| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

宇宙を駆ける一角獣 無限航路二次小説

作者:hebi
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三章 三話 オオハラの野望

 
前書き
お気に入り登録が100を超えました。
みなさんありがとう。
これからも更新頑張ります。 

 
ユニコーン ブリッジ

ネージリンス・ジャンクションからエルメッツァ星間国家連合へとやって来たユニコーンのブリッジでは、ブリッジクルー達と艦長の白野が集まって今後の展開について討議を行っていた。
来たはいいものの海賊退治以外にはさしたる目的もなく、このままでは余暇を持て余す可能性が出て来たからである。

「さて、どうする?ハッキリ言うと、エルメッツァはカルバライヤのように資源が豊富な訳でもネージリンスのように大マゼランとの交流が盛んで技術が進んでいるわけでもない。良きにしろ悪しきにしろ特徴が無い。得るものは少ない気がするが…」

白野がこう言うのも無理はない。エルメッツァは元々小マゼランで最初に勢力拡大に成功した国家ではあるが、その拡大の主因は資源力や技術力に起因するところは少なく、歴代の執政担当者やネゴシエーターが大国らしい老獪な交渉を執り行い、カルバライヤ、ネージリンスの両国との関係を有利に進め、大マゼランとも交渉力でならタメを張ってのけたからである。
カルバライヤが資源力、ネージリンスは技術力、そしてエルメッツァは政治力。この三国がそれぞれの特色を持っていたからこそ現在のような体制が確立されている。
だが、宇宙を縦横無尽に駆け巡る0Gドッグにとって政治力など晴れた日の傘程度の価値しかない。
まず自分個人がそこにあり、政治的な立場などはそれに影をつけるだけという認識がほぼ全ての0Gドッグの共通するところである。
そんな物、一顧だにしない白野であった。

「確かに、エルメッツァで今更私たちが得る物はないでしょうね」

そう発言して白野の意見に賛意を示したのは、主計担当のバウトであった。
彼は、経済という視点からエルメッツァとユニコーンの間に生じ得るかもしれない利益関係を計算し、実のところ金とは関係ない次元での利益を見出したのである。

「しかし、エルメッツァは小マゼランでは一番の大国です。それに応じて、相応の人材が集まっている可能性はあります」

つまり、ユニコーンの運用に携わるメインクルーの募集の提案である。

「以前、ネージリンスの首都星でパイロットを集めたでしょう?それと同じことです。ユニコーンの運用を十全の物とするなら現在のクルーのほかにせめてブリッジクルーの充実が必要でしょうね」

「賛成だな。レーダー監視の専門要員がいてくれた方が、俺も助かる」

バウトに賛成したのはオペレーター兼レーダー監視のゲイケットである。元々彼がレーダー監視まで兼ねているのは純粋に人手不足だからである。ゲイケットは実に優秀で、二つの業務を遅滞なく行い今まで決して滞らせることはなかったが、それが負担がないということとイコールではないことは白野も承知している。

「俺も砲撃の時の運用員がいた方がいいな。頼むぜ艦長」

「私も賛成です。信頼できる応急担当の方がいてくれれば私もさらに仕事がやりやすくなる」

さらに賛成票を投じたのは砲雷班のルートンと機関長のパダムである。

「みんなそろそろ人手が欲しいところというわけだな。俺もユニコーンの人手不足にはいかんともし難い思いだ。この案、採用しよう。エルメッツァでは、海賊退治とクルーの募集を集中的に行う」

過半数の賛成票を得たこのバウト発案のメインクルー募集計画は、こうして承認された。白野はこれからどのようなクルーをスカウトし、スカウトされた方はどのような活躍を見せるのだろうか。



バウンゼィ ブリッジ

さて、彼の弟子であるギリアスの方はどうであろうか?
師として仰ぐ白野のように、人材収集に気を向けていたかというとそうではなく、目下彼の最大の課題である海賊討伐にたいする戦闘機動の立案に注力していた。

「んー…どうすっか」

彼の目の前のモニターには、ユニコーンとの戦闘によって得られた貴重な完璧なる回避のデータがある。
もちろん、他人がやって出来たことを、だからと言って自分も出来ると思い込むような愚劣な発想とは無縁のギリアスではあるが、ある一つの事例のデータから自分なりに実現可能な範囲を探り出すことには余念が無い。

「バウンゼィは船足はあんだがなぁ…」

ギリアスの悩みは、バウンゼィの【小回り】にあった。バウンゼィの分類は巡洋艦である。駆逐艦ほどではないものの、高水準の速力を発揮出来る艦種である。
しかし、それは直進速度に関してのことであり素早く方向転換したり艦首の向きを変える為のサイドブースターについては、それを徹底的に突き詰め、その上に艦長の白野の技術と技倆を投じて極限まで昇華させたユニコーンに劣る。
そして、単にバウンゼィにサイドブースターの増設を行えばいいと言う問題でもないのである。
増加したサイドブースターの出力、その全てを完全に制御し思い通りに艦を動かす、まさに人艦一体と言うべき次元に至るまでにどれ程の経験と実力を要求されるか、自信家であるギリアスでさえそれを考えると目を回す。

若きギリアスの悩みは続く。願わくば、その悩みが実りある形で解消されることを…



惑星ツィーズロンド 中央政府ビル

エルメッツァ星間国家連合の首都星ツィーズロンド。その中心都市に聳え立つ一際高い建造物が、この中央政府ビルである。
その名の通りこのビルにはエルメッツァ政府の行政能力が一極集中させてあり国内のありとあらゆる政策の草案、審議、施行、公布などが連日行われている。
その政府や束ねる長として国民の選択と信任の上に屹立する指導者の名を、ヤズー・ザンスバロスという。
正式な役職名は【大統領】である。
そのヤズー大統領は、腹心でありエルメッツァ中央政府軍少将にして軍政長官であるルキャナン・フォーと談合をしている。

「さて、ルキャナン君。君は現在のこの状態をどう思うかね?」

大統領がコツコツと指先でつついてみせたのは、彼の執務用デスクの上に表示された精密な星域図である。
星域図上方に【ルッキオ】、中央付近に【ベクサ星系】さらに下方に【アルデスタ】と表記された光点が表示されている。

「非常に好ましくない情勢ですな。このままなすことなく状況を座視すれば、いずれアルデスタとルッキオは紛争へと突入するでしょう」

「以前からきな臭いとは思っていたが、まさかこのタイミングでルッキオが暴走するとは…歯痒いものだな、ルキャナン君」

「ええ、まったくです。ようやくラッツィオの海賊騒動が収束したばかりだというのに問題が後から後から湧き出してくる」

この二人が話題にしているのは、エルメッツァ中央宙域辺境の惑星、ルッキオ、アルデスタの自治府が同じくエルメッツァ辺境に位置する資源衛星帯【ベクサ星系】の資源採掘権を争っていることについてである。
ベクサ星系の発見は、ルッキオによってなされたともアルデスタによってなされたとも言われている。
本当のところは分からない。どちらも自分達が先に発見したのだ、と優先採掘権を得る為に主張するからである。
今までは、エルメッツァ中央政府の直接的でない外交交渉が許すギリギリの範囲で紛争発生を抑制してきた。
直接介入できないのは、自治府の政治に中央政府は干渉しないという原則を遵守する為である。



ここで一つ注釈をする。
ルッキオ、そしてアルデスタのような【自治府】とかつて白野が訪れたカシュケントのような【自治領】は名前は似ているもののその実情は完全に異なる。
まずルッキオ、アルデスタの自治府は元々はエルメッツァ星間国家連合の一部であり、そこがエルメッツァ中央政府の掲げている政治形態である【小さな政府】の実践によって自治されているのである。
そして、カシュケントのような自治領は惑星開拓法によって開拓者が主権をもつ地域として認定される。開拓者本人が後継者を定めぬまま死亡すると、近隣の国家がその自治領を吸収するのが一種のセオリーとなっているが、開拓者が生存し続けいている限りいかなる国家権力の干渉も受けない。
善政を行う自治領もあれば、古代の暴君さながらに搾取と弾圧に狂奔する自治領もある。
カシュケントなどは交易の中継地点として隆盛を誇り、今後余程の事態が起こらぬ限りその地位を失う可能性は絶無であろう。


ともかく、今回は自治府である。
事の発端は数ヶ月前、ベクサ星系にて睨み合いつつ採掘をしていた両自治府の採掘集団の片方、ルッキオ側が、当時罵り合いながらもなんとか取り決められた採掘領域を大きく解脱してアルデスタ側でも採掘を始めてしまったのである。
拳と工具を交えた殴り合いが集結すると、今度は宇宙船のレーザー砲が争いの道具となって無数の人命が無意味に失われた。

ことここに至った時点でようやくエルメッツァ中央政府はその事態の全容を知るところとなったのである。

「アルデスタ、ルッキオへの非公式調停は失敗しました。双方引くつもりはないようです」

「そうだろうな。私でもそうする。だが、ことは一自治府の採掘権に収まらなくなる。海賊問題もまだ完全に解決を見た訳ではない。これ以上、国内の不安を増やしてはならない。治安維持への不安は、ひいては政府の能力への疑問へと直結する。それは避けねばならない」

憂いに満ちた顔でヤズー大統領はコツコツとデスクを指先でつついた。だからといって事態が好転するわけでもないが。

「この事態を動かす為には、奇貨が必要ですな」

「奇貨か…そうだな、ルキャナン君。この事態を動かす為には奇貨が必要だ。……そして、それは何も出て来るのを待つだけではあるまい」

「作り出しますかな?奇貨を?」

「さしあたり、そこまで現状は差し迫ってはいない。しかし、準備はしておきたまえ。実行の際の技術的問題の解決は君に一任する」

「はっ。それでは失礼いたします」

大統領に敬礼すると、ルキャナンは踵を返して颯爽とした足取りで執務室から退室して行った。
どうやら大国の威信を守る為の工作に従事するようである。その為の人員も、ルキャナンの元には大勢いるのだ。



惑星ドゥンガ 酒場

大国の権力者達が策謀を小賢しくも巡らせる談合を行った数日後、自由な生き物である白野達ユニコーンのメンバーは酒場で酒をあおり、喉と人生の渇きを癒していた。
この際、人材探索は後回しである。有能なクルーはそこら辺に転がっているわけではない。腰を据えて探さなければ見つからなかったりする。
そして、腰を据えて探さことの中に、酒場のマスターや客の知り合いに腕利きがいないか、遠回しであれ直接的であれ尋ねるのである。

「はあ、ギルドですか?……この辺りにはありませんねえ…」

「そうか…手間をかけたな」

「いえいえ」

ビールのグラスを傾けながら、なかば定型文となった質疑応答をひとしきり繰り返すのがここのところの白野のやっていることである。
時たまに宇宙港の端末で模擬戦を挑んでくるギリアスを危なげなく撃退することもしている。まだまだギリアスは白野からすれば駆け出しである。

なんにせよ、人材探索は難航している。どうも、有能なクルーが見つからない。たまに見つかるクルー候補は誰も彼もがパッとしない凡庸な印象を受ける人物ばかりであり、実際に白野が専門クルーに依頼して適正テストを候補に試したところそれこそパッとしない結果に終わるのである。
ルートン、バーク、ゲイケット、ユニコーンのクルーはただ一人の例外すらなく熟練した腕前を持っている。
そして、得てしてそう言ったクルーは自分の認めた艦長の下でしか働こうとはしない。
白野は、そういった誇り高い0Gドッグ達をスカウトして、彼らにその下で働くにふさわしいと確信させる器量と手腕を示す。

「やあ、こんにちは。艦長。良いクルーは見つかりましたか?」

「パダムか。いいや、今回も空振りだ」

ユニコーンの機関士で、温和な人格と浅黒い肌の持ち主であるパダム・パルは、確かな実力と豊かな経験の双方を両立させ、この短期間でユニコーンのクルー達としっかり馴染んでいていまやなくてはならない人物になっている。
そして白野に言わせればかなり【イケるクチ】であり、静かなる酒豪としてごく一部のユニコーンクルーに認知されている。
ゲイケットとパダムが飲み比べをした時、ゲイケットが音を上げてテーブルに突っ伏した段階でパダムは【遠慮したように】グラスを置いたのである。

「まあそんなに簡単に見つかっても私の沽券に関わるというものです。気長に待つべきでしょうね」

パダムは言って、白野の隣のテーブル席に腰掛けるとマスターにジンを注文した。

「それはそうと、バークとはうまくいっているか?」

「バーク君ですか?ええ、話も合いますし」

それは良かった、と白野は軽く息を吐いてその空白を埋めるかのようにグラスを傾ける。どうも、バークは無口な分特定の人物以外との人付き合いが難しくなり仕事に支障をきたすのではないかと思って心配していたのである。
だが、どうやら無用の心配のようであった。

「彼はすごいですね。今まで機関士と整備士を兼ねていたんでしょう?なかなかできることではありませんし、仕事がテキパキとしていて滞らないんですよ。私も見習いたいくらいです」

「そうだな。奴は腕利きだ。大マゼランで雇えたのは本当に幸運だった。そうでなければ、ユニコーンは今頃ロートルもいいところのポンコツだったろうに」

白野自身、有る程度整備士として心得はある。しかし、あくまで片手間で習得可能な程度でしかなく、バークの技量とは比べることすらおこがましい。
故に、白野はバークやパダムのような専門職のクルーの力量に絶大な信頼を寄せているのである。
何もかもを一人でやる必要はない。その分野で最高の仕事ができるクルーを見つけ出し、雇ってその職に据える。艦長の役割はそんなところである。

「ユニコーン……本当に良い艦ですね。私も機関士歴は長いですが、あれ程素晴らしい艦にであったことは数える程しかありませんよ」

「ほう、お褒めに預かり光栄だな。…参考までに今まで見てきたその数える程の艦について知りたいものだ」

「そうですね。アレはまだ私がセグェン・グラスチで働いていた頃の話なのですが……」



惑星ドゥンガ 酒場

ドゥンガの酒場にいたのはパダムと白野だけではない。
ギリアスも束の間の休息を得る為、クルー達と別れて単身この酒場へとやってきていた。炭酸水のコップを持ったギリアスの視線は、酒場の天井から吊り下げられている中型のディスプレイに向けられていた。
放送されているのは、この地方のニュース番組である。その内容は、どうもギリアス好みの剣呑な内容であった。

「アルデスタ自治府とルッキオ自治府は先日遂に第一種戦備体制に突入。ベクサ星系近辺は非常に危険です。無関係の一般人は極力接近避けてください」

ギリアスはそのニュース番組を見ながらコップの炭酸水を一気に飲み干す。どうやら、ネージリンスからエルメッツァにやって来て彼的には正解だったようだ。丁度よく宇宙が混沌としている。
望むままに戦うことができるだろう。そして、戦って勝ち、名声を得ることは彼の目標への最短ルートであるはずだ。

「……ここで緊急放送です。ルッキオ自治府において、代表のオオハラ氏の演説が広域通信にて放送されています。こちらから中継を……」

アナウンサーが最後まで言い終わる前に、ディスプレイの画面がざらついて一瞬砂嵐となる。しかし、すぐに映像は回復し鮮明なものとなった。
だからといって、ギリアスの感銘を誘ったりはしなかった。何故なら、ディスプレイの中心には中年の男性が現れたのみだったからである。
中年男性の胸のあたりには、【ルッキオ自治府代表オオハラ・シ・カーク】とある。
とても一つの自治府の代表とは思えないような貧相な印象をギリアスは受けた。

顔は丸みを帯びており、頭頂部の毛髪は八割型タンホイザに叩き込まれ、露出した地肌は脂ぎっていてヌラヌラと照明の光を乱反射しており見苦しいことこの上ない。その代償かどうかは不明だが、口髭だけは立派でありともすれば奴の本体はヒゲだ、と揶揄されかねないアンバランスさを醸し出している。

そのオオハラ氏が、ディスプレイの中にて演説を開始した。

「我がルッキオは正当な権利を侵害されている。ベクサ星系を最初に発見したのは我々ルッキオなのだ。だが、アルデスタは図々しくも我々の後からやって来て同じことを主張する。ここはアルデスタが見つけたのだ、彼らは口を揃えてそう言うのだ。だが、それは違う。断固として認めてはならない。我々ルッキオ自治府は自らの権利を悪辣なるアルデスタより護る為実力の行使すら辞さぬ事をここに宣言する!」

ディスプレイの向こう側、恐らくはオオハラ氏が演説をぶち上げているルッキオの政府施設の何処かなのだろうが、ともかくその場所が歓声で揺れた。
それと反比例して、酒場の中はザワザワとした賑やかな喧騒に満ちている。
向こうとの空気の差は、真夏の外気と冷蔵庫の如く圧倒的な隔たりがある。

「ま〜たやってるよルッキオのオッさん…」

「今度で何度目だ?良い加減飽きりゃいいのによぉ」

「そうそう、あのオッさんのせいで好きな番組も観れやしない」

と、酒場の酔客のルッキオに対する印象は個人的な次元でとても低い。その日の労働を終えて酒飲んで明日に備えようと言うささやかな楽しみを訳のわからないアジ演説で台無しにしているのだから無理からぬことだろう。

「我々は必ずや勝利を掴み……」

そのうち、オオハラ氏の演説も酒場の喧騒に飲み込まれて消えてしまった。ギリアスは炭酸水をもう一杯注文してまた一気に飲み干した。
炭酸が口内を刺激する感覚を覚えたが、どうもそれはぬるいようにも感じられた。



惑星ドゥンガ 軌道エレベーター

白野はパダムと連れ立って酒場を去り、軌道エレベーターへと乗り込もうとしていた。
軌道エレベーターは数十人がまとめて乗り込めるつくりとなっており、その星の発展度合いや時間帯にもよるが基本的に人が絶えることはない。
人混みの中に紛れた白野とパダムは、つい先程まで飲酒していたとは到底思えない程のしっかりとした足取りで進む。

「それで、艦長はこれからどうなさるおつもりで?やはり海賊退治ですか?」

「そうだな。手頃な手段ならばそれが一番いい。周囲の治安も良くなって誰も迷惑しない。俺たちは海賊船のジャンクパーツを売り払って金が手に入る。至れり尽くせりだ」

「わかりました。戦闘に備えて、機関の整備も万全に整えておきましょう」

頼もしい機関士に頷いて見せながら、二人は軌道エレベーターに乗り込む。エレベーターの操作ボタンが空中にホログラフ投影されたので、白野はその無数にある行き先の表示の中から宇宙港の項目をタッチした。
タッチすると同時にホログラフは消え、軌道エレベーターがゆっくりと動きだしやがて重力を振り切る高速へと加速する。

「さて、どうなるかな?」

「なんです?」

誰に言うでもなく呟いた白野の声を、しかしパダムはしっかりと聞き取っていた。

「酒場で見ただろう、あの下品なアジ演説を」

酒場全体に放送されていたのだから、聞こえていないはずもない。白野はその場では何も言わなかったが、飲んでいた酒が急にコーヒーでも混入したかのように苦味をます錯覚にとらわれていた。
彼は自身で戦い、そして勝つことに高い価値観を見出している。そして、先のルッキオ代表のオオハラ氏のように美辞麗句を並べ立てて自分ではやろうともしない危険なことを他人に押し付ける巧言令色の輩を、白野は蛇蝎の如く嫌っているのである。
【下品なアジ演説】という表現はおとなしい方に入る。

「ああ、ルッキオですか」

「そう、ルッキオだ。恐らく紛争になるぞ」

このまま何も起こらなければ、強硬手段も辞さないということを明言したルッキオはアルデスタを強制排除する挙に出るだろうことは確実である。
そして、アルデスタの方も黙って排除されはすまい。武力衝突は避けられないだろう。
問題は白野がそれをどのように利用して利益を得るか、という点に集約される。

事なかれ主義を貫くのならば、触らぬ紛争に祟りなしで無視を決め込みアルデスタ、ベクサ星系、ルッキオにドンパチが終わるまで近づかなければいいだけの話である。しかし、それではいささか芸が無いと思ってしまうのだ。

「む、そうか、この手がある」

軌道エレベーターが宇宙港に移動する間に、白野の脳裏にある計画が浮かんだ。それは妙案であると思われた。


続く 
 

 
後書き
以前のコメントによる指摘によって最近この話の読み直して見て最初のあたりの話の出来栄えがひどいコトを認識。まるで中学の頃に書いた黒歴史ノート読み返したかのような羞恥心の激流が私を襲う。
おお、なんと浅ましきかな。
神様?ビーム?ふざけるんじゃないよ昔の自分…
加筆修正を加えるべく準備を進める。近日中に黒歴史ノートの部分は書き換えられ、もう少しおとなしい表現へと変わるだろう。
それに伴い、タグの修正、紹介文の手直し、やることは多いが衆目に黒歴史ノートを晒すよりはるかにマシ…そう思わないですか?



多分 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧