少年少女の戦極時代Ⅱ
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禁断の果実編
第83話 企み事
中枢システムを探す、とレデュエに言い置いて出てきた光実は、今、あるシステムの前にいた。
マスター・インテリジェント・システム。ある意味で戦極凌馬の置き土産。
(破天荒な人かと思ったけど、思ったより小者だったのかな)
本人がいてもリアクションが予想できない考えを巡らせながら、光実はキーを叩き続ける。
(うん。このくらいのセキュリティなら僕でもハックできる。僕でもこれを使える……けど、電極を直接体に繋がなきゃいけないのは、ちょっと抵抗があるなあ。戦極凌馬ならやりかねないけど……あ)
思いつき、取り出したるは戦極ドライバー。変身すれば、「直接」電極を繋いだことにはならない。
光実は立ち上がり、システムの機材から一歩引いて、ドライバーを装着した。
「変身」
《 ハイーッ ブドウアームズ 龍・砲・ハッハッハッ 》
ブドウの鎧が光実を覆い、龍玄へと変身させた。
龍玄は散らばった電極をライドウェアのあちこちに繋いで行った。
電極をライドウェアに繋ぎ終える。龍玄はイスに座り直し、キーをいくつか叩いた。暗闇に薄ぼんやりと浮かぶ液晶の青。
『マスター・インテリジェント・システム。スタンバイ』
空中に「Master Interigent System」の光文字が描かれる。起動成功だ。これで沢芽市の通信網とユグドラシルの統制権は掌握できた。
(通信妨害はそのままにしておこう。市外からの助けも来ないけど、この事態が外部に知れることで沢芽市もろとも消されるよりはマシだ。受信は有線に限って。テレビやラジオくらいは回るようにして)
街中の監視カメラの映像を検索した。映し出されるのは、街中を巡回している紘汰たちビートライダーズ。
(今でこそ静かだけど、いつ全面戦争になるか分かったもんじゃない。紘汰さんも舞さんも気が気じゃないだろうな――あれ、湊さん? ああ、戦極凌馬が逃げたからそっちに付いたんだね。賢い選択だよ)
湊耀子という「大人」がビートライダーズ側に付いた。ふむ、と光実は事態に似合わず呑気に考えを巡らせる。
(一度話しに行こうかな)
うん、それがいい。龍玄は電極を外し、システムを切って変身を解いた。
歓声と嬌声。とにかくにぎやかなのは確かだ。
ガレージを見上げる光実の口元に自然と笑みが浮かんだ。
「入らなくていいの?」
上からの声に、そちらを向き直した。湊耀子が階段から降りてきていた。
「これでも分は弁えてますんで」
集会での一件。舞や紘汰が許しても、光実が自分を許していない。だからガレージには踏み込まない。
「いたずらに心配させて楽しい?」
「意地悪だなあ。これでもけじめのつもりなのに。何なら湊さんからみんなに伝えてよ。僕が来てたって」
「イ・ヤ。何で引き留めなかったんだって、若干一名うるさそうだもの」
口ではこう言うが、湊はきちんと伝えてくれるだろう。
「オーバーロードと話をつけた。今、僕と彼らは協力関係にある」
藪から棒の近況報告に、湊は目を丸くした。
「上手く取り入れたんだよ。彼女、ゆくゆくは僕に人類の管理を任せるとまで言ったんだよ? オーバーロードの王とやらの存在までしゃべってくれた」
「彼女?」
「レデュエ。翠のオーバーロード。タワーを占拠してる奴だよ。彼女に利用価値があると思い込ませるのはちょっと骨が折れたけど」
光実は適当に歩いて、くるんと湊をふり返った。
「湊さんはさ、まだ知恵の実が欲しい?」
「――どういうこと?」
「欲しいんなら、横取りするチャンスをあげてもいいよってこと。今まで色々お世話になったからね。僕なりのお礼のつもりなんだけど。どう?」
「残念ね。誰もが君の思惑通りに動くわけじゃないわ。私はシドとは違う。王になりたいわけじゃない。王をこの手で生み出したいのよ。王になろうとする人間の生き様を、この目で見届けたいの」
「……意外。なんだか時代劇の北の方とかお局様みたいだね」
睨まれた。「お局様」は女性には嬉しくない表現だったかもしれない、と光実はちょっとだけ反省した。
「とにかく。あなたが知恵の実を欲しがってないんなら、僕にも好都合だ」
「私を利用して、今度は何を始めるのかしら」
光実はニコリと笑った。
「僕が目隠しになってあげる。だから、湊さんたちにもがんばってもらおうかな」
後書き
もうここからは原作崩壊を覚悟して進めます。
あまりにミッチが闇堕ちしすぎたので、白を貫く以上は原作崩壊がまぬがれないと判断しました。
というわけで、原作と似たような会話をしつつもどこかとぼけた光実の内心でした。
彼は一体「何の」目隠しになって「何を」がんばってもらうつもりなのか、乞うご期待でございます。
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