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勘違いもここまでくると

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第一章

                 勘違いもここまでくると
 日本はよく誤解される国だと言われている。
 それはフランスでもだ、パリに住むマリアンヌ=ブラマンテは大学の喫茶店で友人の有吉紗栄子にこんなことを言った。
「日本って同性愛に寛容よね」
「まあね」
 それはその通りだとだ、紗栄子も答える。紗栄子は元々は黒い髪を茶色にして長く伸ばしそのうえでカールにさせている。スタイルは細身でいい、顔は細長くすっきりとしている。大きな目の睫毛を伸ばしパーカーで丸めている。
 そしてだ、マリアンヌは見事なブロンドを伸ばし青緑の大きな彫りのある目を持っている。睫毛は紗栄子以上に長い。
 背は一六〇位の紗栄子より六センチ位高い、胸はもっと大きい。そのマリアンヌが紗栄子に対して言うのだ。
「いいわよね」
「貴女ノーマルでしょ」
「ええ、私自身はね」
 その通りだとだ、マリアンヌも答える。
「相手は異性よ」
「それで何でそう言うのよ」
「だから、同性愛に寛容なのがね」
 そのこと自体がというのだ。
「いいじゃない」
「だからなの」
「そう、だからね」
 それでだというのだ。
「いいと思うのよ」
「ううん、それでなの」
「日本の歴史を調べたら」
 マリアンヌの専門は東洋史である、そちらで優秀な論文を書き将来は歴史の教師か学者だとさえ言われている。尚紗栄子は日本の京都から語学留学で来ていてそこで紗栄子と知り合って友人になっている。
「同性愛の歴史上の人物も多いじゃない」
「織田信長とか?」
 紗栄子はまずこの英傑の名前を出した。
「武田信玄とか上杉謙信とか」
「皆同性愛者よね」
「信長や信玄はちゃんと奥さん達も子供も何人もいたわよ」
「それでもよ」
 妻子はいる、しかしそれでもと言うマリアンヌだった。
「その寛容さがね」
「いいのね」
「憧れない?」
 うっとりとさえしてだ、マリアンヌは紗栄子に言った。
「そうした恋愛にも寛容だなんて」
「別に」
 いぶかしむ顔になってだ、紗栄子はそのマリアンヌに答えた。
「思わないけれど」
「それは貴女が日本人だからね」
「その国にいるからていうのね」
「その国にいたらかえって有り難さがわからないのよ」
 だからだというのだ。
「同性愛についてもね」
「まあキリスト教はね」
「そうでしょ、同性愛に厳しいから」
「昔はそれだけで死刑よね」
「酷いと思う?」
「酷いというかね」
 紗栄子は首を傾げさせつつフランスのカフェを飲みつつマリアンヌに答えた。
「想像出来ないわ」
「日本だとそうよね」
「同性愛って捕まるの?」
「キリスト教では絶対のタブーだったからね」
「殺人と同じレベルでよね」
「貴族だと大目に見られたけれど」
 この辺り欧州は日本以上に極端だった、貴族は特権階級でありタブーを犯しても許されることが多かったのだ。殺人についてもだ。
「それでもね」
「死刑に相当する罪だったのよね」
「イギリスだけれどオスカー=ワイルドも逮捕されたわ」
 十九世紀のこの作家もだった。
「それでえらい目に逢ったわ」
「それで弱ってよね」
「そう、死んだのよ」
「それが理解出来ないけれどね」
 ここでも日本人として言う紗栄子だった。 
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