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第二章
第二章
「だからね」
「ああ、だからカラオケは」
「わかったわ。じゃあ適当に時間潰す?」
「どうするんだ?それで」
「本屋行きましょう」
若葉はここでこう提案したのだった。
「本屋ね。行きましょう」
「本屋か」
「時間を潰すには本屋が一番よ」
こう美優に言うのである。
「だからね。行きましょう」
「そうか、わかった」
美優もまた若葉のその言葉に頷く。これで決まりだった。
「じゃあ行こう。今からな」
「そうしましょう。そうね」
ここで周りを見回す。すると丁度いい具合に少し離れたその場所に一軒の本屋を見つけたのであった。見ればそれはある大手の古本屋のチェーンであった。黄色と青の看板がやけに目立つ。
「あそこがいいわね」
「古本屋か」
「若し買いたくなっても安く済むし」
ここでも経済的な話を出す若葉であった。
「丁度いいじゃない」
「それもそうだな」
若葉の話を聞いてその通りだと納得するものがあった。だからこそ今頷いたのだった。
「それじゃあ」
「そこで二時間は時間を潰して」
まずは二時間だった。
「あとの二時間は悪いけれどね」
「お別れだな」
「ええ。美優は今日はアルバイトはなかったの」
「明日なんだ」
今日はないというのである。
「明日レストランのウェイトレスに行くよ」
「そうだったわね。あのイタリア料理のレストランね」
「バイト代もいいし昼御飯や晩御飯も貰えるしな」
「イタリア料理のね」
「カロリー高めだけれどな」
このことには少し残念そうな顔になる美優だった。しかし全体として極めて上機嫌でそのイタリア料理店のことについて話していた。
「いいところだよ」
「いいなあ。私は居酒屋だけれど」
「居酒屋もいいんじゃないのか?」
「そうね。晩御飯貰えるし」
若葉も食べることについて言及した。二人共食べることについてかなり関心があるようである。
「お店の人もいい人ばかりだし」
「今日もそこに行くんだよな」
「そうよ。行くよ」
にこりと笑って美優に告げた。
「悪いけれどね。一人にさせるわ」
「いいさ。っていうか悪くもないさ」
今の謝罪には笑って返した美優だった。屈託のない笑みだった。
「別にな」
「そうなの」
「ああ。それよりもな」
そしてここでまた言うのだった。
「本屋は入ろうか」
「そうね。入りましょう」
このことは確かに話す。そうしてそのうえで本屋の中で時間を潰した。適当に古い漫画を見て回りファッション雑誌を見ているうちにもう二時間経ったのだった。
「あっ、もう時間だから」
「もう二時間か」
「ええ。悪いけれど美優はもう二時間よね」
「そうさ。二時間な」
「後は一人で時間潰して」
こう美優に告げるのだった。
「それじゃあね」
「ああ、またな」
別れを告げ合ってそのうえで別れる。若葉と別れてからも一時間程度は本屋の中を歩き回った。二階に昇ったり本だけでなくCDやゲームソフトも探す。白い壁と床に黒い棚が対比的にある店の中を歩いているうちに微妙にチェスの世界の中にいるような気がした。そこで彼女はふと文庫のコーナーの前で立ち止まったのだった。
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