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海馬

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第一章

                      海馬
 古来から海には様々な生きものがいる。その中には実際にいるのかどうか、いたのかどうか疑わいいものも多い。
 例えばクラーケンだ、この伝説の生きものも。
「実際いるんだろうかね」
「いないだろ」
 すぐに否定の言葉が船乗り達の間から出た。イギリスの戦艦アガメムノンの居住区において水兵達が話をしているのだ。
「幾ら何でも」
「いないか、あれは」
「あれは蛸だろ、大蛸」
「烏賊だろ」
 クラーケンについてこう言われるのだった。
「実際は」
「大蛸かでかい烏賊か」
「実際はそうだろ」
「それか鯨だろ」
「鮫かも知れないな」
 とにかく海にいる巨大な生きものがクラーケンの正体だろうというのだ。
「まあクラーケンが島みたいに大きいかっていうとな」
「それは嘘か」
「幾ら何でもないか」
「あるものか」
 茶色の髪に緑の目の水兵が言い切った、チャーリー=クリッグトンという。去年水兵になったばかりでぢ同僚達にこう言うのだった。
「島位の大きさなんてな」
「じゃあいないか」
「実際はただのでかい烏賊とかか」
「そんなのか」
「そうだよ、まあ蛸や烏賊にしてもな」
 実際は大型のそうしたものでもだとだ、クリッグトンは仲間とトランプで遊びながらそのうえでこう言うのだった。
「相当な大きさだけれどな」
「それ考えたらその蛸や烏賊も凄いか」
「そうなるか」
「だろうな、それでな」
 カードを続けながらだ、クリッグトンはこうも言った。
「クラーケンの他にも色々いるけれどな、海は」
「ああ、色々いるよな」
「シー=サーペントとかな」
 クラーケンと並んで海の不思議な、正体のわからない生きものの名前が出た。
「あれな」
「あれはドラゴンじゃないのか?」
「海のドラゴンか」
「それか」
「俺もあれはな」
 クリッグトンもシー=サーペントについてはこう言うのだった。
「いるんじゃないかって思うけれどな」
「ドラゴンか?あれは」
「恐竜だろ」
 二十世紀には主にこれではないかという説もだ、水兵達の間から出て来た。
「それだろ」
「大きなアシカじゃないのか?」
「アザラシじゃないのか?大きなアザラシもいるぜ」
「いや、やっぱり鯨だろう」
「海豚を見間違えたとかか?」
「鮫なんだろ、実際は」
「それとも本当にあれなのかね」
 本当にだ、シー=サーペントと呼ぶべき生きものではないかという説も出て来た。そしクリッグトンもこう言うのだった。
「俺はあれはわからないな」
「クラーケンみたいにはか」
「はっきり言えないか」
「恐竜か?」
 こう言ったのは青い目の水兵だった、名前をウィリアム=ウィンザーという。年齢はクリッグトンと同じ位である。顔のソバカスが目立つ。その彼が推すのはこちらだった。
「やっぱり」
「恐竜か」
「そうだろ」
 ウィンザーはクリッグトンにも言った。 
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