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スツーカ

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第四章

「結構苦戦してるぜ」
「戦死した奴も増えてきてな」
「何かと大変だよ」
「そっちもかよ」
 スツーカ隊は彼等に問い返した。
「パイロットの数が減ってるか」
「ああ、結構な」
「やばい感じだよ」
「それで出撃も多くなってるしな」
「毎日みたいだよ」
「こっちと同じだな」
 スツーカ隊はこう彼等に返した。
「休暇なんてとても取れないな」
「もう最前線で休暇を取ってるよ」
 つまり休暇を取らずに戦っているというのだ、それが今の東部戦線だった。
「それで敵を倒していってな」
「こっちもやられてな」
「正直まずくなってきたな」
 この言葉も出て来た。
「戦況が」
「ああ、スターリングラードで負けてな」
「クルスクもしくじってな」
「前線はどんどん後退して」
「モスクワなんて夢だよ」
 かつてだ、目前まで迫ったがというのだ。
「何とか勝ちたいけれどな」
「どうなるやら」
「俺達の今の基地も放棄の話が出てるしな」
「こっちもだよ」
 スツーカ隊の面々はメッサーシュミット隊の面々に苦い声で返した。
「それで撤退だよ」
「また撤退だよ」
「このまま何処まで押しやられるか」
「笑えないぜ」
「全くだ」
 こう言い合うのだった、性能が前に比べて落ちてきた感じの通信を使って。
「何処まで退くのかね」
「反撃の機会は何時か」
「それが来て欲しいな」
「まあ色々あるさ」
 ここでスツーカのパイロットの一人が言った。
「戦争もさ」
「退く時もあるか」
「そういうものか」
「イギリスでもそうだったんだ」
 バトル=オブ=ブリテンでのことだ。ドイツ軍はイギリスを空から攻めたてたが結局最後までイギリス本土上陸は出来ず退いている。彼は今そのことを言うのだ。
「だからここでもな」
「退くこともあるか」
「そういうことか」
「ああ、だからな」
 それでだというのだ。
「反撃の機会を待ってな」
「今は大人しく下がるか」
「後方まで」
「見てろよ、共産主義者共」
 誰もがここでコクピットの中で後ろを振り向いた、そのうえで言ったのである。
「最後に笑うのは俺達だからな」
「絶対にモスクワを陥落させてやる」
「これで勝ったと思うなよ」
「俺達はまだまだ戦うからな」
 こう言ってだった、今は退くのだった。
 そしてスツーカのパイロット達は基地に帰って司令にこう言われた。
「後ろの空港までな」
「撤退ですね」
「そのことが決まりましたか」
「設備は全て破壊する」
 ソ連軍が空港を奪っても使えない様にしておくというのだ。
「そして航空機も全部下げるからな」
「仕方ないですね、それじゃあ」
「今は」
「すぐに設備を破壊してだ」
 そしてだというのだ。
「全員で逃げるぞ、いいな」
「逃げるんですか」
「そう仰いますか」
「そうだ、いいな」
 もう逃げるという言葉も隠さない司令だった、ここにも今のドイツの戦局が出ていた。
「わかったら下がるぞ」
「はい、わかりました」
「仕方ありませんね」
 パイロット達も頷くしかなかった、それがどうしてかは彼等が最もよくわかっていた。それで彼等もだった。
 設備を破壊し後方に退く将兵を見送ってからだった、それぞれの愛機に乗り空港を後にした。最後に滑走路を爆撃してそこも使えなくしてからだった。
 西、つまり後方に下がる。そこで言う言葉は。
「またここに戻れればいいな」
「ああ、何とかな」
 こう話してだった、彼等は撤退するのだった。東部戦線の戦局はドイツにとって悪いものになる一方だった。そして。
 その辿り着いた空港でもだった、彼等は。
 出撃する毎日だった、それで空で言い合うことは。
「今日もイワンの奴等にサイレン聴かせてやるか」
「ああ、盛大にな」
 苦しい戦局でも戦う彼等だった、そして。
 戦車の大軍の真上に来てだった、それぞれ。
 急降下攻撃に移りその独特の急降下音を響かせる。何時かまたドイツが攻勢に出られる日を待ちながら。今日も命懸けの攻撃を続けるのだった。


スツーカ   完


                           2014・2・21 
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