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魔法少女まどか☆マギカ ~If it were not for QB~

作者:46熊
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屍話 抜け落ちる床

 『何、今更来たの?』
 『丁度良かった、掃除しておいてくれる?』
 『そんな……私、風邪で……』
 『少しは動かないと痩せないっての』
 『さっさとしろよ、このデブ』

 彼女の両手にかかる重圧、軽いはずのモップの重みに、彼女はよろめいた。


 ………………

 嫌な夢を見た。まどかは布団から出て鏡を見る。思ったよりもやつれていた。巴マミとこの世界で関わることはきっと無いだろう。あの先輩は強くて優しい、あんな事がもし現実に起こっている訳がない。

 あったとしても、あの人なら大丈夫に違いない。

 まどかは顔を洗い髪をとかし、制服に着替える。下に降りると、早起きしてきたまどかを意外そうに見つめる母親。まどかは少し不本意だったけれど。

 今日はさやかは大会前で早くに朝練に出掛けている。と言うわけでゆっくりできたはずなのだが、起きてしまったのだから仕方がないわけで。

 朝食を一気に平らげ、元気に挨拶して家を飛び出す。天気は雲一つ無い快晴、幸せなことが起こる予感……

 「何よ、これ……」
 「その……ご、ごめんなさい……」

 まどかが教室にはいると、ほむらの机の周りに人だかりができていた。仁美が泣いている。

 「どっ、どうしたのみんな……」
 「私が、昨日間違えて学校に起きっぱなしで帰ったら、今朝……」
 「酷い……」

 ほむらの机上には仁美から彼女が借りたノートが開かれた状態でおかれていた。

 ただし、思い浮かぶ限りの汚い言葉が書き殴られていたというおまけ付きで。あらゆるページに、しかも言葉の種類から見るに仁美にあてた言葉のように見える。

 事情を聞くと、小テストがあるというのにほむらがノートを学校に忘れていた事に気がついて朝早くに来たところこれを見つけたという事だった。

 一番はじめに教室にいたのはさやからしい。朝練が終わって体操服から制服に着替えていたところ、珍しくやってきたほむらが奇声をあげたらしい。

 「私、私……」
 「誰がこんな事……」
 「て言うか、暁美さんのせいでもあるんじゃないの?」
 「むしろさやかか暁美さんじゃないの?」
 「私がそんなことするかっ!!!!」

 さやかが机をたたく。無理もない、これは仁美のノートなのだ。親友のノートをこんな滅茶苦茶にするわけがない。

 ただ、最初に来たさやかがさんざん落書きをしたか、ほむらの自作自演である線が濃厚なのは確かだ。あくまで今日落書きがされた場合の仮定だが。だが、さやかはほむらがノートを借りたことを知っているにしても都合良く教室に忘れたことを知らない。となるとやはりほむらのせいと言うことになるのだろうか。

 「暁美さん、本当に貴方じゃないの?」 
 「私、そんなこと、して、ない……ごめっ、ごめんなさい……」
 「ちょっと見せて!!!!」

 まどかは仁美のノートを取り上げ、全てのページをめくる。証拠はない、それはそうだけれど……

 「これはほむらちゃんの字じゃないよ」
 「鹿目さん……」
 「ほむらちゃんの書く字、もっと落ち着いてて綺麗だもん。それに、ほむらちゃんはこんなことしないよ。出来るわけ無いよ!!」
 「……鹿目さん」

 仁美が静かに口を開く。静かに、だがおっとりした彼女からは想像もつかない激高した表情で。

 「誰が犯人でも構わないんですの。重要なのは……私に借りたノートを暁美さんがぞんざいに扱ったという事でしょう?」
 「仁美……」
 「良いですわ、所々読めないだけで私の頭にはだいたい中身も入っていますし、時間をかければ修復できますもの」
 「ごめんなさい、それ私がやりますから……」
 「貴方にそれを任せて、私は終わるのを何週間待てばいいんですの!!!???」

 仁美はノートを取り上げ、黙って自分の席に帰っていく。彼女はノートを自分の机の上に置き頭を抱え……

 ノートの上には、何滴もの雫が止めど無く落ち続けた。

 「少し時期も悪かったんじゃないかな……また後で謝ると良いよ。仁美さ、意外と荒いことあるけど、落ち着けばきっと……」
 「ほむらちゃんっ!!!!!」
 「待てよまどか、今はあいつも大変だと思うけどさ……」
 「さやかちゃんはほむらちゃんを放っておくって言うの!!!!? 私は嫌だ、かけてあげる言葉が見つからなくたって、ほむらちゃんの傍にいてあげたいよ!!!!」

 ほむらはその重圧に耐えかね逃げ出した。逃げてはいけなかったのに、自分が悪くないとしても、逃げ出しては周囲はそれを何と見るか。

 まどかはほむらを追って、教室を飛び出した。


 「はぁっ、はぁっ……ここに、居たんだね……ほむら、ちゃんっ……」
 「鹿目、さん……っ、げほっ、えほっ……」

 教室を出て右側と言うことだけしか分からなかったため、何度かの情報収集の末に屋上までたどり着いた。

 ほむらは自分の体力や精神的なストレスも顧みず走ったせいで呼吸が相当乱れており、かなり危険な状態だった。

 「ごめんっ、上手くフォローできなくて……保健室連れていくよ」
 「そん、なっ……これ以上、迷惑、かけ、られな……ごほっ、おほっ!!!!」
 「無理しないでほむらちゃん、ほら肩貸すから」
 「放してっ!!!!!」

 まどかの手を振り払うほむら。バランスを崩してよろめき、そのまま倒れこむ。

 「ほむらちゃん……」 
 「ご、ごめんなさい……私、どうしたらいいの……」
 「……大丈夫、大丈夫だから。ほら、保健室行こ?」
 「……本当に、ごめんなさい……」


 その次の数学の授業は最悪だった。本来ほむらが当てられるはずだった問題を別の人間が当てられほむらを当てにしていたその女性徒は答えられず、しかも先生(数学の教師は男)機嫌が悪かった為にクラスの雰囲気が最悪な物となってしまった。

 今朝のごたごたでいらついていた仁美が勝手にチョークを先生からひったくり答えをさらさらと黒板に書いて行くと、そのやり方にいらついた先生が仁美の頬をはたいてしまい、彼女は目に涙を浮かべながらも黙って机に戻って行った。


 ほむらの居場所は、無くなりつつあった……いや、元々無かったのかもしれない。 
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