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ローゼンメイデン〜エントロースライゼ〜

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第二話〜オクリモノ〜

 
前書き
続けて読んでくださる方。本当にありがとうございます。では続きをどうぞ。 

 
第二話〜オクリモノ〜


僕の左手の薬指に指輪が嵌まる。またさっきみたいに光るかと思って、僕は目をギュッとつむった。だがそんなことはなく、僕はゆっくりと目を開けた。

「やっぱり何も起きない。」

あんな話を真面目に聞いたのがいけなかったのかな、と落胆したその時。

指輪が光った。

でもさっきのとは違い、その光りからは激しさよりも優しさを感じた。そして光りが僕の目の前で形を成していった。それは、僕の一番会いたい人だった。

「めぐ、、、?」

彼女のように見えたその影を見ようとしたが、僕のまぶたが何故か重たくなり、激しい眠気に襲われた。おかしいと薄れゆく意識の中で感じた。今の時間はまだ三時だ。いくらなんでも早過ぎる。生まれた疑問はいきなりやってきた睡魔にかき消された。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



僕たちは家に着いた。水銀燈が待ちきれなかったようにバスケットから出る。やっぱり、無理してたようだ。リビングから翠星石たちの話す声が聞こえる。しかしすぐ後に聞き覚えのある甲高い声が聞こえてきた。

「あー‼︎ジュンが帰って来たのー!」

あれ?雛苺も居るのか?僕はリビングのドアを開ける。案の定、雛苺はいた。そして私服姿の柏葉も一緒にいた。当たり前か、雛苺は彼女の所に居るのだから。
真紅の願いは誰も一人にならないこと。僕はドールズ達が孤独にならないよう、それぞれのマスターに預けた。水銀燈は僕が引き取り、金糸雀と雛苺は変わらずみっちゃんと柏葉の所に。蒼星石は一葉さんについていくかと思ったが、翠星石が僕の所に住むのを聞いて僕の家にいる。そして雪羅綺晶は、まかなかった僕の所へ。あいつも色々忙しいみたいで、劇団のことだったり、バイトのことだったり、でも雪羅綺晶のおかげでだいぶ気持ちも楽になってるようだ。
雛苺が一目散に僕に飛びかかってきた。僕はしっかりとキャッチ、アンド、リリース。そんな様子を微笑みながら眺める柏葉があいさつをする。

「こんにちは、お邪魔してます。」

「ん、部活休みか?」

「今日はミーティングだけだったの、大会が近いから。」

「そっか。ま、ゆっくりしてけよ。」

無言で頷く柏葉。僕はお茶を用意する。嫌という程、淹れ方を教わった紅茶だ。慣れた手つきですぐさま淹れる。

「はいよ。」

「ありがとう。」

柏葉をソファに座らせる。雛苺が柏葉の膝の上に乗る。雛苺も満足そうだ。しばらく沈黙の空気が流れたが、それを破ったのは柏葉だった。

「上手く、、、いってるの?」

最初は何のことかと思った。でも、学校のことだったらいつも見ているから知ってるだろうし、となると真紅の事だろうか?

「真紅のことか?」

そう聞くと、申し訳なさそうにコクッ、と頷いた。聞かないように気を使ってくれたのだろう。だが気になる気持ちがあったのか我慢出来ずに聞いたというところか。

「正直言って、全然ダメさ。アフリカに行って鉱石を掘っても、ミスティカの元になるものはわからない。」

「そう、、、。」

柏葉は残念そうに俯いた。膝の上の雛苺も僕たちのそんな空気を感じてかいつもの笑顔が消えている。

「でも今度、ヨーロッパに行こうと思ってるんだ。」

「ヨーロッパ?」

いきなり出てきた異国の名に首を傾げる柏葉。

「ヨーロッパはローゼンの故郷らしいから彼の痕跡が何かしら残ってるかもしれないと思ってさ。」

「、、、いつ行くの?」

「連休とかがあれば。」


僕は自分の考えていることを素直に話していった。柏葉は親が帰ってくるからと少し話を聞いて、帰ってしまった。雛苺も親がいると家に隠すのも大変だといっていたので今日はウチに泊まらせていくことにした。

「バイバイ、トモエ。」

「うん、また明日。いい子にね。」

「うぃ!ジュンのお邪魔はしないのよー!」

柏葉が丁寧にお辞儀をして帰っていく。しっかりと見送った後、リビングへ戻る。これでウチにいるドールは4体になった。

「またずいぶんと賑やかになったな。」

並ぶドール達を見てそう言った。

「いつもとあんまり変わらないですよ。」

「そうかな?ま、いいや。賑やかな方が楽しいしな。さ、姉ちゃんが帰って来るまでにやることやっとこうか。」

「雛も手伝うー!」

「い、いいけど。あんまり無理するなよ?お前の性で一回、ウチの洗濯機ダメにしたんだから、、、。」

「だ、大丈夫なの!雛は同じあやまちは2度と繰り返さないのー!」

「何処で覚えたそんな言葉、、、」

今日もウチはうるさくなりそうだ。





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「ここは、、、どこだ?」

目が覚めたのは真っ白な空間。僕は立っているわけでも座っているわけでもなく、その空間にいた。浮かんでいるというのが一番近い表現かもしれない。まだ自分に何が起きたか正確に把握はしていないが、夢のような気がする。しばらくして、さっき見た光がまた現れ同じように形を作っていった。それはやはり。

「めぐ、、、、、、!」

それは柿崎めぐそのものだった。彼女になった光から声が聞こえた。聞こえたというよりは頭に直接声が届いているような感じだ。

「シオン、、、。」

紛れもない自分の名前。疑問を投げかける。

「!、、、本当にめぐかい?」

めぐはゆっくりと、だが確実に頷いた。僕の心になんとも言えない感情が湧いてくる。悲しみであり、嬉しさであり。気づけば涙を流していた。めぐの優しい声がまた頭に響く。

「シオン、ごめんなさい。約束、私が破ったわね。あんなに貴方に言ったのに。」

「めぐ、、、、、、。」

「本当にごめんなさい。そして、ありがとう。こんな私を見ていてくれて。」

めぐは今まで溜め込んでいたのか自分の気持ちを躊躇いもなく吐き出してきた。僕も言いたいことを言った。

「めぐ、君は今どうなっているんだい?それにあの、、、」

「水銀燈?」

「え?」

今まさに口にしようとしていた単語を言い当てられ、不思議と声が出てしまった。なぜわかったのだろう。

「ごめんなさい。ここは貴方の夢の中なの、つまり貴方の心に直接繋がっているから、どうしても貴方の考えが分かってしまうの。水銀燈に会ったのね、色々分からないことがあるでしょう。」

僕はうまく納得出来ないが、めぐの口調から本当のことなのだと無理矢理に自分を納得させ、めぐの問いかけに頷いた。

「ええ、そうでしょう。余りにもあの子の背負ってきたものは大き過ぎる。全てを言葉にするのは難しいわ。だから、私の記憶として、貴方にあの子の事を分かってもらいたい。」

背負ってきたもの?あのスイギントウという人形が何か重い経験をしてきたのだろうか。確かに何か不思議な貫禄のようなものは感じたけど。

「ただ、これだけは言っておきたいの。どうかあの子を責めないで。これから貴方が見るものがどんなものであれ、あの子を決して咎めないでほしい。」

「待ってくれ、めぐ。見るってどうゆうことだい?それに君とスイギントウの関係って?」

「全ては私の中に、、、」

めぐがその言葉を発した瞬間、僕は電撃を受けたような感じになった。頭の何かが流れ込んでくるような感覚。そこにはめぐとあの人形、スイギントウとの出会いの場面やいつもの会話、所々に桜田君も出てきた。二人の日々、スイギントウの闘いの記憶、『アリスゲーム』、彼女の姉妹達、そして、僕は一番見たくないものを見てしまった。

水銀燈ッ!

誰かの叫び、黒い大きな翼のようなものを振りかざすスイギントウ、それに突き刺されている、めぐ。


彼女達の関係は、見た記憶から知っていたが、それでも疑問とこみ上げてくる怒りは溢れ出た。なぜ?どうして?あんなに分かりあっていたのに。なぜ自分に会った時言ってくれなかった?いや、ホントは分かっている。認めたくないだけなのだ。また、僕の頬を涙が通った。再びめぐが語りかけた。

「水銀燈は、今貴方や私、そして彼女の妹への失意の念で心がいっぱいのはず。お願い、水銀燈の側にいてあげて。」

「、、、、、、。」

まだ、全てを受け入れたわけではないけど、めぐの水銀燈への思いは強く受け取った。水銀燈がどれだけ辛かったのかも分かっている。だから、僕は。

「うん、分かったよ。水銀燈も縛られてるんだね。」

「ありがとう、紫苑。」

そして、めぐの体を作っていた光が外側からハラハラと分かれていく。直感的に感じた。めぐはもう消えてしまう、やはり別れは避けられないのだろうか。早く、言いたいことを言わなくちゃ。

「めぐ!」

精一杯、彼女の名前を呼んだ。僕の考えは全部分かっていると言っていた。だから言わなくてもいいのかもしれない。それでも、言葉で伝えたい。伝えなきゃいけない。

「僕も連れて行ってくれ。」

めぐは満面の笑顔を見せてくれた。そして光がバラバラになっていく。めぐの姿が消えてしまうその時、聞こえた。

「また会えるわ、必ずね。」




ーーーーーーーーーーーーーーーー



「めぐッ!」

上半身を勢い良く起こした。周りは僕の家のリビングだ。あのリアルな夢から覚めたのだ。時間は少し進んで4時ごろ、あれは本当の出来事だったのか。指を見ると指輪はまだ嵌っていた。たとえ今のが嘘でもホントでも、確認することがある。僕の中に一つの目的が生まれていた。

(水銀燈。めぐから贈り物、になるのかな。)

水銀燈に会わなければ、彼女も僕にあまり会いたくはないだろうが、それでも放ってはおけない。なによりそれがめぐの望みだ。僕は彼女へ向けたつもりで左手の指輪に祈った。

(めぐ、僕を、いや僕達をどうか見守っててくれ。今は静かに君を見送ろう。)

指輪が少し光った気がしたが、特に気には留めなかった。めぐはもう、いつでも心にいるのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーー




暗い空間の中、紫苑のその様子が映画のワンシーンのように切り取って映っている。また、先程のジュンの様子も同様に。ここはnのフィールド。何処でもないし何処でもある。そしていきなりスポットライトが役者を映すように光る。奥から何者かが姿を現した。すらっとした体と細長い手足、黒いシルクハットを被り燕尾服に身を包んでいる。はたから見れば紳士的な格好だが、一つおかしいのは頭が兎、と言うところだ。兎は正面を向いて、こちらに向かいお辞儀をする。

「お久し振りでございます。お忘れの方もおいでかもしれないので一応、自己紹介を。私はラプラスの魔、でございます。はてさて、薔薇乙女達の物語、まだまだ終わりはしませんよ。彼女達が朽ちることのない限り。」

ラプラスの魔は水晶のような光を二つ出し、目の前に浮かべた。そこにはジュンと紫苑が映っている。

「2人の少年と青年の運命、これが今、重なろうとしています。しかしまだ、噛み合うまでの段階。物語の始まりに過ぎない。どうなることやら。ふふふふふ。」

ラプラスの魔はシルクハットを手に取り、軽く一礼するとぴょんっと何処かへ跳ねた。声だけがこだまする。

「あまり兎ごときが話すだけと言うのも退屈でしょう。ここらで失礼させていただきます。でも、一つだけ、歯車は一つでは回れないのです。それでは、また何処かで。」
 
 

 
後書き
読んでくださった方、本当にありがとうございます。 
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