| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

少年と女神の物語

作者:biwanosin
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第九十八話

 派手さを求めて聖槍(ロンギヌス)を使わずに脱出した結果、兄妹(姉弟)が全員集合していた。

「武双、それにナーシャも。大丈夫ですか?」
「ああ、二人とも無事だよ。ナーシャも方は記憶も戻ったしな」
「そうなの?よかったね、ナーシャちゃん!」

 立夏がそう言いながら跳びつくと、それにつられて何人かもナーシャの方へ行こうとしたが・・・立夏と氷柱の飛翔の術で宙に浮いているため、自由に動けないようだ。
 まあ、俺も俺で自由には動けないんだけど。ナーシャの飛翔の術で飛べてるわけだし。
 そう考えながら舞台袖の大役者を使って羽をはやし、呪力を高めることで飛翔を断ち切ってから・・・全員を、海の上に立てるようにする。

「戻ったか、神殺しよ」
「ああ。ナーシャも返してもらったしな。後は・・・お前を殺すだけだ、堕ちた太陽神」
「ほう・・・オレの歴史を知ったか」

 俺達の会話に対してナーシャ以外が驚いたような顔をするが、手で合図をしていつでも動き出せるように準備を始めてもらう。
 ザババの双剣も、もう二人に渡してある。

 後は・・・少し、準備する時間を稼がないとか。

「お前は名前からも推測できるように、元々は太陽神だった」

 口を動かし、相手の来歴を語りながら・・・自分の奥へと意識を伸ばしていく。

「しかし、時代の流れとともに民の都合で神話は書き換えられ、一部の神はそのたびに没落していく。元は天にある太陽神だったお前は、その被害を最も受けた神だ」
「いかにも。オレがこの海で眠り、国生みの神具で起こされるまでの間に、オレと言う神は全く違うものへと変化していた」

 なるほど、こいつが眼を覚ましたのはアレクのせいなのか。
 それにしても、ここで眠っていた、か・・・まるで最後の王だな。

 そう考えながらも奥へ奥へと意識の手を伸ばしながら、同時に精神の手を家族へと伸ばしていく。
 何にしても、まだ時間が足りない。
 この神相手なら、語りで時間が稼げそうだな。

「まずは、一般的なお前について語っていこうか。棄てられた神」
「ハッハッハ!まさか、我の最も嫌う姿を真っ先に語ってくるとはな!」

 皆、俺の一言でもう分かっただろうな、この神の正体。

「お前と言う神の最も新しい姿は、ある一つの風習を民へと知らしめるための存在だ。それは・・・女性から先に声をかけること」

 何を、はさすがに略させてもらった。
 いや、さすがに分かってくれるだろ。

「それ故に不具の子が生まれ、続けて産んだ子も・・・イザナギ、イザナミの二神が生んだ子である淡嶋もまた、名の通り不具の子であった」

 淡嶋。その意味は、泡のような島。さらには、吾恥じにも由来する、国土としては不適当な島だ。
 だからこそ、あの二神はこの二つを捨てた。
 第一子は船に乗せて流し、捨て去ることでその歴史を消し去ろうとした。
 さらには、禍々しい動物の名を与えることでその存在を貶めた。読みはそのままに、ただ貶めることだけをした。
 おかげでその正体を探るのは少し楽になってるんだけど。

「さらには、不見(みず)の名まで与えることで、必死に目を逸らさせることを追い求めた。・・・そこを新たな神話の。正しい神話の始まりであることを、民に知らしめるために!」

 さあ、準備は整った。
 意識の奥底へ手が届き、そこにあった物を掴みとる事が出来た。

 新たに権能を掌握した感覚ではない。
 元々持っていた権能の掌握が進んだ感覚。
 ずっと一緒にいるのに全然掌握が進んでいなかった権能が、また掌握が進んだ。
 おそらく、まだ完全ではないのだろう。この権能が、あいつから簒奪した権能がこの程度ではないはずだ。
 そうだろう?・・・ゼウス。

「我は全ての王、全ての民の父である。今ここに我は我が友、我が民、我が親族へ我が加護を授ける」

 ここまでは静かに唱え、同時に精神の手を家族に触れさせ、その中まで伸ばす。
 一番奥底に触れて、直接通すための道を完成させて・・・

「さあ、皆の衆!開戦の時だ!」

 俺の加護を、全員に流し込む。

 ゼウスの雷の持つ属性は、破壊、鋼、恵みの三つ。
 このうちの恵みの属性が、こうして現れたんだな。

「剣を持て、槍を構えよ、術を唱えよ!我らの共通の敵を、今こそ討ち取るぞ!」

 最後まで唱えきった瞬間に、俺を中心に全員をつなぐ回路(パス)が一瞬見えるようになる。
 全員に流れ込む、雷として。

 そして、全員の衣装も変化した。

 林姉は、脚を使うためか深くスリットの入ったチャイナドレスに。
 崎姉は、部分的に鎧を纏ってケープを肩にかけ、サーベルを構える。
 リズ姉は、白で統一された魔術師らしき衣装を。
 アテは、前にアテナが着ていたような薄く、白い服を。
 マリーは、まさに格闘家、という服装に両手に保護のためのアーマーらしきものをつけている。
 立夏は、なぜか魔法少女と魔女を合わせて二で割ったような格好を。
 切歌と調は、イガリマとシュルシャガナを纏い、少しデザインが変わっている。色も、剣の色がメインだったものが白メインになっている。
 氷柱は、十二単を着て手に神楽鈴を持っている。
 ナーシャは、古代インドの王族の衣装を着て、腕の一部に鱗が生え、王冠をかぶっている。
 ビアンカは、白ゴス、だったか?幸運のビアンカには似合う恰好をしている。
 桜は、呪術師の格好をして手に小さな壷・・・蟲壷をもっている。
 狐鳥は、狐面をつけ白装束・・・生贄のような服を着ている。

 さて、これで準備は整った。

「さあ、殺し合いを始めようか。・・・ヒルコ!」

 開戦だ!
 家族へ手を出したものを、ぶっ殺す!
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧