意外なフェミニスト
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第三章
「陛下からの頂きものだ」
「をれを私達にですね」
「そういうことですか」
「うん、君達の生活の足しになれば有り難い」
こう言って東条は彼女達には多く金を渡した。やはり自分のところには一銭も入れない。この話は宮内省の者達も驚いた。
「何と、ご自身は一銭もか」
「その懐に入れられないのか」
「しかも女子に多めに渡されるとは」
「しかもそれで見返りも一切要求しない」
「妾になれとも言わない」
「そうしたことは」
「ああした方はそれこそ」
東条程だ、金にも女子にも清潔でしかもその女子にいたわりの心を見せる者はというのだ。
「乃木閣下以来か」
「うむ、そうだな」
「そうはおられない」
「滅多におられないぞ」
「我が国の軍人は高潔な方揃いだが」
「それでもな」
「あれだけの方は」
こう話して感嘆を禁じ得なかった、しかし。
陛下だけはだ、落ち着いた声でこう仰ったのだった。
「あれが東条なのだ」
「あくまで勤勉で清潔で、ですか」
「女子にも労わりと気配りの心を持っておられるのですか」
「そうした方ですか」
「正直に言ってあの者は陸軍大臣が限度であろう」
それだけの力量だというのだ、東条は。
「しかしあの者には私はないのだ」
「確かにそれはありませんね」
「全く」
「忠義の方でもありますし」
「陛下への」
「朕への忠義だけではないのだ」
東条にあることはというのだ。
「むしろ朕への忠義は二の次でよい」
「その心ですか」
「どういったものかですか」
「東条は狭量なところもあるがな」
それでもだと仰った。
「あの心があるからだ」
「東条を信任されておられますか」
「そうなのですか」
「そうだ」
陛下は一言で仰った。
「あの者は清潔だ。心根はよいのだ」
「女子にもですか」
「決して礼を失うことはないのですね」
「むしろ女子や弱き者にだ」
そうした相手にこそだというのだ、東条は。
「礼を守るからな」
「恐ろしいと思いましたが」
「そうでしたか」
「朕はあの者は嫌いではない」
確かな色でのお言葉だった。
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