ジャガイモ
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第一章
ジャガイモ
ジャガイモと聞いてだ、カルロ=マッチェネッリはその話を出した友人に笑ってこう返した。
「ジャガイモ!?否定しないけれどさ」
「それでもだっていうんだな」
「あれはイタリアだとな」
特にだ、彼等が住んでいるローマではというのだ。
「食べる必要はないだろ」
「他に美味いものが一杯あるからか」
「そうだよ、トマトにガーリックにオリーブにな」
それにというのだ。
「茸もあれば野菜もある、肉だって牛肉も豚肉も鶏肉も羊もある」
「我が国は食文化が豊かだからな」
その友人チェーザレ=メリオッティもマッチェネッリの言葉に頷く。
「だからか」
「海だってあるんだぜ」
マッチェネッリは気さくに笑ってメリオッティにこちらも出した。黒く縮れた髪に黒く明るい目と太い眉、それに割れた顎は如何にもラテン系だ。その顔でブラウンの髪と黒い目、細長い顔であるがやはりイタリア人の彫のある顔の友人に言うのである。
「そっちの食材もあるからな」
「ジャガイモはか」
「別にいいだろ」
他に食べるものがあるからだというのだ。
「そういうのは」
「それでジャガイモはか」
「ドイツ人の食うものだろ」
こう言うのだった。
「あれは」
「けれど御前ドイツ人は」
「ああ、ドイツって国自体もな」
どうかというのだ、その自分から話に出した国は。
「嫌いじゃないさ」
「それは俺もだけれどな」
メリオッティもこう言った。
「何かと助けてくれて世話を焼いてくれてな」
「観光客として来てくれて一杯お金を落としてくれてな」
「堅苦しいけれどいい連中だな」
「最高のお客さんだよ」
それこそイタリアにとって最高の、というのだ。ドイツもイタリアが好きだがイタリアとしてもまんざらではないのだ。
「神聖ローマ、いやローマ帝国からの付き合いだしな」
「悪い連中じゃないな」
「だから俺もドイツ人自体は好きだよ」
マッチェネッリははっきりとメリオッティに言い切った。
「ドイツもな」
「頼りになる友達だよな」
「何かとな、けれどな」
「ジャガイモはか」
「いいだろ」
別に、という口調での言葉だった。
「そっちは」
「食わなくてもか」
「ジャガイモを食わなくても死なないさ」
笑って言ったのだった、この言葉も。
「パスタを食わないと死ぬだろうけれどな」
「ははは、俺達イタリア人はな」
メリオッティもマッチェネッリの今の言葉には笑って返した。
「パスタは絶対だな」
「あとワインにチーズにアボガドにな」
「パンとジェラートもな」
「肉料理もだよ」
「トマトも欠かせないな」
「全くだよ」
こうしたものがイタリア人には欠かせないとだ、二人で笑って話した。マッチェネッリはローマでレストランを経営していてメリオッティは菓子を売っている。実際にドイツ人達が二人の店に多く来てお金を落としてくれている。
だから二人はドイツ人は嫌いではなかった、だがジャガイモを食べようという気には全くならなかった。イタリア人の食べるものではないと思っていた。
しかしだ、その二人にだった。
ある日彼等が夜に店を閉めた後で一杯やる店を探しているとだ、二人の前に。
見たことのない店があった、その店はというと。
「?ビール?」
「ソーセージかよ」
二人で店の壁のところに掲げられているメニューを見て言った、イタリア語で書かれているそのメニューを。
「ザワークラフトにな」
「アイスバインもか」
「それにジャガイモもだってよ」
「完全にドイツだな」
「ああ、そうだな」
誰がどう見てもだった、そのメニューはドイツのものだった。そえでマッチェネッリはメリオッティに笑ってこう言った。
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