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道を外した陰陽師

作者:biwanosin
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第十四話

 なんなんだ、今のは・・・
 私は彼がここに攻め込むと聞いた時、無謀すぎると思った。
 くだらない正義感のために、私と同じ残されたものでありながら命を散らせるのかと、そう思っていた。
 向こうの戦力の中にはランク持ちだって何人かいたのだ、そう考えて当然のはず。

 だが・・・結果は、彼の圧勝だった。
 私を引き取っていた副所長、そしてその周りを固めていた相手に、一切の攻撃を喰らわずに。

「ふぅ、こんなもんか。さて、後はここの後片付けを頼まないと、」
「お前は・・・」

 だから、私の口は自然と動いていた。

「ん?」
「お前は、何者なんだ?」
「それについては、さっきも言わなかったっけ?」

 そう言いながら刀を納めて、もう一度・・・聞き間違いではないかと疑っていた名乗りを上げる。

「日本国第三席、『型破り』の寺西一輝。失いし名は鬼道。外道と呼ばれし、道を外した一族也、って」

 どうやら、聞き間違いではなかったようだ。

「・・・いいのか?名前を失ったものが、その名を名乗って」
「別に問題はないよ。その場での名乗りの許可なら、席組みの全員が出すことが出来る」

 なるほど、自分で自分に対して許可を出しているのか。
 にしても・・・

「つまり、私は席組みの第三席、霊獣殺しを暗殺しようとしていたのか。それはまた、無謀なものだな」
「確かに、そうだな。けど、これまでに来た暗殺者の中では一番筋が良かったぞ」

 これまでに、他にも来たことがあるのか・・・

「ちなみに、そいつらは?」
「あー・・・面倒だったからベランダからつるして寝たら、朝にはいなくなってた」
「何してるんだ!?」

 危ない・・・場合によっては、私もそうなっていたのか・・・

「まあ、仕方ないよな。俺が寝てるのを起こしちゃったんだから」
「・・・私のときには起きなかったよな?」
「ああ。あれは良かったぞ。他のやつらはどうも、侵入するときの音が分かりやすくていかん」

 そして、寝ていてもなおあれだけの戦闘力・・・これが、席組みなのか。

「さて、これからどうする?」
「・・・そうか。それも決めないといけないか」

 といわれても、行くあてがあるわけじゃない。
 そもそも、後見人がいないくなってる・・・

「・・・とりあえず、まずやるべきことは決まっているな」
「そうなのか?」
「ああ。まずは、お礼から。・・・ありがとう、この恩は一生をかけて返す」
「・・・大げさだなぁ」

 本気で呆れたような顔をしているだろうと、顔を下げている今でも分かる。

「さっきも言っただろ。俺があれを殺したのは、俺が気に入らなかったからだ。雪姫がどうこう考えるようなことじゃねえよ」
「それと私が恩を感じているのかは、別の問題だ」
「かったいなぁ・・・それに、やめといたほうがいいんじゃないか?」

 顔を上げると、そこには・・・

「さっきも言ったように、俺の一族は外道の一族。潰れたとしても俺はそこの本家筋の人間だし。・・・忌むべき一族。何に巻き込まれるか、分かったもんじゃないからな」

 とても悲しそうな顔があった。
 あれだけの実力を持ちながら・・・いや、あれだけの実力があるからこそ、こんな表情をするのか。

「・・・だとしても、だ。それに、これでも人を見る目くらいはある」
「そりゃ、仕える主を選ばないといけないからな」
「そうだ。そして、主に選ぶほどではなくとも信用は出来る」
「・・・はぁ、どうしてこうも、俺の周りには意志の強い奴等ばっかりなのか」

 やっぱり、土御門殺女も意志が強いのだな。

「・・・なあ、どこかいくあてはあるのか?」
「ないが」
「なら、いっそうちに来るか?」

 その提案は、一瞬思考が止まるほどのものだった。

「殺女が寝泊りしてる方で、だけど。あっちなら部屋もかなり空いてるし」
「さすがに、これ以上迷惑をかけるわけには・・・」
「それなら気にするな。少なくとも、金銭的迷惑にはならないから」

 どういうことだろうか。
 まさか、いくらでもあるからというのか・・・

「さっき、俺は席組みだって言ったよな?」
「そう、みたいだな。それで?」
「光也のヤツが、俺は色々と特殊な例なんだから秘書くらい付けろ、ってうるさいんだよ」
「・・・話が見えないんだが」

 いや、まさかと思うものはあるんだが・・・

「そこで、さ。俺の秘書やらね?」
「・・・まさかが当たった・・・」

 いや、本気なのか?

「内容としては、うちに住み込みで三食付。ついでに学校にも通うか?」
「いやだから、金銭的な面は・・・」
「席組みの秘書を雇うんだ。全部陰陽師課に払わせるよ」
「・・・・・・・・・」

 私に対する対応のスケールが大きくなりすぎてる・・・

「期限としては、雪姫が仕えるべき主を見つけるまで。仕事の内容は、そうだな・・・俺の仕事についてのまとめ、で。スケジュールとかも余裕があったら作ってくれると嬉しい」
「対応が良すぎるんじゃ・・・」
「そうか?・・・そうかもな」

 自分で考えても思ったのか、少し悩むそぶりを見せてから笑って見せた。
 なるほど・・・土御門殺女が彼のことを好いているわけが、分かった気がする。
 さっきの怖い彼と、今の彼。このギャップはまた、ズルいな。

「とはいえ、忌むべき一族の生き残りで、卵でありながら席組みに入った、何て恨まれやすいやつの秘書をやるんだ。危険度も考慮に入れたら、ちょうどいい感じになるなじゃいか?」
「・・・そう言うことに、しておくか」

 それなら、まあいい。
 こちらとしても都合がいいし、何より・・・次の引き取り手が、そこの死体のようなやつでない確証もない。

「なら、これからよろしく、寺西一輝」
「一輝でいいぞ。よろしく、雪姫」

 差し出された手に、私は自分の手を重ねた。



   ========



『今回はありがとうございました、寺西さん』
「そう思うんなら、色々と報酬くらい払ってもいいんじゃないか?」
『ですから、雪姫さんについてはそちらに任せたんじゃないですか。後見人についても、私が勤めさせていただきますし』

 現在、殺女と雪姫が一緒に風呂に入って姦しくしているため、すっごく居づらくなってテキトーに散歩などしている。
 そして、その最中に電話がかかってきたのだ。

「・・・で?今回の件についてはどう処分したんだ?」
『はっきりと、膿取りといえれば楽なんですけど。仕方ないので、違法な実験をしていたら失敗、暴走、ということにしました』
「そうか。また、権力を乱用してるな」

 そう、今回の件については光也からしてみれば膿取りなのだ。
 なにせ、東京支部の副所長は俺を第三席にした結果光也に対する反乱分子の一人。
 光也からしてみれば、目障りでしかなかったはずだ。

『なんにせよ、今回の件に対して第三席は関わっておらず、殺しもなかった、ということになっています。真実の閲覧件は、席組みにのみ与えました』
「まあ、それが妥当か。・・・で?光也としては、俺にどうして欲しいんだ?」
『そうですね。個人的には、このまま膿取りを続けて欲しいです。寺西さんのおかげで、反乱の意思があるのが誰なのか絞ることが出来ました』
「正確には、もうとっくに絞り込めてたんだろ?だからこそ、俺が調べるように言ったらすぐに情報が来たんだろうし」
『ノーコメント、とさせていただきますよ』

 食えないやつだ、本当に。

『なんにしても、他の連中も違法な実験などを繰り返している連中です。寺西さんのお眼鏡にはかなうかと』
「何言ってるんだ。俺があいつを殺したのは気に入らなかったからだし・・・何より、悪人善人は関係ないんだよ。気に入らないヤツだから殺した、それだけだ」
『それなら、機会が有ったらよろしくお願いします。それと、やりすぎとなった際、その時もどうか』
「そうだな・・・無理矢理巻き込まれた人がいる可能性があるなら、そいつくらいは助け出してやるよ。それと、」

 最後に、これだけは言っておくか。

「俺は、例え光也であっても気に入らないなら殺すぞ。今の段階で踏みとどまっておくんだな」
『実験対象は彼だけに、ですか?それと、暗殺は問題ないと?』
「ああ。アイツなら大丈夫だろうし、暗殺の方もまあ、悪人と分類されるやつにしかしてないからな」
『それはありがとうございます。このままの関係で居られるよう、気をつけますよ』

 そして、そのまま電話を切って家の扉を引く。
 鍵の抵抗がなくすんなりあいたところを見ると・・・風呂はもう終わったんだな。

「ただいまー」
「あ、お帰りカズ君!どうよ、これは!」

 帰ると同時にハイテンションな殺女が出てきて、俺の腕を取って引っ張っていく。
 そのまま引っ張られていくと、そこにはポニーテールをとき、きちんと整えた雪姫がいた。

「雪姫・・・どうしたんだ、それ?」
「土御門殺女にやられた・・・」

 そう言いながら顔を赤らめ、伏せている雪姫。
 状況説明を求めて殺女に視線を向けると、嬉々とした様子で、

「せっかくユッキー可愛いんだから、整えたらどうかなって思ったの!」
「ああ、なるほど・・・まあ、確かにな。整えてなくてもあれだけ可愛かったんだから」
「んな!?」

 その瞬間、雪姫がさらに頬を紅くして顔を上げ・・・すぐそばにあった俺の枕に、顔を押し付けた。
 意外な子供っぽさと年下に見える見た目があいまって居るのだが、まあこれ以上言うと再起不能になりかねない。
 これくらいにしておくか。

「そろそろユッキーも限界みたいだし、最後に一個だけ決めてからねよっか!」
「・・・なんだ?」

 枕から顔の上半分だけを覗かせて聞いてくる雪姫。

「ユッキーはいい加減、私達のことを名前またはあだ名で呼ぶこと!」
「ああ・・・確かに、な。フルネームはどうも堅苦しいし」

 二人揃ってそう言うと、雪姫は再び顔を伏せて・・・

「・・・一輝、殺女・・・」

 そう、小さく呟いた。

「よし!それじゃあ、皆でねよっか!」
「いや、なんでだよ。隣に行けよ」
「いいじゃん、たまには!それに、昨日はユッキーと一緒に寝てたんでしょ?」
「あれは寝てたというのか・・・?」
「それに、」

 そう言いながら、殺女は俺の布団を指差し、

「もう、ユッキー寝ちゃってるし」
「ああ・・・」

 まあ、疲れてたんだろうな。

「まだユッキーのお布団、ないでしょ?隣から私が使ってる布団は持ってきたから、並べれば三人くらい寝れるでしょ?」
「お前って本当、そう言うことに抵抗ないよな・・・寝顔見られてもなんとも思ってないし」
「最初のうちはそうでもなかったでしょ~。それに、誰にでも、って訳じゃないよ。カズ君だから。きっと、ユッキーもだよ」

 そう言いながら腕を引っ張られて・・・俺は抵抗をやめ、大人しく引っ張られていった。
 はぁ・・・今日、寝れるのかなぁ・・・
 
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