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IS-最強の不良少女-

作者:炎狼
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準備

 学園祭も過ぎ去り段々とIS学園からは熱が冷めたころ。

 響は生徒会室に顔を出して生徒会の会議に参加していたのだが、なんともつまらなそうに虚空を見上げて椅子をぎっこんばったんとしながら遊んでいた。

「おい響。少しは真面目に」

「うるせぇ。文句たれるなら私を倒してからにしろ」

「ぐぬ……」

 一夏が響を注意しようとしたが響は聞く耳持たずによそを向いてしまった。すると楯無がその様子に口元を扇子で隠し、笑みを浮かべた。

「いいのよ一夏くん。響ちゃんは前からそんな感じだから、まぁ一番食いつきそうな話題もあるし」

「食いつきそうな話題?」

「ええ……亡国機業について」

 瞬間、先ほどまで平穏な空気だった生徒会室の空気がよだれを垂らしながら眠っている本音を覗いて引き締まった。

 響もまた椅子でふざけることをやめて楯無のほうをじっと見つめる。

「やっとか、んで、やっこさんの動向は探れたのか?」

「ええ。非公式だけれど先刻アメリカのIS保有基地が襲撃されたそうよ。まぁ狙いはISの本体でしょうけど。一夏くんはまた白式を取られないように、響ちゃんは……特に必要はないわね」

 楯無は肩を竦めるが響は残念そうに肩を落とした。

「んだよアメリカかよ。つまんね」

「そういうなよ響。皆が危険にならないだけいいだろ?」

「テメェはなに上から目線で言ってやがる。オータムって女に白式奪われて泣きそうになってたくせによ」

「なっ、泣きそうになんかなってないだろ!!?」

「そりゃあ自分の顔は自分じゃ確認できねぇからな。けど残念だったな一夏。お前はあの時泣きそうになってた」

 それだけ言い切ると響は「よっ」と言いながら椅子から跳ね起きた。

「んじゃ私はそろそろ帰るわー。お疲れさんしたー」

 手をひらひらと振ったまま響は生徒会室を出て行った。後に残された一夏はそれを呆然とした様子で見ていたが、楯無は悪戯っぽい笑みを浮かべながら一夏を見ていた。

「一夏くんが泣きそうにねぇ……」

「なってません!」

「あらそうなの?」

「あたり前じゃないですか! 男で、しかもこの年にもなって泣くなんてないでしょう!」

「なぁんだ残念。お姉さん的にはそういう展開のほうが楽しかったんだけどね」

 クスクスと笑う楯無に一夏は大きなため息をついた。









「キャノンボール・ファスト?」

 夕食時、ハンバーグ定食にがっつきながらセシリアの言葉に耳を傾けた響は首をかしげた。

「なんだそりゃ」

「本来なら世界大会も開かれるほどのISを使った高速バトルレースのことですわ。IS学園では市にあるISアリーナを使用して開くそうです」

 セシリアが説明してくれるものの、響は興味なげにハンバーグを咀嚼する。それを見ていたシャルロットが小さく息をつくと響きに問うた。

「もしかして響さ、興味ない?」

「もしかしなくても興味ねぇな」

「だが響の夜天月ならば優勝は見えるだろう? 近距離武装しかないのがネックだが」

 話を聞いていたラウラも加わってくるが、響はそれを聞いてもつまらなそうにしていた。

「何が楽しくてそんなイベントに出なくちゃならねぇんだか。第一、お前らはスポンサー的なもののために頑張んなきゃいけないんだろうが、私には関係のないことだからどうにもなぁ」

「ですが専用機部門と訓練機部門の二つに分かれていますから……もしかしたら響さんも出るように言われてしまうかもしれませんよ?」

「そうなったら全力でサボるわ。学園祭のときはノリで何とか切り抜けたけど今回は休ませてもらうし、それに、私が戦いたいのはお前らじゃなくてあいつ等だからな」

 『あいつ等』と言う言葉を聞いた瞬間、三人の顔が強張った。その中でラウラは小さく頷いた後呟いた。

「亡国機業か……」

「正解だラウラ。あいつ等を叩き潰すのが当面の目標だな。特にあのチビスケは最高の獲物だ逃しゃしねぇ」

 ギラリと光った響の瞳は草食動物を見つけたときの肉食獣のそれだった。シャルロットはそれに苦笑いをしていたが、セシリアは響が言っている少女のことを思い出していた。

 彼女が搭乗していたのはセシリアの故郷であるイギリスの開発したIS『サイレント・ゼフィルス』だった。

 学園祭が終わってからというもの、気にしないようにと思ってもどうしても気になってしまうのだ。

 ……あそこまで精密な狙撃とビットの扱い……このわたくしが遅れを取ってしまうなんて。

 ギュッとスカートの裾を掴むセシリアだが、その額を響がデコピンで弾いた。

「あぅ!?」

「なぁに暗い顔してんだよ。まだチビスケに負けたこと気にしてんのか?」

「……恥ずかしながら」

 小さく頷いた彼女に対し響は大きくため息をついたあと、「よし」とだけ告げセシリアに言い放った。

「デートでもすっか?」

「デッ!?」

 その発言にセシリアは吹き出し、シャルロットとラウラは口を押さえて絶句していた。

「そんなに驚くことか?」

「そ、それはまぁ……響さんはどちらかと言うとそういうのをしない人だと思っていましたので」

「ふーん、んじゃあやめるか」

「いいえ! 行かせていただきます!!」

 響が軽く言おうとしたところでセシリアが目をらんらんと輝かせて彼女の手を握ってきた。その動きは凄まじく早く、響でさえ目が追いつかなかったほどだ。

「お、おう。わかった、それじゃあまた後で適当に日時だけ決めるか。で……お前らはなんでそんなに負のオーラを放ってるわけ?」

 響が言うほうを見ると、そこには体中から黒いオーラが滲み出てきそうなほど縮みこんだシャルロットとラウラの姿があった。

「……響とデート響とデート響とデート響とデート響とデート響とデート……」

「……お姉様とデートお姉様とデートお姉様とデートお姉様とデートお姉様とデートお姉様とデート……」

 ぶつぶつとまるで怨嗟のような言葉を呟き続ける二人に若干の恐怖を覚えた響だが、次の瞬間さらに彼女達を地獄に叩き落すような声が響からもたらされた。

「あーえっと、今回は絶対につけて来るなよ? 今回はセシリアのためのやつだから」

「……」

「……」

 ついに言葉を出す気もうせたのか二人はそのままテーブルに額を乗せて黙りこくってしまった。

 その二人の行動にセシリアも可哀想になったのか響に耳打ちをした。

「……響さん、シャルロットさんとラウラさんともデートをして差し上げては……」

「……なんか私だけめっちゃ疲れそうな気がするんだが……けど、まぁしかたねぇか」

 響は軽く頭を掻くと机に突っ伏したまま何も言わない二人を見ながらため息混じりに告げた。

「わーったよ、お前らとも一人ずつデートする。これで文句ないだろ?」

「もちろん!!」

「さすがお姉様だ!!」

 二人は電光石火のごとき速さで立ち直ると響を目を輝かせながら見つめた。それに対し響は小さくため息をついて誰にも聞こえない声で一言。

「……現金な奴ら……」










 三人との食事を終えて部屋に戻ってきた響はそのままベッドに寝転がろうと思ったがそこには先客がいた。

「ハーイ、響ちゃん夕方ぶり」

「そうだな。つーか毎度のことだがパンツ見えてんぞ」

「あん、もう響ちゃんのエッチー」

「見せてんのはどーみてもテメェだろうが」

 響は肩を竦めたあとベッドの端に腰掛ける。すると楯無は響の隣に座るように体を起こすと響に告げた。

「響ちゃん、キャノンボール・ファストのことだけれど」

「ぜってー出ねぇ」

「そんな事はわかってるわよ。ただね、次も白式を狙って亡国機業が襲撃してくるともわからないから、せめて貴女にはアリーナ周辺の警備をして欲しいのだけれど頼めるかしら?」

「警備か……」

「もちろん私もそれなりに警戒はするわ。ただ前回のようにあの女の子が来るかもしれないじゃない。インファイトまで持っていくことが出来れば貴女に負けはないわ。どう?」

 首をかしげて問う楯無に対し、響は逡巡したそぶりを見せると小さくなずいた。

「わかった、警備はやってやる。あのガキともやり合ってみたいのは当たってるしな」

「そう。ありがとね響ちゃん。……さてっと、それじゃあお姉さんは一夏くんの部屋で待ち構えていようかしら。あぁそうだ、詳しい事は次の生徒会で説明するからそれでいい? もちろん一夏くん抜きで」

「ああ、かまわねぇ」

 響がそれに返答したのを確認すると楯無は満足そうに笑顔を見せたあと部屋から立ち去った。

 それを見送らずにため息をついた響は隣のベッドを見やった。

「お前もお前でどんだけ寝れば気が済むんだよ」

「すぴー……」

 そこには猫のように丸くなって寝息を立てている本音がおり、響はそれにため息をついたあと本音を起こさないようにシャワーを浴びて眠りについた。










「……ター。おき……さい、……マスター」

 大人の女性の声が聞こえた。

 響はそれに顔をしかめながらもその双眸を開けた。

「あ、起きましたねマスター」

 響が目を開けると空には満点の星が広がっており、大きな月も浮かんでいた。しかし、それよりも目に入ったのはゴスロリチックなフリルが多く付いたドレスを着込んだ女性が佇んでいたことだった。

「……臨海学校ぶりか『夜天月』」

「はい。覚えていてくれて嬉しい限りです。マスターは忘れっぽいですから」

「ほっとけボケ。そんで? 今回は何のようだ?」

 響は立ち上がりながら女性――『夜天月』に問うと、彼女は先ほどまでの笑みを崩して真剣な表情で響に告げた。

「マスター、貴女はおそらく気が付いていないかもしれませんが……私に新しい力が宿り始めています」

「新しい力?」

「はい。おそらく開発者である篠ノ之束がインストールしているのでしょう。……しかし、貴女にこの力が扱えるかどうか」

 夜天月は心配げに響を見つめるが、響はそれに肩を揺らして笑った。夜天月はそれに首を傾げるが、すぐに響は笑い終えるとニヤリと口角をあげて告げた。

「夜天月よぉ、お前は私のISだろ? だったら私がどんな奴かはわかってんだろ?」

「それは……そうですが……」

「危険上等。どんなあぶねー力だろうが使いこなしてみせるっつーの。第一テメェ自体があぶねーISだろうがよ」

 自信に満ちた主人の物言いに夜天月自身も目を丸くしていたが、少しすると口元を押さえて笑みを浮かべた。

 それに響は訝しげな表情をして彼女に問う。

「あんだよ」

「いいえ、実に貴女らしい意見だなと思いまして」

「ほっとけ」

 夜天月の意見にフンとそっぽを向いた響だが、その肩を夜天月が叩き告げた。

「マスター、これは予想ですが。以前戦った亡国機業と言うもの達、おそらく近いうちにまた戦うことになるかもしれません」

「なるほどソイツぁ好都合だ。う……?」

 響がそこまで言ったところで彼女が眉間に皺を寄せた。

「どうやら今回はここまでのようですね。いいですかマスター最後に言わせていただきます。力を使うときは十分お気をつけてください」

 その声が響が聞いた瞬間、響の視界が暗転した。









「う……ん」

 今度は煌びやかな満点の星空ではなく、僅かに月明かりが差し込む寮の自室で目覚めた響はむくりと起き上がった。

「力を使うときは気をつけろ……ねぇ。上等じゃねぇのよ」

 肩を竦めながら笑みを浮かべた響だが、そこで彼女の携帯がなる。

 画面を見ると知らない番号だった。凄まじく嫌な感じがしながらも彼女が電話に出ると、返ってきた言葉は案の定の声だった。

『やっほーびっきー!! おひさー、夏ぶりだねぇ! 元気してる?』

「……相変わらずうるせぇウサギだ」

『うんうん相変わらずびっきーの声はドスが効いててしびれるね!! 時代劇とか仁侠映画とか出たら即主役が張れそうな勢いだよ!! あ、もしそういうことになったら束さんをファン一号として招待してね!!』

「んな予定はねぇよアホンダラ。つーかさっさと用件を言えこっちは早く寝たいんだよ」

 響がそういうと電話の向こうで束が「おっと失礼」などと心にもなさそうな言葉を吐き、軽く咳払いをしたあと楽しげに告げた。

『実はびっきーの夜天月にセカンドシフト機能を導入してみましたーパチパチパチー!! だけどただとは言いません!! セカンドシフトは展開装甲みたいな暗証式じゃなくてびっきーの気持ちがかかわってくるからねん』

「気持ちだぁ?」

『そう! びっきーのある一定の気持ちが最高潮まで達すると自動的に作動するよ! あーでもこれだけ聞くとドイツの子が装備していたVTシステムみたいだねぇ。まぁなんでもいいや、それじゃあ教えたからねーおやすみー』

 束は勝手に電話を切った。

 彼女の意見を聞き終えた響は呆れたようにため息をついた後ニヤッと笑った。

「どんなもんだろうが完璧に扱ってやるよ」




















「ふふん、さぁてびっきーは扱えるかな? 今回はそう簡単にはいかないよ、下手をすれば……死んじゃうかもなぁ。まいっかそのときはその時、所詮はあの子もそれだけの器だったってだけだし」

 本当に楽しそうに笑みを浮かべながら束は暗闇の中で笑った。 
 

 
後書き
はい、お待たせいたしました……

拙いな……ブラックブレットのほうにばかり気が行ってしまっている。
これからはこちらも定期的に進めるようにしなくてはいけませんね。

とりあえず今回はキャノンボール・ファストの時の襲撃に向けての夜天月の新たな力、セカンドシフトへのフラグっぽいものを立ててみました。
あとはせっしーとのデートですかねw

では感想などお待ちしております。 
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