SWORD ART ONLINE ―穿つ浸食の双刀―
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SAO編
01:窮地からの脱出
月明かりに照らされた、無限に広がる草原――実際は無限に広がっている訳ではないが、距離が距離だけに無限と感じてしまっても致し方ないだろう――の中心で、僕――ハリンは駆けていた。別にマラソン感覚で走っているという訳ではない。そんな事をしている人がいたら「馬鹿だな」と呟くだろう。絶対に。
――しつこいな、まったくっ······!――
――僕は、追われているのだ。プレイヤーではない。モンスターに。それも、複数体に。正直言って、この状況はかなりマズイ。回復用のポーションや結晶の類いが底を尽きている事に気付かず狩りを続けていたのは痛い失態だ。そればかりか、このデスゲームで生き抜く為に必要不可欠となるレベルがもう少しで上がるという理由で複数にちょっかいをかけた事が一番の失敗だ。
「くそっ······覚悟を決めるしかないかっ······!」
僕は足を止め、滑りながらゆっくりと減速させ、愛刀――《マーニス・シン》を甲高い音と共に抜刀する。
刀身は逆光を受けて淡く輝き、美しさを増していた。
――っと、見とれてる場合じゃない······集中だ······――
僕は深呼吸をすると、腰を低くし、構える。僅かでも気を抜けば、死んでしまうだろう。この世界でも······そして―――現実世界でも。
「――ッ、セヤァッ!!」
勢い良く駆け出し、一番近くにいるモンスターに斜めから一太刀浴びせる。そこから折り返す様に刀を返し、一気に脳天を目指して斬り上げる。当然防御の体勢も整えられていなかったモンスターは反応出来ず、ポリゴンの欠片となって宙へと浮かび上がる。
「先ずは一匹――次だ······ッ!?」
距離を取るべくバックステップをし、刀を構えた瞬間、僕の脇腹辺りを影が通った。気付けば僕は攻撃をされており、若干ではあるが赤いライトエフェクトが零れていた。振り返ると鳥類系統のモンスターが羽をはばたかせており、その鋭い嘴と目からは明確な殺意が感じられた。
「油断も休憩も出来ないねっ······っと······!」
僕は先程のモンスターに一気に詰め寄り、斬りつけると見せ掛けて剣を引き、首の根元を愛刀で貫通する。
――フェイントもたまには有効的だね――
僕はそう思い、残りの数体にジグザグにダッシュしながら距離を詰める。攻撃を受けつつも致命傷となる所の攻撃はパリングし、反撃と言わんばかりにソードスキルを発動させる。
――刀重範囲攻撃《旋風斬》――
眩い朱の光は、夜の草原を明るく照らし、同時に、ポリゴンの青い欠片が夜の空の星となった―――
* * * * *
「はぁっ······はぁっ······ふぅ······よし」
僕は乱れた呼吸を落ち着け、辺りの敵を一掃出来た事を確認すると慣れたどうさで愛刀を納刀する。そして僕は、広く、高く、無限に広がる漆黒の空を仰ぐ。
――あの日、この世界が······《ソードーアート・オンライン》がデスゲームと化してから、随分と時が過ぎたな······僕はあの頃より、少しは強くなっているのかな······?――
答えのない問い掛けを心の中で言い、皮肉気に笑い、僕は再び歩き出した。
――終わらないデスゲームに、終止符を打つ覚悟と共に―――
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