SAO~刹那の幻影~
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第一話
前書き
書き直し第一話
「――と、この線がここで……よし。これでいけるはず……」
少年は左手の分厚い説明書をばたんと閉じ、業者に頼んで以来いじるどころか見たことさえなかった、回線やら何やらが密集する机の裏から脱出した。
「ったく、なんだってこんなに時間かかるんだよ……」
たしか、普段より早めの昼食を終えてからすぐこのコードとホコリの国へ入国したはずなので、おおよそ一時間かかったことになる。ちょっと線を差し替えるだけだというのに、情けない。
はあ、とため息をつきながら、俺、坂柿悠斗は、こうなった原因であり目的である、机に置かれた長方形のVRMMORPGゲームソフト、《ソードアート・オンライン》をそっと手に取った。
ナーヴギアという、半年前に発売されたゲームハードで動くこれは、そのタイトルの通り剣を主とした世界で、剣技という、いわゆる必殺技が無数に存在している。しかし、その代償なのか魔法という要素はばっさりカットされており、他のRPGでは魔法を多用していた悠斗にとっては少々不満だったが、ナーヴギアの、VRMMORPG、ソードアート・オンラインのVRという部分が、それを補って余りあるほど悠斗の心を躍らせた。
ナーヴギアの作り出す仮想現実、それは今までのゲームの常識を超えたものだった。インターフェースであるヘッドギアを装着して、一言「リンク・スタート」と唱えれば、もうそこは現実ではない、創られた世界へと変わるのだ。その超体験に歓喜した者は多いだろう。悠斗もその一人だった。
ゆえにもちろん、そのベータテストには応募したのだが、一緒に応募した友人共々、みごとに落選した。
まあ、定員千人の枠に十万人もの応募があったというのだから、当然といえば当然なのだが――
「それも今ではいい思い出、か……」
なんていう口から飛び出たキザな台詞に苦笑いしながら、悠斗は手の上の貴重な長方形を、若干へっぴり腰になりながらナーヴギア本体のスロットに差し込むことに成功した。カチッと歯切れのいい音とともに、インジケータのLEDが点滅を始める。
ベータテストの件はともかく、これを手に入れられたのは本当に幸運だった。
後に聞いたニュースでは三日も前から徹夜の行列ができていたらしいが、残念ながら当時その類の情報を全く入手できず、ましてやゲームを買うのに徹夜するなんていう習慣が全くなかった悠斗は、朝一番なら買えるだろうという甘い考えの下、発売日まで特に何の行動も起こさず、いつも通りの日常を送ってしまった。
そして当日、案の定《ソードアート・オンライン》を手にすることができなかった悠斗は、今日一日、人生初のヤケ酒、もといヤケジュースに溺れることを心に決め、帰り道のコンビニでお気に入りの炭酸飲料を買い込んで帰宅した。
そして昼過ぎ。腹の具合に苦しみながら三本目のペットボトルを空にした時、ぴんぽーんと届いたのだ。いつかに出した週刊誌の懸賞が。
例の友人の方は残念ながら幸運に恵まれなかったようだが、所詮初回ロットではあるし、彼は悠斗とは比較にならないほどのゲーム好きだということも考えれば、そう遠くないうちに一緒にプレイすることもできるだろう。むしろこれくらいのハンデがあってちょうどいいというものだ。
と、そんなことを思い返している間にナーヴギアが仮想世界に行く最後の仕上げをしてくれたようで、ごく単純な電子音を鳴らし、せわしなく点滅を繰り返していた光が落ち着いた一粒の灯りへと変わった。これで後はサービス開始の午後一時にコマンドを唱えるだけだ。
回線やらがうまくいってくれたことに安堵のため息を漏らしながら、悠斗は今時珍しいアナログの目覚まし時計に目をやった。するといつの間にそんなに時間がたっていたのか、その針は、一時になるまさに手前、零時五十九分を指して刻一刻と進んでいた。
「……ッ!いつのまに……」
内心で舌打ちをしつつ、悠斗はナーヴギアの説明書にある通り、ゆったりとした服装、そこらにたたんであったジャージに全速力で着替え、ヘッドギアを被り、ベッドに寝転がった。
息まで切らしながらそこまでを終えて、最速スタートダッシュはできなかったなと、再びアナログ時計に首を向けると……
――俺の時間間隔はどうかしてしまったんだろうか。
秒を刻む針は先ほどの位置からわずかしか進んでいなかった。
ともかく、これでまだ最速スタートの可能性は残されたわけであるから、そこのところはまあ、よかったということなのだろう。
悠斗は、頭の中のもやもやをそうなだめると、一時まで後三秒という時計から目を離し、閉じた。
途端に押し寄せてくる雑念を押しのけ、脳内のカウントがゼロになった瞬間、俺は口を開いた。
「リンク・スタート!」
後書き
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