女々しくて
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第一章
女々しくて
正直自分でもそう思っている、けれどだった。
それでもだ、こう言わずにいられなかった。
「俺はまだな」
「おい、諦めてないのかよ」
「そう言うのかよ」
「諦められるかよ」
飲みながらだ、ツレ達に言うのだった。
「そんなのとてもな」
「気持ちはわかるさ、俺も」
「俺もだよ」
ツレ達は俺にまずはこう言ってくれた、けれど言葉遣いからすぐにわかった。この後に続く言葉が主題だとだ。
「けれどな」
「それでもっていうんだな」
「ああ、そうだよ」
「俺も言うからな」
こう来た、予想通り。
「仕方ないことってあるんだよ、世の中」
「諦めるしかな」
「どうしようもないことでもな」
「そうしたことがあるんだよ」
「今もだよ」
「そうなるんだよ」
まさにだ、今の俺に起こっていることがだ、そのどうしようもなく仕方のないもっと言えば諦めるしかないことだというのだ。
「あの娘は止めろ」
「諦めろ」
「親はヤクザだぜ」
「しかも最悪のな」
好きなあの娘の家は広域暴力団の大幹部の家だ、家は立派だけれどどうして立派な家が建ったのかは言うまでもない。
「あそこの親父さんはとんでもねえぜ」
「側近連中だってな」
「悪い因縁の塊だぞ」
「あれはどうしようもない」
「御前ヤクザになるしかないぞ」
真っ当な世界からだ。
「あそこはそれこそな」
「裏で汚いことばかりやってるんだぞ」
ヤクザだから当然だ、それもまた。
「麻薬に闇金に土地転がしにな」
「テキ屋とか賭場っていうレベルじゃないんだぞ」
昔のヤクザ屋さんとは違う、そこが。
「人足斡旋とか半端なものじゃないんだ」
「本当に麻薬とか裏金やってんだぞ」
「風俗のピンハネ、密輸だってやってる」
「ヤクザ屋さんの中でも最悪の連中だぞ」
「他の国のマフィアでもあそこまでするところは滅多にないぞ」
「臓器売買だってな」
聞くだけで怖い言葉まで出て来た。
「やってるらしいからな」
「組の中での制裁とか内部抗争とかも酷いらしいぜ」
「結構それで嬲り殺しに遭ってる奴いるってな」
「指ツメどころじゃないんだ」
ヤクザ屋さんが不始末をした時にケジメとしてはよく聞いたそれで済まない、そうした組とも聞いている。
「ガチ外道だぞ、あそこは」
「あそこの大幹部だぞ、あの娘の親父さん」
「御前があそこに入ったらな」
「それこそヤクザになってだと」
「内部抗争とかに巻き込まれたりな」
「すげえ悪いことやらされるんだぞ」
「だからだよ」
それでだとだ、俺に言うのだった。
「諦めろ」
「相手が悪過ぎる」
「家がヤクザだとどうしようもない」
「他の相手探せ」
「すぐに見付かるからな」
「皆そう言うよな」
俺は酒、大好きなモヒートを飲みながら泣きそうな声で言った、カクテルが入っているそのコップをカウンターに荒く置いて。
「あの娘は諦めろって」
「当たり前だろ、ヤクザの娘だぞ」
「幾ら好きになってもな」
「幾ら何でも相手が悪い」
「仕方ないだろ」
「マジで諦めろ」
「だからな」
「本当に他の娘探せ」
「何処かにいるさ、御前に相応しい娘がな」
「他の娘にしろ」
「そんなに駄目なのかよ」
声で泣きながらの言葉だった。
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