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『自分:第1章』

作者:零那
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『脱走』

退学が決まれば施設も変わる。
そんな事は安易に解る。
で、それが県立か国立の教護院やって事も。
先輩に言いたい。
卒業式も行けん。
もう逢えん...
そう確信すると辛かった。
大事だと想える人を、また失うって考えると...


夜の見回りが終わった。
窓から脱走。
全力疾走。
懐かしい感じ。
家から学校に逃げてた頃みたいで笑えた。
惨め。
逃げるの好きやなぁ。


公衆から先輩にかける。
単車で速攻迎えに来てくれた。
そのまま家行って説明した。


零那が居らんってバレたら捜索願は時間の問題。
学校職員が動くのも確実。

施設はそぉゆう時だけ対応が早い。

形式上、親が居れば、親から預かってる子供には違いない。
脱走中の犯罪で前科付けたりした場合、親には施設側の責任問題や管理能力を問われる。

そんな理由だろうと思う。
心配やからとか、そんな感情は無く、ただただ義務的に、事務的に動くだろう大人は。


近場。
人間関係。
先輩の家には、まず最初に来る筈。
学校でも一緒やし。
生徒会活動もやってたし。
生活指導は絶対此処に来る。


県外の専門に行く進路が決まってる先輩。
巻き込みたく無い。
既に来た事を後悔した。



大人や社会に縛られてると、その空間、その世界が、自分の総てだと錯覚する。
零那はそうだった。
馬鹿やからかな。
今離れたら二度と逢えん。
関係が消滅してしまう。
そう思ってた。
焦ってた。


先輩は、親身になってくれて、心底信頼できる人だった。
家族になって欲しいと想った。
本来、普通の家族は、理解し合って、信頼し合って、安心できる存在なんやろ?
だったら先輩は血縁関係は無いけど家族やなって想った。


凄く大事な存在。
それが、家族愛に似た人情なのか、友情なのか、もしかして愛情だったのか...それは解らんけど。
全部だったかも知れん。
もしかしたら、それ以上だったかも知れん。
解らん。


状況を把握した先輩。
朝迄、ずっと抱かれてた。
嫌じゃなかった。
でも...辛かった。
何故かは、解らんけど。


此が仮に愛なら、重苦しくて潰されてしまう...

それくらい、優し過ぎた時間だった。


朝、生活指導が来た。
零那はクローゼットの中。

迷惑かけたくないのに手遅れ。

選択肢を与えられた。

『新生活支度金、数十万を持って山から抜けて逃亡生活。もしくは、帰って謝る。どうする?』

勿論帰りました。


約24時間の脱走劇。



職員総出。
学校の担任まで居った。
意味が解らん。
怒られるのは慣れてる。
後悔は無い。
だって、脱走でもせん限り、先輩と話す時間は絶対に与えてくれんかった筈やから。


先輩が最後に約束してくれた。

『携帯番号とメアドは絶対に変えん。』

家電も、覚えやすいように語呂合わせで教えてくれた。

14年経つ今でも、先輩は忠実に約束を守り通してくれてる。


何かとトラブルの絶えん人生になるやろうからって。
俺の携帯が変わってなかったら助かることもあるやろうしって。

まさにその通り。
変わらん番号とメアドに何回助けられたか。


さて、施設から夜逃げするような感じで出所。
昼間やったけど。
児童が居らん間に。
誰にも言わずサヨナラ。
めでたくないから見送りも無し。


今迄、僅か1年と7ヶ月。
卒業時期に何人か見送った。
時期関係無く、親が迎えに来る子を見送った。
入って来てはスグに出て行く子も見送った。

其の都度、何とも言い難い気持ちになってた。
特別仲良しではない。
むしろ嫌いな奴も。

それでも、同じ空間で生きてるだけで何らかの特別な感情は在ったんだろう。
友達から冷酷って言われる零那でも、他人の傷みは解るから...

 
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