ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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コラボ
~Cross world~
cross world:交手
バッシィィィィィンンンンン!!!!!
硬質なその音とともに、ルナの愛剣《天聖ユニコリオン》の美しい刀身が、寒気を覚えるほど容赦のない残像を空中に刻みつけながら自らの恋人の姿をしたモノの顔面に突き立った。
その刃は、ギリギリと音を立てながらもソレの額に薄傷をつけるだけだ。
だが、それでいい。
にやける顔を隠し通す事ができたかどうか、正直自信はない。
しかし、相手は単なるプレイヤーではない。
一という事象に対して、二という答えしか吐き出さない、ただのMobと同じだ。そこら辺から勝手に湧き出てくる化け物どもと、なんら変わりはない。せいぜいその根底的な目標指針が変更されているくらい。
要するに、身体能力や訳のわからない心意という力を使う以外、精神面とでも言うべき点では恐ろしく単純なのだ。
基本アルゴリズムは、これまでの行動や言動からして推測するにおそらく、目的は『レンの排除』。”排除”の内容が気になるが、しかし、いや絶対にロクな事にはならないであろう。
しかし、ここには大きな落とし穴というべきものが存在している。
それは、目の前の存在はそこまで知能が高くないという事。
目的を達成するための努力はするが、他の可能性を全く考えない。
知能はあっても、知性はない。
これは漢字にしてみれば些細な違いであって、言葉遊びのようなものかもしれないのだけれど、しかしその実その意味は全くの別物といってもいい。
知能とは、考え、行動する力だ。
腹が減った→何かが食べたい→ファミレスに行こう、という風に何かから別のことを連想し、適切に自身の行動を決定する意思である。
しかし、一見思慮深そうな知能から生まれる思考は、言ってみれば一過性で一面的なのだ。
ようするに『軽い』のである。
それぐらいの事ならチンパンジーやイルカにだってできうるだろう。
反対に、知性とは比較・抽象・概念化・判断・推理などの機能によって、感覚的所与を認識にまでつくりあげる精神的能力だ。
数多の動物、生物が地球上に存在しているが、将来や未来といった思考観念を持っているのは人間だけだと言われている。動物達が《死》というものを理解するのは、《死》に直面した寸前だとか何とか。
人間――――ホモサピエンスを『知性人』という言い方をするのは、案外こういうところからなのかもしれない。
閑話休題。
で、目前の怪物だ。
これには知能はあっても、知性などといった高尚なものは持ち合わせているようには見えない。
基本問題は解けるが、応用問題は解けない、といった感じだ。
ルナがわざわざ身を賭してまで、黒衣の剣士に見えるモノに一撃を浴びせたのは、別にダメージを負わせようとしたものではない。
かといってバンザイアタックなどという趣味も持ち合わせていない。
きちんと、攻撃をされないという確信を持って突撃した。
どんなものでもそうであろうが、力ある者というのは大抵《余裕》がある。
例えば、小学生が肉食性であるアリを笑顔で観察していられるのは、それらがいざとなったら踏み潰せる弱者として存在しているからである。
《余裕》があるからこそ《観察》ができる。
こいつは一体なんなのだ、と。
どういう意図があるのだ、と。
ギョロリ、と。
ガラスでできたような、色の欠け落ちた二つの瞳がこちらを覗き込む。
しかし、忘れないでほしい。
《余裕》と《油断》は、紙一重だということを。
「今ッ!」
叫んでから、漆黒の輝線が脇腹の間隙を縫うように通り抜けるまで、コンマ一秒あっただろうか。
ッッッッドンンンッッ!!!!!!!
打ち上げ花火をゼロ距離からブッ放されたような、腹に響き渡る轟音が炸裂した。
同時、視界の端を黒い物体がヒュンヒュンと回転しながら、放物線を描くのを少女は見た。
アレは――――
腕。
肩口からごっそりと抉り取られた、生々しい人間の腕。
「――――――ッ!」
間近にある二つのガラス球が、一回り大きく見開かれるのを《流水》は見た。
傷口は、普通のエフェクトで表されなかった。
ソレを言い表すのであれば、陶器でできた人形であろうか。皮膚だけはまさしく人間のそれであるのに、その中身は空っぽで、人間でいえば心臓があるだろう位置にサイコロのような真っ黒いキューブが浮いているのが覗き見れた。
―――これ……は…………。
その映像に何かを思考するより早く。
『klm;dbsa:o:;\lhnk;o;p:qk;nqopuk;n:bm:ti;o;bpiiopobowybp]]wiybt,nibiiwp,b::@i,o:un:paioy;:;ia:a[oppnyi:iynooa,\aamynyou:iaya-u0iaiuimek[ntyn],.q@iny[y/np:.utr;oohulo;,q\:[;w:in@pewon;on,yiwe,nyony\,:.t:opklm;dbsa:o:;\lhnk;o;p:qk;nqopuk;n:bm:ti;o;bpiiopobowybp]]wiybt,nibiiwp,b::@i,o:un:paioy;:;ia:a[oppnyi:iynooa,\aamynyou:iayau0iaiuimek[ntyn],.q@iny[y/np:.utr;oohulo;,q\:;w:in@pewon;on,yiwe,nyony\,:.t:oklm;dbsa:o:;\lhnk;o;p:qk;nqopuk;n:bm:ti;o;bpiiopobowybp]]wiybt,nibiiwp,b::@i,o:un:paioy;:;ia:a[oppnyi:iynooa,\aamynyou:iaya-u0iaiuimek[ntyn],.q@iny[y/np:.utr;oohulo;,q\[;w:in@pewon;on,yiwe,nyony\,:.t:opp!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
恐ろしいほどの横殴りの衝撃を伴って、その《悲鳴》は少女の小柄な体全身を襲った。
痛覚を遥かに通り越し、異様な冷たさが全身の神経を逆撫でしたのも束の間、ゴッッ!!!!という轟音とともに、粘り気のあるゼリーのように感じられる大気を引き裂きながら、リング状の余波すら可視化させながら、砲弾のような速度で少女が弾き飛ばされた。
地殻に、第二のクレーターを刻み込む羽目にならなかったのは、紅衣の少年のおかげだった。
雷光のごときスピードで、瞬間移動のようにルナの軌道上に出現したレンは、少女に負けず劣らず小柄な身体の全身を使って受け止めたのだ。
当然、少女にある運動エネルギーの全てを受け止め、あまつさえ捻じ伏せられるはずもなく。
ベギゴバキゴギィッッ!!!!!
大樹の、建設用クレーンのような幹を幾つも薙ぎ倒しながら二人は半ばもつれ込むように苔むした地面に落下した。
ふんわりと湿ったコケで助かった。これが石畳でもあったなら、HP全てが即座に消し飛んでいただろう。今この状況も、こうやって生存している事自体が奇跡のようなものなのだ。
「ぐ……がはげほっ!…………ルナ…ねーちゃん……生きて…る………?」
「………な、なんとかー」
もぞもぞ、と地面の上で転がりながら、互いの生存を確認する。
助けてくれた礼代わりにと、手早くアイテムウインドウからHPポーションを実体化させ、少年のほうに放る。正直、身体をすぐには起こせないほどの鈍痛が全身を苛んでいた。
心意は痛覚遮断を無効化する、という少年の忠告を今更のように思い出した。
全身が水に浸されたような痛覚に呻きながら、少女は立ち上がる。
ギシギシ、という音が全関節から響くような気がする中で、それでもルナは立ち上がった。
「…………腕……なんとか、いけたね」
「いける…もんだねぇ。――――だけど」
うん、と頷きながら、二人は上空を見据えた。
「「まだ浅い(ね)」」
その言葉が聞こえたかのように、二人の目線の先で金属同士が擦れ合うような耳障りな異音が甲高く響き渡る。
薄霧のような黒煙が、欠けた腕を上書きするように寄せ集まっていく。
チッ、と。
思わず、鋭い舌打ちを漏らすルナ。
呆れるほど希望的な望みだったが、やはり腕一本切り落としたくらいでは自己矛盾を引き起こせるはずもないか。それで敵が勝手にパニクって自滅すれば楽だったのに。
ふぅ、と一息ついた少女は首を一度だけ振って、完全に思考を切り替える。
レベルも、技も、規模も。
何もかもが桁外れ。
ひょっとしたらレベル1の超初心者が、いきなりラスボスとエンカウントしたような絶望的状況で、腕一本切り落とした。それだけでも僥倖過ぎる。
無欲よりは良いが、無い物ねだりは過ぎると身を滅ぼす。
ポジティブに、しかし冷静に。
このシーソーを絶妙なバランスで保たなければ、目前の怪物には瞬殺されるだろう。文字通り、一秒を万の数字で細切れにした時間でも足りないほどの一瞬で。
奇襲という手札は使ってしまった。
知性は《予測》という行為を行う事ができるが、知能は《対応》しかできない。
だが、これも一度使ってしまった手ならば話は別である。すでにこちらの意図、手法を隅々まで洗い尽くし、その対応、対抗策にいたるまで練り上げられてしまっている事だろう。
こちらの切れる手札は、そう多くない。
そもそも、これだけポテンシャルに圧倒的な差のある相手に切れる手札など、多いはずもない。せめて相手が、言葉による意思疎通が可能だったならば、《話術》や《交渉》という、ある意味では戦わずしてこの場を収める可能性もありえたかもしれない。
―――《奇襲》はもう使えない。てことは、ジリジリ下がりながらの《持久戦》………?でも、それだと削られていってジリ貧になる可能性が高い…………。
一つの団のブレインを担っていた頃の記憶を思い出しながら、ルナは頭を高速回転させる。
チェックシートを埋めていくように、浮かんだ案の一つ一つの長所と短所、利益と損害を秤に乗せ、チェックをつけていく。
だが、その中の一つとして、明確な打開案が浮かんでこない。
思わず歯噛みをしそうになった着流しの少女の思考より早く。
状況が動く。
まず初めにルナが感じたのは、音だった。
「ごっ」という、何かの打撃音なのか呻き声なんだか判らない、そんな声。
次に感じたのは、眼球から入る景色の違和感であった。
一瞬前まで上空にいた《彼》が、いない。
最後に少女が感じた、というか理解したのは音の出所であった。
音源は近い。否、近すぎる。
距離は一メートルを切っている。いや、でも、だって、そこにいるのは――――
見るな、と叫ぶ本能があった。
聞くな、と喚く本性があった。
それでも、少女は見る。聞く。
己の隣にソレはあった。
少年は眠っているようだった。
小さな口から、ごぽり、ごぷり、と蛇口を閉め忘れた水道のように粘性のある赤黒い液体が溢れ出ていた。
その心臓の位置から、浅黒いシャツを真っ黒に染めながら屹立している腕が、悪趣味なB級ホラー映画のように網膜に焼きついた。
つい先刻に、人並み外れた速さで自分をここまで運んでくれた足は完全に宙に浮き、電池の切れた人形のようにダランと垂れ下がっている。時折、その足がピクピクと痙攣するさまが、電気を流し込まれたカエルの足のようで、無性に笑いたくなった。
宇宙の深遠のような、果てしなき夜空のような、削りだされたブラックダイヤのような瞳は、完全に光を失い、長めの前髪の奥に引っ込んでいる。
反射的なものなのか、それとも抵抗しようとしたのか、突き出した腕に寄り添うように、すがるように置いてあった細い二本の手が、自らの血に滑るようにズルズルと音を立て、プランと垂れ下がった。
その時点になって、やっと思考が目前の状況に追いついた。
しかし、身体はそうも行かない。
「…あ………ぁ……」
と、言葉にもならない、意味もなさない音が唇の隙間から漏れる。
音もなく絶句する少女の前で、異形の影は静かに呟いた。
『Loading《Akashic Record》』
後書き
さてさて、コラボもいよいよ起承転結の転の部分に入ってきました。……………………ん?あれ?転?結?どっちだろ←
それでそれで、今回は知能と知性の違いでございます。
私はこれまで、両者は同じものだと考えていたのですが、辞書をペラペラめくった限りではどうも違うらしいのですね、はい。初耳でした。
詳しい説明は本文に書かれているのですが、これはアリシ編の二つの型のAIに合致する部分もあるのではないでしょうか。
Aと訊かれたらBと答えるというデータの集合体。
脳の基幹構造を全てバーチャルで造る電子脳。
どちらがどちらか、なんてわかりません。どちらにも知性があり、どちらにも知性はないのかもしれません。
私はどちらにも知性はあると信じますけどね、もちろん。
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