道を外した陰陽師
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第二十話
「ふぅ~・・・」
拳は長く息を吐き、重心を下に落とす。
そのまま、鍵をかけられている扉に向けて、雷を纏った拳をはなつ。
結果、固く閉ざされていた扉が砕け、力づくで入口が開かれた。
「な、何事だ!」
「襲撃!しゅうげーき!」
中では、そんな様子で一気に騒がしくなるが・・・拳はそんなこと気にもせず、威厳をもって中へとはいっていく。
「止まれ!ここが何だか、」
「すまんな。だが、止まるわけにはいかんのだ」
一人が銃を向けてきたが、拳は見もせずに雷を使って倒す。
そのまま次の部屋に入ると、そこには一つの祭壇と、何十人もの武装をした者がいた。
一人残らず、拳に敵意を向けている。
「・・・初めて会うものに言うのもはばかられる。が・・・そこをどけ」
拳の言葉は聞き入れられず、すべての銃が火を吹き、いくつもの呪札が放たれる。
彼らはその時、勝利を確信した。たとえ席組みであっても、あれだけの攻撃の中では死んでいるだろう、と。
席組みの最下位相手なら、俺達でも勝つことができた、と。
だが・・・
「・・・聞く耳は持たず、か。ならば、仕方あるまい」
攻撃のせいで上がっていた煙がはれると、傷一つ負っていない姿で、拳がたっていた。
そして、床に向けて拳を放つと、建物全体に雷が走って・・・一人残らず、床に倒れた。
拳はそのまま祭壇に向けて歩いて行き、二冊の書物をかばんにしまってから祭壇を粉々にした。
第十席、『雷撃』雷剛拳。彼は確かに、総合的に見れば十人の中で最も弱い席組みだが・・・
こと防御力に関して言うのなら、席組みの中で最高値をたたき出す男である。
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「確か、この辺り・・・お、あったあった!」
殺女は走り回って潰したやつらの持ち物から捜索範囲をだんだんと狭めていき、ついにその建物を発見した。
そしてそのまま・・・拳のように入口を壊し、その余波でそこにいたやつらを全員倒した。
そのまま次に入った部屋も拳圧一回で制圧。それを何度か繰り返していき、相手がなにも出来ないまま建物全体を制圧した。
だが、目的の祭壇が見つからなくて少し困り・・・一階に降りた際に下から吹いてくる風に気付き、床を破壊して地下に入る。
その際に一人、何かしようとしていた人がいたのだが見向きもしないで進み、祭壇を発見する。
そのまま二冊の書物を回収し、祭壇をぶち壊す。
「これで十冊目~♪」
新たに回収した二冊をかばんにしまってから、ほくほく顔で次へと向かった。
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「さあ・・・行け!」
鈴女は十体だけを残して虫型の式神を展開、全て飛ばして一度に広範囲を捜索していく。
百体以上の虫型式神が見聞きした情報を全て頭の中で処理していき、『鬼神ノ会』が関わっている建物を発見次第、残している虫型式神を一体展開、そいつに式符を持たせて出張させる。
そのまま建物の換気扇などから式符を投げ込ませ、遠距離から展開して建物を制圧していく。
最後に戦闘用の式神に入口を破壊させ、虫型の式神十体ほどで書物を回収。最後に祭壇を破壊してから式符に戻して、すべて回収していく。
本人は一歩も動かず、どんどん目的のものを回収していく。これだけの同時処理を出来るがゆえに、彼女は席組みに属しているのだ。
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匁は、ただ歩いていた。
目的の建物を発見して、開いていた入口から入り、ただ歩いていた。・・・否、歩いているように見えた。
当然、そこにいる者たちは全員が武器を構えていたが、それらは全て、構えた瞬間に細かく切り刻まれていく。
彼らは驚愕した。何せ、自分たちの前にいるのはただ歩いている少女一人だけなのだから。
ゆったりと、ゆっくりと。ただ歩いているだけにしか見えないのに、自分たちは攻撃されている。
そんな状況に戸惑い、冷静さがすべてなくなると、次には自分が攻撃を受ける。
不動金縛り。それのとても強力なものを受けて、バタバタと倒れていく。
そして、一人が何があったのかを、ようやく理解した。
「まさか・・・早すぎて、抜刀が見えないのか・・・?」
そう呟いた次の瞬間には、そいつも倒れた。
今匁が使っている刀。一振りは、販売すらされているような呪いが皆無に等しい妖刀。そして、もう一振りは匁の家に伝わる妖刀。銘はなく、『縛り刀』と呼ばれている刀だ。
その効果は、呪力を込めることによって金縛りの術式を発動し、斬撃を飛ばすことによって相手に術をかけることができる。
ただし、使うためには前提条件として斬撃を飛ばすことができるだけの実力、刀に対して呪力を込め続けられるだけの呪力量。そして、刀に精神を吸い取られないだけの精神力が必要となる。
仮にも、家に伝わるだけの妖刀だ。そこに、呪いが存在しないだけの理由がない。当然ながら、そこには呪いが存在する。
一瞬でも気を抜けば、精神を吸い取られて簡単に死んでしまうほどの。それこそ、帯刀している時ですら気を抜けないだけの代物だ。そんなものを扱えるよう、幼少のころから妖刀を扱わされてきたがゆえに、彼女には感情や表情というものが乏しくなっている。
だからだろうか。自分が倒した相手に見向きもせず、ただ淡々と目的の祭壇に近づいて書物を回収。祭壇を切り刻んでから、出口へと体を向ける。
そして、出口の目の前で一度、今回収した書物を見た。
それは、ここに来るまでにもいくつか回収していたものだ。それでも、彼女は小さく笑みを浮かべた。
感情に乏しい彼女でも、ただ一つだけ、例外となるものがあった。
それがどういった感情なのか、彼女はまだ理解していない。
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「えっと・・・すいま、せん・・・!」
第六席、匂宮美羽。彼女は制圧に来た建物で・・・自ら倒した相手に対して、頭を下げて謝罪していた。
そこには、一人残らず気を失っている者たちがいて・・・再び顔を上げた美羽の眼は、人間の目ではなかった。
細長く収縮している、猫の目。
登録コード、『化け猫交じり』。これは彼女の戦い方などを表していると言うより、彼女の血筋を表しているものだ。
猫多羅天女。匂宮の一族は、かつてこの女神と交わりを持った一族なのだ。
そこの子供は、男であれば身軽さと筋力という形で、女であれば身軽さと猫操りという形でその力を体現する。
美羽は当然後者を・・・それも、通常より強く体現している。先祖帰り、と呼ばれてしまうレベルに。
彼女はその力ゆえに席組みへ所属し、戦いを嫌う、優しい性格であるにもかかわらず第六席と言う位にまで上がっている。
そして、優しい性格ゆえに・・・こうして、倒してしまった相手に対して頭を下げているのだ。
今回、彼女は猫操りによって全員の首を一瞬で絞め、気絶させた。本来ならかなりの力と経験が必要な気絶のさせ方なのだが、それを異能を使うことによって可能としているのだ。
そのまま彼女は、俯きながら進んでいき、書物を回収してから呪符を祭壇に張り付ける。
その呪符はかなり簡易的なものであるために許容できる呪力の量が少ない。そして、その許容量を過剰にオーバーしたとき・・・爆発を引き起こす。
そうして祭壇を破壊してから、彼女はもう一度だけ頭を下げて、その場を走り去った。
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「はぁ・・・全く、何で俺がこんなことを・・・」
豊は、依頼を受けた身でありながらそう呟いた。
そして、そう言いながらも手に持った白澤図から飛びだした白黒の異形は、確実にそいつらを倒していく。
ぶつぶつ言いながらもちゃんと仕事だけはしていくのだ。
そして、そのまま特に何かあるわけでもなく書物を回収し、祭壇を破壊してその場を去る。
はっきり言おう。つまらん。
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「全く、何でわたくしがこんなザコどもの相手をしなければならないのですか」
そして、前もまた豊と同じようなことをつぶやいていた。
なんだかんだ、この二人は似たような性格をしているのだ。
豊が白澤図の中の異形を使うように、前は小刀に宿る子狐の霊を操り、敵を倒していく。
たまに青い炎・・・狐火を出して自ら攻撃もしているが、これはどちらかと言うとただうっぷんを晴らしているだけにすぎない。
そのまま突き進んでいき、なんか幹部っぽい風貌のやつすら見向きもせずに倒してから祭壇を発見する。
それを見て・・・焦って近づいて書物を回収し、狐火で祭壇を破壊する。
自ら壊した祭壇には一切眼もくれずに書物を丁寧に観察して・・・中身に何もないことを知って、ほっと一息をつく。
その手に握られている書物の表紙には・・・少しばかり、焦げ目が付いていた。
つまるところ、狐火を使いまわしていたせいで火が付いてしまったわけなのだが・・・まあ、大事に至らなかったからよしとしよう。
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「ほっほっほ。元気だのう。老骨にはうらやましいわい」
慈吾朗は自分の髭をさすりながらそう言った。
その周りには、先ほどまで武器を持って勇敢に向かて来た人たちが倒れている。
そして、慈吾朗の背後には・・・
「ウオン」
「よしよし、ベル。ようやったのう。今日は、まだ頑張ってもらうからな」
半透明の大型犬・・・犬神のベルがいた。
この惨状、ベルが一吠えしただけで出来上がったものなのだ。つまり、慈吾朗は何もしていない。
それこそ、慈吾朗は単体でも席組みに入れるだけの実力者。そこに、犬神のベルが加わることで、第二席『犬神使い』となるのだ。
それにしても、なんだろうか・・・
強くなればなるほど、書くことがなくなっていくのは。
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「・・・くどい」
白夜はそう言って、向かってきた男を投げ飛ばした。
自分に向かってくる弾丸をよけながら進み、銃を持っている奴を殴り飛ばして無力化していく。
他のものと違い、一切の呪術を使わずにその場を制圧していく。
正確には、狭い場所で使えない呪術だったりこんな相手に使うのは気が引けるような代物なのが原因なのだが・・・
そうしてその場を制圧しきり、祭壇を破壊してから一番偉そうな物の頭の中から直接、情報を引き出す。
場所を把握してから、その場を去って次の場所に向かった。
そのかばんにはもう入りきらないほどの書物が詰まっており、仕方なく式神を展開して、一輝の元まで運ばせた。
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「はぁ・・・全く、皆さん何の遠慮もなく活動していますね・・・団員の回収、こっちの人数が足りないせいで追いつきませんよ」
「まあ、最悪追いつかなくても問題はないけどな。それこそ、目的さえばれなければ何でもいい」
俺と光也は、即席の指令室のような場所でそう話していた。
そして、その後ろでは集まってきている書物の選別作業を、光也の部下が行っていた。
「それで、どうするのですか?向こうのトップが誰なのか、分かっているのですか?」
「まあ、一応の目星はついてるよ。お前の前任の爺さんだろ」
そう言うと、光也が絶句した。
「・・・それには、間違いないですか?」
「ほとんど、間違いないだろうな。これだけのことをしても誤魔化したままでいれるのはあの人くらいの立場だろうし、なにより」
そう言って、昨日連絡するのに使ったメールアドレスを表示した。
「これは?」
「この団体のトップのメアド。たぶん、この団体の中での連絡だけを目的に作ったものだろうけど・・・ちょっと知り合いに頼んで、このアドレスを頻繁に使ってるサーバーを特定してもらった」
「・・・それ、どんな知り合いですか?」
「プライベートだ。大丈夫、口は固いし信用も出来る。この件を広めるつもりはないだろうよ」
そう言いながらその端末情報を表示し、その中の一つのファイルを開く。
「これは、その端末の中にあったファイルのコピーだ。・・・見覚えは?」
「私の引き継ぎの際に渡された書類そのままですね」
「このファイルを持ってるのは?」
「・・・あの人だけでしょうね。最重要機密事項も含まれますから、他の人間に見せることは禁止されてます。それにしても、ここまでの情報をパソコンに保存しているのですか、あの人は・・・」
「どうにも、そう言ったことに疎い人みたいだな。まあ、安心していいそうだぞ。突破しないといけない壁は、本来どんな技術を使っても突破できないものらしいから」
「・・・あの、本当にその人はどうやって突破したのですか?」
「妖術呪術、その他もろもろと技術を併用して。そういうことができる相手に頼んだ」
そして、次に昨日送ってみたメールの内容を表示する。
「んで、これが昨日送ったメールの内容だ。読めるか?」
「何も読めませんね。何かの暗号でしょうか?」
「正解。これは、あの書物にも使われている暗号。独自の言語表記をさらに暗号化した、超複雑なもの・・・つっても、これはその中でも一番単純なものだけどな」
「書いてある内容は?」
「『古き記し、その解き方をすべて教えよう。ただし、そのための犠牲のすべてを受け入れよ。何人仲間が倒れようとも、一切の手出しをするな。 道を示し、光を持って切り開く』ってな」
「それは・・・?」
「相手の動きを封殺できる魔法の言葉だよ。・・・あの宗教に心酔してるなら、間違いなく何もできなくなる」
そう言ってから立ち上がり、集まった書物を眺めた。
「ふぅん・・・後一冊、一号がないな。他に足りないものは?」
「いえ、残りは二号から四十号まで全て揃っています」
「ってことは、その一冊はトップが持ってるのか。・・・ま、四十冊の中で一番重要なことが書いてあるの、あの一冊だから仕方ないのか」
「・・・寺西さん」
そう言いながら眺めていると、後ろから光也が話しかけてきた。
「本当に、お一人で向かうおつもりですか?こちらからも戦力を供給することはできますが」
「いらねえよ、むしろ邪魔にしかならない」
「なら、席組みの方に向かっていただけば」
「それもダメだ」
他の席組みの面々には、このまま相手の目を引いていてもらいたい。
そうしておいた方が、俺が行動しやすくなる。
「それに、今回の相手はあの団体だぞ?一体幾つの機密事項があると思ってやがる。それを全て、漏えいする勇気があるのか?」
「・・・それもそう、ですね。ですが、それなら連れて行っても問題のない人が一人いるのではないでしょうか?」
一瞬、光也の言っていることが分からなかったのだが・・・少し考えて、誰のことなのか理解した。
確かに、あいつなら大丈夫だけど・・・
「私としては、あなたがお一人で向かわれるよりももう一人連れて行ってくださった方が後始末が楽なんですよ」
「・・・はぁ。ま、今回の件を一般人に知られるわけにはいかないか。分かったよ、あいつも連れてく」
そう言ってから携帯を取り出して、その相手に電話をした。
時間も時間だし、もう寝てなければいいんだけど・・・
「・・・あ、雪姫。悪いんだが、ちょっと今から言うところに来てくれるか?」
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