道を外した陰陽師
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第二十五話
あの後、さんざん聞きだされて疲れ切ってから講堂に移動した。
この学校は中等部がある関係で高等部の入学式は超がつくくらい簡易的にしか行われない。そして、中等部の入学式は既に行われているので今日は中等部高等部合同での始業式となる。
まあ、特に珍しい物はない。格部の担当者からいくつかの話をされて、校長からのありがたーいお話がある。
それらを椅子に座りながら聞かされて、疲れてきてどうでもよくなってきて寝そうになったあたりで・・・目の覚める声が、聞こえてきた。
『あ、あー。マイクテスマイクテス。どうも皆さん、初めまして。今年度から三年間この学校の在留陰陽師を務める寺西一輝。ランキングは十五位、まだ卵だ』
・・・何でしょっぱなからアイツは問題児っぷりを発揮してるんだ!?
確かにクラスメイトに対して問題児だと言ったのは私と殺女だが、それが真っ先に分かるとは思うか普通!?あと殺女は何で笑っていられるんだ!?心底楽しそうだな!
『まあ、言いたいことはいくらでもあると思う。高校二年以降からしてみれば年下に取り締まられることになるわけだからな。それに、この中に奥義を習得してるやつがいたらそいつらからしても苛立たしいよな。まあでも、今はそれを胸の内にしまっておいてくれ。その気持ちをぶつける機会はちゃんと作るから』
はぁ・・・だが、一輝の話し方はどこかうまい。
誰かが何か言おうとしたタイミングで、それを止めるように言葉を発する。
『あー、まず一つ目に。在留陰陽師の下で全体の風紀を取り締まる“拘束委員”についてだが・・・ってか、この名前もどうなんだ・・・まあ、俺がやってる間は募集はしない。理由としては、俺自身に機密事項が多すぎるからだ。本部には俺に関する資料とか普段の仕事の資料とかも置いておくことになるだろうからな』
まあ、これは必要なことだ。
さすがに、日本国第三席で滅びたはずの鬼道の生き残りという事実は、隠し通さないといけないだろう。
『ただまあ、一人でどうにかするのは辛い物があるから、全生徒が納得するであろうやつを入れることが決定している。今年度から高等部一年に入学した、席組み第九席、『金剛力』の土御門殺女だ』
その瞬間に、全体にざわめきが広がった。
入学したという事実も、今知った人間の方が多いだろう。ここまでの移動や今この瞬間も、殺女は隠行の術をかけているわけだし。
『さて、他にも俺の機密事項を知っているやつを一人雇うわけだが、そいつについては知っているやつがいないだろうから省略させてもらう。それよりも、今この場で伝えつべきことを伝えた方がいいだろうからな』
うん・・・まあ。
まだ仕事内容についてとか、何にも話してないからな。
『まず、校内での力の使用についてだ。ほんの数人になるであろう委員会の人間については、使用を全面的に許可。他の人間も、まあ荷物運びに式神を使う程度なら許可する。人を傷つけたりするのに使った時点で罰則を加える』
そこは・・・ちゃんと仕事をするのか。
何にも縛らないと言い出す可能性もあったが(その時は、全力でとめる)、まあ安心できた。
『他には、校内に侵入した野良の妖怪については、俺が全て対処する。生徒や職員は、出来る限り手を出すな。相手の妖怪がどれだけの格なのか分からないからな』
そして、仕事はしっかりとやるようだ。
妖怪程度なら、相手の格にかかわらず片手間で倒せるのだろうが。
『次に、相談等についてだが・・・まあ、陰陽師関連なら何でも聞く。妖怪関係についても時間さえもらえれば知り合いに聞いてくることも出来る』
そして、何気に面倒見が良かった。
本当に・・・一輝はよく分からない。
『とまあ・・・俺から話とかいといけないのはこんなもんかな。たまに学校に式神だけおいとく事はあるけど、まあその時は式神に言伝を預けてくれ。妖怪くらいなら、そいつに任せとけばどうにかしてくれるから』
さて、ここで終ってくれれば問題ないだろう。
まあ多少は問題があるが、それでも一輝が引き起こしたにしては・・・かなりマシなはずだ、うん。
『では最後に・・・俺に対して文句があるやつらへの通達だ。俺に対して勝負を挑ませてやる』
とはいえ、それで終ってくれないのが一輝なわけだが。
『この後・・・各クラスでのことが終わってから俺によるレクリエーションを行う。参加資格は、妖怪か陰陽師であること。もしいるんなら、異常能力者も参加していいぞ。妖怪の方はハーフまでは構わんが、それより先は駄目だ。人間の血が五割より多いならアウトだ。会場は運動場。内容は・・・俺対参加者全員によるバトルロワイヤル・・・一撃でも入れたら勝ちだ』
うっわー・・・聞いただけなら一輝が不利な内容だが、実際には一輝が負ける可能性のない内容。
あれに攻撃を当てるとか、不可能もいいところだろ・・・
『あ、それともう一個。俺に対してはどんな攻撃をぶつけても構わんが、他の参加者にはぶつけるなよ。万が一、ってこともあるからな』
まあ、うん。
あいつに対しては、奥義でも何でもぶつけて問題ないだろう。まず間違いなくダメージがほぼ皆無だ。
『・・・じゃあ、最後に。さっきも言ったが、俺のランキングは十五位。日本国内で現役の陰陽師の中で十五位ってことだ。それでも俺を倒さんとするやつがいるなら、俺に挑んで来い。・・・以上だ』
挑発的な笑みを浮かべながら、最後にそう言い残して一輝は降壇していった。
それが最後だったようで、始業式は終了。生徒はそのまま各自教室へと向かうことになった。
・・・今の陰陽師課の方針は、実力主義。
卵であれ何であれ、力あるものには相応の地位を。一輝の・・・正体不明の第三席の地位は、その象徴ともいえるものだ。
そして、それを提唱した闇口光也・・・私や一輝の後見人が今の地位に就いたのはちょうど八年前。陰陽師が卵であれ、本格的に修業を始める年齢は平均的に見て大体十歳前後なわけで・・・
「カズ君、いい感じに皆のやる気を出してきたね~」
「ああ・・・変なところで器用なやつだ」
無意識のうちのカリスマ性か、人たらしの才でもあるのか。
最後のあのセリフは、効果が大きすぎる。
「ところで・・・殺女は参加するのか?」
「ん、私?私はしないよ~。・・・カズ君には、手加減してもらわないと勝てないし」
防音の結界をかけてから、殺女はそう呟いた。
「・・・そうなのか?」
「うん。カズ君が初めて席組みの集まりに参加した日、サッキ―から下の七人対カズ君で模擬戦をやったんだけど・・・」
「・・・結果は?」
「・・・私たちの惨敗。それも、カズ君は剣術、体術、槍術・・・そういった技術だけを使って、ね」
・・・一輝が使うその辺りには、武器に呪力を纏わせるものもあったが・・・それも、強度を増す程度だったり塊をぶつける程度。
それだけで席組みを圧倒したのか・・・そろそろ、人間やめてるって評価を下してもいいと思う。
「さしがに、カズ君も無傷ってわけにはいかなかったし、何回か行けそうなときはあったんだけど、ね。結局はみんな戦闘不能にされちゃった」
「懐かしい話をしてるな、二人とも」
いつの間にか後ろにいた一輝に、もう私は驚かなくなってきていた。
あれだな、もう何を出来ても驚くに値しない。
「まあなんにしても、あの時はちょっとおかしくなってたからな・・・二つとも使わずに、なんてのはバカのやることでしかない」
「・・・二つ?」
「ああ、二つ。・・・って、雪姫は知らないんだっけか」
何のことを言っているんだ・・・?
「カズ君、最近はあれあんまり使ってないからね~」
「いや、ほんの一昨日までは移動手段として使ってたぞ?」
「移動手段・・・?あの、水に乗っていたやつか?」
それなら、見覚えがあるが・・・
「ああ、それそれ。正確には、あれだけじゃないんだけど」
「・・・あれは、水行符によるものだと考えていたんだが・・・」
「カズ君のあれは、違うよ。水行符を混ぜたわけでもないし。ユッキー見たことない?カズ君がペットボトルの中の水を操るところ?」
「・・・ああ!」
それは、心当たりがあった。
初めてあった日に、大本に乗り込むとき・・・そんな仕組みかとは思っていたが、確かにペットボトルの中の水を操っていた。
あれは、水行符によるものだとばかり考えていたが・・・
「あれ、陰陽術によるものじゃないんだよね~。カズ君、異常能力者・・・かもしれないからっ」
「・・・・・・はぁ!?」
驚きのあまり、私は大声をあげてしまった。
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