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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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新たなる力へ
  Trick67_試験を始めます


試験練習3日目の夜

とはいっても、2日目の夜と対して変化は無い。

あえて違いを出すのであれば、堅い緊張感が漂っていた。
明日に控えたA・T初心者組の試験。その緊張感だ。

誰も明日については触れない。今日の反省を話し合い、情報を共有している。
実際に立って体幹が保っているか実演して確認する。

それでも、誰もが明日について話さなかった。

全員が恐かったのだ。自分に自信を持っている美琴や婚后でさえも恐がっていた。

唯一、明日について話したのも美雪の一言だけ。

「よし、反省会はここまで。明日に備えて、今日は早く寝よう♪」

いつもより早めに部屋に戻った。

その後、美雪と美玲は信乃の介抱(主に美雪がマッサージ)をして眠りについた。

一方で美琴たちは緊張のまま、いつもより寝付きが悪かった。


――――――――――――――――――――――


合宿4日目の朝


昨晩と同じく、緊張以外は3日目と同じだった。

全員が気を引き締めて玄関へと向かう。3日間ほどだが、試験に使う相棒の元へと歩く。

エア・トレック

通称:自由への扉 (エア・ギア)


装着したA・Tが、いつも以上に馴染む。それが勇気と希望をくれる。
でも手足は痺れている。自分のものではないみたいだ。それが不安を煽る。


 パン!
  ビク!?

美雪が手を叩き、メンバーは驚いて肩を震わせた。

「みんな、落ち着いて♪ 大丈夫、練習を思い出そう♪」

「そ、そうですわ! あれだけ練習をしたのですから、大丈夫ですわ!」

「婚后さんの言うとおり、自分の力を出し切ろうよ♪」

『はい』

美雪の喝と婚后の励ましに、全員の緊張が良い程度に治まった。


6人はゆっくりと歩き、試験の場所はいつもと同じ100mレーンがある練習場所とついた。

「お待ちしていましたよ、皆さん。
 今日は初日と違って遅れてこなかったんですね?」

そこには信乃の他に、佐天と黒妻、合宿にきて一度も会わなかった宗像もいた。

神理楽(ルール)配下、独立自由特殊暴飛靴小隊
または暴風族(ストームライダー)≪小烏丸≫

その実戦担当の4人が試験組を出迎えていた。

「やっほーみんな! 今日は午前練習を休みにしてもらったから試験がどうなるか
 見てみたくてきちゃった!」

「クールダウンだけだが、やっぱり一緒に練習した身としては気になるからな。
 応援しに来たぜ」

「A・Tをやるからには、僕たちに関わるってことだ。
 中途半端は許さないよ。だから殺「アホなこと言わないで下さい」 佐天、遮るな」

「もう! 宗像さんはすぐに物騒なこと言うんだから!
 みんな普通の感性持っているんですから、言われたら怖がっちゃいますよ!」

「それが僕だからね」

≪小烏丸≫の面々が全員(指揮の位置外は除く)揃うのを見るのはチーム結成時から
御坂たちは初めてかもしれない。

そのときは感じなかったが、4人からはオーラを放っているように試験組は感じていた。

オーラの違いを一番に感じたのは、彼らの足元も関係している。


全員がA・Tを装着していたのだ。


ロングブーツは太腿を覆い、ハイヒールのように踵が上がっている。前輪が小さく後輪が大きな佐天のA・T。

スポーツシューズと言うよりは革靴のように見え、前輪後輪の他に足の甲にあるホイールのようなパーツがある黒妻のA・T。

婚后、湾内、泡浮、美雪は始めてみる、踵から腰までの高さまで伸びる大きな刃が付いている宗像のA・T。

全体的なデザインこそ一般的で御坂達と同じだが、両方のホイールは全体的に赤く、その中に白い狐の絵が施されている信乃のA・T。

それを見て、普通のデザインを持つ自分たちがまだ初級の段階にいる事を改めて知らされた。

「では、試験を始めたいと思います」

目線をA・Tから信乃へと変えた。

「3日前に話した通り、100mを一定時間以内に走ってもらいます。
 そして隠していた『一定時間以内』の内容ですが・・・・

 6.5秒です」

『!?』

試験組の全員が息をのんだ。
昨日までの練習で、最速タイムを出したのは御坂美琴の6.8秒。
一番遅いのは湾内の7.3秒。

誰一人として合格レベルのタイムを出す事が出来ていない。
その事実が全員の緊張をさらに大きくさせた。

「「「「「「・・・・・」」」」」」

「どうしました、皆さん?
 あ、弱気になっているならどうぞ言ってください。
 いつでも棄権をお待ちしていますよ」

「「「「「「!?」」」」」」

「信乃さん、ひどい言い方ですね」

「そんなことないですよ、佐天さん。
 私は自分が楽をしたいからって、言っているわけじゃないですよ?」

「その言い方だと、楽をしたいって言っているのと同じじゃねーか」

あちら側の緊張は関係ないとばかりに、≪小烏丸≫は談笑をしている。
でも、実際は皆の緊張を解すためにふざけているのだ。
試験官である信乃も同じ。厳しいルールや条件に見えるが、それでも全力を
出せるかをみたいのだ。

「試験を始めます。まずは湾内さんから」

「!? は、はい!」

全員の中で一番タイムが遅い湾内を指名した。

もちろん、それは偶然ではない。信乃は湾内の記録を知っていて最初に指定していた。

「スタートの合図は≪小烏丸≫流にします」

取りだしたのは1枚のコイン。
湾内は一度美琴の超電磁砲を思い浮かんだ。

「コインを上に弾き飛ばし、地面に着いた瞬間にスタートです。

 準備はいいですか?」

「す、少しお待ちください!」

湾内は深呼吸をする。どうにも落ち着かない深呼吸だが30秒もすると安定し始めた。
彼女は名門である常盤台中学の生徒。この程度のプレッシャーの抑え方も知っている。

むしろ強すぎるプレッシャーから最良の結果を出せてこその常盤台生だ。

「準備はできました」

「ではいきます。レディ!!」

弾かれたコインは空へと向かうが、重力に従い減速、停止、下へ加速する。

キィィーーン

「!!」

湾内は体を前方に傾けた。

昨日、A・T初心者同盟で見つけた≪走る≫のコツ。
地面を蹴るのではなく、軸足に体重を乗せる!

加速を続け、顔に当たる空気の、風の壁。
壁を突き抜けた先にあるゴールを目指して。

「ゴール!!」

佐天が自分の事のように喜んだ。

「信乃様! わたくしのタイムは!?」

「それは後で、です」

「「「「「「え!?」」」」」」

「タイムと、合否発表は全員まとめて行います」

信乃の無表情に、湾内は凍りついた。

「では次、美雪」

「・・・・はい」

「西折様! なぜ合否結果を教えて下さらないのですか!?
 わたくし、一生懸命に走りました!

 初めて空気の壁に当たり、追い越していく感じを得ました!
 不合格ならハッキリと言ってもらえないでしょうか!?」

「合否結果は出ています。でも結果発表は全員まとめて行います。
 しばらく待っていてください」

「・・・・はい」

自信はあったのだが、信乃の冷めた態度で不合格であると湾内は思い、
すぐに合否結果を言わない事に不安に感じていた。
納得しないまでも湾内は下がった。

「いくぞ、美雪。レディー」

何事もなかったかのように試験は再開された。




―――――――――――――――――――――――――――




試験は進み、美雪、泡浮、美玲が終了した。

「次、婚后さん」

「は、はい!」

試験は婚后と美琴が残った状態で、次に名指しされたのは婚后だった。

湾内の講義というアクシデントはあったが、それ以外は問題なく進んでいった。
だが、あくまで表面上に出ていなかっただけ。それぞれに蟠りは抱えていた。

おもに湾内と同じ、合否結果を言わない信乃に対する不満と不安。
そして待ち時間に襲ってくるプレッシャー。

いくらプレッシャーに強い常盤台生でも、この待ち時間に襲ってくるソレは
別物であり、簡単に耐えられるものではなかった。

常盤台中学に入学している事は優秀な証拠。いわば勝ち組なのだ。

だが逆に言えば、負けに対する耐性が強くは無い。『敵は己の中にあり』と教えられてきた。

今回の試験は≪走る≫による時間測定。対戦相手がいない試験のように思える。
しかし信乃の存在が対戦相手の代わりとなっていた。

冷たくあしらう。機械的な開始合図。どうしても敵対意識をもってしまう。
そんな敵が合否を教えない。不明な存在として感じて、それがプレッシャーに変わっているのだ。

さらに、試験の順番だ。
昨日の時点で、100m走の遅い順に取り行われている。
信乃にはそれを教えていない筈だが、間違いない。
ではどうやって調べたのか? 練習を覗き見ていた? ここ数日の体の動きの変化を読みとった?

不安が不安を呼び、負の連鎖にはまり込んでいた。

「レディー」

コインが弾き飛ばされる。機械的に無感情に。

一瞬、戸惑いがあったものが、婚后はどうにか気持ちを整えてスタートを切った。

≪走る≫は上手く言った。今までで感じた事のない加速力と空気の壁を肌で感じる事が出来た。

「ゴール」

手元のデバイスを操作して入力する信乃。その姿は無機質で無情で機械的だった。

(わたくしは・・・合格できたのでしょうか?)

≪走る≫の時、ゴールの瞬間は今まで感じた事のない快感だった。
それゆえに、不合格でのA・T禁止に感じることが多々あった。

(本来は自分磨きの一環としてA・Tをお願いしましたのに、
 いつの間にか魅せられてしまったのですわね)

自分の持つ執着心を冷静に判断した婚后。

そんな風に考え込んでいる間に、最後の美琴の計測が完了した。


「全員終了、ですね」

手元のデバイスを操作して、深呼吸をする。
全員が息を呑むのが聞こえた。

「じゃ、結果は来年にでも教えます。さようなら」

片目を閉じて、ふざけながら去って行った。

「「「「ちょっとまてーー!」」」」「「「「「「待ってください!!」」」」」」

去って行く事が出来なかった。
黒妻と美琴に至っては物理的に止めに入った。

黒妻が信乃の肩を掴み、その直後に美琴がドロップキックをきめた。


TAG Trick 
   - Backward Cross Ridefall Upper "TWINCAM STRAGHT" -


見事に技がきまった。
打ち合わせは全くなし。偶然だが完璧な技がきまった。

「痛って! なにすんだよ!」

「うるせっ! 今、全員が真面目に話聞いてんだよ!
 なにふざけてんだ! 空気読めよ、空気!!!」

「そうだよ信乃にーちゃん! 片目閉じてるから冗談なのは分かるけど
 冗談が許される状況じゃないよ!!」

「・・・別にちょっとした冗談ぐらい、いいだろ」

「よくない!」「いいわけあるか!」

「ったく、マジになるなよ」

「信乃、いい加減にして♪」

「・・・・・あの、美雪、なんか、こわ「いい加減して♪」 はいごめんなさい」

信乃は諦めて溜息をつく。

「ではけっかをはっぴょうしまーす」

「適当な言い方ですの」

「いちーばーん 「信乃、いい加減にして♪」 はいマジでごめんなさい。

 一位 御坂美琴 Time 06.02
 二位 婚后光子 Time 06.15
 三位 西折美玲 Time 06.18
 四位 西折美雪 Time 06.36
 五位 湾内絹歩 Time 06.44
 六位 泡浮万彬 Time 06.45」

「そ、それで・・」

「合格結果は?」

湾内と泡浮が怯えた様子で先を促す。

「合格ライン、Time 06.50をクリアしています。
 全員合格おめでとう」

『や』

「や?」

『やっったー!!!!!!!』

試験に参加していない佐天、白井、黒妻も我の事のように一緒に喜んだ。

「あー、まさか全員合格するとはな・・・」

ほとんどのメンバーが喜び抱き合う中、信乃は聞こえないくらいの声で呟いた。

「信乃、嘘はいけないよ♪
 全員が合格できるように合格ラインを作ったでしょ♪?」

それを近くにいた美雪は聞き逃さなかった。

「さーて、なんのことかな?」

「この3日間で佐天さん達の1週間と同じタイムを出せって言っていたの、ミスリードでしょ♪」

「・・・誰にも言っていないよな、それ?」

「大丈夫♪

 それに練習の3日間はA・Tにはリミッター付けていたでしょ♪?
 試験の時は全解除した♪
 前日より1秒近く速くなるってあまりあり得ないよね♪」

「なんでもお見通しだな、美雪。

 バレないように少しずつリミッターを付けていた。毎日整備で預かっていたのはこのためだ。
 琴ちゃんの成長にはびっくりしたぜ。2日目は最下位から2位まで上がったんだからな。

 リミッターを増やしてなかったら、3日目にタイムを切るところだった」

「最下位から2位までって、信乃何で知っているの♪? 超能力♪?」

「そんなわけないだろ。A・Tに仕込んである≪リード≫だよ」

「≪リード≫♪?」

「正確に言えば、A・Tの踵部に入っているメモリ・スティックに
 使用者の数値化情報が全て入っている。それを読むシステムが≪リード≫。

 だから湾内さんや泡浮さんが2日目から急に上手になったり、琴ちゃんが
 2日目の途中から≪歩く≫を上手になったりしていたのを知っているぜ」

「そんな~♪ 私達にはプライバシーって言うのが無いのね♪」

「A・Tに関しては無いも同然だ♪」

美雪の冗談口調に信乃も合わせて返した。

「ま、今回は色々心理的に追い詰める事を仕込んでいたけどな。

 3日間で1週間分の成果を出せと言った事しかり、
 自由時間と言う名の練習時間を仕掛けた事しかり、
 合格するためのタイムを前日の成果より難しく設定した事しかり、
 合格結果は最後に言うようにして受験中はドキドキさせる事しかり、
 受験は前日結果の低い人から始めて常に緊張した状態にさせる事しかり。

 色々追い詰めたけど、さすが常盤台生。プレッシャーに強い」

「その心理効果で一番追い詰められたのが湾内さんだね♪
 あとでフォローしてあげてね♪」

「美雪、任せた。お礼は今晩のデザート献上で」

「え、信乃の手作りスイーツ♪? しょうがないな♪」

「手作りなんて言ってないんですけど、ハードルあがっているけど。
 別にいっか」

2人だけの世界を作っていたが、そこに妹その1が乱入してきた。

「信乃にーちゃん!」

「どうしたですか、御坂さん? おっと」

本日2度目のドロップキックは難なくかわされた。

「信乃にーちゃん、色々仕掛けたでしょ!? おもに心理的に!!」

「ええ、仕掛けました。残念ながら全員がクリアしましたけど」

「やっぱり!!」

「あの、御坂様。西折様が仕掛けたって・・」

「それはですね―――――――――」

湾内の問いに、美雪へ答えたように話した。

「そう言った意味がありましたの」

「に、西折様! 先程は知らずとはいえ、大変失礼をしてしまい申し訳ありません!」

「いえいえ湾内さん。私の方が悪いですよ。
 それに知られていては心理的作用がありませんから、知らないのは当然です。

 それより皆さん、お疲れさまでした。
 せっかくなので今日はこれから一日中、自由時間にしましょう。
 歩いて20分の所に丁度良い大きさの川がありますから、お昼もそこで
 バーベキューなどをしたりして遊び楽しみましょうか。
 もちろん、佐天さん、白井さん、黒妻さんも一緒に」

「いいな、それ!」

「さすが信乃さん、わかってるー!」

久しぶりの休みを貰えた事で大喜びする佐天と黒妻。

「わたくし、野外で食べるお食事は、水着撮影会以来ですわ!」

「水着撮影会は本当には屋内でしたし、本当の意味で外での食事ですわね。
 楽しみですわ」

お嬢様では中々経験できないことに、心躍らせる湾内と泡浮。

「では、自由時間を楽しんでください。
 滝流さん、紗和琥さん、料理の準備をお願いします。
 
 宗像さんは別で私に着いてきてもらえますか?」

「「はい、畏まりました」」

「構わないよ」

これにてA・Tの試験完了。全員合格で幕を閉じた。



つづく
 
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