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戦姫絶唱シンフォギア~another of story~

作者:tubaki7
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EPISODE1 再会

雨が、降っている。夏ももうすぐそこまで迫っているということを知らせるその水の滴は暗雲の立ち込めた空から惜しげなく降り注いでいる。ジメジメとした気候が続く中、少女はバスを乗り継いでとある場所へと足を運ぶ。

 小日向未来、15歳。私立リディアン音楽院高等科1年の、黒髪と白いリボンが似合う少女。性格は世話焼きの手前おとなしくあまり目立つ方ではないが、ピアノとバイオリン――――特に現在はバイオリンの腕前は学年でもトップクラスに入るほどの実力を持つ。

とまぁ、それは余談。彼女は現在バスを降りて高台付近にある階段を登っている。その表情は晴れやかとは程遠く、この空のように曇っていた。手にした花束は祝い事にあげるものではなく、今回のような見舞い用に見繕ったもの。そう、未来の向かった先、それは――――墓地。


幾つもの石造りが並ぶ中、未来は少し重い足取りで目当ての場所までたどり着く。そこに記されている名前は・・・・。






















「あっちゃ~、連続かよ・・・・」


スパァン!と乾いた音とほぼ同時にブンッ!という空を薙ぐ音が聴こえる。嘆く少年は自分の情けなさに気落ちしつつもまだまだ、と気を引き締め直して再び構える。

カキン、という音が鳴った。金属の棒、その芯に当てたいい音だ。白いボールはネットで張り巡らされた空を舞い、そして・・・・的に当たる。軽快な音楽が鳴り、それがホームランとなったことをその場にいた他の客たちにも知らせた。テンションが上がってガッツポーズ。それが最後の打球ともなればなおさらのこと。


「ッシャァ!見たか、俺の超ファインプレー!」

「これで三連続ホームラン!やったね飛鳥(あすか)


ここは最近できたアミューズメント施設の中にあるバッティングセンター。ゲームだけでなくスポーツやカラオケなど学生や若者たちにとっての憩いの場となっている。自身のホームランにご満悦な表情でバッターボックスから出てくる飛鳥とハイタッチを躱す友人、立花 響。そしてそれを半ばあきれ顔でみる小日向未来という図である。


「ンだよノリ悪いぞ未来?」

「そうだよ。三回だよ三回!これは新記録だよ」


不満顔の未来に抗議する飛鳥と響。それに溜息をつくと、未来は人差し指をビシッと指して言う。


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?大体、急に呼び出されたと思ったらなんなのさ。5年以上もどこにいたの飛鳥!?」


未来の雷が落ちる。もう限界だといわんばかりに未来は怒鳴る。周囲の音が案外大きい為至って目立たないものの、これには二人も手で耳を塞ぐ。


「昨日響がやたらテンション高くして部屋に戻ってきたと思ったら出かけようって。でもそれだけじゃ理由わかんないからとりあえずオーケーしたけど、来てみれば5年前に急にいなくなった飛鳥がいるし!しかもなんの説明もなしってこれなんてジョーク!?」


ツッコミ半分怒り半分で声の限り吐き出す。彼女がこんなに声を荒上げて肩で息するほど感情を爆発させるのはかなり珍しい。よほどため込んでいたのだろうと目尻に浮かんだ涙と睨むように見上げてくる瞳を見て理解する。


「あ~、実はそん時父さんの急な転勤が決まってさ。二人には言っておこうと思ったんだけど中々言い出せなくって・・・・」

「だからって何も言わないでいなくなったら心配するでしょ!?」

「そーだそーだ!」


飛鳥、響、未来は幼い頃からの友人。いわゆる幼馴染という間柄だ。やんちゃな飛鳥、まだ当時は引っ込み思案気味だった響、そしてどこか大人びた未来というなんともバランスの取れた関係。何をするのもどこに行くのもほぼ一緒だった三人ではあるが、それも小学生の頃に終わってしまう。家を訪ねてみればそこはもぬけの殻で両親に訊いた話では今飛鳥が言った通り〝父親の転勤〟ということであった。母を早くして失くした飛鳥は父と共に遠くに引っ越し。そのことを伝えようにも辛さから伝えられなかったのだと言う。


「仕方ないだろ、急なことだったんだから」

「そーだそーだ、急だったんだ!」

「電話の一つや二つできたでしょうに!」

「そーだそーだ、電話できたでしょうに!」

「「お前/響 はどっちの味方だ/なの!?」」

「うぇ!?ええっと・・・・け、喧嘩は良くないよ!」


野次を飛ばすだけだった響は急に降られて一瞬焦る。解答を求められてもどちらかなんて選べない彼女はとりあえず怒りを宥めることに。


「響はなんかないの!?」


怒り心頭の未来の気持ちもわかる。こんな急な再会で、いなくなったのも急で。なんの説明もなくこうもスルーされ続けていればこうもなるというもの。でも、響としては怒るというより、安堵の方が断然大きかった。だから彼から急にメールが来た時はもちろん未来のように「なんで」という思いはあった。でもそれ以上にあったのは喜び。再び彼の笑顔を見た時は本当に心が躍ったのを今でもよく思い出せる。

だからこそ、響は未来の訊いには困った。親友の言いたいこともわかる。でも、飛鳥を取り巻く環境がどんなものだったにせよ連絡が出来なかったにはなんらかの理由があるはず。それを考えられない未来ではない筈なのだが、こうも怒るのはどうしてだろうか?


「何か、と言われるともう忘れちゃったかなぁ・・・・」

「もぅ・・・・」

「あ、でもでも!色々あったけど、私は飛鳥とまた逢えて嬉しいよ。今は、そっちの方が大きいかな」


マイペースな響の返答を聞いて溜息をつく未来。吐き出すだけ吐き出したら冷静になったのか、今までの自分を思い出して赤面しながらそっぽを向く。納得がいかないのは変わらないらしい。それに苦笑する飛鳥は響の方を見て言葉を返す。


「俺も二人に逢えてよかった。明日から俺もリディアンに通うことになってるから、これからはまた昔みたいに一緒だ」

「ホント!?あ、でもウチの学校って寮制の女子高だった筈じゃ・・・・」


ジト目で見てくる未来。響は自分の躰を抱くようにして隠しながらジト目で見てくる。わかっていた反応ではあるもののここまでとはと飛鳥は内心溜息をつく。


「特待制度!高等科は外部からの生徒も受け入れてるだろ?俺はバイオリン専攻でそれに受かったってわけ」


「あぁ~」と思い出したように声を上げる響。同じとまではいかないが未来も思い出したようで人差し指を顎に当てて「そういえば」と漏らす。

私立リディアン音楽院。小中高の一貫性で女子高ではあるこの学院では中等科と高等科では外部からの生徒の受け入れもある。その条件としては〝音楽性の才能溢れる者、または可能性を秘めた者〟というなんともアバウトなものだ。飛鳥の父、音野透哉(おとの とうや)は世界的にも有名なバイオリン奏者であり、飛鳥自身もその影響でバイオリンをやっていたこともありそのアバウトすぎる条件に引っかかり見事リディアンの敷居を潜ることができたのだ。しかし本人曰く「普通の学校で野球がしたかった」といっているあたり根っからの野球少年という点は変わらないようだ。ちなみに今三人がバッティングに立ち寄っているのも飛鳥の要望と響のノリから来た結果である。


「ったく、自分たちの学校なのになんにも知らないんだな」

「だってまだ一年だし」

「まぁ、響だから知ってても忘れてそうな気もするけど」

「あぁ!?未来ってばそれ酷いよォ…」

「だって響だし…な?」

「響だもんね」

「さっきまで喧嘩してたのに何この息の合いよう」

「「いつから喧嘩していたと錯覚していた?」」

「酷い!」















そんなこんなであっという間に日も暮れていた。施設を出た三人は未来は寄るところがあると別れ、響は飛鳥に送られながら少し静かな夜道を歩く。


「いや~今日は楽しかったぁ。これから毎日こんなのが続くと思うとなんかウキウキしてくる」

「相変わらずテンション高いな。いや、前よりももっとか」

「うん!だってまた三人で一緒に居られるんだもん。ご飯食べてないのにお腹いっぱいな気分だよ」


そう言って腹部をさすりながらわははと笑う響。こういうところを見るとこの子の女子力はほぼ壊滅的なんじゃないかと思う。友人の残念加減を見て内心溜息をつくと飛鳥は思い出したように話を切り出す。


「そういえばおまえ、ノイズに襲われたって聞いたけど…大丈夫だったのか?」

「・・・・うん。少し色々あったけど、でも今はも平気!」


一瞬表情を暗くしながらもまたいつもの明るい笑顔を見せる響。それをみて何かを悟ったのか飛鳥はそれ以上訊こうとはせず「そっか」とだけ言いその話題を切る。


「飛鳥の方こそ、どうしてたの?お父さん、元気?」

「あ~・・・・まぁ、な。うん、元気だ」

「え、なんか歯切れ悪い返事」

「えっとな。俺と父さん今別々に暮らしてるんだ。あっちはあっちで忙しいから、俺だけでもってこっちに戻してくれてさ」

「そうなんだ。ならおじさんに感謝しなきゃだね」


スキップ混じりで少し先を歩く響。こういう恥ずかしいようなセリフをシレッと平気で言ってのけるのは天然由来か、はたまたただのバカか。自分の知っている立花 響とのギャップに少し寂しさを感じつつ飛鳥はその後ろを歩く。

二人で楽しく変える帰り道。その足取りはいつもより軽く、穏やかなもの。

だが、そんな些細なことでさえ、非日常は全てを壊していくのである・・・・。 
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