少年と女神の物語
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第九十六話
「・・・あれが、そうなんですよね?」
私たちは、武双の白坊主から伝えられた情報で海に集まり、ドームと武双が戦っているのを浜辺から見ていた。
と言っても、見れているのは私や狐鳥の様な人間ですらないと言って過言でない側と(私は正真正銘人間ではありませんが)、立夏や氷柱の様な視界を飛ばせる側だけですけど。
「・・・どうですか?何か視えました?」
「・・・うん、視えたよ。正体は見えてないけど。にしても・・・ソウ兄、厄介な神様と当たったなぁ。氷柱ちゃんは?」
「うん、私も同じ。確かに・・・面倒そうな神様ね」
そして、二人は視えた情報を伝えてくれます。
「日輪を纏う鋼」
「大海より来る蛇」
・・・ん?
「・・・リッちゃん、今鋼の神様って言った?」
「うん、言ったけど・・・氷柱ちゃんは?何が見えた?」
「間違いなく、蛇の神様だったけど・・・」
あり得ない、真っ先にそう思った。
でも、考えてみれば・・・
「・・・ねえ、それってその神様そのもの?それとも、その神様の歴史とか?」
そう、その可能性がある。
さすがは御崎姉さん、すぐにそこに行きついてくれた。
「・・・私は、あの神様そのものとして視えた」
「ごめんなさい、御崎姉様。実は私も・・・」
少し考えながら答える立夏に、申し訳なさそうに言う氷柱。
ということは、あの神様は英雄の属性を持つ鋼であり、同時に英雄に倒される蛇の神でもあるということ。
本来あり得ない二つが重なった。そして、そんな神を相手に戦っている武双。
なんともまあ・・・敵が巨大すぎますよ。
「・・・間違いなく、あの神は最源流に属する鋼の神です」
「分かるの、アテお姉様?」
「うん。私も、大地に属する蛇の女神だから」
とはいえ、その属性は微々たるものもいいところですけど。
それに対して、あの神は女神では・・・母神ではないけれど、蛇に属しているらしい神。
滅ぼされる蛇でありながら滅ぼす英雄。
それだけの属性を得るのは、現代に近ければ近いほど不可能になっていく。
なら・・・あれは、そうなるよりも古くから存在する神。最源流の鋼でもないとあり得ませんから。
さて、それにしても・・・
「・・・どれだけ、高位配合種なんでしょうか・・・」
「少なくとも、蛇と鋼のハイブリット・・・いや、それだけじゃないか」
「そうデス。リッカが視た、日輪を纏う神は太陽神」
「氷柱がみた大海より来るも、海の神様だろうし」
この時点で、既に四つ。
直接権能を使ってきたら、さらに多くの属性を持っていることが分かるはずです。
「・・・なんにしても、まず私たちがしないといけないことは決まっています」
そう言ってみる先では、ちょうど武双がもう一つのドームの中に入っていくところでした。
「ええ、そうね。・・・武双君は、今ナーシャちゃんを助け出しに行っている。この上なく無防備に、相手の神様の中に入りながらね」
次の瞬間、私たちはその場を一斉に飛び出した。手首でブレスレットが砕けましたが、そんなことは気にしないで。
飛翔、跳躍、それぞれが使える長距離移動の術を使って神の元まで飛んで・・・一番最初にたどり着いた私が、攻撃を始める。
「狂乱せよ、我が名のもとに!」
ずいぶんと久しぶりに権能を使って海を狂わせて、足場の足場としての機能を狂わせる。
そうして神の意識が私に向いた瞬間に他のみんながいっせいに攻撃して、その意識をほんの少しずれさせる。
さすがに、相手はまつろわぬ神。
そんな存在が、この場で意識を向けるとしたら・・・今、あの中にいる宿敵であるカンピオーネか、目の前にいるまつろわぬ神でしょう。
だから・・・
「英雄よ、迷妄せよ!」
私が、おもだって戦うしかない。
運よく、今戦っている神様は英雄神。そして、私は英雄を狂わせる神。
ゼウス、アガメムノンなどと同じく鋼の神が相手である以上は・・・例外なく、狂わせることができる。英雄神とはかなり相性がいいんですよね、私。
ただ・・・
「ほう・・・女神よ、キサマは中々に面白い神格を持っているようだ」
「面白い、ですか。ありがとうございます、と言っておきますね」
そう言いながら、武双が即席工場で作ってくれた槍を召喚して構えます。
「・・・その槍は、」
「行きます!」
何か言おうとしていたところを遮って、自力で海の上を走って神に向かう。
途中で色々と飛んできましたけど、それはほとんど家族が全力で逸らしてくれて、私は数回権能を使う程度で近づいていき、
「烈槍滅刃!」
武双から習った槍の術で、一撃目を入れる。
そこに狂乱の権能を乗せて確実にダメージを与えて、まだ慣れない二振り目の召喚。そして、
「滅槍烈刃!」
珍しく成功した連撃、欲張ってもう少しやろうかとも思いましたけど・・・すぐに跳んで、槍状に迫ってきた流動体をよけます。
上にいた立夏に回収してもらってから一度全員で離脱して、狂乱から立ち直ろうとしている神を見ます。
「・・・思っていたよりも早く、狂乱から抜けてきそうですね」
「うん。あの神様、英雄でありながら蛇でもあるみたいだから・・・蛇を強めて消しにかかったのかも」
「ありそうな話ですね・・・皆の方の攻撃はどうでした?」
周りを見ながら尋ねると、立夏の飛翔でここにいるメンバーは揃って首を横に振ります。
少し離れたところを見ると、氷柱の方の術で飛んでいるメンバーも同様。
「やはり、人間の攻撃は効かないですよね・・・」
「多分、あれをやればいけると思うんですけど・・・」
「狐鳥、あれを使うのは私と武双がそろっている時だけ。絶対に止めれる時か、暴走しないって確信があるときだけだよ」
狐鳥が申し訳なさそうにしているのを止めてから、頭を働かせる。
今の目的は、時間稼ぎ。武双がナーシャを助け出すまでの時間を稼ぐこと。
だったら・・・一応は、このままでも問題はない。
私たちが頑張れば、あの神の意識を全てこちらに集めることも出来る。
狂乱の権能を使えば、武双たちのことを考える時間は与えずに・・・・
「あ、アー姉あれ!」
「うん・・・どうにも、もう時間稼ぎは必要ないみたい」
小さいほうの周りに雷が集まってきていて、それが壁をすり抜けて中に入っていく。
「む・・・これは、」
「やりましたね、武双」
そして次の瞬間・・・流動体の壁が、圧倒的な破壊力を持って壊されました。
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