絶対の正義
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第二十章
第二十章
「ここはです」
「いじめを糾弾して」
「撲滅して二度と立ち上がれないようにすると」
「まさにそうです」
穏やかに煽り続けていた。誰も気付かないうちに。
「いじめを許すな!」
そのうえで急に叫んだのだった。シュプレヒコールだった。
「いじめを許すな!」
「いじめを許すな!」
「何があっても!」
同志達がそれに続く。
「いじめを撲滅しろ!」
「消し去れ!」
こう宮崎と古館に対して叫ぶ。それは延々と続いた。
そして連日連夜二人の自宅の前でも抗議活動が行われた。それには生徒の親達も積極的に加わり勢いは止まらなかった。
やがて宮崎と古館は学校に来なくなった。学校でも毎日抗議を受けた。電話は鳴り止まず校門には抗議のデモ隊が集まっている。生徒の親達も抗議に直接来る、そして生徒達も面と向かって罵倒する。それではどうしようもなかったのである。
宮崎も古館も家庭は完全に崩壊してしまった。宮崎の妻は離婚し実家に子供達を連れて帰った。彼は抗議の市民達やデモ隊によってこれ以上もないまでに荒らされ庭も壁も車も荒されゴミが手当たり次第に投げ込まれ滅茶苦茶になった家の中で引き篭もった.そしてある日遂に首を括ってしまった。
古館はまず両親は会社の役員を辞めるしかなくなった。妹は学校で兄の行いがばれてしまい執拗な嫌がらせを受けた。それに耐え切れず地方の親戚のところに養子に入ったうえで転校した。両親は失踪してしまいやはり彼だけが廃墟になろうとしているかつては立派だったが宮崎のそれと同じ様に荒れ果ててしまった自宅の中で引き篭もっていた。
「いじめを許すな!」
「責任を取れ!」
「謝罪しろ!」
「謝っても許さないからな!」
朝から夜まで市民達やデモ隊の抗議の声が聞こえてくる。それまで明るい笑顔を向けてくれた近所の人達までもがいる。自分を幼い頃から可愛がってくれた近所のおじさんやおばさん達までもが。そういった人達までもが今では彼に対してシュプレヒコールを挙げていた。
やがてある真夜中に彼も何処かへと姿を消した。その行方はわからない。しかし彼の乗っていたデモ隊や近所の人達に荒らされ廃車寸前になった車が崖の下の海から見つかった。それだけであった。
これで岩清水は目的を幾つか果たした。しかしそれで終わりではなかった。
次はであった。彼はまたメッセで同志達と話をしていた。その話は。
『今度はですね』
『はい、今度は』
『誰ですか?』
『残るは三人です』
彼はそのターゲットの数を同志達に述べた。
『主犯格の残る三人です』
『本丸ですね』
『いよいよ』
『はい、そうです』
まさにそうだと答えるのだった。
『その三人がです』
『今度はどうします?』
『また住所をサイトで晒しますか?』
『はい』
それだというのであった。
『それです。それをします』
『そうですか。それですか』
『いつもの通りですね』
『それが一番効果的ですから』
熟知してのことだった。
『そこからです』
『それで抗議活動を行って』
『またそうしていって』
『ただしです』
ここで岩清水は同志達に書き込みで告げた。
『主犯の中の主犯の小笠原はまだです』
『まだ仕掛けないのですか』
『二人からです』
こう書き込むのである。
『最後の一人はですね』
『はい』
『最後の一人は?』
『じっくりといきましょう』
この書き込みには既に彼の決意があった。その不気味なものさえ感じられる黒い決意をである。糾弾であってもそれは黒いものであった。
『そう、じっくりとです』
『じっくりとですね』
『まずは二人を』
『はい、最初は』
こうしてまた計画が考えられていく。その間にもだった。小笠原は追い詰められていっていた。
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