半分すら失う。
そして、その中から長身の男が出てくる。
尖った帽子をかぶり、棍棒と盾を持っている。
「・・・まさか、この様な挨拶を受けるとは思っていなかったぞ。」
「そうか。なら、挨拶しなおしてやるよ。“ノーネーム”所属、寺西一輝だ。」
『同じく“ノーネーム”所属、ダインスレイブ。』
「そして、まさかちゃんとした挨拶が帰ってくるとも思っていなかった・・・」
その男は、一輝の問題児っぷりに軽く戦慄している。
その場で軽く頭を抱えてから、そいつも名乗りを上げる。
「では、俺も名乗ろうか。俺の名は、」
「ああ、ラシャプだろ?大丈夫、七人ミサキから聞いてるから。」
「・・・思い出した、形無き物を操り、妖の群れを連れる問題児だな。」
一輝の認識は、そんな感じで統一されているらしい。
「さて、俺の部下を倒してくれた礼は、俺のギフトゲームで返させて、」
「いや、そんな時間はやらねえよ!」
一輝はそう言いながら主催者権限を発動しようとするラシャプに向けて踏み込み、スレイブで斬りかかってから、返す太刀に獅子王を切り上げる。
「な・・・お前!?」
「いや、やっぱり主催者権限持ちにはこれが一番有効だろ!」
「話が違うぞ、白夜叉!?」
ラシャプが何か言っているが、一輝は一切気にしない。
今回の件の依頼人の名前とか出てきたが、一輝はようやくの強敵相手の戦いを楽しむことしか頭になく、スレイブはそんな一輝の考えに従うだけ。
はっきり言おう。ラシャプが不憫すぎて仕方ない。
「ええい、主催者権限を使わせろ!そうでなくともせめて話を聞かんか!」
「やなこった!面倒なルールなんて取っ払って、戦いを楽しもうぜ!」
「この問題児め!その上戦闘狂など、面倒にもほどがあるぞ!」
そして、二人の戦いは続いた。
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