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一つ一つの力

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第五章


第五章

 内心驚きながらだった。しかしその驚きを隠して二人は。さらに彼女に対して問うたのであった。
「じゃあ一体」
「どうされるのですか」
「私ができるだけ。助けられる猫や犬達を助けたいわ」
「できるだけですか」
「ええ。その人間の私ができるだけよ」
 彼女はこう言うのである。全く変わっていない。しかしそれでもだった。彼女は。
「できるだけしかできないけれど」
「助けられる猫や犬達と助けられない猫や犬達がいますか」
「できるなら本当に全部助けられたらいいわ」
 また言う麻紀だった。
「できるならね」
「できるならですか」
「私はこうして私ができるだけのことをするわ」
 今も猫達に餌をやっている。猫達は今の麻紀達の言葉をよそにただ餌を食べているだけである。しかし彼女を慕うようにして周りにいた。
「それじゃあ」
「はい。それじゃあ」
「これからもですね」
「ええ。これからも猫や犬達を育てていくわ」
 今度は水を入れた容器を出していた。それも人数分ある。
「こうしてね」
「わかりました。それでは」
「お嬢様はそうされて下さい」
 美幸だけでなく町田も彼女に言った。
「是非共」
「私達も及ばずながら」
「こんなこと言ったら笑うかしら」
 くすりとしながらの今度の麻紀の言葉だった。
「一人一人の力は小さくても」
「小さくても?」
「皆が力を合わせればね」
 こう話すのであった。今度は。
「きっとよくなるわ」
「そうですか。皆ですか」
「皆が力を合わせればですね」
「そう思うの。けれど私は一人でもするわ」
 その決意は変わらないのだった。
「きっとね」
「町田君、じゃあ私達も」
「そうですね」
 ここまで麻紀の話を聞いて確かな顔になって頷き合う二人だった。そのうえで言葉を交えさせる。そのうえで今決意をしていたのである。
「私達のできる限りのことをしましょう」
「お嬢様と共に」
 二人も微笑んで麻紀に言うのだった。これがはじまりだった。
 坂村麻紀は動物愛護、ひいては孤児の保護に尽力した本当の意味での活動家、女性達のリーダーとして知られることになった。実家のバックアップはあり続けたが彼女は自分の為には金を使うことなくあくまで動物や孤児達の為にそれ等を使い続けた。彼女はよくこう言った。
「一人の力は限られています」
 こう言ったのである。
「ですが多くの人が力を合わせれば。それは神様に匹敵する力になります」
 幼さの残るその日の自分の言葉をそのまま実践し続けていたのであった。彼女はそのままに生きた。そしてその彼女の側にはずっと美幸と町田がいた。彼女達もまた麻紀の力になっていた。
 確かに一人の力は弱かった。幼い日の麻紀も母の援助が無ければ猫や犬達を育てきれなかった。しかし力添えがあったからこそできた。そしてそれだけではなかった。麻紀のその心に打たれ二人や母だけでなく以後も多くの人が彼女の力となりそれはまさに神に匹敵するものになったのだ。心もまたそこにはあったのである。だからこそ力になったのだ。何かを救う大きな力に。


一つ一つの力   完


                 2009・9・14
 
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