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ネギまとガンツと俺

作者:をもち
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第33話「ネギまと俺~誤算×誤算~」



 突如震えた背筋に自然とこの身がこわばっていた。

 ちらりとコントローラーに目を配る。

「!?」

 やはり例のアレだが、そこにあった敵の数に目を見開く。

 赤、赤、大量の赤。

 コントローラーに示された赤点は、最早それだけで表示を埋めつくしていた。

 その数、推測で300以上。

 ――超さんが用意した小型ロボか? 

 おそらく学園結界の有無に関わらず動いているアレをガンツが星人認定したといったところだろう。

 マズイ。

 相変わらず幾多モノ険しい視線にさらされているこの状況で抜け出す方法がどうしも思い浮かばない。

 コントローラーで姿を消しても、桜咲さんや楓にはすぐに見つけけられて捕まるだろうし、この状況で本当のことを話しても信じてもらえることなど出来るはずが無い。ましてや「ちょっと用事で」などと言って抜け出せる雰囲気では到底ない。

 ――用事じゃなくてトイレなら。

 などと、阿呆な考えに気をそらしてしまう位に困っている。

「……」

 そわそわと。

 肩を震わせ、空を見上げ――そして。

 ――いや。

 冷静に考えればわかる。

 目の前の彼等を説得するには時間がかかる、というかほぼ無理。ここまで囲まれていれば出し抜いて脱出することも難しい。

 ならば残された道はたった一つしかない。

 困っていいのもここまでだった。

 星人の狙いが恐らく俺にあるであろう以上、これ以降の遅延は即ちここにいる人間全ての危険に繋がる。

 無表情の顔が無色のソレへと変化するのを自覚する。

「くっ」 

 さらに、無色のソレは小さく獰猛な笑みへと。

 これまで幾多ものミッションをこなしてきた。

 大半のミッションはもちろん多人数でこなしてきたが、実質一人でクリアしてきたミッションも、中には多々存在している。

 もっと無茶なミッションを、いくつも、何度も、何回も。

 腕を吹き飛ばされ、足を食いちぎられ、臓腑を撃ち抜かれ、血反吐を吐いて、中にはあと数秒でも転送が遅れていれば死んでしまうような重傷を負って、それでもどうにかクリアしてきた。

 見上げなければ頭部を見ることすら出来ない敵にあったこともあった。

 殺した瞬間に大爆発してしまう自爆特攻精神の敵にも。

 始まった瞬間から制限時間10分のミッションも。

 2連続ミッションも。

 80点の敵に挟まれたことも。

 100点の敵とたった一人で対峙したことも。

 どんな難関も一人でクリアし、生き抜いてきた。

「……それに比べれば」

 たかだか10名、戦える人間になると約半数。しかも、その中で油断できないような人間など桜(・)咲(・)刹那(・)と長瀬(・・)楓(・)のみ。
 ネギ・スプリングフィールド|《・・・・・・・・・・・・》も、古菲(・・)も。
 
 実力は認めるが、実戦不足だ。

 神楽坂明日菜(・・・・・・)にいたってはまだまだ発展途上。

 たとえ、この直後300以上の星人が自分を待ち受けていたとして。

 たとえ、目の前の彼等を殺さずに無力化するという、威力の高すぎるガンツ兵器にとって相性最悪の戦いだとしても。

 そんなことは、簡単だ。

 ――すぐにケリをつけて、ミッションに向かってやる。

 ネギ達の陣形に目を配る。

 真正面にネギ。距離は4M。ついで、左右に桜咲さんと楓。いつでもけん制できるための位置を陣取っているため距離は約1M。

 古さん、神楽坂さんは非戦闘員を守れるように約5M、非戦闘員の近衛さん、長谷川さん、綾瀬さん、宮崎さん、早乙女さんはその後ろ。

 ――……1番厄介な人物は。

 警戒すべき人物はネギ、楓、桜咲さん、それに近衛さん。

 近衛さんが回復魔法を使うことが出来ることは以前のヘルマン事件で知った。今回は大きな傷を負わせるつもりはなく、気を失わせることが目的。そうすれば、たとえ傷の回復は出来たとしてもすぐに戦闘に復活することはできないだろう。

 と、すれば無理に倒す必要はない。いや、それどころか大怪我をさせてしまったときの治療のために残しておく必要がある。

 ――となると。

 三人に目を配る。

 が、ネギはやはり後でも良さそうだ。何よりもまだ戦闘に迷っている様子が大きく見て取れる。

 つまり、警戒すべきは当然、隙がない左右の二人。いつでも武器を手に取れるように、そしてばれないように戦闘態勢に。

 ――……ふぅ……ふぅ。

 呼吸を整える。

 あとは、いつを機に飛び出すか。

「タケルさん」

 フとネギが口を開いた。

「……?」

「僕は……超さんの担任として、教師として――」

 今まで頼りなかった顔がキッと引き締まる。 

「――あなたを止めます!!」

 ――超さんを殺させません!

 言い放った。

 その顔は迷いと、決断と、ほんの少し恐怖。

 ――いい顔だ。

 こんな時なのに、いや……こんな時だからだろうか。かつてなく大人びたネギの顔に、内心で喜びをかみ締める。

 そして、何よりも嬉しい誤算が。

 それは――

「……ネギ」
「はい」

 視線が交差し、周囲の誰もが耳を傾けることがわかる。

 ――隙をつくチャンスをネギ自身が作ったこと。

「正真正銘――」

 言い切る前に、音もなく両手にXガンを取り。

「――最後の、授業だ!」

 言い切ると同時にそのまま桜咲さんと楓に引き金を――

「――桜咲さん、楓さん来ます!!」
「なにっ!?」

 ――引いた。

「むっ?」
「くっ!」

 俺の言葉に耳を傾けた瞬間、確かに不意をつかれた形となったはずの桜咲さんと楓は、その前の注意の声によって、確かに反応していた。

 一瞬で数Mの距離を後退し、それぞれの得物を構えた状態に。

 数秒遅れて、先ほどまで彼女たち二人が立っていた場所を、小規模だが威力溢れた爆発が炸裂。

「タケル先生」
「タケル殿」

 狙いがばれた。 

 二人は一瞬だけ悲しそうに睫毛を震わせたかと思えば、次の瞬間にはキッと完全に戦闘時の表情になっていた。

 彼女達による戦闘時の視線を受けつつ、内心では先ほどの声に疑問を覚えていた。

 ――なぜ、わかった?

 声の主は宮崎のどか|《・・・・・》。

 だが、彼女は普通の少女のはずであり、今の動きに察知できるはずがない。

 ――マグレ……とも思えないが?

 失敗したという事実は仕方がない。それよりもこの謎を解き明かす必要がある。近衛さんのように魔法をつかえるという可能性が高いが、大事なのはソコではなく、何をしてどのように気付いたか。

 視線を四方に配る。

 ――……まだ彼女達二人以外は状況を掴めてないな。

「なら!」

 先にネギを仕留める。

 Xガンを向けようとした矢先、再び――。

「――ネギ先生、タケル先生は既に戦闘態勢です!!」

 宮崎のどかのどこか間延びした声が、まだ何が起きたかを理解できていないネギ達の耳に真実を届けていた。

 ――っ!?

 ビタリと、反射的に動きを止めてしまった。

「え」

 未だ事態を掴めずに、というか掴みたくないといったほうが正しいのかもしれない。

俺をジッと見つめ、信じられないといった面持ちでネギが口を開いて「タケ――」

 だが、俺があいつに言う言葉はもう出し尽くした。逆に、ネギから言葉を聞く気も、既にない。

 だから、俺はそれを遮って言う。

「――言葉は要らない、俺を止めてみろ」




 ガンツのミッションが繰り広げられようとしている最中、ネギパーティーとタケルの戦いが幕を開けた。




 戦力の割り振りは、オコジョであるカモの仕事だった。

 特に機動力の高いネギ・刹那・楓の3者を最前線で戦わせ、後衛の回復を使える木乃香やなんらかの手品を持っているのどか達を守る壁として攻撃力や防御力に関しては確かに一級の能力を持つクーとアスナを配置。

 ――オコジョとは思えないほどにバランスの取れた振り分け方だな。

 苦虫を潰すような顔のタケルから鋭い息が吐き出される。

「っ!」

 Xガンから見えない銃弾が放れた。だが、既に狙いがばれていたその射撃は目標となった楓に当たることなく大地―正確には船の屋上だが―に着弾。数秒の後、爆破。

 避けられたことを悔しがっている暇は彼にはない。背後に迫っていた刹那の木刀を、しゃがむことでタケルはどうにか避ける。が、その行動も既に予測済み。

 気付けば目前にまで迫っていた蹴りに、どうにか反応。慌てて後退し、一旦距離を――

「■■■■■■」

 ――置けなかった。

「しまっ!!」

 数え切れないほどの雷弾が、タケルに襲い掛かっていた。

 計37発。

 それが余すことなくタケルの身に降り注ぐ。

 煙が立ち込め、視界が覆われる中それでものどかの鋭い声が響く。

「まだですーー! 全然効いてません!!」

 これまでネギ達がタケルを掌の上で踊らせること約1分。それまでにネギ達の攻撃を彼が被弾した回数、実に先ほどの37発を含めて、44回。

 その内、タケルの行動をのどかによって口にされた回数は既に10や20では数え切れない。

 ――疑いようもないな。

 なかなかに晴れぬ煙の中、その疑問に、タケルは解を導く。

 ――宮崎さんは心を見ることが出来るんだな。

「あうっ!?」

 声には出さず、内心で思っただけの言葉にあからさまな反応。

 図星。

「つまり、一番最初に離脱させなければならなかったのはキミ、宮崎さんだったということか」
「あ、あうあう~~、次は私みたいですーー」

 焦ったように放たれた言葉の意を汲み、アスナとクーがのどかを守るように立ちはだかる。彼女達という壁がある限り、強引に攻めても功を奏すことはない。

「……もう、止めてください」

 ――この言葉を聞くのはこれで、何度目だろう。

 いつの間にやら晴れた煙の中、ネギの声が小さく響いた。その表情には真剣で、どこかタケルを心配しているような色が含まれている。

 だが、そのネギをタケルは無視する。

 ――いい加減、その甘さに気付くべきだな。

 口を開くことも、目を向けることも最早ない。今、彼にとって対処すべきは目の前の少年ではない。本に目を落とし、必死にタケルという敵の動きを叫ぶ少女だ。

「……ふぅ」

 小さな息がタケルから落ちた。

 ――例えば、心を読むことが出来る敵と対峙したとしよう。そんなとき、選択する道はあまり多くない。

 まるで、誰かに語りかけるように、心の中に言葉を紡ぎだす。

 ――心を読まれても関係ないほどに速い動きで戦うか、心を消して戦うか。

 もちろん、タケルにはそのどちらを実行することも無理だろう。ネギにも楓にも刹那にも感知されず、またのどかの言葉よりも早く複雑に動くことなど、不可能。

 また、心を消すなどといった戦い方は特殊な訓練をつんできたような人間にしかできないことであり、ただひたすらに戦ってきたタケルに出来ることではない。それこそ不可能。

 ――もしくは。

 今まで決して生徒たちに向けてこなかったタケルの本当の心を投影する。

「「……!!」」

 タケルから溢れ出るソレに、刹那と楓が驚きで顔を染まらせた。

「……っ!?」

 タケルから溢れ出るソレを読み取った宮崎のどかが息を呑む。

「あ……ああ……」 

 ガクガクと膝を震わせ、顔は蒼白、ついには立っていられなくなりぺたりと腰を落とした。

「ちょ、本屋ちゃん!?」

 アスナの声にも、彼女は反応できない。

 ――心を消すことが出来ないなら、一つのことに心を傾けてやればいい。

 ただひたすらに、ただ一心に。

 タケルは向ける。

 ――殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺……。

 そう、圧倒的な殺意を。

「……~~~~っ!!」

 失禁。

 そして、失神。

 ガクリと、まるで糸が切れたように崩れ落ちた。

 タケルがボソリと呟く。

「一人」
「のどかさん!?」

 ――甘い。

 慌てて駆け寄ろうとするネギ。

 その決定的隙をタケルが逃すはずもない。先日の戦いで気絶させられる威力も把握している。一瞬で威力を調節してあったXガンを照準、2射。そのまま流れるような動きでガンツソートを手に取った。

「タケル先生!!」

 気付けば動じることなく背後をとっていた刹那の刀がタケルのソードとせめぎ合う。

「……さすがに」

 ――隙がない。

 タケルの言葉を遮るかのように、気付けば頭上にいた4人もの楓が何本ものクナイを放つ。慌てて下がろうとするが、今度は足元。刹那の刃がいつの間にか方向を変えて足を払っていた。

 体勢を崩され、たたらを踏んだタケルに、クナイが雨の如く降り注ぐ。

「……ぐっ」

 合計40本。それらを余すことなく受け止めたスーツはそれでもいまだに健在。ダメージはほぼゼロ。

 だが、彼女達の連携はそれに留まらない。クナイを受けて僅かに硬直してしまったタケルの隙を刹那が確実に捉えていた。

「神鳴流奥義!」

 愛刀『夕凪』を抜き身のまま、峰も返さずにタケルの懐で刀を一気に振り払う。

「!?」

 タケルの顔が驚愕に染まり――

「――斬鉄閃!!」

 気を刀身から螺旋状に飛ばして遠距離にある物体を破壊する技で、その威力は鉄をも両断する。それを、いうなれば至近距離でモロに受けた彼は一気に弾き飛ばされた。

「……っ」

 背中から地に落ちたタケルはその勢いのまますぐさま立ち上がり、油断なく対峙してフと呟いた。

「……二人」
「「?」」

 二人が同時に首を傾げたと同時。

 ネギが突如何かに殴られたかのように腹を押さえ、倒れこんだ。そうしてうずくまったと思えばさらにもう一撃。同じく殴られたかのように頭部を弾け、そのままうつぶせの姿勢で倒れこむ。

「ね、ネギ!?」

 アスナたちが慌てて駆け寄るが、既に意識はない。

「……心配しないのか?」

 お互いに睨みあったまま、視線を外すことなく投げかけられた言葉に、彼女達は無言で答える。

「「……」」

 まだ、彼らの戦いは終わらない。




 ――マズイな。

 少し目の前の彼女達を見くびっていた。

 もっと情にほだされやすい人間かと思っていたがさすがにこういった状況にも慣れているのか、隙を見せようとしない。

 それに加えて連携も見事。彼女達もある程度の手加減はしてくれているようだが、それでも純粋にこのまま戦うことになればジリ貧だろう。

 そろそろ本当に下に降りなければ、色々と余計な被害が出る可能性が出てくる。

 いや、あえていうなればそんなことは些細な問題だ。

 何よりも大きな危険。

 それらのことなど問題にならないほどに最大のピンチ。

 キュウウウウウゥゥゥ――

 小さく、だが確実に耳に届く、聞きなれたこの音。

 ちらりと自分の服の袖に目を配る。

「チッ」

 自然と舌打ちをしていた。

 漏れ出る液体。それを認識した途端に重さを感じさせる超兵器たち。

 ――つまり、スーツが限界を超えた。

 やはり、最大の原因は超鈴音の魔法『■■■■■』。

 あの攻撃に関して、ある程度はダメージを抑えたからこそまだ無事に動いていたスーツだったが、それでもやはり大ダメージを受けていたということだろう……トドメの一撃となった桜咲さんの『斬鉄閃』も相当大きかったはずだが。

 ――まさか、峰すら返さないとは。

 真剣で、しかも刃そのままにためらいもせずに振りぬかれた。

 直撃して即座に立ったにも関わらず、彼女達はそれを驚きもせずに当然のように受け止めていたことから、あの技では死ぬことはないと踏んでいたということなのだろうが。

 ――次にあれを食らえば死ぬな。

 ゾッとしない話だった。

「……ふうぅぅ」

 大きく息を吐く。

 それでも、やることは変わらない。

 彼女達を打倒し、下の星人を片付ける。

 彼女達は戦いなれている。簡単には倒せない。隙を作らせるための小さな餌では食いつきすらしないだろう。

 ――なら、食いつかざるを得ない餌を作ってやる。

 グッと息を飲み込み、口を開き、言葉を紡ぐ。

 星人の出現から既に、2分が経過しようとしていた。

 
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