道を外した陰陽師
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第十話
「よし・・・準備できた。二人とも席つけー」
俺はいつもより一人分多い朝食と二人分の弁当を準備してから二人に声をかける。
殺女は制服姿で簡単に精神統一を、暗殺者は小型クナイを眺めていた。
「おー、今日も美味しそう!」
「いつもと変わらんし、殺女が自分の家で食ってたのに比べたら質素にもほどがあるぞ」
「料理はそこじゃないんだって~。家じゃ、楽しんで食べらんないし」
そう言いながら席に着いた殺女の横に、暗殺者も座った。
俺はテキトーに皿を並べて、直接暗殺者に取らせてから自分と殺女の前に残ったものを置く。
まあ、向こうも完全には信用して無いだろうし。これくらいはしないと。
「じゃあ、まずは俺から自己紹介を。俺の名前は寺西一輝。苗字で呼ばれるのは馴れてないから名前で呼んでくれ」
「そうか」
ものすごく短い返事だけを返された。
まだ、あんまり友好的にはしてくれないか。
「で、次に私の番だけど・・・」
そう言いながら殺女は隠行の類を全て梳き、素の自分を暗殺者に見せる。
「私は土御門殺女!知ってるかもしれないけど、よろしくね!」
「・・・・・・」
暗殺者は、口を開いて固まった。
まあ、すぐとなりにいたやつがものすごい大物だったんだから、当然ではあるのか。
あぁ・・・俺の正体をバラしてみたいな。『型破り』の方でも、家の名前の方でも、どっちでも面白い反応が返ってくるのは間違いないし。
「・・・で?お前の名前はなんだ、暗殺者?」
「・・・ああ。雪姫だ。苗字は無い・・・無くした」
まあ、それについては予想がついてた。
この歳で暗殺なんて、普通はありえない。それこそ、命令を絶対に断れない立場・・・苗字をなくし、家族も無く一人残され、引き取り手の操り人形になっている場合くらいだ。
本当に・・・反吐が出る。
「で?他には?」
「・・・学年は中学三年。むしろ、反応はそれだけなのか?」
「・・・あぁ。家の名前なら、俺もなくしてるよ」
何のためらいもなくそう言うと、雪姫は目を見開いた。
「・・・自由な暮らしをさせてもらっているのか?」
「いや、ただあいつらの援助が必要ないだけだ。金はあるしな」
俺は霊獣を殺した関係で、特に援助が必要な立場ではない。
それでもたまに来る光也からの依頼をこなしてはいるが、割高の値段でやってるし。絞れ取れる限り搾り取ってやる。
「まあそう言うわけで、俺も雪姫と変わらないんだよ。家族が全員殺されて、それでもなお奥義の習得にいたることが出来なかった、そんなヤツだ」
「なら、先ほどの苗字は、」
「母方の旧姓。ついでに言うと、母さんも苗字を失った立場だったりする」
そう、母さんも俺と同じ立場だった。
奥義を習得した家族、まだ奥義を習得していない家族を皆殺しにされ、一人残された。
で、そのまま幼馴染だった父さんと結婚することになった、だったはず。詳しくは覚えてない。
「そう言うわけで、俺にはそんな差別意識はない。オマケに殺女もそのあたりは気にしてなかったりする」
「それと本人の性格とは全く関係ないからね~」
そう言いながら殺女は雪姫の目を覗き込む。
「な、なんだ・・・」
「ふんふん・・・うん!」
「!?」
殺女は何か納得したように頷くと、急に抱きついて頬ずりし始めた。
「よろしくね、ユッキー!」
「ユ、ユッキー!?」
よし、殺女があだ名で呼んだってことはそこまで問題はないみたいだな。
少なくとも、少し前の俺みたいな様子は無い。信用してもそこまで問題はない、ってことだ。
「さて、と・・・とりあえず、今日は学校には行けそうに無いな。殺女、学校にはテキトーに言っといてくれ」
「はいはーい。カズ君はお人よししてます、って言っとくね!」
お人よしって・・・そんな大層なもんじゃないんだけどな。
ただ単に、気に入らないから大暴れしたいだけだし。・・・大暴れできるだけの相手かはわからないけど。
で、殺女は朝食を終えるとすぐに、俺が作った弁当を持って学校に向かった。
さて・・・では、始めますか。
「・・・で?お前は私をどうするんだ?」
「どうする、というと?」
「暗殺者を捕らえて、その武器を取り上げておいて何もしないはずはないだろう?」
「いや、何もしないけど?」
俺の言葉に息を呑む気配が、後ろから伝わってきた。
とりあえず、気にせずに食器を洗い続ける。
「あー・・・でも、何もしない、ってのは少し違うか」
「ほら見ろ。で?何を、」
「とりあえず、遊びに行くからその目立つ格好をやめろ。俺を殺した後のための着替えくらいはあるだろ?そこのベランダに」
俺が見もせずにベランダを指差すと、雪姫は無言で立ってベランダから袋を取ってくる。
俺を殺すのに成功したら、後は人ごみに紛れて移動する方が楽だしな。返り血がついて、服を変える必要も出てくるだろうし。
「んじゃ、そっちの部屋でも使って着替えてこい。それが終わったら、テキトーにどっか遊びに行くぞ」
「遊びに、って・・・」
「暗殺だのどうだの、そんなすさんだ状態で話してもまともな会話なんて出来るはずがない。というわけで、今日は日が暮れるまで遊び倒すぞ」
食器洗いを終え、振り向きながらそう言うと・・・もう、本日何度目か分からない雪姫の目を見開く姿がみえた。
それでは、始めるとしますか。本来、俺の得意分野じゃなくて殺女の得意分野なんだけど。
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