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聖女

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第十章


第十章

「それですと」
「そうさ。そこに答えはあったんだよ」
「そうですか」
「さ。それではね」
「ええ」
「まずは食べよう」
 パスタがテーブルの前に置かれた。早速それを食べだす。
「それからだね。まずは」
「じゃあ帰ったらあれですか」
「今回は意外と早く終わったよ」
 ペンネを食べながら明るい声でミショネに述べた。
「意外とっていうかな。まあ早かったね」
「早かったですね。確かに」
 ジョバンニがスランプに陥ることは時々あるのだ。そうなってしまえば中々抜け穴が見えなくなる。それが一月近くに至る場合もある。それ以上長くはかからないが。
「二日ですからね」
「まずは食べないとね」
「食べるんですか」
「腹が減っては戦はできぬってね」
 もう憂いが完全に消え去った顔で食べていた。
「だからさ。今は食べよう」
「わかりました」
「ミショネもほら」
「あっ、僕もですか」
「僕もですかって。あのね」
 目に苦しい笑いを浮かべさせてミショネに告げたのだった。
「御前は僕の何だい?」
「弟子です」
 それがわからないミショネではなかった。当然ながら。
「そう。そしてアシスタントだよね」
「ええ、確かに」
「確かにじゃなくて答えはそこさ」
 そこにあるとまで言ってきた。
「だから御前は食べないといけないんだ」
「これから忙しくなるからですか」
「二つの顔」
 ジョバンニは話を直接絵に関することに戻してきた。
「それを描いていくからね」
「絵ですか」
「そう。絵だよ」
 また直接に言ってきた。
「それだよ。それをどんどん描いていくからね」
「随分楽しそうですね」
「楽しくない筈がないさ」
 こうも言うのだった。
「描けるに越したことはないだろう?」
「描かないと駄目ですか」
「描いていないと苦しい」
 言葉が強いものになった。
「だから描くんだよ。これから」
「描いていないと苦しいんですか」
「今かなり苦しくなってきた」 
「かなりですか」
「そう。だから」
 サラダも来て鰯も来てステーキも来た。そういったものもどんどん食べていく。当然パンもだ。食べるのはイタリア人にしてはかなり速くなっている。
「速いですね、また」
「食欲が止まらないっていうかね」
「じゃあまだ注文します?」
「いや、それはいいよ」
 これ以上は頼まないというのだ。
「まだデザートもあるしね」
「だからですか」
「絵を描くには満腹じゃ動きが鈍くなってしまうよ」
 何処かスポーツめいた言葉になっていた。
「だからね。それはね」
「わかりました。じゃあ」
「さあ、帰ったら描こう」
「頑張っていきますか」
「是非共ね」
 ジョバンニは満面の笑顔でミショネに応えた。応えながら前にいるその聖女を見ていた。昼は聖女で夜は娼婦。そんな雰囲気を併せ持つ彼女をずっと。笑顔で見ていたのであった。そこに素晴らしいものを見つつその素晴らしいものを絵に描くことを決意しながら。


聖女   完


                   2008・10・20
 
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