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クズノハ提督録

作者:KUJO
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クズノハ提督邂逅


葛葉提督が着任して一週間程がたったある日。葛葉は提督服に身を包み鎮守府周辺を散歩していた。
「たまにはゆっくり散歩するのも悪くないな」
桜の花も散り深緑の葉が主だって見え始める並木道。昼食後の眠気を誘う心地よい暖かさの中、葛葉は一人呟いた。
因みに雷電の二人は鎮守府で昼寝中である。葛葉曰く寝る子は育つとのことで、起こさぬ様に出掛けたのだそう。それでもつい独り言を言ってしまうのは彼の癖であろう。


暫く鎮守府付近の散策を楽しんだ後、葛葉は午後の仕事を片付けるべく帰路に着いた。
「ん?誰かいるな」
葛葉が正面玄関近くまで戻ってきた時、鎮守府の玄関を見つめる姿があった。
澄んだ青い瞳、眩し過ぎぬ程に輝く白銀の髪、遠目でもはっきりと分かる程に白い肌、と異国情緒溢れる頭に黒の帽子をかぶったセーラー服の少女が佇んでいた。
「えーと、どこの国の人だろ……英語くらいしか話せないんだが」
葛葉が戸惑いながらも様子を見ていると、彼に気付いた銀髪少女が近寄ってきた。
「その服、ここの司令官かい?」
少女は服を一瞥した後、冷静な表情で葛葉の顔を見上げ尋ねた。
「日本語通じるのね……いかにも。俺が一週間程前にここへ着任した葛葉だ」
葛葉は威厳を見せようと堂々と名乗った。逆に少々偉そうに見える程に。
「そうか……あの二人は元気でやっているか?」
葛葉はあの二人と言われ即座に鎮守府で健やかに昼寝中の二人に思い当たった。それと同時に、目の前にいる銀髪の少女が、背丈やセーラー服もあの二人と同じであること、艦娘という存在であることに気付いた。
「あいつらなら元気すぎる程に元気だ。もしかして二人の姉妹かい?」
「そんなところさ……それじゃ、私はこの辺で」
少女は黒いスカートの裾と陽の光を返して輝く白銀色の長髪を翻し、葛葉に背を向けて歩き始めた。



ーーдо свидания(また会おう)







銀髪の艦娘との邂逅の翌日、葛葉は大学の教室にて机に突っ伏していた。
「なあ葛葉、知ってるかい?」
いつもは葛葉が声をかけるまで自分からは話題を提供しない芝田が珍しく葛葉に問いかけた。
「多分知らん」
葛葉は半分寝ぼけ眼で適当に返した。
「ちゃんと聞きなって。ロシアのウラジオストクって知ってるかい?」
「聞いたことはあるが場所は知らない」
「だいたい日本海を挟んだ対岸って思ってくれればいいよ。それで、そこのカラムジナ島って島の岸に”Верный(ヴェールヌイ)”……今は”Декабрист(デカブリスト)”だっけ?っていう名前の駆逐艦が沈んで眠ってたんだけど……」
芝田は少し間を置いて、葛葉に詰め寄り声を潜めて確実に聞き取れるようゆっくり言った。
「それが突如消えたんだよ」
「は、消えた?」
「うん。持ち出された形跡も残った部品も、目撃者もなく」
駆逐艦といえど全長100m、重量は1000t以上の巨大な建造物。そんなものを目撃者も跡形も無く運び出すことなど不可能である。
「だからさ、もしかしたら艦娘になったりしたんじゃないか……って僕は思ってるのよ」
芝田はメガネを不敵に光らせ、声を潜めて周りに聞こえぬ様に意見を述べた。艦娘関係のことは関係者以外他言無用なのである。
「もしかしたら深海棲艦になったとか……って噂もあるな」
そこに少々低い女声がかけられた。
「うわっ! びっくりしたなぁ……」
「脅かすなよ安藤」
安藤は腰を抜かしたメガネを尻目に小声で話を続けた。
「”Верный(ヴェールヌイ)”以外にも、かの有名な長門型戦艦の長門(ながと)陸奥(むつ)も行方をくらましたとのことだ」
「戦艦まで!?」
「それは知らなかったなぁ……」
「もしあの二隻が深海棲艦になどなろうものなら……」
安藤は深刻な表情で言葉を打ち切った。
「意外と大変なことが起こってるのな」
「マスコミには黙っていて貰っている様だが……いつまで持つことか」
「そもそも本人達に帰る気があるかどうかだろ」
三人を囲む空気が少し暗くなったところで授業の開始を知らせる鐘が鳴った。





午前の授業が終わり、昼休みに入った。三人は大学内の食堂の隅で話をしつつ昼食を取ることにした。
「ヴェールヌイ……だっけ? どうしてロシアの艦が消えたんだ?」
「”Верный(ヴェールヌイ)”は元々日本の軍艦だ。戦争で負けて賠償艦として引き渡された際に改名したんだ」
安藤はうどんを冷ましながら簡潔に答えた。
「ねぇ安藤。どうして”Декабрист(デカブリスト)”じゃなくて”Верный(ヴェールヌイ)”って呼ぶの?」
芝田が何気無く質問した。
「何だそのデカなんちゃらって?」
「”Верный(ヴェールヌイ)”はその後”Декабрист(デカブリスト)”って改名されて練習艦になったんだよ」
「あの瞬間彼女は駆逐艦としての艦生を終えた、と私は思っている」
「駆逐艦……ねぇ」
芝田は少々呆れた目で安藤を見つつスパゲッティを頬張った。
話を聞き続けた葛葉も後に続く様にラーメンをすすり始めた。
「ところで葛葉、資材はどうなったんだ?」
葛葉は一瞬、何の事か分からないという様な顔をしたがすぐに思い出したとばかりに答えた。
「ああ、ちゃんと問い合わせた。建造や開発の記録とかも出したし……今は返事待ちかな」
「そっか。良い返事が来るといいが……」
「何、その意味深な言い方! ねぇ!?」
葛葉の不安をよそに芝田と安藤は食事に集中することにした。





授業が終わり、葛葉はいつも通りと言った具合に鎮守府へ向かった。彼の通う大学から鎮守府までの距離は決して近いとは言えないが、交通費は経費で全額負担される為、片道2時間という点以外の問題は無い。
陽も傾き、西の空がほんのり赤くなるまでもう間も無くという頃、葛葉は彼の職場への道を歩いていた。
「……またいる」
歩く葛葉の視線の先には、先日と同じ場所にて同じ格好で同じ様に正面玄関を見上げる白銀色の後ろ姿があった。
「ん? あぁ……おかえり」
少女は葛葉に気付くと僅かに微笑みながら声をかけた。
「ただいま。何か用か?」
葛葉は、この銀髪少女の二日連続の訪問に何か目的があるのではと疑った。
「いや、特に。ただ雷と電の元気そうな姿が見れたらな、と思っただけだよ。それじゃ」
「え、じゃあ」
会って行けよ、と声をかける前に少女は立ち去ってしまった。
「……次は会わせてやるか」





「あ、おかえりなさい司令官!」
「なのです!」
鎮守府の扉を開け、中へ入ると雷と電が待ち伏せしていたかのように立っていた。
「ああ、ただいま。ところで、お前達に一つ聞きたいことがあるんだが」
そう言って葛葉は昼間に芝田達から聞いた事を話した。
「べーるぬい? 残念だけど……私は知らないわ」
「私も知らないのです……そもそも私達は沈んでからの記憶が無いので賠償艦については何も知らないのです」
二人は申し訳なさそうな顔を浮かべ、小さい体を更に小さくした。
「いやいやそこまで気にすることはない……じゃあ長門型戦艦の二隻については知っているか?」
葛葉はしゃがみ込み、二人に目線を合わせて問いかけた。
「長門さんと陸奥さんね!」
「勿論知ってるのです。ただ……陸奥さんは兎も角ですが、長門さんはどうなったのか私達は知らないのです」
戦艦陸奥は1943年の6月、雷が沈む約一年前に謎の大爆発で沈んでいるが、戦艦長門は終戦まで生き残った。彼女達が長門についてどうなったのかを知らないのも無理はない。
「ああ、長門は終戦まで生き残ったらしいな。安藤から聞いた」
葛葉の言葉を聞き、二人の表情が明るくなった。
「やっぱり流石長門さんね!」
「なのです!」
「ただ、安藤が終始少しだけ暗そうな顔をしていたってのが気になるな……」
葛葉が黙り出した為、雷と電も口を閉じてしまう。鎮守府が沈黙に包まれ、雰囲気もどことなく暗くなってきた頃、葛葉はこれではいけないとばかりに明るく声を上げた。
「ま、まぁ! 俺らには関係ないことだから、俺らが暗くなる必要も無いさ! な?」
「そ、そうね!」
「今日も平和にお勤めなのです」
三人は気を取り直して執務室へ歩き出した。
「なぁ、ところでさ。お前らの姉妹で髪が銀色の艦娘って」
(ひびき)!」
「え?」
「暁型駆逐艦二番艦の(ひびき)。進水や就役は私達の方が早いですが、私達の二人のお姉さんです」
雷と電は葛葉の周りを跳ね回りながら、その名を何度も呟き懐かしんだ。
「会いたいわね!」
「また会いたいのです」
葛葉はその様子を見て、少し考えた後二人に囁いた。
「……明日のこの時間くらいに鎮守府の玄関を開けてみな」
「「え?」」
二人は頭の上に?マークを浮かべた様な顔で、執務室へ向かう葛葉を見送った。
 
 

 
後書き

どうもKUJOです。
……前回の後書きでなるべく一週間に近付ける、とか言っておりましたが……大変申し訳ありません。
様々な予定が重なり合い、とても期限を遅れてしまいました……。
情けない限りです。(そして一週間を大きくどころの騒ぎじゃないくらいにオーバーしながらもこの程度の出来……orz)

次からはもっと早くかける様に努力していきます。

そんないい加減な私ですが、それでも愛想を尽かさずにいてくださる方は……今後ともどうかよろしくお願いします。

それではご機嫌よろしゅう。 
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