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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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盗賊-フーケ-part1/板挟み少年一人

サイトはあの戦いの後、瓦礫の傍らから姿を見せた。とりあえずゼロに助けられたと適当に無事だった理由をつけると、目を覚ましたシエスタは彼に飛びつき、彼の胸の中で泣きわめき、ルイズはその姿を見て心なしか目くじらを立てた。
学院に戻ってきた時にはすでに夜明け前直前だった。学院から戻ってくると、馬小屋の前でルイズから説教された。
「また勝手にいなくなって…いったいいつになったら使い魔としての自覚を持つのよあんたは」
「…ごめん」
「それとサイト、次からは口を慎んでおきなさい。あんたの気持ちは理解できるけど、だからって言葉を選ぶことを忘れたら、貴族のほんのちょっとした気まぐれで殺されかねないわよ」
確かにあの時、下手な行動を取ったことで、主人であるルイズにも迷惑がかかってしまうかもしれなかった。わがままで、面倒くさくて、可愛げのない主人ではあるが、自分のとばっちりでひどい目にあうのは、本当なら我慢でならないこと。なのに自分は熱くなりすぎてそんなことも忘れてしまっていたのだ。これでは…周りの犠牲を顧みなかったゼロと全く変わらない…。しまいには変身してもあの様だった。俺は全く歯が立たなかった。
(俺は…未熟だ…)
「早く戻りましょう。罰は後でたくさん考えといてあげる」
ルイズがそう言って自室に戻って行った。
次に、入れ替わるようにシエスタやってきてサイトにお礼を言ってきた。
「サイトさん。本当にありがとうございました!」
「い、いや…俺は何も…」
「あの時、伯爵や怪物になったばあやたちから、私を守ってくれたじゃないですか!やっぱりサイトさんは、私たち平民の希望の星です!」
「え?」
サイトはシエスタの話に、一部なんのことかわからないことがあった。
「怪物になったばあやって、なんのこと?」
そうだ。そのばあやとやらのことをサイトは知らない。シエスタを助けに来たときは、すでに何もなかった。ただ一人、タオル一枚だけのシエスタしかいなかったことに奇妙なものを覚えさせらえただけだった。
「またご謙遜を」
しかしシエスタは気づかない。
「で、でも…俺結局何もしてないよ。ルイズたちにも迷惑かけちゃったし…」
その通りだ、俺は結局たいしたことなんか何もできなかった。キュルケが用意してくれたせっかくの家宝も無駄になってしまったし、タバサにはわざわざ使い魔の風竜を使わせてもらったり、ルイズに要らない心配をかけた。しかもあの怪獣との戦いで己の意思を無関係に本来のサイズと比べて一回り小さいサイズのゼロに変身してしまったのだ。そんなちっぽけな体で怪獣と真正面から渡り合うことなんてできないとわかっていたのに。ゼロによると、自分とゼロが一緒に戦うことを拒否しているせいだと言った。正直ゼロの周囲を顧みない戦い方は気にさわる。だからかもしれない。でも、結局それが原因で変身しても役立たずに終わったのだ。あの時現れた、銀色のウルトラマンがいなかったら…。そう思うと悔しくて仕方ない。
ふと、サイトは自分の頬にしっとりとしていてやわらかい感触が触れているのを感じた。その正体を知った途端、彼の表情は朱色に染まる。シエスタが、サイトへの感謝の印に、彼の頬に口づけしたのだ。
「じ、じゃあおやすみなさい!」
恥ずかしげに唇を話したシエスタはそのまま寄宿舎へ戻って行った。口づけされた頬に触れたまま、サイトはその場で呆然と立ち尽くしていた。
「へへ、なんでい相棒。役得じゃねえか」
『けっ…人の気も知らないで女といちゃつくとは、いい気なもんだぜ』
デルフのからかいじみた言葉も、ゼロの悪態をつくような言葉も、その時の彼の耳を突き通っただけだった。


地球…。
ハルナはその日、学校の予習も兼ねて図書館に来ていた。そして一つの本を見つけて手に取って題名を読む。題名は『異世界説』。胡散臭い本、といつもの彼女なら思う。だがそれでも彼女は机に座ってその本を読み始めた。好奇心からなのか藁にもすがる想いなのか。
内容は43年も前に空中パトロールで空を飛んでいた二機の対怪獣飛行兵器の内の一機が、日食の中に消えると言う奇妙な内容だった。
『私と彼が日食の光の先に見えた奇妙な穴に飲み込まれた時に見たのは、見たこともない大地だった。建物のつくりはとても私たちの国のモノとは様式が違っていた。上空から見た花畑、あれは私が見たこともなかった美しい花々だった。
そして何より驚いたのは、竜だった。偶然私の隣に、小さな竜が興味深そうに私たちの顔を覗き込みながら横に並んで飛んでいたのだ。日本の屏風に描かれたものというより、西洋人の考えた想像上のドラゴンに近かったが、それでも私は確かに見たのだ!この世の生き物であるはずがなかった、竜を!怪獣というにはとても大人しいものだった。
私は思った。我々は、あの日食の先を行き、異世界にたどり着いたのだと!』
ハルナは、無意識に呟いた。
「異世界…」
文章には、あまりにもファンタジックな単語が使われていたのだ。
公式には任務中で殉職したとされていた。だが、この本を記した人物は、戦友があの日食の中で死んだことを否定していた。引き返す直前に、この本の執筆者はこう記していた。
『できればあの竜と触れ合ってみたかったが、このとき日食が終わろうとしていた。あの日食が終われば、私たちは帰れなくなる。そう予感した私はすぐ相棒にハンドシグナルで、あの日食に向けてもう一度戻るように知らせ、彼も同じように予感したのか頷いた。だがそれが私と彼の最後の対話となったとは夢にも思わなかった。日食の光の向こうへ着いたとき、日食は終わっていた。私は戦友の姿を確かめようと明るくなった周囲の空を見渡してみた。だが、彼の姿はどこにもなかった。通信を行ってみても応答はない。私は絶望感を抱いた。あいつ一人だけ取り残されてしまったのだ』
この本を記した人物の機体はすぐに引き返してきたらしいが、もう一機は行方不明だと言う。いなくなったパイロットの名はどうしてか破かれていた。マナーの悪い客もいたものだ。
『私は死ぬその時まで、必ずあいつのいる異世界への道を突き止めてみせる。そして、もう一度あいつに故郷の大地を踏ませてやりたい。きっと一人孤独に異世界の空気を吸って故郷を恋しがっているだろうからな。
もし眉唾物臭いこの話を信じてくれる者がいたら、どうか…どうか私と共に、もし私が死した後ならばこの意思を受け継いで彼を故郷へ連れ戻してほしい。故郷を愛するために戦い続けてきたあいつを。かつてゴース星人に誘拐された私を救ってくれた誇り高き戦友「ウルトラセブン」のように…。
元ウルトラ警備隊 アマギ』
文章はそこで終わっていた。
SF臭い上にファンタジックさ溢れる果てしない話だったのだが、ハルナは決して悪い気持ちにさせられなかった。寧ろ、彼女の心に希望が芽生えてきたのだ。
(待てよ…もしこれが本当なら平賀君は…!)
生きている!それも、異世界でだ!
しかし、いかに調べたとてサイトが本当に異世界で生きているかどうか定かになったわけではない。証拠もないままなのだから。だんだん彼女はこの異世界説に興味を沸かせた。サイトを一途に思うその想いは完全独奏、止まることを知らなかった。彼女はとにかく、異世界につながるものは何かないか、調べ上げていった。
そうすると、次に面白い話を発見した。
内容は、『宇宙で生まれ、宇宙に殉じた英雄』という約5年前の記事。記事を読み上げていくハルナだが、後悔した。今度の記事は、残酷な内容を孕んでいたのだ。
『バン・ヒロト。
享年18歳。火星で再出される資源『スペシウム』回収プロジェクトの参加者にして、プロジェクト責任者兼宇宙船『アランダス』の船長を務めた惑星地質学者「バン・テツロウ」の子。
突如発生したウルトラゾーンの誘引力によってアランダスが飲み込まれそうになった際、スペシウムを積んだ貨物へたった一人乗り込み、貨物船とアランダスと切り離し、貨物共々ウルトラゾーンへ消えた。その後、GUYSのウルトラゾーン調査によって遺品が発見。遺体は見つからなかったが、発見された辺境の星がレッサーボガールの巣窟であったため、遺体は捕食された可能性が高い。
火星で生まれ、地球の大地を踏めなかった悲劇の英雄。
彼を守れなかったウルトラマンメビウスは、地球人「ヒビノミライ」として留まるために彼の姿を借りたと言う』
なんてことだろうか。異世界かどうかはわからないが、ウルトラゾーンという穴に飲み込まれたこのバン・ヒロトという青年は生きて帰ることが叶わなかったという。
よくよく考えれば、二機の飛行兵器の一方のみが返ってきた、その記録の筆者が戦友を見つけたという記述はどこにも見当たらない。つまり、たとえ異世界が存在していると言う確証が持つことができても、それがサイトを連れ戻すための手段になるわけではないし、保証が付く訳ではないのだ。
この残酷な記事の著者を、ハルナは恨みたくなった。
またしても途方に暮れるしかなくなった。一体ここからどうすればいい?どうしたらもう一度サイトに会えるのだろうか。アンヌを安心させてあげたい、サイトにもう一度自分の目の前で笑って話をしたい。一途に思いを強めていく
もう夕方だ。家に帰らないと、両親の雇ったハウスワーカーの人が心配する。彼女は図書館を出て、一人寂しく帰り道を辿って家へ戻っていく。
「平賀…君…どこへ行ったの…?」
顔を見たい、声を聴きたい。言葉を交わしたい。
もう一度、触れたい…。夕日に照らされた彼女の頬を滴り風に溶けて行った涙は、黄金色に輝いていた。

先日の一件で、ゼロはサイトへの評価を著しく格下げしていた。自分の意思とサイトの心が全く釣り合わず、よりにもよってたったの5m程度の大きさにしか変身できず、しかもノスフェルに全く歯が立たなかったことに不平を漏らさずにはいられなかった。
『ったく、お前のせいでこの前の戦いはさんざんだったぜ』
そろそろその日の授業がすべて終わり、教室を後にするルイズを迎えに行くサイト。その日はずっと他のメイジたちが使役する使い魔たちが待機している中庭や、シエスタたちのいる厨房に行ったり来たりの繰り返し。それ以外は、ゼロと会話の時間だった。人目にある場所が多い上にサイトが一人でいられる時間も限られているので、ゼロとの会話は互いの不満が降り積もる状況下だと、ずっと言わずにいた鬱憤晴らしを互いに吐き散らす時間になりつつあった。
「なんで俺だけを責めるんだよ」
実際あのチビトラマン状態の原因の一端はゼロ自身にもあるのにそれをゼロは認めようとしていない。納得しかねるとサイトは、左腕に装備されたブレスレッド状のテクターギアを通してゼロに言いかえす。
『お前は黙って、俺に体を貸しておけばそれでよかったんだよ。だってのに、余計なことしやがって!』
その自分勝手な言い分にサイトは苛立ちを覚える。
「あのな!お前らウルトラマンは地球やそれに酷似した世界じゃその姿を長く保てないんだろ?つまり俺というアパートの提供者で、お前は家賃を払いながら住まわせてもらってる住人。屋根の下ではそこの規則に従うのが筋ってもんだろうが。なのにその口のきき方はないだろ!」
『うるせえ!!わけのわからねえことをごたごた抜かしてんじゃねえよ!お前だって地球でクール星人に襲われた時は俺のおかげで助かったようなもんじゃねえか!』
とても同じ体を共有している者同士とは思えない。完全な喧嘩状態だった。
「…出てけ…!!」
ついに我慢ならなくなったサイトはついに、ウルトラマンと同化している人間が最も言うべきことではなかった言葉を言い放った。
『へ?』
「お前とは正直そりが合わないし、かえってことがやっかいになりかねない。今すぐ俺の体から出てけ!!」
それを聞いてゼロもわざと鼻で笑い飛ばすような
『ああ、そうかよ!だったら言われた通り出て行ってやんゼ!後で後悔して吠え面かくんじゃねえぞ!!』
ここまで来てしまったのならもうこいつと同化する意味はない。こいつの望み通り今すぐ分離してやる!サイトの精神内のゼロは頭上を見上げ、すぐに飛び立つ姿勢に入り、空高く飛び上がろうとした。その時、偶然にもサイトの左手のルーンがきらりと青く光った。
しかし、一分後………。
二分後……。
三分後……。
「…おい、ゼロ」
『…あ?』
しばらくの沈黙を、サイトが破った。
「なんでまだテクターギアが俺の左腕にまかれたマンマなんだよ。なんでまだお前が俺の中に居やがるんだよ?」
『知らねえよ!俺が聞きてえっての』
これはどうしたことか。サイトとの分離を謀ったゼロなのだが、どういうわけか未だサイトと一体化しているままだった。一体なぜ?原因のわからない現象に疑問を募らせる二人。すると、サイトの背中に背負われていたデルフが鞘から顔を出してきた。
「あ~相棒。もう一人の相棒とは同化してるって言ってたよな?もしかして娘っ子と契約する前に同化しちまったのか?」
「あ、ああ…」
頷くサイト。
「多分そのせいだな。娘っ子と使い魔の契約を交わした時にゼロも同じ体を共有していたことで、あの娘っ子の使い魔としてゼロもカウントされちまったんだ。そのせいでガンダールヴのルーンが、二人が分離するのを邪魔しちまってんだよ」
さっきどうしてかルーンが光っていたのはそのせいだった。サイトの持つガンダールヴのルーンが、二人を繋ぎとめる、決して絶つことのできない鎖となって二人の分離を邪魔していたのだと言う。
『んだそれ!!俺があんなチビ女の下に着いたってことなのかよ!?っざけんなっての!!俺は死んでも嫌だっつーの!んな厄介な役割は全部サイトの役目だろうが!』
ゼロとしては、ルイズの下僕として彼女に一生仕えたままの人生なんてまっぴら御免のようだ。
「だーーーーもう!人の頭の中でギャーギャー喚いてんじゃねえよ!!」
頭の中で絶望の喚き声を上げるゼロに、サイトもまた喚いて黙らせようとすると、サイトは急に後頭部を叩かれた。
「痛!?」
「あんたこそ神聖な学び舎で何をそんなに喚き散らしているのよ!!うるさいったらないわ!」
振り向くと、授業を終えてきたルイズ・キュルケ・タバサの三人がそこにいた。
寮に戻っている途中、サイトはルイズからねちねちと説教されていた。他の生徒の迷惑になるからギャーギャー喚くなとか、邪魔になるような場所をうろつくなとか、女子生徒のスカートを覗くような真似をするなとか、主人というよりもまるでどこか母親臭い内容だった。実際キレたルイズもうるさすぎて敵わないが…。
「全く、使い魔やっている以上はちゃんとそれらしく様になるようにしておきなさいよね」
ふんと不機嫌そうにふんぞり返るルイズを見て、サイトは頭の後ろを掻く。そんな二人を見てクスクスと笑いながらキュルケはサイトを見る。
「ねえダーリン。ダーリンってウルトラマンに詳しいでしょ?あの銀色の巨人は見たことないの?」
キュルケからそう言われると、サイトの脳裏に、モット伯爵の屋敷周辺で遭遇したあの銀色のウルトラマンの姿が浮かぶ。突如現れ、怪獣を倒して苦戦していた自分を結果的に救う謎の戦士。まるであの時の自分とあの巨人は、数年前に怪獣との戦いで苦戦を期したメビウスと初めて世間にその姿を見せたときのツルギのようだった。
『ゼロ、今はわだかまりなしで聞くぞ。あの銀色の巨人は誰なんだ?』
あれから一つできるようになったことがあった。直接口に出さず、サイトとゼロが互いに言葉を交わす、つまり同化している者同士のテレパシーができるようになった。気づくのが遅かったが、正体を隠しつつ怪獣や星人と戦う道を選んだ者にとって結構便利な能力だ。
『知るかよ。俺の故郷はたいていシルバー族・レッド族・ブルー族の三つに大まかに振り分けられる。けど、あんな姿のウルトラマンなんか見たこともない。シルバー族かブルー族に近い顔だったけど、あの時のウルトラマンはその二つの族の特徴がほとんどなかった。あの枝分かれした形のカラータイマーみたいなのもそうだったし、どの族にも当てはまらない。宇宙警備隊にもあんな姿の奴はいなかった』
そうか…完全未確認の、新種のウルトラマンということなのだろう。そう結論付けたサイトはキュルケに向かって首を横に振った。
「わからない。俺も初めて見るウルトラマンだった」
あんな姿のウルトラマンは直接見たら一生忘れることはない。それだけ変わった姿をしていた。
「そういえばキュルケ、伯爵に渡そうとしていたあの家宝の書物って、結局なんだったんだ?」
「あら、あんなのに興味あるの。昔、私のご先祖様が召喚の儀式を行ったら突然ゲートから出てきたものよ。何の文字で書かれているのかわからないのと、女性の絵を描いたものみたいだったけど、興味のない内容だったからもしもの時の交渉材料として持たされたの」
家宝をあんなの扱いって…。キュルケはよほど興味を持っていなかったらしい。いや、興味を持ってもいないキュルケに持たせたあたり、実家のご家族も興味がなかったのではと思われる。
「ねえダーリン、そんなものよりももっといいものがあるのよ。ちょっとついてらっしゃい」
「え、おい、おいキュルケ!」
「ちょっとキュルケ!人の使い魔をどこに連れて行くつもりよ!待ちなさいってば!!」
急にサイトを引っ張り出すキュルケ。そんな彼女を、いつものような不機嫌顔で彼女を追いかけて行った。

ルイズたちが授業を受けている間のこと…。
学院長室でロングビルは書き物を一通り終えると、オスマンの方を向く。机に伏せて眠りこけていた。すると、彼女はまるで物語に登場する悪役の女性のような、妖艶な笑みを浮かべだす。周囲の音を消す『サイレント』の魔法をかけ、学院長を出る。今の時間は生徒は廊下を通らない。その上教師は授業に当たるものや職員室にこもっている。侵入者対策に、平民の衛兵とは別に教師による見回り当番を設けているのだが、どうせ賊など来ないしたいした相手でもないと言う慢心と油断が大きな隙を見せていた。
今、ロングビルがこうして宝物庫の前に立っているように。しかし、この学院の教師であるはずの彼女がどうしてここに来たのか…?
「扉に欠けられし戒めを解き放て」
彼女は宝物庫の錠を杖で軽く叩いて見せた。アンロックの魔法である。しかし何も起こらない。いや、まさかこんな重要なものを隠してそうな扉にコモンマジックが通じるはずもないか。なら、自分のような土のメイジが得意とする『錬金』ならどうだろう。宝物庫の分厚い扉に向けて杖を振った。魔法が扉に届きはしたが結局それだけで、待ってみても扉に変化はない。
「スクウェアクラスのメイジが『固定化』をかけていたってことね。全く手間ばかりかかるねぇ。何かいい手段はないかしら…?」
メガネを駆けなおしたロングビル。自分は土の魔法に関してエキスパートだと自負しているが、得意の錬金を全く受け付けないとなると扉を開けるのは困難だ。
「そこで何をしているのですか!?」
見つかった!?ロングビルは驚きはしたが、すぐに振り向こうとはせず、冷静にゆっくり背後を振り返ってみる。そこにいたのは、ルイズたち二年生の春の使い魔召喚の儀式に付き合っていた、同じくこの学院に努めている中年の男性教師、コルベールだった。
「おや、ミス・ロングビル。なぜここに?」
てっきり狼藉者かと思っていた彼は目を丸くしている。ロングビルは愛想のいい笑みを見せて言った。
「ミスタ・コルベールでしたか。いきなり話しかけられたので驚きました。宝物庫の目録を作ろうと思ってきたのですが、うっかりオールド・オスマンから鍵をお借りするのを忘れてしまって…」
「それは大変ですね。ここの宝物庫はひとつずつ見て回っても一日以上はかかりますぞ。ガラクタもひっくるめて所狭しと並んでおりますから」
「あ、そういえば学院長は今眠ってしまわれてたのを忘れてましたわ。あの方は一度寝るとなかなか起きませんのに困りましたわ…」
「やれやれ…あの学院長は…。後で私も伺うとしましょうか」
「助かります」
宝物庫の鍵のことは後にしよう、そう決めたロングビルはコルベールと横に並んでこの場を後にしていった。ふと、彼女はコルベールに尋ねてみた。
「ミスタは宝物庫の中にお入りになったことは?」
「ええ、まあ」
「では、『破壊の杖』のことはご存じ?」
「ああ、あの破壊の杖ですか。あれは杖というには奇妙な形をしておりましたよ。説明のしようがございません」
「そうですか…。それにしても宝物庫のつくりは立派ですわね。どのようなメイジでやっと開けられることやら」
「そうですな、メイジでは開けることは不可能と聞いております。ですが私はあの扉に弱点があると考えております」
「そ、それはなんですの?」
思わず飛び跳ねるような声を上げかけたロングビル。その弱点に興味を抱いていた。
「物理的な力ですな」
「物理的な力、ですか?」
「ええ、巨大なゴーレムとかでしょうか。まあ、最も物理的な力といっても、頑丈な作りとなっておりますからな。そう簡単には開けられますまい。敢えて言えば…」
ふむ、と顎に手を当てて考え込むコルベール。真を終えると彼はこう答えた。
「そう、最近あの平民の少年が名を広めたと言う『ウルトラマンゼロ』。彼ほどの腕力が必要かもしれませんな。何せ、学院を襲撃してきた円盤だけじゃない。城下にも出現した怪獣に強烈な打撃を与えましたからな」
「はぁ…」
ウルトラマン並のパワー。そう聞いてロングビルは悩んだような表情を浮かべた。
(ウルトラマンねえ…『あいつ』がゼロって巨人の話を聞いたらどんな顔してただろうね)
ちょうど廊下の窓の前に差し掛かったところで、ロングビルは外の夕日の景色を眺めたのだった。

夜。ルイズの部屋ではもめごとが起こった。
「どう、ダーリン?この黄金の剣、ゲルマニアのシュペー卿が鍛えたと言う業物よ」
キュルケが、あのトリスタニアでディノゾールがゼロに倒された後、店を壊された武器屋の主人へのささやかな援助を兼ねて、彼が最も高く売りさばいていた黄金に輝く剣を買ってきたのである。ちなみに色仕掛けで500エキューにまけてもらっていた。せっかく高い値段で売ろうと思っていたのに、キュルケの色香に惑わされた武器屋の親父は後悔のあまり酒にありついているだろう。すでにデルフをサイトに与えたルイズとしては非常にいい気分ではない。
こんな騒ぎの中、キュルケと一緒に来ていたタバサは部屋の椅子に座って本を静かに呼んで我関せずと言った様子だ。
「あ、あの…」
答えにくそうに言葉を詰まらせるサイト。それもそのはず、この剣は実際業物というには程遠いなまくらだとゼロが判断したものだ。気に入らない奴だが、要らない嘘をつくような奴じゃないと思う。だから余計に困るのだ。
「キュルケ、サイトが困ってるじゃない。そんな剣をもらったところで、もう剣は間に合ってるの。ねえサイト?」
「あ、うん…」
「ダーリンだってあの剣が欲しかったんじゃない?ルイズの買ったぼろ剣よりも役に立つはずよ」
「あ、うん…」
どうしよう。二人の女性から贈り物をされたシチュエーションにどこか喜びもあったサイトだが、彼のようなごく最近までモテもしなかった男はこの対処法について考えないままなのが大抵な話だ。
『おいサイト、そんな役に立たねえ剣捨てとけばいいだろ?』
きっぱり容赦なく捨てろと催促する、サイトと同化しているゼロ。容赦ない宇宙人だ。
『そうもいかないだろ。女の子がくれたものをないがしろにするってのはちょっとさ…』
いかにほぼ同年代に見えて外見・精神共に大人びて見えるキュルケでも、自分の与えたものを捨てられたりしたらいい気分でないのは目に見えている。
『バーカ、あれはお前の気を引くための餌でしかねーだろ。どうせ別の男が現れたら、すぐにお前から乗り換えるに決まってる』
ゼロからすれば、どうせサイトとも遊びでしかないし、冷たくしたところでたいしたダメージにもならないと判断していた。
『それはわかるよ!それは。でも…もらわなかったらそれはそれで…なんかキュルケがかわいそうだろ?』
『ちっ。甘い奴だな』
優柔不断な宿主に、ゼロは呆れる。といっても、これはゼロ自身現在の状況について全くの無関係な第三者だからできることである。
「まったく、嫉妬はみっともないわよヴァリエール」
キュルケは勝ち誇った様子で言うと、ルイズはムキになって反論する。
「嫉妬ですって?誰がよ!」
「だってそうでしょ。サイトが欲しがってた剣を手に入れてプレゼントしたのが私だから嫉妬してるんじゃなくて?」
「だ…誰がよ!やめなさいよね!ツェルプストーからは豆の一粒だって恵んでもらいたくないだけだから!」
ヒートアップする不倶戴天の敵同士の二人の言い争い。サイトはどうしたらこの状況を抜け出せるのか悩む。ふと、キュルケがくれた剣とルイズが買ってくれたデルフを見る。どうしよう…。黄金の剣をこのまま黙ってもらうことにルイズは間違いなく癇癪を起す。かといってキュルケが庭付きの屋敷を買えるほど高い金を払ってまで買ってくれた(実際はたったの500エキューだが)この剣を突っ返すことも気が重い。
「ほら、ごらんなさいな。サイトは私の剣を気に入ってるみたいよ」
二つの剣を見て悩んでいるサイトを見て、キュルケは勝手に彼が名残惜しげに黄金の剣を見ていると判断した。
「これだからトリステインの女ってお堅いのよ。ヒステリーでプライドばかり高くってどうしようもないわ」
ルイズはぐっとキュルケを睨んだが、ひるまず彼女もキュルケに言い返す。
「へ、へんだ!あんただってゲルマニアで男をあさりすぎて相手にされなくなっただけでしょ!だからトリステインにわざわざ留学までして、色ボケの癖にご苦労なことね」
すると、余裕の笑みを浮かべていたキュルケの目つきが変わる。
「へえ…魔法も胸も女としてもゼロなあなたが言ってくれるじゃない」
「何よ…本当のことでしょう」
バチバチバチと、二人の視線上に火花が走り出す。すると、会話に一度も入ってこなかったタバサが本から目を放して、ルイズとキュルケに一つ提案を出した。
「本人に選ばせる」
「え!?」
俺に振るの!?できればこのままほとぼりがさめるのを願っていたサイトだったが、それもかなわぬ望みとなる。
「そうね。あんたの剣のことで揉めてるんだから。サイト、選びなさい」
「どっちがいい、ダーリン?」
サイトは必死に考え込む。この選択はいうなれば、ルイズかキュルケ、付き合うならどっちだ!?と尋ねられているようなものだ。
ルイズは容姿はなかなかサイト好みで、素直じゃない上に癇癪持ちで短気だが、モット伯爵へ自分が独断で向かった時は見捨てようともせず自分を助けようとする優しい一面がある。だがキュルケは目の覚める大人の美人女性といった感じ。彼女のような美人に好かれることは一生あるか無いか。
『なあゼロ、助けてくれよ…』
どうしようもないからって、ゼロに助けを求めてしまうサイト。男としてちょっと情けなく見える。
『あのな、お前がとっととあのデルフってのを選ばないから悪いだろうが。どうせ俺がキュルケの剣を捨てろとか言っても聞かないだろ?だったらお前が選べ』
案の定あっさりと一蹴されるサイト。タバサもこの選択の提示者だし、あの子はサイトを助ける義理もないから当てにできない。さあこれで後がない。サイトはスネ毛真拳奥義『思考の構え(新世界の神キラに立ち向かう名探偵Lの構え)』を取って考える。

―――どうする?どうするんだ地球人平賀才人!!

R1 ルイズの買ってくれたデルフ
L1 キュルケの買ってきた黄金の剣

カチッ、カチッ、カチッ、カチッ…。
時間と共に悩むことのできる時間が短くなっていく。すると、サイトはグワ!!と目が飛び出るほど刮目した。
(こうなったら、奥の手だ!)
奥の手、この危機的状況で聞くほどかなり魅力的なものに聞こえるだろう。しかし…。
「両方ともって、だめ?」
結局優柔不断なサイトだった。てへっとかわいく言うが全然かわいくない。両方というあいまいな選択を聞くや否や、ルイズはともかくキュルケまで怖い目つきでサイトを睨むと、二人同時に、とても対立する者同士とは思えないほど行きぴったりな、ウルトラゼロキック・またはある獅子の名を持つ戦士の『レオキック』顔負けの強烈な蹴りをサイトの顔面にお見舞いし、サイトは床に転がった。

最近トリスタニアで噂される、トライアングルクラスの泥棒メイジ、『土くれのフーケ』。
彼女は主に貴族の屋敷、それも相当の成金や権力に縋る豚のような貴族の屋敷に忍び込み、そこの宝石・財宝・マジックアイテムを盗み出すことを生業としている。
彼女は主に錬金の魔法で屋敷の壁・扉・床を二つ名の通り砂や粘土に変えてしまい、保管されている財宝を奪い取っていく。捕まえようにも神出鬼没なうえに、いざ戦闘に入って捕まえようとしても彼女は巨大ゴーレムを作り出し、複数の魔法衛士をあっさりと蹴散らしてしまう。だからここではすでに女性であることを明かしてはいるが、フーケの名を聞いたことのある者さえ、男性か女性なのかさえわかっていない。
土のトライアングルクラスのメイジ、そして盗みを終えると『○○、確かに領収しました。土くれのフーケ』と明らかに相手を馬鹿にしているようなふざけたサインを残すのだ。
そんな彼女だが、今夜の双月に照らされている魔法学院の中央の本塔の外壁を登っていた。長い新緑色の髪をなびかせ悠然とたたずむ姿は、まさに国を恐れさせる怪盗の風格を漂わせている。
「物理攻撃が弱点とか言う割に、やはり頑丈にできているね。固定化以外の魔法をかけてないみたいだけど、私のゴーレムじゃ穴をあけられないか…」
錬金もゴーレムの攻撃でも宝物庫の突破は不可。歯噛みするフーケ。
(だからってここで『破壊の杖』を諦めるわけにはいかないね。あれだけのお宝は滅多に聞きもしない。珍しいものほど高く売れる。村で待ってる『あの子たち』のためにも必ず…)
何か薄汚い私利私欲ではない、使命感を帯びたような目で彼女は宝物庫の壁を見下ろす。
ふと、フーケは近くの塔で何か奇妙なことが起きているのを目にした。地上を見ると、見覚えのある生徒が三人、そしてもう一人黒髪の少年がメガネの少女の乗る竜から、ロープでぐるぐる巻きにされている状態でレビテーションの魔法で浮かされた後に塔から吊るされていた。
(あいつらは、確か…ゼロって呼ばれているヴァリエールの御嬢さんたちか。例の使い魔君もいるね。私が言うのもなんだけど、こんな時間に何しているんだい?)
あそこはちょうど宝物庫の壁だ。あまり目につくと怪しまれる。見られないように彼女は、サイトたちに見られないよう物陰から覗き見る。
「悪かったよ二人とも…ちゃんと選ぶから、下ろしてくれよ…」
吊るされているサイトは懇願するが、ルイズとキュルケは聞いていない。
「悪かったのは私たちの方よ。最初からこうすればよかったわ。ねえヴァリエール」
「そうねぇ、このやり方の方が一番はっきりするもの」
「いいこと、ルイズ。あのロープを切ってダーリンを地面に落としたほうが勝ち。勝った方の剣をサイトが使う。これでいいわね」
「いいわ。貴族に二言はないわよ」
なんとも馬鹿な決闘の形である。サイトのせいもあるが、この決闘は奇妙さの塊だった。
勝手に話をトントン拍子に決められていく様に、完全に決闘の生贄にされたサイトは「馬鹿!鬼!」と二人に罵声を浴びせたが一切聞かれなかった。
「なあゼロ~、同じ体を共有する男の危機だぜ。なんとかしてくれよ…」
同化しているゼロに助けを求めるサイトだが、ゼロは澄ました声でサイトに言う。
『あのな、こんな高さから落ちて死ぬわけねーだろ』
「それはお前が宇宙人だからだろ!俺たち地球人は死んじゃうの!!」
『俺と同化してるから肉体強化はされてるだろ。だったら今の体の頑丈さを知ることができてよかったじゃん?』
「この野郎…!!なんで俺はこんな奴と合体したんだろ…平賀才人一生の不覚…」
『な、なんだと!!!?』
以前サイトに言ってやったセリフを返されたゼロは納得しかねる様子で声を荒げた。と、その時にはすでにルイズの杖に光が灯っていた。
「サイト、避けるんじゃないわよ!いいわね!」
「え、あ、ちょっと…うおおおおお!!?」
サイトの断りを入れる間も与えず、ルイズは火球を出す魔法『ファイヤーボール』を出す。…が、やはりただの爆発。それもサイトのすぐ後ろの壁付近で爆発が起こる。まるで自分の至近距離でダイナマイトをぶっ放されたような感覚に、サイトは恐怖する。
「こ、殺す気かルイズ!!」
「あはは!さすがゼロのルイズね。壁に爆発を当てるなんて」
しかしルイズはサイトの心配をしていない。せめて爆風でロープが切れてくれたらと思っていたが、残念ながらそうはならなかたようだ。悔しくて顔が自然と歪む。
だが、このときフーケにとって思いもよらないことが起こる。なんと、たいていの魔法でも物理攻撃でも破れないであろう宝物庫の壁に、根深いヒビが入ったのだ。
(な…落ちこぼれって言われたヴァリエールんとこのお嬢様の魔法で壁が!?)
正直落ちこぼれ扱いされているルイズの魔法だから、ルイズ曰くちょっとした失敗で教室一つを吹っ飛ばす威力はあっても、宝物庫の壁にヒビを入れるなんて自体が起きるわけないとなめきっていた。信じられないものを目にしたが、これはこれでチャンスだ。ヒビさえ入っていれば、あとは自分一人でもどうにかできそうだ。
すると、ルイズとキュルケの闘いは、今度はキュルケのターンに回っていた。彼女は日のトライアングルメイジ。ファイヤーボールなどお茶の子さいさい。すぐに詠唱を終えて火球を放つと、あっさりとサイトのロープに当たり、焼き切れたことによってサイトが落ちてきた。
「んぶおおおおお!!?」
悲鳴を上げて落ちていくが、タバサがあらかじめ詠唱していたレビテーションのおかげでたいした怪我はなく、ロープもすぐに解いてもらった。結局ルイズの負けが確定し、彼女は勝利を喜ぶキュルケとは裏腹に、悔しそうに草をむしり取った。
すると、突如ズシンと重みのある地鳴りが響く。巨大な何かの気配。サイトたちはその気配を目で追うと、そこにはどこからか現れた、推定30メートルほどの土のゴーレムがこちらに向けて歩いてきていた。
「きゃああああ!!」
キュルケは悲鳴を上げて逃げ出す。タバサはすぐシルフィードを滑空させ、彼女を乗せる。後はルイズとサイトだけだが、自分たちとサイトたちの間に割って入る形でゴーレムが割り込んでいる。彼らの脱出の邪魔になっていた。
「く!」
不味いことに今のサイトは武器を持っていない。素手で戦うか?今ならゼロと同化している影響でなんとか行けるかもしれない。
『サイト、ルイズの奴一人で出やがったぞ!』
「え!?」
サイトはゼロから言われるや否やルイズを探す。すると、彼女は杖を構えサイトをかばうように彼の前に立ってゴーレムを対峙していたのだ。
「サイト、逃げなさい!」
「ルイズ何言ってんだ!」
「今のあんたは丸腰じゃない!そんな状態でゴーレムと戦うこともできないわ!」
「そう言うお前だってまともに攻撃魔法とか使えないだろ!!」
「う、うるさいわね!やってみなくちゃわからないじゃない!」
図星を突かれてルイズはぐ…と憤りをこらえたが、こちらを襲ってくるのではと考えているルイズたちの予想とは裏腹に、ゴーレムはルイズたちに目もくれていない。巨大な拳を振り上げ、ゴーレムはその拳を宝物庫の壁を殴りつけると、ルイズの魔法で入れられた亀裂がさらに広がり、絶対に破られないはずの宝物庫の壁が、ついに粉々に打ち砕かれたのである。すると、ゴーレムの背中から、そしてむき出しの宝物庫の中へ飛び込む人影が見えた。フーケである。彼女は宝物庫の中にある、手持ちサイズの宝石をほんの少しローブの下にしまい、壁に掛けられた一つの1メイルほどの箱に目を付ける。珍しい鉄製の箱。それを開くと、とても魔法の杖には見えない鉄製の筒が入っていた。これが『破壊の杖』らしい。これは結構重かったが、運べないほどの重量ではない。彼女は破壊の杖を箱にしまいこむと、壁にいつものメッセージを残してから、ゴーレムに飛び乗る。
「感謝するよ!」
勝ち誇るようにフーケが地上のサイトたちに言い放つと、ゴーレムは彼女を乗せながら学院の外へズシンズシンと歩き去って行った。深追いするべきではない、タバサはそう判断して敢えてフーケを追わなかった。キュルケたちのことも心配なので地上に降りた。
サイトは、去って行ったゴーレムの方角を見る。
「あいつ、一体何を…?」
「宝物庫を破ってた」
タバサが一言だけ説明を入れた。宝物庫?その響きだけですぐに何をしたか読み取った。
「泥棒ってわけか、にしてもずいぶん派手な盗みっぷりだな…。ルハ○ンもびっくりかも」
宝物庫から出てきた時に入った時には持ってなかった荷物を抱えていたから、間違いなくあの人物が盗みを働いたことがわかる。しかし二次元でしか見たことのないような泥棒をこの目で見るとは思いもしなかった。
「?」
サイトの言っていたルハ○ンと言う単語に首を傾げるタバサ。するとルイズとキュルケの二人がサイトとタバサの下に駆け寄ってきた。怪我はなさそうだった。
「なあルイズ」
サイトはふと、さっきルイズが自分をかばうようなことをしてきたことを思い出して声をかけた。
「何?」
「どうしてあの時、俺を…?」
『別に守ってもらわなくてもよかったのにな』
『ゼロ、お前ちょっと黙ってろ』
空気の読めない言葉をぼやくゼロを、サイトは心の中で黙るように言う。
「馬鹿ね」
ルイズはきっぱりサイトに言った。その時のルイズが、夜の双月よりもずっと輝いて見えたような気がした。
「使い魔を見捨てるメイジは、メイジじゃないわよ」

一方で、破壊の杖の入手に成功したフーケは早速箱の中身を探る。やはり杖というには変わった形をしている。大きな鉄の筒にしか見えない。ためしに呪文を唱えて簡単なコモンマジックを使ってみる。だが、何も起こらない。探知(ディテクトマジック)で確かめてみても、魔力は一切感じられなかった。
「ったく、手に入れたのはいいけど、使い方がわからないんじゃあねえ…」
しかし彼女はここで一計を思いつく。ギーシュの決闘の際、彼に勝利したサイトである。
(学院長のジジィの話によると、あの子はあらゆる武器を使うことができたって話だ。なら…ちょっと賭けてみるか。このまま使い方も知らないままじゃ、売りさばいても高い金を期待できそうにないからね)
もうこの時点で、いや…その前からすでにお気づきになっている人もいるだろう。フーケは頭を包んでいたローブを脱ぐ。月光に照らされたその美貌溢れる顔…。
それはオスマンの秘書であるはずの女性教師、ロングビルだったのである。
フーケは、ゴーレムから降りてただの土の山にすると、ちょうど目についた近くの古びた廃屋に向かった。
しかしこの時、まさか彼女のすぐ下の地中にて、ある『脅威』が眠っていたことに誰が気づいたのだろうか。
『GULLLLLLL…』
猛獣の鳴き声のような、そんな音が彼女のいた遥か地下の地中から鳴り響いていた。

ドクン、ドクン…
「!」
その頃、とある森の奥の小さな村の小屋。そこに、以前サイトたちがモット伯爵の屋敷に向かった際、同じように現場にいたシュウがそこのベッドに寝ていた。壁には彼がもといた世界から所持していたものがいくつかある。ナイトレイダーの隊員服一式、ヘルメット、バイク。通信機パルスブレイカー。その他私服等。
すると、彼が部屋の机の上に置いていた白い短剣の宝珠が心臓の鼓動のように輝く。以前、伯爵の屋敷でもしたように目を閉じるシュウ。瞼の下に映った光景、それは土の山の遥か下の地中の、決して光の届かないはずの地中。だが、見えていた。地中に、赤く明滅する光が見える。
タンクトップ姿から、彼はすぐに隊員服を着こむと、白い短剣と銃のセットを持って小屋の外へ飛び出した。

 
 

 
後書き
ネクサスはこの時点ではまだ名前が決まっていないと言う設定なので仮に『銀色のウルトラマン』と呼称しています。
原作にも存在したジュネッス形態は、デュナミストそれぞれに固有のものが与えられると言う設定上オリジナルのものとなります。ご了承ください。
にしても、我ながら一話一話が長い…。 
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