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SAO~刹那の幻影~

作者:鯔安
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第三話

 
前書き
書いてる途中で、あれ?この話、なくても問題なくね?ということに気づいてしまったのは嫌な事件だった。
書き直し第三話 

 
「――ユウはどれにするつもり?」

「そういや決めてなかったな。どうするか……」

 俺とシーラは今、装飾の類が一切ない実に初期装備めいた武器たちが粗雑に陳列された、いかにも『穴場』な雰囲気漂う寂びれた武器屋の軒先で、しばらくの間相棒になるであろう得物を選んでいた。
 いや、俺とシーラ、というのは間違いだろう。なぜならシーラはここに到着するや否や、何の迷いもなく一振りの片手剣を手に取り、そのままお買い上げしてしまったのだから。
 もうちょっと吟味しようぜと突っ込みを入れる暇もなかったが、彼女がこの行動を取れたのにはもちろん理由がある。と言っても実に簡単で、少しうらやましい理由なのだが――
 なんでも彼女はベータテスト経験者らしいのだ。十万人の中からたった千人という、俺には通ることができなかった狭き門をくぐった一人。
 これは先ほど、シーラがデフォルトでは他人に見えないはずの俺のウインドウから、俺が元々武器屋を物色するために行動していたことを看破し、その理由を『可視モード』なる聞きなれない用語としたことにより発覚したものなのだが、改めてよくよく考えてみると、それ以前からベータテスト経験者の面影はあったように思える。開始直後の他人へのレクチャーや高速のウインドウ捌きなんかがそれだ。
 思い返せば思い返すほどそれに全く気付かなかった自分が情けなくなってくるが、ともかく、シーラがベータテスト経験者、すなわち最速スタートダッシュ組だということは、この世界にログインする前から『えんそくのプログラム』のようなものを決めていたはずだ。それは彼女が片手剣を即購入したことが証明している。
 ということは、その後の予定も決まっていたりするんだろう。効率の良い狩場に行くだとか安い回復アイテム(この世界ではポーションと言うらしいが)を買いに行くだとか。
 そうだとすればぜひくっついて行って講義をお願いしたいところだ。フレンドにもなったことだし、それくらいの権利はあるだろう。



まあそれも、俺が相棒となる武器を決めてからの話だが。



 なんと言うか、どれもしっくりこないのだ。他のRPGでも極端に剣を持たなかったせいか、武器を操る自分を想像するとその姿にどうしても違和感を感じてしまう。もういっそのことひのきのぼうでも持ってしまおうか。
 とはいえ、俺にも一応こんな戦闘スタイルになりたいという希望はある。
 一つは機動力があること。回避が容易にできたり敵との距離を取りやすかったり、ようは『当たらなければどうということはない』というやつだ。それに全身を鎧で固めてしまうのにはかなり抵抗がある。
 もう一つはそれなりにダメージを与えられる、攻撃特化仕様(ダメージディーラー)であること。やはりせっかくのRPG、しかもVRMMOときているのだから、受けに回るのは面白くない。臨場感あるちぎっては投げちぎっては投げを楽しみたいのだ。
 という二つの条件を考えれば、おのずとクリティカルを狙いやすいという、短剣や海賊刀やらに絞れてはくるのだが、

「……いい加減決めてくれないかなあ。かれこれ十分もたったけど、機動力重視ならダガーでいいじゃん。合わなかったら後で変えればいいし……早くしないと狩場混んじゃうよ?」

 俺はいまだに、時間を浪費することしかできていない。
 シーラの後半の一言の意味に心の中でガッツポーズを入れてから、ついで湧いてきたむしゃくしゃに頭を掻きむしる。が、もちろんそれで脳が活性化するなんてこともあるわけがなく、むしろ余計にいらいらしながら俺はつい、その矛先を、つまらなそうに腕を組むシーラに向けてしまった。

「ほっとけ、俺は最初の装備は慎重に選びたい派なんだよ。それに、そんなに急ぐなら一人なりなんなりで行けばいいだろ」

 叫んでしまってから内心であっと思う。が、時すでに遅く、シーラは一瞬にやりと笑うとすぐさま俺に背を向け、ため息混じりに言った。

「ああ、そういえばそうだね……そういうことなら先に行ってるよ。何かあったらメッセージ飛ばせばいいしね」

「あ……いや……その……」

 まずい。非常にまずい。
 何がまずいって、別に、女の子がいかにも怒ってますというふうに俺に背を向けているこの現状のことではない。ましてや、やたらと人をからかうことが好きなこの女の子の扱い方に迷ったわけでも。
 俺がまずいと言っているのは後、テンションが上がったシーラに冷水をぶっかけた後のこと、極々低確率ではあるが、冗談であるはずのまずいの権化、『先に行ってるよ』が実際に実行され、俺が一人取り残されてしまう可能性が出てきてしまったということなのである。
 ……え?違うよ?別に『ウサギは寂しいと死んじゃうんだ!』とか言う気は全くないよ?――ていうかアレ迷信なんだが――そうではなく、俺にはシーラから離れるわけにはいかないちゃんとした理由があるのだ。
 まず、思い出してほしい。俺とシーラが最初に会った時、俺は何をしたのか、どうなったのか。そしてもう一つ、なぜ俺の一コル硬貨は、すさまじい縦回転を強いられた挙句、下水の海にダイビングするはめになったのか。
 そう、俺は――

迷子なのだ

「ちょ、ちょいまった!決める!すぐ決めるから!」
 すさまじい速度でニューロンがスパークを繰り返した結果、最善策だと示された言葉を叫び、俺はその後真っ白になった頭で一番近くに並べられていた短剣を手に取った。直後にすっ飛んできた店員NPCに、「コレくれ!」の一言を浴びせかける。
 表情一つ変えずに精算を終えてくれたNPCが再び店の奥へと戻って行くのを、ぷすぷすと焼け焦げた思考回路で認識すると、次に脳は、背後の、なにやら必死に笑いをこらえてているらしい震え声の処理を開始した。

「――そ、それにしたんだ……《シルバーダガー》だっけ……次の層でしか売ってなかったはずだけど……か、変わったんだね……ぷッ」

 ハッと我に返る。と同時に押し寄せてきた羞恥と敗北感をかみ殺すと、俺はふと、いつの間にか左手に重量感が発生していたことに気づき、その根源へ目をやった。
 《シルバーダガー》、その名にふさわしい短剣だった。
 他のモノと比べれば少しばかり大きな銀色の柄と、単純ながら美しい装飾が施された鞘。抜いてみると、家にある包丁とは全く違う、本物よりも本物らしい輝きを放つ刃が俺の視界に現れた。
 いつも俺には厳しい神様だったが、今回ばかりは笑顔を向けてくれたようだ。剣なんてどれも似合わないと思っていたが、この刃はその見た目も重ささえも心地いい。『俺にはこれがベストだったのだ』と言い切れるほど。

「ほんと、これが仮想だなんてな……」

「ふふ、そうでしょ。あたしも初めてここに入ったときはおんなじこと言ってたよ」

 ぽつりと口から洩れた呟きに、シーラが純粋に楽しげな笑みを浮かべ、空を仰ぎ見る。ベータテストの時を思い返しているのだろうが、それに落ちた俺には歯がゆくて仕方がない。



 初めて見る類のシーラの笑顔に一瞬どきりとしたのを頭をぶんぶん振って誤魔化すと、計ったように物思いの旅から帰ってきたシーラが、すっかりいつもの調子に戻り、言った。

「それじゃ、武器も決まったことだし、さっそく狩り、行っちゃう?」

「ああ、そうだな。けっこう時間使っちまったし、いそがねーと」

「それほとんどユウのせいだと思うんだけど……」

 なんていう攻守逆転の軽口を叩きあい、最後にシーラが、武器は装備しないと意味ないよという某有名RPGお決まりの台詞で俺の左手を横目にすると、くるりと回れ右をし、昼間なのにやたら薄暗い煉瓦の道へと歩みを始めた。
 あまりに怪しい道、それゆえに俺は通ったこともないはずだが、このゲームを知り尽くしたシーラは迷いなくそこを選んだのだ。出口だという確信があるのだろう。行き止まりの道こそが正解というお約束もありそうだ。
 やっとここから抜け出せる!と、あまりの嬉しさに思わず顔が歪みそうなのをなんとか自重しながら、俺は大急ぎでウインドウを操作し、短剣を装備状態に変更した。と同時に左手の短剣が一つ瞬いて消え、代わりに腰に重量感が追加されたのを感じ取ると、少しばかり離れてしまったシーラの背中を追うため、一歩踏み出した。
 が、その時、

「なんだようキリトぉ!人いるじゃねえか」

「ホントだ。ここ知ってるやつはけっこう少ないはずなんだけどなあ」

 突然、後ろ方向から声が聞こえた。

「――ッ!!」

 すさまじいデジャブを感じ、反射的に身を固くする。が、運のいいことに、俺の危惧する事態はそのまま数秒硬直していても訪れることはなった。
 先のセリフと声色からして、男性の二人組だと思われる声の主たちは、どうやら俺に体当たりを敢行する気はないようだ。
 このゲームでは初対面の人に体当たりであいさつするのがマナーなのだと一割くらい本気で思っていた俺は、その事実にまず胸をなでおろす。
 となると、この声の主たちはいったい誰なのだろう。シーラがこの店のことを『ベータテスターでもごく一部のプレイヤーしか知らない穴場中の穴場』と評していたことから、その二人、あるいはどちらか一人がその『ごく一部のテスター』だというのは間違いなさそうだが――また変人だったらどうしようか。
 そんな不安を体のこわばりと一緒に意識の奥底におしこめ、恐る恐る振り返ると――

「あ!キリトじゃん!おーい!久しぶりー!」

 男プレイヤー二人の姿が見えるはずだったのが、なぜか代わりにシーラの腰にさがった片手剣が目に入った。

「……へ?」

 わけのわからぬまま目線をまた少し上げる。すると今度は間違いなく、声の主であろう二人の男性プレイヤーの姿をとらえることができた。ついでにその二人に走っていくシーラの後ろ姿も。
 知り合いだったのだろうか。ハイタッチの構えで突撃したシーラを苦笑いで迎えた黒髪勇者風、ついでに赤バンダナの二人に目で礼を送り、何やらやんちゃに暴れる小学生を見守っているような、そんな謎の気分に襲われながら、俺はカオスになりつつある三人の集団へ歩み寄って行った。



 バンダナの方は『クライン』、もう一方の勇者は『キリト』といった。
 俺の想像通り、キリトはベータテスト経験者だった。シーラとも知り合いらしく、ベータテスト期間中はパーティーを組んだこともあったらしい。それにシーラ曰く、そのベータテスターの中でも五本の指に入るくらいの強者で、ベータテスト中の最高到達層の一つ下、第七層を攻略したメンバーの一人だという。
 そして俺と同じく初心者のクラインは、直感でキリトをベータテスト経験者だと確信し、序盤のコツを教えてくれと頼みこんだらしい。それで二人とも、この穴場へ買い物しに来たというわけだ。

「へえ、なんだかあたしたちと似た巡り会わせだね」

「そうだな、出会いの場面以外は」

 冗談めかしてそう言うと、「だからごめんってば」と中途半端な泣き落としで腕をゆするシーラに続き、彼女持ち前のぶっとびテンションに押されてフレンド登録してくれたキリトとクラインが、まだその毒気が抜けきらぬ引きつった笑顔を返してくれた。
 空気が一巡すると、ふとクラインが俺とシーラの腰のあたり――おそらく武器だろう――を一瞥し始め、右の手で顎を撫でると、言った。

「ほー、シーラは片手剣でユウは短剣選んだのか。オレも決めてたのがあったけどよ、こう、実物見てみると、なんか揺らいできちまうな。オススメとかあンのかな……あ、そういや聞いてなかったよな。キリトはどうすんだ?武器」

「ん?ああ、俺はな――」

「どうせベータと同じ片手剣でしょ。盾なしの。ていうか、前から聞きたかったけど、なんで盾持たないの?なんか理由があったりする?」

 クラインの質問に答えようとしたキリトを遮って、シーラが呆れたという風に首を振った。途端、キリトの顔が少しばかり赤みを帯びてきたように見えたのは気のせいだろうか。

「なっ……別にいいだろ、持たないのが俺のスタイルなんだよ。大体、盾なしって言うならお前のもそうだろ、シーラ」

 そういえば、確かにシーラはあの店で盾を買っていない。この世界では盾は武器に分類されるらしく、先の武器屋にも盾は置いてあったはずだが――もしや買い忘れてしまっていたのだろうか。
 などとそう思ったが、次の瞬間、それはすぐに否定された。

「キリトと違ってあたしにはちゃんとした理由があるんだよ。それにスタイルって言うけど、あたしは盾持ってた方がかっこいいと思うよ?ザ・勇者って感じで」

 スタイルの意味が違うような気もしたが、キリトが突っ込まなかったのでスルーする。
 故意か偶然か、または必然かはわからないが、シーラの発した会心のボケによりキリトもこれ以上反論する気を失ったのかぐぬぬと唸ると、ため息一つの後、なぜか同情の眼差しを俺に向け、アイルビーバックもとい、グッジョブのジェスチャーを見せつけてきた。
 その真意は不明だが、なんだかバカにされたような気がして、俺はジト目の睨みで返事を返す。するとキリトはびびったのか否か、すぐに踵を返すと例の武器屋へ歩いて行った。
 あまり深く考えるのはよそうと思考の削除を行っていると、眼前のずり下がったバンダナをくいっと持ち上げたクラインが、キリトに視線を向けたまま、言った。

「あー、そんじゃ、オレもちょっくら悩んでくるわ。ユウ、シーラ、じゃ、またな」

 俺たちに手を振り、クラインがキリトの後を追って走り出す。
 その背中をまたも手を振りかえして見送っていると、それにより何かがほどけたのか、俺は、先ほどから胸の中に留めていた一つの疑問、探究心に負け、いつの間にかシーラにこう尋ねていた。

「……なあ、シーラとキリトって、フレンドだったんだよな?ほんとに仲良かったのか?」

「んー?仲は良い方だと思うし、正真正銘フレンドだったよ?それがどうかした?」

「……いや、なんでもない」

 以前少し遊んでいたMMOとこっちのフレンドというものに対して違和感を覚えた俺だったが、VRMMOというのはこういうものなのだろうと無理やり納得することにして、キリトじゃないけど戦闘のコツ教えてあげるというシーラに続き、この迷いの裏路地を抜けるため、前進を開始した。 
 

 
後書き
たぶん二話でウインドウいじってた時に間違えて可視モードに変えちゃったんだと思います。

感想、アドバイス、過激でないだめだし等、ありましたらよろしくお願いします
 
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