美味しいオムライス
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第三章
第三章
「おかえり」
「ええ」
彼女ともまずは挨拶からだった。
「どうだった?上手くいった?」
「ええ、上手くいったわ」
亜紀は笑顔で彼女に応えた。
「担当の人も変わったし」
「あっ、変わったの」
「そうよ。泉水さんって人」
名前を彼女にも教えた。
「感じのいい人よ」
「そうなの」
「ええ。態度も穏やかで丁寧に親切に教えてくれるし」
「ふうん」
亜紀のその話を聞いて目を少し動かしていた。
「そうなの」
「そうよ。おかげで仕事が上手くいったわ」
「それは何よりね」
彼女は亜紀の今の言葉を聞いて笑みを浮かべるのだった。
「感じのいい人と一緒に仕事すると能率あがるのよね」
「そういうこと」
亜紀も笑顔で応えるのだった。
「だからいいのよ」
「そうね。やっぱり性格なのね」
彼女は亜紀の言葉にまた応える。話がうどん屋の時のそれと同じになってきていた。
「仕事でも」
「そう思うわ。それでね」
「ええ」
「また明日行くことになったのよ」
「明日また」
「そういうこと。課長には私から話しておくわ」
そのうえでこう述べた。
「後でね」
「最近あそこの会社業績あげてるみたいね。忙しいんだって?」
「ええ、そうなのよ」
話はまた仕事に戻った。
「それでまたお話したいってことで」
「わかったわ。あんたも結構大変よね」
「そうかしら」
「昨日の今日じゃない」
仕事の話がまだ続く。
「こっちだって忙しいのに」
「まあまあ」
女友達の言葉に対して笑顔で返す。
「それはいいじゃない。お互い様だし」
「いいのね」
「ええ、いいの」
また言葉を返すのだった。
「それはね」
「わかったわ。まあそうした気のいいところがあんたのいいところだけれど」
「ありがと」
「それはそうとしてよ」
ここで彼女は話を少し変えてきた。
「その泉水さんって人だけれど」
「泉水さんがどうかしたの?」
「そもそもどういう人なの?」
彼女はそこに興味を持ったのだった。それで亜紀に直接尋ねたのだ。
「話を聞いてたら悪い人じゃないのはわかるけれど」
「そうね、とてもいい人よ」
まずはこう述べた亜紀だった。
「それにね」
「それに?」
「すっごくシャイで」
「シャイねえ」
その言葉を聞いて視線を上にやって考えるのだった。
「それはまた」
「大きなお子さん達がおられるのに家事までちゃんとして。お仕事も頑張っておられるし」
「ああ、家庭ある人なの」
それを聞いてこう思ったが。しかしそれと同時に引っ掛かるものも感じていた。
「家庭があるのに家事を?奥さんは?」
「奥さんはおられないらしいの」
亜紀は述べた。
「可哀想だけれど」
「そうなの」
「交通事故でなくされたそうよ」
亜紀は答える。これは彼女には残念な話だった。それを聞いて悲しい顔になっていた。
「そうだったの。それは」
「それで残されたお子さん達の家事をしながら働いておられるのよ」
「凄いわね、それはまた」
「そうなの。本当に凄い人なのよ」
「それでその人は幾つなの?」
次に尋ねたのはそこだった。年齢だ。
「大きいお子さんがおられるのよね」
「ええ。女の子が三人」
「三人ね」
それを聞いてコブ付きなんだと心の中で思った。しかも三人とは、とも。興味はないがそれでも心の中ではこう考えたのは彼女もまた独身だからであろう。
「何か結構いいお歳なのね」
「四十五だそうよ」
亜紀は答えた。
「そうなの。四十五ね」
「ええ。四十五歳よ」
「わかったわ」
亜紀の言葉に頷くのだった。
「けれど。四十五で子供さん三人抱えて頑張っておられるなんて。本当に凄い人ね」
「貴女もそう思うのね」
「ええ、そう思うわ」
また素直に答えてみせた。
「そんな人だったら。安心ね」
「安心して仕事ができるわ」
亜紀も答えた。
「私もね」
「いい人が一緒だとね。仕事も気持ちよくできるわね」
「助かってるわ。だから」
「明日行くのも苦じゃないと」
「そういうこと」
笑顔で話を締める。それが終わるとまた仕事に戻る。こうして仕事をしていって。何時しか亜紀は泉水と仕事の時に食事をするようになっていた。
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