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絶対の正義

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第十七章


第十七章

「実況中継ってマスコミが!?」
「ネットで全世界に中継されてるんですよ」
 驚く彼に岩清水が前に出て告げた。
「皆さん、いいですか!この男です!」
 カメラ目線で叫ぶのだった。
「この男が暴力教師です!生徒に体罰をしていたのです!」
「馬鹿な、濡れ衣だ!」
 彼はそれを必死に否定する。
「私はそんなことはやっていない!」
「その証拠はあるんですか?」
「ある!私がやったのは竹刀を持っていただけだ!」
「竹刀!」
 失態だった。これを見逃さない岩清水ではなかった。そして彼は実際にここから攻撃に入ったのであった。まさに好機であった。
「皆さん、凶器です!」
「そうだ、凶器だ!」
「常に凶器を持って指導している!」
「正真正銘の暴力教師だ!」
 同志達が岩清水の言葉に一斉に応える。
「やっぱり暴力教師じゃないか!」
「許すな!」
「何をしていた、何を!」
「皆さん」
 岩清水はここであえて良識の仮面を被ってみせた。そのうえで同志達に言うのだった。
「ここからは少しオフレコで」
 だがその直前に実況中継を担当している同志に目配せをした。これからの彼の発言を消させたのである。
「それでいいですか」
「はい、それでは」
「お任せします」
「わかりました。それでは」
 ここでまた同志に目配せする。全ては彼の術中にあった。
 その術中の中で宮崎に対して穏やかな声をかけるのだった。
「あのですね、私達はですね」
「私達は?」
「話し合いに来たのです」
 こう言ってまずは彼の心を解きほぐすのであった。
「貴方はこの学校の教頭先生ですね」
「はい、そうですけれど」
「それならです」
 己の立場を確認させた。これも彼の計算の内にあった。相手を次第に己の術中の中に嵌めていったのである。実に狡猾にだ。
「正直に話して下さいますね」
 その前にオフレコということは宮崎も聞いていた。それが聞いていた。
「真実を」
「真実をですか」
「そうです」
 まさにそれだというのである。
「是非。ありのまま」
「ありのままといいますけれどね」
 宮崎はまだ怯えていた。そうしながら岩清水に言葉を返す。身体もやや震えているのが誰の目からもはっきりとわかる。完全に飲み込まれていた。
「私は何もしていないですよ」
「ですから真実を語って下さい」
 ここで画面に映らないような位置からだ。宮崎に見えるようにして紙を出してみせた。そこに書かれてあったのは。
『オフレコです。ここだけの話です。正直に話して頂ければもう一切のこうした活動は止めます』
 この文字があった。これは一瞬でありすぐに収めた。しかしそれは間違いなく宮崎の目に入ったのだった。
 それを見て彼は。まずはその喉をごくり、と鳴らした。そのうえでゆっくりと話しはじめた。
「実はですね」
「はい、実は」
 岩清水は静かにその告白を聞いたのだった。周りの同志達も。
「体罰はしていましたよ」
 彼は俯きながら告白した。
「確かにね。プールの中に放り込んでそこからモップで頭を殴ってそのうえで溺れさせたり」
 まずはそれだった。
「彼だけ校庭を百周も走らせたりとかもさせましたし。いつも他の生徒より何杯もハードなこともさせましたよ」
「そうなのですか」
「あと体育倉庫の中でバスケットボールをぶつけたり。床の上で背負い投げしたりもしましたよ。石をぶつけてやったこともありました」
「そういうことをされたのですね」
「ええ」
 そのまま答えたのであった。
「そうです。ですから」
「皆さん、聞かれましたか!?」
 しかしであった。ここで岩清水は豹変したのだった。
 
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