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大阪の魅力

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4部分:第四章


第四章

「それでな」
「大阪の酒か」
「ほら、飲め飲め」
 彼の杯に酒を入れてであった。そしてさらにだ。
 ドテ焼きも勧める。そのうえで食べさせもする。しかし猛久は相変わらず大阪を好きになれなかった。そんな中でまた一ヶ月だった。
「やっと涼しくなったよな」
「そうだよな」
 社内でこんな話を聞いていた。
「じゃあこれからカラオケ行くか」
「そうだな。久し振りだな」
「それでとことん騒いでな」
「楽しくやろうか」
「涼しくなったか?」
 ところが猛久はその話を聞いて首を傾げるのだった。白く清潔なオフィスの中はクーラーが効いている。しかし彼にとってはだ。
「こんなに暑いのにか」
「えっ、暑いか?」
「クーラーも効いてるしな」
「涼しいよな」
「最近外もな」
「いや、暑い」
 ところが彼はこう言うのだった。
「まだ暑いぞ」
「気温は下がってるよな」
「ああ、そうだよな」
「もうかなりな」
「いや、気温は下がってもな」
 猛久はさらに言う。
「それでもな」
「それでも?」
「どうしたんだよ」
「湿気が凄いし」
 それがあった。まずは湿気である。
「それに人も多いしその熱気で」
「人が多いのはいいじゃないか」
「なあ」
「人が多くないと何にもならないだろ」
「そうそう」
「とにかく暑いだろ」
 彼はとにかく自分はまだそう感じていた。
「まだな」
「で、秋山はどうするんだ?」
「一緒に来るか?カラオケ」
「どうするんだ?」
「いや、俺はいい」
 彼がここで断ったのはある意味当然の流れだった。
「俺はな」
「いいのかよ」
「またつれないな」
「とにかくいい。帰って休む」
「おい、夏バテには注意しろよ」
「もう秋だけれどな」
 それでもであった。彼にとっては暑かったのである。
 それでこの日は家に帰ろうとした。しかしここで。
 帰り道でだ。ふと小腹が空いた。それで立ち寄ったお好み焼き屋でだ。
 まずはお好み焼きを注文した。そこでだ。
「ああ、兄ちゃん」
「何だ?」
「ほい、サービス」
 店の人間がこう言って注文したのより大きなお好み焼きを持って来たのである。その大きさは座布団程のものがあった。
「食べなよ」
「こんなの頼んでないぞ」
「いやいや、だからサービスやで」
 店の兄ちゃんは明るく笑って言ってきた。
「うちの店今日は開店二十周年やさかいな」
「それでか」
「ああ、それでや」
 また笑顔で彼に言ってきた。
「だからや。食べてくれや」
「いいのか」
「ええで。何ならもう一枚焼こか?」
「いや、これで充分だ」
 彼は兄ちゃんの今の言葉には慌てて返した。
 
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