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問題

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第四章


第四章

「我々に関してはまだ一部のマスコミや知識人の目が厳しく」
「そうした法案を出せないと」
「そうなのです」 
 やはり答えはこうであった。
「私達はおおむね事務方に徹するだけです」
「それだけですか」
「兵器に関しましてはですね」
 兵器への話にも及んだ。
「企業の方にお話されては」
「法整備は」
「政治家の方々です」
 二つに分かれることになった。
「我々はただ言われたことを果たすだけですので」
「それだけですか」
「はい、それだけです」
 オフレコにしろあまりにも寒い話であった。恒星はある程度は覚悟していたがこの手応えのなさにも似た無力感にすっかり絶望した。だからといって諦めるつもりはなかったが。
「法整備に関しましては特にそうです」
「わかりました」
 ここまで聞いて財務省の時と同じように話を打ち切った。
「それではこれで」
「役に立てずに申し訳ありません」
「いえいえ」
 穏やかに話は終わった。それでも構成は気が晴れず。今度は企業の方に向かったがここでの対応は彼をさらに沈んだ気持ちにさせてしまうのであった。
「採算です」
「採算!?」
「そうです」
 妙齢の美しいスタッフが出て来て言う言葉はこれ以上にない企業的な言葉であった。
「軍需産業に関しましてはですね」
「ええ」
「莫大な設備投資と研究費、そして維持費が必要です」
「その通りです」
 それがわからない構成ではない。そんなことはとっくの昔に調べている。
「ですから。我がグループとしては他の分野に力を入れております」
「他の分野にですか」
「車やテレビ」
 そのグループの基幹産業である。
「そういったのものにです」
「そちらにですか」
「まずは率直に申し上げましょうか」
「はい」
 そのスタッフに対して応える。
「御願いします」
「では。我々としましては軍需産業は採算がとれにくい分野なのです」
「採算が」
「再び率直に申し上げまして」
 また随分とはっきり言う人だと思った。まるでそれにより反論させないかのようであった。実際構成は何も言い返せなかった。困ったことに。
「兵器のコストにしろあの額でないと採算が取れません」
「受注額が少ないからですね」
「そういうことです。自衛隊は小規模な存在です」
 三十万もいない。二十五万もいない。日本の人口の割合から見ても世界各国の軍の規模から見ても数では実に小さな存在なのだ。それが自衛隊の実態の一つだ。
「ですから。そこにだけの分野は」
「そうなるのですか」
「必然的に額も高くなるのです」
「集中的に作っては」
「発注が毎年になっていますので」
 ここも問題であるのだ。集中的に作らないから余計にコストもかかるのだった。そして他には。これは自衛隊にとっては問題外の話であった。
 だが構成は。それをあえて言ったのだった。
「市場は。例えば海外の」
「御冗談ですよね」
 最高に冷たい言葉だった。
「我々は海外には」
「ですよね、やっぱり」
 自衛隊、いや日本は海外には兵器は売らない。売るのは他のものだ。またそっちの方が遥かに金になるのが現実だったりする。銃よりもラジオやテレビを買うものだ。誰もが。
「それにそもそも高過ぎて。あまりにも」
「売れないと」
「ですから実入りがないのです」
 またこの言葉が出るのだった。
「我々としましては採算がないとやっていけませんので」
「企業だからですね」
「その通りです。ですから政策が変わらない限り」
「それしかないと」
「おわかり頂けたでしょうか」
 これ以上どうやって反論するのか、と聞きたいまでの絶望的な話の後での止めの言葉だった。
「これで」
「はい、わかりました」
 構成としてもこう答えるしかなかった。
「よく。ではそういうことで」
「こちらとしましても最大限の努力はしています」
 この場合はあくまで軍需産業限定という意味だ。グループ全体ではしていないのがまた話を複雑なものにさせていた。そこまでは至っていないのだ。
 
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