乱世の確率事象改変
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覇王と鳳が求めるも麒麟に首は無く
何故、我らが主が苦しまねばならなかった。
何故、我らが主が消えなければならなかった。
我らは彼のようになる為に強くなった。
我らは彼と共に守りたかった。
我らは彼の事を助けたかった。
我らは……彼と共に戦いたいのだ。
戦わせてくれ。守らせてくれ。想いを繋がせてくれ。願いを叶えさせてくれ。
心より湧き上がる渇望は、もはや止められるわけがない。
誇り高き彼のようになりたいが為に、そうあれかしと想い続けたのだから。
優しく厳しく、強くて弱い彼に、自身の全てを捧げたのだから。
我らは何ぞや。
道を示したのは誰か。
想いを繋ぐとは如何様なモノか。
そうだ。彼が居なくとも、彼の想いは我らの胸に。
我らは彼と共に。彼は我らと共に。
そして……あの小さき少女だけは、彼が戻るまで守らねばならない。
守り抜く事こそ、我らが彼と共に想いを繋ぐという事。だから、それまでは……
†
龍の逆鱗、虎の尾……怒りを呼び起こすモノには様々な呼び名があるが、触れられた踏まれたと言い表せ無いほどに、その時の曹孟徳―――――華琳は激昂の極みに居た。
華琳は激発する事もある。しかしそんな自分を冷静なもう一人の自分が見つめている事が多く、本当の意味で怒りに身を染め尽くすような事態は今まで無かった。
わなわなと震える手は……感情のまま、軍議場の机に叩きつけられた後。
徐州大乱の最中、城で待機していたはずの三角帽子の少女が訪れて言った一言は、華琳の心をたった一つの感情に染め上げていた。
「もう一度……言ってみなさい」
凛と透き通っていながらも、春蘭も、霞も、季衣も、その場にいる武勇を馳せる誰しもが震えあがる程の声。
最愛の恋人が消えてしまったかのような、自身を産み落とした親を亡くしたかのような、重く、冷たい寂寥をも孕んだその激情の刃が見え隠れする声は、容赦なくその原因を発した者を切り捨てようかと……周りにいる臣下達はそのように感じた。
されども、目の前にいる人物はなんの事は無いと顔を上げて華琳を見つめていた。翡翠の瞳は変わらず、凍るように冷たく、昏い色を携えている。
「……徐公明は記憶を失いました」
零された言葉に次いで、ギリと歯を噛みしめる音が鳴る。周りに控える部下の全ては、叩きつけられる膨大な圧力に思わず声を上げそうになるも、今何かすれば首を飛ばされるやもしれないと、声も出せず動くにも動けなかった。
春蘭や霞ですら息を呑むほど、華琳は感情を押し留める事が出来なかった。
桃香への嫉妬は……確かにあった。それを上回ったのは、地位も名声も親族が作り出してきた繋がりも無い状態での自身の姿を写し、一から自分と同じ敵対構想を練り上げ、矛盾のハザマでもがき苦しみながらも平穏を齎さんとした黒麒麟への昏い……怒り。
――そこまで……そこまで劉備に尽くすか。私と共にあるのが嫌か。どこまでも私を認めずに否定するのかっ
華琳は秋斗が壊れても、人としての感情を押し込めるくらいだろうと考えていた。人間不信に陥り、近しいモノ達の暖かさを受けて徐々に回復する事の出来る、必ず直せるモノだと思っていた。矛盾の板挟みから解放された時にこそ、それが為せるのだとも。秋斗が今まで耐えてこられたのが、雛里や月、詠の三人のおかげだと、その細部までは知らないが故に。
追い詰め、追い込み、信じるモノが信じるに足りないと教える事で必ず目を覚まし、曹孟徳という覇道を行くモノに縋るだろうと……あれほどの絶望に濁った眼をしていたならば、必ず華琳の存在を認め、求めるだろうと思っていたのだ。
だというのに、彼は記憶を失ってしまった。縋りつく蜘蛛の糸があったにも関わらず、矛盾を貫き通して自身の主を変えずに覇王を否定した……と、真実を知らない華琳には思えてしまう。
本来なら華琳の予想は正しい。効率を重視する秋斗が、桃香の成長が全く違う先に向いた事を理解した時点で華琳を選ばないわけがないのだから。世界改変の思考誘導さえなければ、もしくは途中で秋斗が間違いに気づいていたならば、そんな『もしも』があり得たであろう。
だが、現実に起こった結果はたった一つしかあり得ない。
追い詰めたのは自分、それでも、愚かしい間違いをしていたのは相手。自分の在り方を否定してまで敵対の道を選んでいたのだから。
華琳にとって秋斗が記憶を失ったというのは、まるで大陸を治めるには覇王では足りないと突きつけられているかのように、大徳劉備こそが悠久の平穏を作るに足ると言われているように感じられた。記憶を失ってしまうほど、華琳に仕えたくないのかと。
同じ覇道を行かんとしていた黒麒麟が桃香に従っていただけでも、華琳自身が大徳に頭を垂れているかのようで許せなかったというのに……お前は大徳に及ばない、と突きつけられて怒りに染まらないわけがない。覇王が高みに立つ為に胸に抱いているたった一つのモノを揺るがされて、激情に駆られないわけがなかった。
いつもしているように抑えようとしても抑え込めずに、荒れ狂う心は矛先をナニカに向けそうになっていた。しかし……愛しい部下達の恐れ慄く視線が幾つも突き刺さっていると気付いて、ほんの少しだけ冷静になれた。
後にゆっくりと、目の前に膝を着く少女の冷たい瞳を見据えて、漸く激流の如く溢れていた感情の全てを、内側に無理矢理呑み込む事が出来た。
空気が幾分か和らいで、ほっと息を付いたのは雛里以外の全員。
見苦しい所を見せたわね、というように一つ苦笑を漏らし、華琳は優しい声音を紡いでいく。
「あなたはこれからどうしたい?」
愛しい者に忘れられ、それでも日輪へと飛ぼうとする少女を想って、華琳は行動を縛ろうとせずに先手を委ねた。軍師としてか、少女としてか、お前は何を望むのかと裏に秘めて。
雛里の冷たい瞳には感情が無い。否、全てを封じ込めている。固く閉ざされた殻によって、その内側にある絶望は誰にも測れなかった。
「彼の代わりに想いを繋ぎます。徐晃隊を扱えるのは彼と私、そして忠義に殉じた徐晃隊副長だけですから」
雛里の言葉を聞いて血の気が引いたのは桂花と稟。
彼女達は華琳の命令で徐晃隊を扱おうと試みていた……が、無理だった。
軍師として扱う事は確かに出来た。思うままに動く部隊ほど、軍師が求めて止まないモノは無いのだから。
初めは難なく指示を出し、手足のように動く部隊に感嘆の念を感じながら戦を行っていたが、時間が経つにつれ、戦闘を重ねるにつれ……見れば見る程、扱えば扱う程に彼女達は心が擦り減っていった。戦場の狂気など遥かに凌ぐ、狂信と言う名の殉死によって。
桂花は……戦闘終了後に瀕死の重傷を負った隊員が、目の前で周りの兵に想いを託し、仲間殺しの負担を与えないよう笑顔を向けて自刃するさまを幾度も見て、誰にも見られないよう駆けこんだ天幕の中で圧し掛かる想いの重圧に耐えられず吐いた。
稟は、華琳が指示した攻撃主体命令を行わせ、笑顔を向けて死んでいく彼らの死に様を見て、自責の念から三日三晩寝る事が出来ずに、徐晃隊の指揮を辞めてやっと眠る事が出来た。
二人の軍師が徐晃隊を扱うに足りないと見るや、華琳は徐晃隊を戦場から切り離した。
ある程度人としての感情を捨て、秋斗達のように想いの共有をしなければ徐晃隊を扱うには足りないのだ。
たった一つの命令をやり遂げる為に死に行く……裏を返せば、その死は全て命令を与えた者に責が圧し掛かる。須らく戦争にて兵を率いるならば当たり前の現実なのだが……普通の部隊を指揮していれば誰が死ぬかは戦場に於いて部隊毎の被害数という曖昧な情報で告げられる為に、その責を感じる事もぼかされる。
しかし徐晃隊の場合は手足のように動かせるからこそ、どの小隊が一番死に易いのか……否、自分で殺すのかが明白である。だから……桂花と稟は優秀にして優しい軍師であるが故に、そして徐晃隊と想いを共有していないが故に、人としてその責を受け続ける事に耐えかねた。
言うならば、兵士を一人一人自分で選別して殺しているようなモノ。完全に味方の命を駒として扱う事が出来ないのならば、通常の精神を持っていては耐えられるモノでは無い。
「ひ、雛里は……アレをずっと扱えるっていうの? あんな……あんな恐ろしいモノを……」
恐ろしいモノ、と桂花は言った。彼女は徐晃隊に心の底から恐怖している。
深い意味が分からずとも、彼女は本能的に理解している、と気付いた雛里は嬉しくて心の中で小さく笑う。
徐晃隊を扱うという事は、決断を下す覇王の精神状態を擬似的に味わうという事。最大成果と最効率の為に自分に従ってくれる者達を切り捨てるとはそういう事。
扱い続ける、率いるならば何になるのか。いつか切り捨てる命と知りながら絆を繋ぎ、その者達の願いを叶える為に想いを繋ぐとはどういう事か。
つまり徐晃隊は、規模の小さな覇王の軍。付き従う兵の一人一人が将であり兵という、大陸でも類を見ない程に異質な部隊。激情によって発生するただの死兵では無く、呂布隊や張コウ隊のような飼いならされた常時死兵でも無く、それぞれが“個”であり隊員全てが“己”である異質な兵。
彼らを完全な状態で率いる事が出来るのは、信を置いた彼らの為の御大将、黒麒麟しか在り得ず。
「問題ありません。想いの共通認識は洛陽の決戦と徐州防衛にて掌握済みです」
ただ、雛里や副長は黒麒麟では無いが扱い続けられたのも事実。
副長は狂信者の最頂点に位置する為に右腕として。雛里は徐晃隊に絶対の信を置かれる存在であるが故に道を照らす鳳凰として。
ただ一つの目的の為に預けられる重責は軽減され、全ては望まれた世界を作り出す事で贖われる。二人の想いすら、黒麒麟が背負うだけなのだから。
それは曹操軍の在り方と同じである。
人の命を駒と見て、盤上の遊戯のように戦を行うは覇王。責を全うするのも背負うのも全てが覇王曹孟徳ただ一人である。だから桂花達軍師は冷徹に戦を進めようとも、心に掛かる重圧が軽減されていたのだ。
冷たい雛里の声を聞いて、桂花も稟も、ゴクリと喉を鳴らす。自分よりも幼い見た目の少女が化け物に見えていた。
対して華琳は、小さく称賛の吐息を零した。
「いいでしょう。この戦ではあなたが徐晃隊を率いなさい。ただし、攻撃主体戦術と『黒麒麟の嘶き』の使用は禁止、どの戦場でも防御主体戦術を用いて他の部隊の補佐、一人でも多くの徐晃隊を生き残らせること」
言われて直ぐ、雛里は華琳の狙いを読み取った。
「……徐晃隊の戦術を他の部隊に取り込む為、ですか」
「そうよ。まだ将の色に染まり切っていなくて、歩兵が主体の楽進――凪と于禁――沙和の部隊に覚えさせるため。特に沙和の部隊は対応力の点に於いて近しいモノがあるから、ある程度は使えるようになるでしょう?」
「生き残っている徐晃隊の戦術でしたら十分真似る事は可能かと」
含みのある言い方をされて、華琳は片眉を上げて思考に潜る。
徐晃隊の流れるような連携連撃は自分の軍でも訓練を積めば可能であると判断していたが、雛里の言葉は真似る。本当に再現する事は不可能だと言っているようなモノであった。
雛里はちらと瞳を横に向け、一寸だけ説明していいものかと悩んだが、華琳の器の広さを信頼して伝えておく事にした。
「防御主体だとしても徐晃隊の連携連撃は決死有りきです。前衛が命尽きるまで死守し、一人が死ねば後ろの一人、と当然の如く出られなければ徐晃隊には及びません。華琳様の軍内で訓練を積んで徐晃隊と同じ事が出来るようになるのは……兵達から絶対の信頼を受け、絶大な指揮能力を持つ春蘭さんの部隊くらいです」
「わ、私か?」
話を向けられた春蘭は組んでいた腕を解いて自分を指さす。華琳はそこで沙和達の部隊では成り得ない理由に気付き目を細めた。
「はい。己が掲げる主……では無く将の為に死んでいい、個人の武力を鑑みても兵達がそうなれるのは春蘭さんと霞さんの部隊だけでしょう。霞さんの部隊は騎馬なので徐晃隊の戦術を取る事が出来ません。最も、二人の部隊はそんなモノを覚える必要が無いほどに完成されていますが」
雛里の説明に名が出た二人は受け持っている部隊を思い出し、ポンと一つ手を叩いた霞が先に口を開いた。
「あー……確かにウチのバカ共はたまに死んでもいいとかいいよるけどな、あんな細かいの馬から降りても無理やで。まあ、部隊が出来ても春蘭にあれは無理やろ」
「なんだと!? 私が徐晃に劣っているとでも言うのか!?」
食って掛かる春蘭に対して、ふるふると首を振った霞はジト目で見据えた。
「そうは言うてへん。春蘭には向いてへんだけや。細かい戦術と小隊指揮でちまちま敵の数減らすよりも、ばーっと行ってがーっと突撃する方がええやろ?」
「む……そ、そんな事は無いぞ? 私だってなぁ――」
「あんたにあの部隊の扱いは絶対無理よ春蘭。前も明……張コウの部隊相手に真正面からぶつかっていったじゃないの。確かにその選択も正しかったけど、他にあるいいやり方を私が説明してあげたっていうのに」
「あれは――」
桂花に指摘され、また言い返そうとした春蘭であったが、華琳がコホンと咳払いを一つ落とした事で口を噤んだ。
「春蘭、あなたにはあなたのやり方があるのだから徐晃に張り合わないでいいわ。確かに沙和では……凪でも多分無理ね。春蘭や霞のように部隊の隅々まで行き渡るような求心力は実力的にも性格的にも……本当に長い時間を掛けないと手に入らない。それなら彼女達のやりたいように部隊を作らせた方が信頼も生まれると言うモノ。
でも……生き残っている徐晃隊、というのはどういう意味?」
もう一つの引っかかった所を上げて、雛里を見た華琳はそこに悲哀を少し見て取った。
「徐晃隊に於いて基礎連携の仕方はどの兵も同じですが、殉死した一番隊と二番隊だけは規格外でした。残存の徐晃隊の連携戦術に加えて、小隊長率いる数十人が行う独立突撃戦術、乱戦に於ける小隊分離の攪乱戦術、十を超える小隊が鳴らす『黒麒麟の嘶き』による先端包囲戦術など他にも多数……彼と私で煮詰めた細かい戦術を“小隊長達が戦場の状態に合わせて独自決行”する事を許可され、それを行う事も出来たのでそこまでは達せないという意味です」
「な、なんですって!?」
「それではまるで……一つの軍では無いですか!」
驚愕。誰しもが雛里の言葉に耳を疑った。
徐晃隊の強さは決死の覚悟から来るものだと皆は思っていたのだ。それは正しいが、完成されていた一番隊と二番隊に於いてはほんの一部でしかなかった。
秋斗が作り上げてきた徐晃隊は、絶対服従の命令を果たす為に独自で行動を起こせる部隊。彼が一騎打ちしている時、先頭で突撃を仕掛けている時など将の細かい指示が回る事は無い。普通の部隊ならば副隊長が役目を受け持ち部隊を指揮するか、一騎打ちの場合はそのまま経過を見届ける為に縛り付けられる、もしくは部隊同士でただ争うだけ。彼の場合も副長が大きな指示を出していた場合がほとんどである。
しかし……敵が均一に減っていくわけでは無い戦場で、大きな指示だけでは足りないと秋斗は判断していた。一人でも多くを殺し、一人でも多くを救う為には、もっと細かく精密に動けなければならないと考えて、四人で眠る寝台の上で雛里とどうすれば為せるかと二人で煮詰め、短期間で隊員達に血を吐くような訓練を積ませて化け物を作り上げた。
嘗ての袁紹軍突破戦では、秋斗が先頭を切り拓き、雛里に付き従った副長が全ての小隊に余すところなく指示を出したから五倍以上の兵による十面埋伏陣を耐えられたのだ。
徐晃隊の本当の強さは、大きな戦場を部隊毎の、さらには小隊毎の小さな戦場に変える特異戦術だったのだと理解して、華琳はほうとため息を吐いた。
「徐晃隊は黒麒麟の身体、まさしくその言葉の通りだったのね。小隊長の判断に任せられる程の信頼関係とそれに見合った練度、互いに変わる事の無い想いの共有と狂信にまで発展した……末端まで行き渡る絶対服従の精神。確かに、そんな部隊は如何に私の軍でも作れないわ。私自らが兵の調練を毎日行えるのなら別だけれど」
「……華琳様自らが作るのでしたら確かに作れますが、その場合は副隊長に春蘭さんや夏侯淵さんを置いて初めて完成します。数として一人でも多くを救う為に作られた部隊で、さらには、唯一無二の副長が居てこその黒麒麟の身体でした。練度の面に於いて第一から徐々に仕上げて行くつもりでしたが……黒麒麟も徐晃隊副長も最精鋭兵も失われた今となっては、華琳様も政務で忙しいので、もう作れません」
失ったモノは余りに多く、大きすぎた。同一のレベルまで達する事は現状で不可能だと、華琳も気付いた。
「徐晃と副長の存在……そして先行く隊員の狂信に引き摺られてこそ作れた、か」
ぽつりと零された一言に、雛里は彼と一番仲が良かった副長を思い出して心が翳る。
「そういえば、徐晃に渡してくれと頼まれたモノがあるわ」
「え……?」
誰から、と言われずに雛里は疑問が頭に浮かぶ。
呆けて見つめる雛里に対して、すっと春蘭が近づき、彼女の目の前に銀色に輝くソレをぶら下げた。
瞬間、雛里は飛びついてソレを両手で握りしめ、ぎゅっと胸の前に持って行った。
はらはらと涙を零した。ソレがどれだけ大切なモノか、彼女は知っていたから。
「あなた達が合流する為に通った戦場を確認してきたのだけれど……凄惨の一言に尽きたわ。抜け道の中は笑みを浮かべた幾つもの死体とそれよりも遥かに多い袁紹軍の死体が連なり、橋が焼け落ちた川の岸辺には満足そうに死んでいる隊員達が十人。あれがあなたの言っていた『捨て奸』……徐晃隊による最終手段の結果なのね」
雛里は溢れ出る哀しみから、もう流すまいと決めた涙を押し込められなかった。
ソレが手元に来たという事は、やはり彼の右腕は失われてしまったと同義であったから。思い出が幾つも浮かび上がって、雛里はその場で少女に戻ってしまっていた。
「副長だけは絶対に死なない……と徐晃隊の面々が私に訴えて来たのよ。だから下流まで探してみたら、川岸で腕と脚の骨が曲がっても血を吐きながら、打撲や切り傷だらけで這って動こうともがいている男を一人見つけた」
徐晃隊は彼の命令を達成する事に迷いは無い。だが……生き残る事も命令の内であった。
一人でも多く生き残れとは、仲間を助ける事であり、命令達成後に自分が生き残る事でもある。決死で突撃しながらも出来る限り生にしがみ付けという矛盾が彼から言いつけられている事。
しかし、本来ならソレを届ける役目を放棄する片腕では無い。だから、雛里には副長がどうなったのか分かっていた。
「見つけた時は既に虫の息だった。耳も聞こえず、目も見えず、私達が誰かも分からず、それでも副長は動こうとしてた。黒麒麟に伝えてくれと残した最期の言葉……春蘭が聞いたのだけれど、伝えてあげなさい」
認めたくないから聞きたくなかった。でも、想いを繋ぐなら聞かなければならなかった。
雛里はぎゅっと唇を引き結び、涙を零しながら春蘭の目を見据えてコクリと頷いた。
「聞いたそのまま伝えるぞ。
『すまねぇ御大将、一人でも多く生き残れって最初の命令守れなくて。だけど俺の心は御大将と共に。いつでも一緒に平穏な世を作るから。だからどうかその先で、幸せになってくれ。乱世に華を、世に平穏を』
……そう言ってから微笑みを零して……その男は息を引き取った」
「っ!……うぁっ……ふ……長さ……ごめん……なさい……」
もう耐えられず、声を漏らして泣き崩れた。
ズシリと心に圧し掛かる重圧は鋼のように重く、苦しい。失った悲しみは冷たく、痛い。
雛里の心には懺悔が波のように押し寄せる。
一番大きな想いの鎖が彼女だけに託された。
彼はもう居ない。副長の想いを繋げるのは雛里しか居ないのだ。雛里はもう、彼を黒麒麟にはしないと決めているのだから。
雛里が握りしめたソレは銀色の笛。あの戦の最中で決死の突撃を仕掛ける彼が雛里を守らせる為に副長に渡していたモノ。
黒麒麟の嘶き、その始まりを告げた一鳴きであった。
「忠義に殉じた徐晃隊の死体からは川岸の隊員達のモノ以外笛が一つも見つからなかった。袁紹軍に取られたのでしょう。きっとどれかの戦では徐晃隊攪乱の為に使ってくる。だから今の徐晃隊には曹操軍の鎧を着せて戦わせてるわ」
それを聞いて心に燃え上がったのは憎しみ。
彼が彼の部隊の為に作ったモノを、他の誰かが鳴らすなど許せなかった。
幸い、第一最古参の笛は鳴る音が違う特別製である為に、応用戦術までは支障を来さない。
それでも、戦場で鳴る嘶きを、黒麒麟以外が鳴らすなど雛里には許す事が出来ない。
しゃくりあげながらも雛里は思考を回し、大きく数回息を付いてから、軍師たる鳳凰として言葉を零した。
「孫呉側が動いた場合、袁家は逃げるしか有り得ません。なのでその時は、袁術軍に対して、徐晃隊を前の姿のままでぶつけるとよいかと。敵には既に恐怖の楔が打ち込まれていますから、烏合の衆になり下がるでしょう。乱れた軍から嘶きを使われる心配はありません。切り捨てられる袁術軍などに、敵の軍師がわざわざそれを使う事はないでしょう」
憎しみから本心を零し、少女に戻るかと思った華琳であったが、変わらず軍師として献策を行う雛里を見て、ため息を一つ。
「雛里、あなた……徐晃を黒麒麟にしないつもりね?」
鋭く細めた瞳が雛里を穿った。
恐怖がにじみ出る。もう既に居ない彼を、覇王は求める事を諦めず。
そうなる事など分かり切っていた。だが、直接華琳から本心を言い当てられると、これほどまでに違うのかと雛里は震えた。
「……はい」
「理由を、聞かせてちょうだい」
覇気を向けられ、ゴクリと生唾を呑み込んだ。もう涙は止まっていた。
怖いのは、彼を永久に失う事だ。
覚悟は既に胸の内に。けれども握りしめた笛が、ひどく熱く感じた。それはまるで……嘶くのは何時かと囃し立てるかのよう。
抑え込む。もう何も、彼に背負わせない為に。その熱さを自身に取り込めるように。
「治世を生きる徐公明の広大にして歪な知識は壊れずしてこそ有益なモノ。身に責を背負う重圧は全てを失った事で増えた為に、記憶が戻れば徐公明を今度こそ殺すでしょう。
彼は弱い人でした。私と……月ちゃんと詠さんが支え、徐晃隊から無言の信を向けられなければ心が擦り切れる程に」
「……次は記憶を失うだけでは済まない、と言うのね?」
「まさしく。副長の死に様、そして徐晃隊達の生き様を目にした華琳様なら、ご理解頂けるかと」
短い沈黙。皆、その鮮烈な在り方の兵達を間近で目にしたが故の。
思考に耽っているわけでは無く、華琳は黙祷を送るように徐晃隊達に想いを馳せていた。
――兵士一人一人にまで浸透していた徐晃の在り方。美しかった。末端に至るまでの忠義の勇者達。主の為にと散り行く命の華を、皆が摘み取って先の世に繋げんとする哀しく優しい存在。そして片腕の喪失に激情を放てど押し込め、規律を守りて効率を重視する……私が全ての兵に望む誇り高い勇姿。
繋げた想いは華琳が背負うモノとは異なれど重さは同じ。それら全てを自らが無駄にしたと知れば、次は自害しても、気が狂って廃人になってもおかしくない。
ほんの少し眉を寄せた雛里を見て、思惑を直ぐに読み取る。
黒麒麟を呼び戻すで無く一から徐公明を作り上げる方がいいと、基盤が変わらないのならば覇王曹孟徳の忠臣として徐公明を育て上げるべきだと言っていた。
しかしそれでは、華琳の心にもやもやと渦巻く感情が晴れる事は無い。
「私はね、欲しいモノは手に入れる主義なのよ。だからあなたのように黒麒麟を諦めたりしない。私が求めたのは確かにあの男の完全な忠誠だけれど、矛盾を呑み込んでも進んできた大嘘つきでなければ意味が無いの」
ぎゅっと拳を握った。厳しくとも奮い立たせようとしてくれる優しい華琳からはそう言われると分かっていた。多くの兵を犠牲にしてまで求めた写し鏡を、簡単に華琳が諦めるはずが無いのも分かっていた。しかし華琳は雛里の予想の裏を続けた。
「でも……どんな状況にも対応出来るよう先手を打って置くのは悪くない。徐晃隊はこの戦の後に鳳統隊として曹操軍に組み込む事にする。本来の徐晃が戻ってきた暁には、身体なのだから返してあげましょう」
ほっと息を付いた。心の中で小さく、ほんの小さく。
唯一、彼に一番近しい想いを持ち、狂信を隅々まで伝播させられた、凡人達の指標である副長はもう居ないが故に、黒麒麟の部隊はもはや前の水準を保ったままで増える事は無い。
そして雛里が傍に居なければ、全ての始まりの戦場さえ分からない。
――だから問題ない。彼は……もう黒麒麟には戻らない。
安心は華琳が強制を選ばなかった事から。安息は彼がもう傷つかなくていい事から。
昔の自分の在り方を誰も示せないのならば、仮初めでも黒麒麟になろうとは思わないだろう、そうして別人としての徐公明が完成されていくだろう、と。
心を冷たく凍らせて、雛里は個人の欲も願いも封じ込めて行く。一重に、自分を知らない彼が幸せであればそれで良かった。
「ありがとうございます」
「礼はいい。それと……あなたが此処に来た、と言う事はどういう事か分かってるわね?」
コクリと頷くその姿に、泣き縋っていた少女の面影は欠片も無く、見据えた華琳は覇王たる姿のままで冷たく微笑んだ。
「よろしい。戦の現状を稟と桂花に聞いて、三人で袁家撃退の方策を練り上げなさい。春蘭、霞は少し鍛錬に付き合って頂戴。少し身体を動かさないと落ち着かない。季衣も来ていいわよ」
御意、の短い返答を聞くと共に立ち上がった華琳は三人を連れて、一瞥もくれずに雛里の横を通り過ぎた。
――あの子の事は桂花に任せましょう。今、雛里に必要なのは主では無く友。私が受け止めるでなく、隣に立てるモノが支えなければ心が壊れてしまう。
心の内で呟き天幕を出て行く。
呑み込んだはずの燃えるような激情は、気を抜けば溢れ出てしまいそう。凍えるような悲哀の想いを呑み込んだ雛里にそれを向けるわけには行かなかった。
歩きながら思い出すのは一人の男。雛里に溢れんばかりの想いを向けられている彼に……華琳は内心で呟いた。
――戻らないなんて許さない。お前は黒麒麟として私の足元に跪かないと許さないわ。それに愛しい家臣達には……『曹孟徳』が作り出した世界で『華琳』の代わりに目一杯の平穏を手に入れて貰う。お前も含めて、ね。
†
今にも泣き出しそうな曇天が重く圧しかかる。徐州にある嘗ての劉備軍本城の城壁にて、華琳は城下の街並みを見下ろしていた。
そこには戦によって焼け落ちた家屋が立ち並んで……という事は無く、発展途上の活気あふれる街そのモノがあった。彼と雛里の残した策が成功した証として、この街には一人の死傷者も損害も無い。
徐州での戦は終わり、手に入れた城で戦後処理に励んでいるが、休息としてその街の活気をしっかりと確かめたかった。
深く、深く息を吐いた。
今回行われた袁家との戦には確かに……敵の戦略的撤退で勝った。軍の被害も当初の予定よりも抑えられた。主要な者達は誰一人として失わなかった。だというのに、彼女の心は晴れ渡ってはいなかった。
自分にとって、これほどまでに澱みの残る戦があっただろうか……と、頭上の日輪が翳っている様子を見て想いを馳せる。
一番手に入れたかったモノは手に入らず、もう少しで手に入れられたモノも手に入らず、手に入れたモノも心の平穏を失った。
「あの子の様子はどう?」
いつの間にか斜め後ろに控えていた桂花に、振り向きもせず声を掛ける。きゅっと胸の前で書簡を握る桂花の表情は暗く、寂しげな色がゆらゆらと揺れていた。
「合流したての頃のように夜中に泣いて飛び起きる事はもうありません。仕事もそつなくこなし、劉備軍時の有用な案件を私と共に行ってます……が、やはり袁家との戦が終わるまで徐晃に会いに帰る事は出来ないの一点張りです」
「そう……予定より早く徐州掌握の基盤も出来そうだから連れて帰りたいのだけれど、やはりダメなのね。あの子は……徐晃が人を殺してから会うつもりでしょう。月をその隣を据えたいのもあるか」
影を落とした表情の桂花に語った。ずっと雛里の側に着き、彼女の心の安寧を取り戻そうと言葉を交わしてきた桂花でも揺らがせる事が出来ないと知り、眉を寄せた華琳は小さく吐息を零す。
雛里は今の秋斗と会う事を拒んでいるのだが、自発的に向かってほしいと考えて、華琳は直接何かを言いはしない。
華琳達にはもう一つ、雛里に強く出られない理由があった。
「徐晃の記憶が戻って壊れるか耐えるかに賭けるよりも、今のままで才を振るう方が私の為になる、か。確かにこの発展途上の街とあなた達が献策してきた事案を見れば、国の発展には徐晃が壊れない方を選ぶべきだわ」
「あの男が諸葛亮と雛里に与えて煮詰めさせたモノはほとんど即時に行う事が出来ません。しかし、徐々に手を付けて行けば大いなる発展が期待出来るモノばかりで……」
「小さな所では『ぱん』と『労働宿舎』……どちらも画期的だわ。他にも多くの切片を与えていたようだけれど……さすがは伏竜と鳳雛、本当に時代の流れを良く理解している」
「急な改革は国を滅ぼす毒と分かっていて発展計画を進めていたと言っておりました。日常的に食されている饅頭と違い、店長の店で出されている『ぱん』がこれほど簡単に作れるとは……驚愕を禁じ得ません」
「……私もよ。蒸すより焼いた方がおいしい。既存の主食が全て変わってしまうから、落ち着いてから徐々に浸透させましょう」
彼は現代の知識の内、この時代で為せそうなモノを選んで朱里と雛里に話していた。
現代で普通に生きていれば誰でも分かる程度のモノでも、この時代の人々にとっては宝と成り得るのだ。朱里と雛里に話すだけで、まだ行き渡っていないのは後々にしっぺ返しを食らう危険性から。
行き過ぎた新技術等の運用は国そのモノを滅ぼす毒となる。急速な発展は現存するモノの廃れを生み出し、有り得た技術の進歩さえ奪ってしまう事が多い。さらには、膨大に増える仕事量によって上に位置する華琳や桂花などの上位決定権を持つ者達の負担をこれでもかと増やす事になり、治める街々へと確立浸透させるには時間や手間、資金が掛かりすぎる。戦乱の世の中で、優秀な人材が貴重なこの世界ではどれもこれもとすぐさま手を伸ばす事など出来ないのだ。
その為、朱里と雛里は秋斗が限定排出した知識をさらに選んで煮詰め、手の付けられる所からゆっくりと展開させていた。
現代風のラーメンが普通に売っていたり、大型ドリルを振り回す少女までいるでたらめな世界ではあるが、それでも末端の生活は史実の世界とある程度変わらない。
肉まんや現代風ラーメンが楽に出るほど小麦粉の流通が盛んであるからパンを、安定して住む場所のあるモノが少ないから働きながら住める場所を、というように史実との違いを気にしながらおっかなびっくりながらゆっくりと。
秋斗も危険性に気付いており、本当に些細な所、竹笛や警笛などの限られた範囲で実用可能なモノ以外は朱里と雛里の判断に委ねきっていた。
彼の思惑は簡単なモノだ。乱世を乗り越え、治世になってこそ現代の知識は生かせる。軍事優先にしてなるたけ早く乱世の終結を。
この時代に生きていた天才達が、その頭脳の全てを平穏な世界へと回せるようにしてから、危険性を回避しながら壊されないように、と。
何を於いても、乱世を終わらせる事が最優先であったのだ。早回しのように戦が進められていく世界であるから特に。
史実のように何十年も掛けるならば同時進行で進めて行ける。しかしこの世界では、何もかもが余りに足りなさすぎた。
記憶の戻った彼が今以上に酷い事態となるかは賭け。だからこそ華琳は、その有益な宝の山を失うやもしれない事を危惧して、雛里には秋斗の側に居るべきだと強く出られない。
知識を吐き出させるだけも出来はするが、おぼろげで虫食いだらけの知識を確実に昇華させるためには、料理に関してはその道の天才にして乱世に関係の無い店長が居たから問題無かったが、政事に関しては桂花や雛里並に頭のいい者に煮詰めさせなければならず、通常の業務と同時並行で進めて行くとなれば。乱世の中で取り掛かるは亀の歩みの如き遅さとなり、より大きくなる負担からどちらもに支障を来しかねない。人に与えられる時間は圧縮も出来ず、無限でも無いのだから。
王は治める国の益を優先して当然。雛里はその点を突いて、華琳に対して今の秋斗の存続を提案していたということ。
「国管理による私塾『学校』や労働者斡旋部署『はろぉわぁく』の設立など……現状での完全な実現は難しいですが、これも基盤を整えてから――――」
「『学校』の設立は私の街で試してみたい。年齢制限を設けて三日四日……いえ、七日に一度の試験段階でも構わないわ。隠居した文官達のいい暇つぶしにもなるはず。これだけは……私の理想の基礎となるからいち早く進めて行きたい」
「ではそのように。書簡を纏めて風に送っておきます」
華琳は厳しく、部下の能力を正しく把握しているが故に、ギリギリ為せるであろう所から手を付けて行く。雛里や秋斗の想像の十枚は上を行く王が華琳であった。それが為せるほどの人材を貪欲に集めたからこそ、とも言えるが。
主の決断に動じず、桂花はそれに応える為に思考を巡らせる。
桂花の内政力は、華琳の見立てでは朱里に勝るとも劣らない。高い実力を理解しているからこそ大きな所を委ねられる。徐州内部の発展も戦場に向かった朱里の代わりに雛里が引き継いでいたのを聞いて、桂花に雛里の半分と、自身の三割ほどを任せていた。
桂花を王佐として信頼している、と言えばそれまで。
彼女は、華琳は、覇王は……桂花に対して治世で才を振るう自分をも求めている。
多方面に於いて率なく、誰よりも見事にこなす華琳といえども、乱世に於いてまだそれに全てを傾ける事は出来ない為に。
桂花は華琳――――曹孟徳の王佐である。王佐は王を脅かすモノでなくてはならない。されども、王に絶対の信を貫くモノでもなければならない。
覇王すら試す胆力を持った桂花は、間違いなくその王佐の完成系。犬のように従うのみに非ず、覇王の事を誰よりも理解した上で、命を賭けて、覇王へと自分の策は正しいと、反対意見を混ぜて献策をも行えるからこその王佐なのである。
半身、とも言える桂花の無言の気合を背に受けて、華琳は口の端を緩めた。任せた程度をこなすだけで終わらないのが桂花だと知っているから……次の話に移ると確信していた。
「雛里の事はお任せください」
一言。それだけに隠された意味は無数とある。
しかし桂花の思惑を読み違える華琳では無く、華琳が自分の事を把握していないと思う桂花でも無かった。
「それがあなたの考える最善の策なのね」
首だけ回し、肩越しに見据えた華琳は歓喜の色を浮かべていた。王佐が何を願っているか理解した上で。
コクリと頷く桂花の目は決意と後悔と懇願が渦巻く。
「分かった。情報は随時送る。雛里と共に確実な一手を考えておきなさい。長い戦いには……しないわよ?」
「御意」
「明日には本城に戻るわ。此処にはアレを含めた旧劉備軍と三千の兵しか残さないけれど……戦場に来る時に誰か武官は必要?」
ふいと問いかけられて、ビクリと身体を跳ねさせた桂花は、ふつふつと怯えに泡立つ腕をぎゅっと握って首を振った。
「アレらがいるので必要ないかと。あの……首無くとも変わらない黒麒麟の身体がいれば、万事に於いてこちらは問題ありません」
その言葉を受けて、華琳はくるりと振り返った。
「先に言っておく、アレはどうしても必要な時しか動かしてはダメよ? 首が戻る時に支える身体は出来る限り強い方がいいのだから」
「問題ありません。私も雛里もそれを織り込み済みで計画を練っておりますゆえ」
「ならいい。それと……待たせたわね。次はあなたの欲しいモノよ。必ず手に入れましょう。……一応、黒麒麟の身体には首が戻るまでの道を示しておくわ」
すっと礼の姿勢を取った桂花の横を抜ける華琳は笑っていた。
優しく、暖かく、桂花の心を案じて。
華琳の為に、自分の手で友を呪縛から救い出すよりも、確実な勝利を選んだ桂花を安心させられるように。
歩みを進め、次に手に入れるモノを想いながら短い休息の為の準備に取り掛かろうとしていた華琳は……ふと、今回手に入らなかったモノを思い浮かべ、
――お前が手に入っていたなら……と考えるのはやめておきましょう。必ず私の元で全ての才を振るって貰うわよ、徐晃。
まだ手に入らなかったと突きつけられた日の気持ちを再燃させ、彼を待つ身体が控える場所へと歩みを進めて行った。
†
目の前に立ち並ぶ人の群れ。幾多から発される眼光は鋭く、誰もがその者の言葉を待っていた。
揺れる金髪の螺旋は二つ。アイスブルーの瞳は爛々と光を湛え、発される覇気は一人に向ければ否応無しに地に膝を着かせ、頭を垂れさせるほど。
徐晃隊残存数約四千。黒麒麟と共に想いを繋がんと命を捧げた勇者達は、胸に秘めたる想いの強さと、平穏の世を願い続ける決死の覚悟から、覇王の発する覇気を押し返していた。
華琳の隣に居るのは一人の少女……否、黒麒麟と並び立つべき鳳凰。訝しげに華琳を見つめ、今から何をしようというのか、と少々の不安を胸に浮かべていた。
華琳は雛里にこれから徐晃隊を鳳統隊に変えるから付いて来るように、と呼び出しただけ。
すっと目を細め、口の端をほんの少し上げた華琳は、ゆっくりと口を開いた。
「徐晃隊、汝らは何ぞや」
短く、凛と鈴の音が鳴るような声音はその場の空気を凍りつかせる。
徐晃隊と言いつつ、己らは何であるのか、と問いかけるは異常な事。されども、彼らにとっては特別な意味を持っていた。
『我ら、黒麒麟の身体なり』
一分も乱れの無い重厚な返答は、華琳と雛里に音の壁となって押し寄せた。
統一された忠誠心から、彼らが迷う事は無く、敵が覇王であろうとも躊躇う事など在りはしない。
「では黒麒麟の身体よ。汝らに問う。頸が変わろうとも、黒麒麟の身体足りえるか」
疑念、猜疑、焦燥、混乱……あらゆる感情が交錯し始めるその場は無音なれど異常な空気に陥った。
我らが主は無事なはず。だというのに、この覇王は何を言っているのか、と。
ふいに大きく、地に何かが突き立つ音がした。最前で地に剣と槍を突き刺したのは、この中では一番最古参な第三から第六までの部隊長四人。
袁紹軍との戦の前に、忠義の心を信頼されて雛里から真実を知ったその男達だけは心乱れず、これまでしてきたように、彼への忠誠を高らかに掲げた。
『我ら、右腕が想いを繋ぐ黒麒麟の両手足なり。我が主果てようとも、意思の角持ち乱世を貫かん。我らの心は彼と共に、彼の心は我らと共に』
痛いほどの静寂に支配された。
四人が憧れたのは黒麒麟徐晃……では無くその片腕であった。
ずっと、彼に一番の信頼を向けられる副長のようになりたかった。嫉妬に狂わず、自身を律して、何時かは彼から自分達こそが手足だと任命して貰う為に、副長を目指して研鑽を続け、競い合ってきたのが各部隊長達であった。
彼らも、バカなのだ。兄貴分の副長と並び立ちたくて、血反吐を吐いてきた。
やはり狂信は伝搬していた。彼から副長へ、副長から部隊長へ、部隊長から兵達へと、縦に、強く。
輝く意思を背中で語られた徐晃隊の者達は心を纏め、強い光を持った瞳で覇王を見据えた。
『我らの心は彼と共に、彼の心は我らと共に』
合わせて放たれた言葉を受け、満足そうに笑みを深めた華琳は後方の隅々にまで視線を巡らし、大きく感嘆の息を零す。
「その心や見事。ならば黒麒麟の身体に真実を伝えよう。劉玄徳から信を受けられず、預けられた数多の想いと身体たる汝らへの想いによりて、黒麒麟は心を砕き記憶を失った。今の徐晃は黒麒麟に非ず」
瞬間、溢れんばかりの悲哀と憎悪が空間を支配した。
自身の主が、自分達の慕った御大将が、優しく厳しく強くて弱いその男が、遂に壊れてしまった。
毎日のように隊員達と食事を取って絆を繋ぎ、新兵一人一人に至るまで名前を憶え、一人の死も零さないようにと心に刻みつけてきた彼が、大徳と共に作る平穏を願っていたというのに、その大徳から信を受けられず“壊されてしまった”。
其処には徐晃隊の一番と二番、そして片腕を失わせた袁家に対して向けたモノよりもっと膨大な憎悪と悲哀があった。心を高く持ち、出来る限り感情を殺せと言われていた徐晃隊であっても、抑える事など出来ず。
事前に与えられた上位命令から、徐晃隊は徐州を守る為に曹操軍と共闘していただけであり、何故まだ曹操軍と共にいるのかは知らされていなかったのだ。
優しい人だと知っているから、徐晃隊は彼を責める事は無く、いつか壊れるやもしれないと誰もが心配していたから、嘘だ、と覇王に言う事もない。
ただ……自分達は絶対の信を置いていた。だというのに、自分達と同じように彼を信じなかった大徳が憎くて仕方なかった。
悔しくて、哀しくて涙を零すモノが多くとも、徐晃隊は無言で覇王の言葉を待った。規律を守れ、と彼なら言うから。
雛里の心は歓喜と悲哀に曇った。彼がどれだけ想われているのか再確認して。変わらない彼らの在り方に心打たれて。戦場の彼が此処にいるような気がして。
ほんの少し、華琳は心が痛む。これほどの忠誠を誓う部隊の思考を誘導する事に。されども顔には出さず、不敵に笑って言葉を紡ぐ。
「徐晃隊よ! 黒麒麟の身体よ! 汝らは首無くとも戦うか! 鳳凰の羽を得て、再度戦場に立つ事を願うか!」
『応』
即座に上げられた重厚な鋼のような返答は当然を示す。
「敵が嘗て共に戦ったモノであろうと躊躇い無く踏み潰せるか! 我が覇道の果てに汝らの主の目指した世界があると鳳凰は信じた! 彼女のように我と共に戦えるか!」
『応』
間を置かず、迷いなく返される言葉は短く、しかし其処には雛里への想いも乗せているからか、何処か優しく聞こえた。
「されば汝らは、首無き黒麒麟として鳳統隊を名乗り羽を背に宿せ! そして首が戻るまで黒麒麟の示した証を声に上げてはならぬ! 汝らの想いのカタチを天に示すは……主の想いが同じであるのだから、胸の内に秘めて機が来るまで決して掲げるな! それを是と出来るならば鳳凰と共に想いを繋ぐのだ! 誰もが願った悠久の平穏を世に作り出すために、この曹孟徳に力を貸せ! 黒麒麟が身体よ!」
ざっ、と膝を着いた。誰ともなく、全ての兵が華琳に頭を垂れた。
居並ぶ徐晃隊の全ての者が、目の前の覇王は己が主と同じ道を行くモノだと理解した。
繋いだ想いもあるだろう。諦観に心痛めた事もあるだろう。冷徹に部下を切り捨て、狡猾に他者を殺し、されども心は卑賤ならず、一人遥か高みにあるその少女は、彼が見せていた戦場のモノと同じ。
――ああ、やはり御大将は覇王と共にあるべきだった。こんなにも……こんなにも同じだったんだから。
少女でありながら、どれだけのモノを背負っているのか、と覇王の軍と共に戦った黄巾時代を知る隊員達は己が主を重ねて目を伏せた。
しんと静まり変えり、誰も動こうとしないその場に、少しの間を置いて震える少女の声が紡がれた。
「か、彼の想いを正しく知るはあなた達と私を置いて他にないです。どうか私と共に、彼の想いを繋いでください。先の世に……っ……想いの華を、繋ぎましょう」
『我らが大陸一の軍師、鳳凰が望むままに』
今にも泣き出しそうな懇願は全員の胸に染み込んで行く。
覇王と共に戦い、この少女を守り通す事が、彼が戻るまで想いを繋ぐ唯一の道だった。
ただ……徐晃隊、否、鳳統隊からはもう、いつもの声は上がらない。黒麒麟の示した証は封じられた。
詮無きことかな、彼らには首が無い。
上げたくとも上げられない嘶きは、胸に秘めたるまま、頭が戻った時に解き放たれるを待つだけであった。
これより曹操軍にて首の無い黒麒麟が駆ける事となった。
繋いだ想いにて脈打つ血潮も、救いたい願いにて荒ぶる魂もある。絶対の信を置いていた鳳凰の羽も手に入れた。しかし世界を変えたいという意思の角だけは、首が戻るまで覇王が振るう。
鳳統隊は信じていた。誰もが、一人の例外なく。
己が御大将は必ず戻り、我らと共に黒麒麟となるのだ、と。
夜話~覇の王佐は鳳の姉となるか~
華琳様が本城へと帰還した夜、合流してからの日々と同じく雛里と同衾していた。
憎らしい……と、夜になるといつも思う。
――あの男、会ったらただじゃおかないんだから!
情報を得て、黄巾時代にその在り方も知っていたから、私はあの男が憎い。
華琳様と同じ思想を持ちながら、華琳様の元に仕えなかった愚か者。偽りの大徳、徐公明。
最近では特に苛立ちが増した。
こんなに可愛くて才に溢れる雛里の心を惹きつけたくせに、雛里を傷つけているから憎い。
主に信を向けられずに絶望した……それは確かに、私でも壊れてしまうかもしれないけど。でも、今の雛里の傍にいると、憐憫よりも憎しみの方が上回る。
古い記憶にあるおどおどとした愛らしい雛里はもう余り見ない。
何故か。決まっている。無理をしているからだ。
逢いたい。声を聞かせて。撫でて。抱きしめて。いつもの言葉を聞かせて。そして一番多いのが……私をちゃんと見て。
毎夜の如く、うなされたり、泣き出したり、叫び出したりしながら雛里はそれらの言葉を零していた。
ずっと支えてきたのに、雛里は徐晃から見て貰えなかった。あの時、私もあの場所に居たから分かってる。
それはどれだけ心引き裂かれたのか。どれだけ絶望の淵に堕ちたのか。
初めは私もどうしたらいいのか分からず、ただぎゅっと抱きしめてあげる事しか出来なかった。
抱きしめながら寝ると叫び出す事は無い。けど、うなされて涙を零す。
最近ではやっと落ち着いて、手を繋ぐだけで眠ってくれるし、うなされる事も少なくなった。
華琳様との睦み事はしばらくしていない。
一番幸せな時を過ごすよりも、私は……雛里の側に居たかった。
戦が終わってから一度だけ誘われたのだが、申し訳ありません、と謝ると華琳様は優しく微笑んで褒めてくれた。
『ふふ、それでいい。やはりあなたは私の王佐だわ』
試されていたわけでは無く、深い意味を込めていた、と思う。
きっと、華琳様に必要な事を選んだ私を褒めてくれたのだ。
今後、雛里は絶対に華琳様に必要な人材。軍略の天才である稟だけでは足りない……というわけでは無い。
きっと華琳様の先見や構想ではもっと違うモノを見ている。単純に徐晃を戻すため、というだけでは絶対に無いだろう。
思い浮かぶのは諸葛亮。アレの思考の癖を隅々まで分かるのは雛里しか居ない。つまり華琳様は……既に劉備軍打倒の思考を積み上げはじめている。
雛里が諸葛亮の思考を分かるならば、諸葛亮も雛里の思考を分かる事に他ならないが、それでもその上を行くと確信しているのだろう。
だって……次の戦はその縮図なのだから。
夕が私の思考をある程度読めるように、私も夕の思考をある程度読める。
多角的に戦を見れるだけの軍師が私達には揃っているが、夕は私の思考だけでも読み取ればそこから他のモノまで読んでしまう……それほど戦略的視野が広く、深い。
だから私は徐州に残った。万が一にも読まれないように、外部から雛里と一緒に考える必殺の一手を差し込めるようにと。
思考に潜っていると、きゅむきゅむと雛里から手を握られた。
「桂花さんは……お友達と戦う事がお辛くありませんか?」
一寸驚く。まさに、夕の事を考えていたから。
隣を見ると偶然だと分かった。
きっと雛里は諸葛亮の事を考えていて、曇りが出来たんだろう。決意したとは言っても、今日は徐晃隊を鳳統隊に変えた日。心が弱っているんだ。
これ以上落ち込まさないように、空いた手で蒼い髪を撫で……自分の昔の心境を思い出して苦笑が零れた。
「もう割り切ったわ。私は友達も無理矢理手に入れるって決めたの。例えあの子の大切な人を……見殺しにしてでも」
きゅっと眉を寄せた雛里は、私の茶髪を撫で返してきた。
本当に優しい子。私の気持ちを汲んでくれる。分かってくれる。
嬉しくて、くすぐったくて、微笑みが漏れ出た。ただ、雛里に撫でられるというのは少し情けなく感じた。
だからぎゅっと抱きしめてやった。
高い体温が心地いい。まるで心の冷たさまで暖めてくれるかのよう。
ほっとした充足感から、本心を話してもいいかなという気持ちになった。
「きっと怨まれると思う。でも助けたいの。一人よがりの自分勝手でしかない。だけどあの子が大切なの。一緒に、幸せになりたいの。きっとこの気持ちは、雛里が徐晃に向ける気持ちと一緒ね」
「……一緒には助けられないんですか?」
「不可能よ。その人は南皮から出られないし、もう長くない。何より強情な人だから袁家と死ぬわ。助けられるなら、助けたいけど……強欲は人を無駄に殺し、欲しいモノさえ無くしてしまうわ」
「そう……ですか……」
しゅんと落ち込んだ雛里に、申し訳なさが湧きあがる。
――私のバカ。逆に落ち込ませてどうするのよ。私は大丈夫って見せて安心させないと。
「全てを救えるわけないじゃない。いつだって現実は冷たいし――――」
「……っ!」
あ……やってしまった。
雛里が震えだした。私はたまにこうして、したい事とは反対に誰かの心を傷つけてしまう。
昔、夕と明に心理把握と人心操作が下手だと言われた事を思い出した。
こういう時、私には無いモノを持ってる華琳様が羨ましい。きっと華琳様なら間違わずに雛里の心を安息に導けた。
謝ろうとしても、何故か言葉が出て来ない。いつもいつも分からない。どうして華琳様以外には素直に口に出して謝れないのか。
ふと、耳に響いたのは華琳様の言葉。雛里と並び立って支えるのは風でも無く稟でも無く……私ただ一人と言ってくれた。ほんの少し、喉が通った気がした。
「……ご、めん」
喉の奥から、小さく、聞こえるか聞こえないかくらいの声が出た。
腕の中でピタリ、と雛里の震えが止まり、目が合った。
呑み込まれそうな昏い色は無く、少しばかりの悲哀を残して、でも私に対して何故か感謝を向けている。
こんなに耐えてる雛里が愛おしく感じて、思わず抱きしめる腕に力を込めた。
「あわ……桂花さん、私は大丈夫ですから――――」
「じゃあ私が大丈夫じゃないって事にしておいて」
言うと雛里は身体の力を抜き、なされるがままになっていた。
――ごめんね、雛里。今のは私が悪すぎた。徐晃隊の事もあったのに。
今度は心の内で謝った。素直に話せない自分が鬱陶しい。でも、普段の雛里は私のそういった部分を結構読み取ってくれる。
それが嬉しいと感じる私は、きっと雛里の隣が居心地良く思い始めてる。人の心に聡すぎる夕と重ねて。
――だけど雛里を支えたいって気持ちは違う。これは友達に向けるモノとは違う。私は雛里をちゃんと見てるんだから。
あの悲壮溢れる交渉の時に生まれた気持ち。もしかしたら、華琳様も私達の事をこんな風に思って下さってるのかもしれない。
着いて来いといいながら細かい所に気付いて何も言わずに支えてくれる私達の王は、優しくて厳しい覇王だから。
きっと、家族に向けるモノに似た想い。
――いいこと思いついたわ。そうよ。そうすればいいじゃない。華琳様も月と内密に約を進めておられるし、私もそういう事をしたって問題は無いはず。
コホン、と咳払いを一つ。
心臓が高鳴る。
親友は居たけど、そういったモノを自分から作った事は無い。だから、緊張してる。
雛里は聞いてくれるだろうか。了承してくれるだろうか。
不安が心を彩る。
きっと聞いてくれると信じて、私は……
「ひ、雛里? こ、ここ、これから、私の事……けけ、『桂花お姉ちゃん』って呼んでも、いいのよ?」
どもりながら小さく言葉を紡いだ。
脈打つ心臓は、恥ずかし過ぎて胸から飛び出しそう。顔が熱いから、赤くなってるだろう。
ぎゅっと目を瞑って返答を待っていた。
でも、返って来なかった。来るはずも無かった。
――雛里……寝てるのね。
耳を打つ鼓動が少しだけ静まれば、聞こえてきたのは小さな寝息。雛里は何処か安心した表情をしながらすやすやと眠っていた。
盛大なため息が零れた。
――今思えば恥ずかしい事を考えた。これは忘れましょう。……うん、忘れましょう。
ちょっとだけ残念な気がするのは気のせいだろう。そう、思い込んでおく。
それより雛里が安心しているのはどうしてか、私には分からない。
私が言った言葉が、彼女の何かを変えたんだろうか。
現実は冷たいって、雛里を傷つける事を言っちゃっただけなのに。
いくら考えても答えが出ず、仕方無しと割り切って、雛里の温もりを感じながら私も眠る事にした。
私の幸せをつかみ取った後で、絶対にこの子の幸せも取り戻そうと考えながら。
後書き
読んで頂きありがとうございます。
華琳様がお怒りのお話と首の無い黒麒麟のお話。
黄巾からずっと求めてきましたから、こんな感じです。
副長については、落ちながら笑顔を浮かべてなかったのが伏線でした。
あと、桂花ちゃんの話で雛里ちゃんが何を想ったのか想像してくだされば嬉しいです。
次からは戦準備期間の話です。
ではまた
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