マカロニウエスタン
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第一章
マカロニウエスタン
スペイン語とイタリア語は通じる、それでだった。
スペインで観光客や企業の者相手にガイドやヘルパーをしているホセ=チンベッサはイタリアから来た映画会社の面々に笑顔でそのままスペイン語でこう言った。
「ああ、あんた達またなんだ」
「ああ、まただよ」
「またこっちで映画の撮影だよ」
イタリア人達も明るくイタリア語のまま話す。実はイタリア語とスペイン語の違いは方言位のものなので普通に通じるのだ。
それで彼等もそのままの言葉で話す、その中で。
チンベッサはだ、イタリア人達にこう話した。
「じゃあ今回もだね」
「ああ、そうだよ」
「あそこに行ってね」
「あそこで映画の撮影だよ」
「西部劇のね」
ここで本来はアメリカで出るべき言葉が出て来た。
「西部劇の撮影だよ」
「あそこでやるよ」
「そう言うと思ったよ」
明るく答えたチンベッサだった。
「じゃあ今から行こうか」
「ああ、それじゃあな」
「あそこで撮影な」
「今回も宜しく頼むよ」
「仲良くやろうな」
「ああ、けれどあんた達も好きだねえ」
イタリア人達と話をしつつだ、チンベッサはこんなことも言った。
「西部劇が」
「アメリカには負けないぜ」
「あの国とはまた違った西部劇を作るからな」
「今回もな」
「面白い映画作るからさ」
「本場はあそこだろ」
アメリカだとだ、チンベッサは返した。
「やっぱり」
「だから本場以上の西部劇を作るんだよ」
「そうするんだよ」
あくまで言うイタリア人達だった。
「だからだよ」
「今回もやるぜ」
「いい映画作るぜ」
「アメリカの以上にな」
「やるぜ」
「そうか、じゃああ頑張りな」
あっさりと返したチンベッサだった、そのうえで。
彼等はある場所に向かった、そこは。
荒地だった、スペインによくある草木がなく岩ばかりのひび割れた大地の場所だった。土は赤い。そこはまさに西部劇の世界だった。
イタリア人達もだ、その荒地を見てこう話すのだった。
「そうそう、ここだよ」
「イタリアにはこうした場所がないんだよ」
「スペインにはあるからな」
「だからいつもここに来てな」
「それで撮影するんだよな」
「いい場所だからな」
「まあイタリアにはこうした場所はないな」
実際にだとだ、チンベッサも彼等に答える。
「山はあってもな」
「シチリアじゃマフィアものになるしな」
「ヴェネツィアじゃあ水の中でも西部劇だよ」
「サン=ピエトロ寺院前での撃ち合いとか法皇様に怒られるぜ」
「イタリアじゃちょっと違うんだよ」
「そこはな」
それだと言う彼等だった、だからだというのだ。
「ちょっとあんたの国にこうしてお邪魔してな」
「撮影させてもらってるんだよ」
「今回もそうしてな」
「いい映画作らせてもらうな」
「ああ、じゃあな」
こうしたことを話してだ、そしてだった。
彼等は実際に撮影をはじめた、西部劇そのままの格好の役者達が銃を持って牛だの馬だのも出してきてだった。
ガンマンになりカウボーイになる、ヒロインもいる。
ただ誰もがラテン系の顔だ、チンベッサは彼等のサポートをしつつ昼食のトマトと大蒜、それにチーズまでたっぷりと効かせたイタリアのパスタを食べながら話をした。量はかなりのものだ。
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