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賭鬼

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第六章


第六章

「どんどんな」
「さあさあ」
「それじゃあ」
 彼等の言葉をうけてふるいを揺らす。そして畳の上にそれを置いた。皆それを見てそれぞれ言う。
「丁!」
「半!」
 どっちかだと言うのだ。場が否応に熱くなってきた。
 そしてその中で。熊さんが留蔵に問うてきた。
「じゃあよ、留さん」
「ああ」
「どっちだい?」
 こう彼に問うのである。
「丁かい?それとも半かい?」
「ああ、ここはな」
 胡坐をかきにやりと笑っての言葉だった。
「丁だ」
「丁かい」
「まずはこれで一勝だ」
 自信に満ちた言葉だった。
「まずはな」
「おっと、そう上手くいくかい?」
「いや、これは留さんに乗ろうかな」
 重さんと熊さんがそんな留蔵を茶化して言ってきた。
「まあいいさ。じゃあ見せてもらうぜ」
「留さんのそのツキってやつをさ」
「おうよ。もうツキがついてっから怖いものなしよ」
 いつものついている時の留蔵になっていた。
「鬼がよ」
「鬼!?」
「博打の鬼にでもなったのかい?」
 これは重さんにも熊さんにもわからない言葉だった。
「何だい?そりゃ」
「また凄いものなったねえ、留さんも」
「ああ、こっちのことさ」
 こう返してこのことにはあえて答えなかった。あの話をするとどうもおかしなことになると読んでいたからだ。
「何でもねえさ。気にしないでくれよ」
「ああ、わかったよ」
「じゃあこっちも賭けるか」
「丁だ」
 留蔵は自信に満ちた声でまた言った。
「絶対に丁だ。見ておきな」
「よしっ」
 ここでふるいが上げられた。そこにあったのは。
「丁!!」
「ほらな」
 留蔵はそのさいころを確かめてからニヤリと笑って熊さんと重さんに対して言った。
「俺の言う通りだったろ。今日はこれから巻き返しだぜ」
「いやいや、留さんにツキが戻ったみたいだね」
「じゃあこっちもそれに乗らせてもらうとするかね」
 重さんも熊さんも笑って留蔵を見て言う。留蔵もそんな二人の言葉を聞いて笑うと共に心の中でやっと来てくれた鬼達に対して感謝するのだった。
 鬼というものは何でもいるものである。そしてそれが何をもたらすのかはその鬼それぞれだ。時にはこうした鬼もいる。鬼といっても禍をもたらすものばかりではないということである。


賭鬼   完


                 2009・11・2
 
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