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鎮守府にガンダム(擬き)が配備されました。

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第1部
  第4話 我、日常ヲ謳歌ス

 
前書き
更新遅れて申し訳ない。
仕事が地獄の如くキツイ上に忙しく、書くに書けない日々を送って居ました。

みなさんも体調管理にはお気をつけて( ´Д`)y━・~~ 

 
8月12日 鹿島
第1024鎮守府 提督執務室


夏真っ盛りの日本列島。
世間では夏休み、という学生オンリーの一大イベントの真っ最中であり、若者達は恋に遊びに青春を謳歌しているだろう。

「……なぁ、クソ親父」
「なんだ馬鹿息子」
「……暑い」
「我慢しろ、クーラーぶっ壊れてんだ」

だがそれは少年少女達のみ。
俺達大人には休みなんてあるわけなく、さらに軍人には休みという概念自体存在しない。
たとえ非番だったとしても基地や所属艦から無断で離れる事は出来ない。
そう、たとえサービス出勤中でも。

「……妖精さんからの要望書のチェック終わったぜ。
ほい、新しい機材とかの搬入量と許可」
「ああ、……おし、問題なし、と。
いや〜、お前が居てくれて助かった」
「間宮さんとこのDX大和盛りニイタカヤマノボレver.フルーツパフェでいいぜ」
「…………善処する」

本来ならば非番で自室でゴロゴロしながら、新しい紅茶の茶葉や洋菓子作りに使う道具のカタログを読んでいる筈が、親父に呼び出され、執務の手伝いをさせられている事に対する趣向返しとばかりに、間宮さんの作る超高額のパフェを要求した。
あのパフェは絶品だ。
何せ食べているとその異様な大きさとオーラを察知した姉さん達が寄って来てはつまみ食いを始める程だ。
因みに一杯19580円。
値段も大和級で、艦娘も去ることながら、提督クラスでも滅多に食べられない高級品だ。
しかも夏限定の高級フルーツを大量に使用している超特別仕様のため、このパフェを食べるために節約する艦娘が出る程だ。

「しっかしメチャクチャ暑いな……俺の借りてる部屋でさえ40℃なのになんでここ49℃あるんだよ。
マジで熱帯雨林かよここ……」
「直射日光が直に来るからな、特に海岸線は。
麦茶、飲むか?」
「おおぉ……文明の利器、魔法瓶……」
「大袈裟な奴だな……」

キンキンに冷えた麦茶がグラスへ注がれ、瞬時にグラスが結露する。
開け放たれた窓につけられた風鈴をそよ風が鳴らし、真夏日の灼熱の太陽が小さな雲から顔を出す。

「夏だな」
「………ああ。
って言っても、何年も宇宙に居たからなぁ……」

青春と呼べる時期の殆どを月面とコロニーで過ごした俺にとって、日本の夏は厳しい様だ。
ここに居た頃、餓鬼の頃はそんなに気にならなかった筈なのだが…。

「そういや俺がここに来たのも、こんな暑い日だったよな……」
「…そう、だったな……去年の今頃だった……。
いや、お前にとっては22年前か」
「気にすんなよ、誰の所為でも無いんだ。
しかし、今となっちゃあ…親父と同い年か。
……なんか複雑だ」
「……さっさと結婚相手見つけろ」
「勘弁してくれよ……」


◉◉◉


執務が終わったら、鎮守府内の見回りだ。
上に立つ者として、現場を自分の目で確かめるのも、れっきとした仕事だ。
まぁ、俺の仕事ではないが。

「……暑い…」
「……暑いな…」

とにかく暑い。
ジリジリと照りつく太陽を頭上に仰ぎながら、鎮守府内を歩く。
他国の軍事施設の為、将官服を脱ぐ事は疎か、着崩す事さえラトロワに前持って脅され…いや、厳命されているので出来ない。
ラトロワはそういった所が非常に手厳しく、もし破った事がばれたら本気でハイパーメガ粒子砲で消し飛ばされかねない。
依然ばれた時は、ジムクゥエルの頭部バルカンを実弾でぶっ放しながら追いかけ回された。

「………」
「………」

2人して黙り込んで、汗を滝の様に流しながら、足を引きずる様に歩を進めた。
今すぐ海に飛び込んで何もかも忘れたいが、ラトロワに釘を刺されている手前、命が惜しいのでやめておく。
ああ、死にそうだ…。

「ん?」
「ど〜した〜、一葉」

コンクリートで舗装された海沿いに、見慣れた連中を見つけた。
ユウヤ達、ヴァルキリー中隊の第2小隊の3人と、誰かさんによく似た佐官が1人。
何やらユウヤ達は、海面に頭を出したハイゴッグの上で釣りに興じている様だ。

「お〜い、何やってんだ」
「あ、司令。
ちょっと海釣りでも、と思いまして」
「だからってハイゴッグ持ち出すなっての。
おい〝ウィル〟、聞いてんのか」
『あ、あはは……哨戒任務の帰りに捕まりまして……』

海沿いの海面に頭だけを出したマリーンズのハイゴッグの2号機パイロット、〝ウィルバート・コリンズ〟少尉の、引きつった苦笑が、外部スピーカーから漏れた。

「まぁまぁ、偶にはこういう息抜きもいいでしょう、提督」
「あのですねぇ〝シロガネ大佐〟、MSの部品だってタダじゃ無いんですよ?
動けばパーツだって磨り減るし欠けるんです。
あまり出費を増やす様な行為はおやめ下さい」
「はっはっはっ、こりゃ手厳しいな」

戦艦ヴィドフニルの艦長であり、武の実父である〝白銀影行〟大佐の笑い声が木霊した。

「……まぁそれはさておき、あいつらが羽目外し過ぎないようにしてくださいよ、大佐」
「おう、まかせとけ」

ジリジリと照り付く太陽光を浴びて汗だくになった制服を脱ぎ捨てたくなる衝動を必死に抑え、離れた場所に出来た影で待っていた親父と合流する。

「お前んとこの連中は随分アクティブなんだな。
この糞暑い中海釣りとは……」
「まぁ、頭ん中のネジ何本かぶっ飛んでるような連中だから……」

「おいタケルッ⁉︎ 竿、竿引いてるッ‼︎」
「早く、早く引き揚げろ武ッ‼︎」
「わかってますよッ‼︎ んなくそッ、重いッ………よっしゃあぁぁぁあああ、カツオ、カツオ釣れたぞ親父ッ‼︎」
「何ッ⁉︎ カツオだと⁉︎ ウィルバート少尉、大漁旗掲揚だッ‼︎」
『んなモンありませんよッ‼︎』

和気藹々に騒ぎまくる部下達を見て、暑さ程度でダウン間近の自分が情けなくなり、親父と2人で日陰から漏れる日光を眺め続けた。



◉◉◉


同時刻
第1024鎮守府近隣
臨海記念公園


エインヘリアル艦隊の艦隊司令、神宮司一葉が父親と一緒に休んでいる時、その姿を何kmも離れた海沿いの公園の雑木林から観察する者が居た。

「むむむ……どちらが件の殿方なの?」
「えっとですね………向かって右側の若い方です。
間違いありません」
「…………」

木の幹に隠れながら、大きな双眼鏡で観察するうら若い女性3人。
雑木林には不釣り合いな、身に纏った黒いワンピースや黒と灰色を基調としたセーラー服、白と黒の和服を来た美女達は、一心不乱に対象の観察に没頭している。

「……しかし〝姫〟、これは余りにも迂闊ではないでしょうか。
幾ら〝本体〟を海底に偽装しているとはいえ、もし艦娘に見つかりでもしたら……」
「あの鎮守府の艦娘の中に潜水艦は居なかった筈よ。
それにわざわざ近場の1番深い海溝を選んだのよ? しかも20kmも離れた場所に。
あの深さなら探信儀や水中電探も、海底の地形の影響で探知不可能よ、心配要らないわ」
「…………」

黒いワンピースを来た長い黒髪の少女が、セーラー服の少女の不安気な忠告を一蹴した。

「それに、何の為にわざわざ〝人間〟に化けて、その上喋り方まで勉強したと思ってるの?
…こんな所で眺めてても埒が空かないわ、……やっぱり直接接触するしか無いわね」
「……んな⁈ 正気ですか〝姫〟⁉︎
艦娘達の闊歩する鎮守府へ乗り込むおつもりですかッ‼︎
本体から離れて居る今の我々は、人間達に対しても非力な存在でしか無いのですよッ⁉︎
それを貴女は……嗚呼もう、こら〝ヲ級〟、お前も何か言えッ‼︎」
「…………カツオノオ刺身…美味シソウ……」
「私の話を聞きなさい〜〜ッ‼︎ ってそれより人間の喋り方にしなさいッ‼︎
誰かに聞かれたらどうするのッ‼︎」
「アアア、〝姫様〟助ケテ、〝ル級〟ガイジメル……」
「ちょっと静かにしなさいッ‼︎」

着物の少女がワンピースの少女に助けを求める。
そのワンピースの少女……深海棲艦の戦姫級、〝戦艦棲姫〟は、その助けをまたもや一蹴し、双眼鏡を覗き続けた。

あの日に見逃されてからと言うもの、戦艦棲姫は白いロボットのパイロットの事ばかり考えていた。
どんな男で、どんな風貌で、どんな粧いで…。
まるで恋に夢中になった乙女のように、ただロボットのパイロットの事ばかり考えていたのだった。

「然し姫、何故あの男に執着するのです。
一体あの男がなんだと言うのです」
「ゥ、ウギュ……」

ル級がヲ級にストラングルホールドβを掛けながら尋ねた。

「ねえ、ル級……貴女は艦娘だった頃の記憶はある?」
「え? は、はい、微かにではありますが……」
「艦娘にとって…いえ、人類にとって深海棲艦は倒すべき敵。
なら何故彼はみすみす私達を見逃したの?
あの状況なら、確実に私を撃沈させられた筈なのに……」

足元の岩に腰掛け、髪を掻き上げる。

「それを確かめたいの……それに、別に人類と敵対したいわけじゃ無いの。
深海棲艦になってしまったけど、私は……人類を恨んでいるわけじゃ無いから」

8月の木漏れ日が降り注ぐ。
それを手をかざして遮った。

「艦隊旗艦は貴女です。
私は常に、貴女と共にあります。
貴女の意志が、私の意志であることを忘れないでください」
「オ刺身……ジャナクテ、ボーキサイト食ベタイ」
「貴女は砂利でも食べていなさいッ‼︎」

ヲ級の口に石ころを詰め込もうとするル級に、不意に笑ってしまった。

争いたいわけじゃ無い。
逢えば何かが分かる筈。

そんな事を考えながら、戦艦棲姫は平和な日々を満喫していた。 
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