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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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2ndA‘s編
  第八話~長き一日の終わり~

 
前書き
最近、クオリティが下がっていっている気がして焦り気味です(^^;

では本編どうぞ 

 

民家


 ライがハラオウン家でひと騒動起こしている頃、ヴォルケンリッターの方でもひと騒動が起きようとしていた。
 家に戻ったヴォルケンリッターは、いつものように晩御飯を済ませ、今はヴィータと彼らの家族である少女の二人がお風呂に入り、残りのシグナム、シャマル、ザフィーラの二人と一匹が今回の戦闘についての考察を行っていた。
 自分たちの主に隠れて話すことをしていることに気分は沈みがちになるが、今はそうも言っていられなかった。

「……それで、現在の闇の書のページはどの程度埋まっているのだ?」

 一番重要かつ、最も目を背けたいことをザフィーラは切り出す。
 いつも損な役割をしてくれる守護獣に内心で感謝しつつ、シグナムは自分の記憶を掘り起こしていく。

「全体の大凡半分、ようやく折り返しと言ったところだ」

「彼女たちから蒐集できなかったのが、大きいわね」

 そう言い、シャマルは指輪型のデバイスであるクラールヴィントを起動し、数枚の画像を空中に映し出す。
 その画像は、今日の戦闘で姿を表した管理局の陣営の人物達であった。
 シグナムとザフィーラはその全員の顔を覚えるように、一枚一枚目を通していく。しかし、そんな中シャマルだけは難しい顔をしてある“映像”を凝視していた。
 シグナムとザフィーラはそんな彼女の様子に気付くことなく、これからの方針と画像の彼女たちの対応をどうするかを話していく。
 二人が話し込んでいく、横でシャマルは新たに一枚新しい画像を映し出し、繰り返し流されている映像に口を開閉させながら目を通していく。
 事ここに至って、シグナムとザフィーラの二人はシャマルの様子がおかしいことに気付いた。何せ、映像を見ながら口を金魚のごとくパクパク動かしているのだから。
 二人は取り敢えず、今のシャマルの奇行だけでは、判断がつかないと思い、彼女が見ている映像に目を向ける。そこで初めて、二人は複数開かれた画像の中に動画が混じっていることを知った。
 その映像は灰銀の髪の青年が女性を背負いながら、“こちら”を見ながら口を開閉させている映像。その少年がこちらを見ていることにも疑問を感じる二人であったが、戦闘音が遠くで鳴っているのに、どうしてこの青年の声が拾えていないのかも気になった。

「シャマル、これは―――シャマル?」

 これは一体なんなのか聞こうと、シグナムが視線を彼女の方に向けると、その疑問を飲み込んでしまった。
 何故なら彼女の顔色が青を通り越して、ほぼ蒼白に近くなっていたのだから。

「何がわかった」

 彼女の安否よりも、彼女が何をこの映像で知ったのかを把握することが重要と考えたザフィーラは彼女に問いかける。
 彼の言葉にハッとした彼女は、数度深呼吸してから口を開く。生憎と深呼吸の効果はあまりなかったのか、顔色が優れることはなかったが。

「……あのね、私たちは翻訳用の魔法を使っているでしょう?」

「「?」」

 いきなりの確認に二人はシャマルの本意を測りかねる。しかし、彼女はヴォルケンリッターの参謀であるために、無駄なことは言わないだろうと思い、素直に頷いて答える二人であった。

「そのせいで馴染みが薄いのだけれど、この国の日本語には子音と母音というものがあるの」

 そうしてシャマルが二人に見えやすいように、先ほど映し出した画像を移動させる。
 そこに映し出されていたのは、この日本で小学生が使うような平仮名とローマ字の一覧表。

「基本的にこの国の言葉には五つの母音と複数の子音を組み合わせて言葉を使い分けているの」

 かなり穿った解釈ではあったが、彼女はわかりやすさ優先で誤解覚悟の説明をする。

「それで、どんな言葉でも口の動かし方で大まかにだけど母音がどれかの特定をできるの」

 彼女はデバイスに命じ、画像の中の平仮名とローマ字の『あ・い・う・え・お』と『a・i・u・e・o』が隣り合うように操作する。

「それで、さっきの映像の彼の口の動きは母音で、『あ・あ・い・あ・あ・え』だったの」

「……?それが―――」

 先を促したシグナムの前に再び、青年の映像が映し出される。

「彼は最初の三文字と後の三文字の間に一泊挟んでから口を動かしたの」

 画像の言葉がピックアップされ、母音が『あ』と『い』と『え』のものが残り、それ以外が消える。

「最初は何か二つの単語を言っているのかとも思ったのだけど、それにしては間が短かった。ならそれは、何かの名称のように三文字と三文字とを組み合わせて意味のある言葉ということ。それと、口パクでこっちにわかるように言葉を送ってきたとして、それは管理局に知られたくなかった可能性があるということ」

 そこでシグナムとザフィーラは画像の青年を訝しそうに見る。これまでは口の動きにしか注意がいかなかったが、彼の目にはどこか気付いてもらえることを祈るようなものが垣間見えた。

「私たちが知っていて、管理局が知らない言葉。そして母音が『あ・あ・い・あ・あ・え』である名前」

「「…………!!」

 まとめる様に言いながら、シャマルは画像の文字を指で押していく。
 ここまで言ったことで、シグナムとザフィーラはソレに気付く。

「彼は私たちの主を知っている可能性がある」

 彼女が押した文字は『やがみはやて』と言う六文字を表示していた。



海鳴市・市街地


 夜風が身体と思考を冷やしていく。
 その事を心地よく感じながらも、ライは先ほどのことをひどく後悔しそうになる。

「…………なにが“残されることの辛さ”だ」

 吐き出されるように呟かれた言葉は、陽が沈みきった街に響くことなく消えていく。
 手を握り締め、再び溢れ出しそうになる感情を抑えようとするが、手に走った痛みが包帯を巻いていることを思い出させたことで、それもできなかった。

「……わかったようなことを言って!」

 今度は語気が荒くなり、その声は少しだけ街に響く。
 響いた声にハッとして、顔を上げるとそこには丁度よく公共のベンチが設置されており、自分をもう一度落ち着けさせるためにも、ライは少し乱暴になりながらも腰を下ろした。

『マスター……』

 街に出ているために念話による会話で、蒼月が気遣わしげに語りかけてくる。
 その相棒に反射的に『大丈夫だ』と返そうとしたが、それがただの強がりになってしまうことは明白であると察した彼は、数度深呼吸をして自分を落ち着けるためのアピールをした。

『ごめん……心配をかけた』

『ご無理をなさらずに』

 たったそれだけのやりとりであったが、そのライの声音はいつもの冷静なものに切り替わっている。それをどこか悲しく感じつつも、蒼月は自分が果たした役割の報告を行い始める。

『ご指示の通り、あのマンションでハッキングを行いました。予測通り、あの部屋にはミッドチルダで使用されている端末が存在していました』

 その報告自体にライは特に反応は見せない。
 何故なら、リンディ・ハラオウンが管理局員である時点で、その住居には仕事に対応できる機材がなければ、仕事がすることができないと考えていたのだから。
 あらかじめ予測していたことを聞き流しつつ、ライは自分の気になっていることを蒼月が早く報告して欲しいと内心で少し焦れた。

『データの中には、この第97管理外世界近辺の次元世界の地図がありましたので、それのコピーは保存してあります。しかし、流石に最近のヴォルケンリッターの活動記録までは存在していませんでした』

 前者の報告には安堵し、後者の報告には考え込む仕草を見せるライ。それはある意味で予測通りの報告であったために、欲したデータが存在しなかったことに悲観することはない。
 ちなみに蒼月の手に入れた次元世界の地図とは、次元世界間の近さを表す海図のようなものである。ライがそれを欲しがったのは、蒐集を行っていると言うヴォルケンリッターの行動を予測するためだ。
 ライトしては、これまで彼らが行動を起こした世界の記録なども欲しかったが、それは高望みしすぎか、と内心でため息をひとつ付いた。

『これからどうなさいますか?』

『しばらくは静観だ』

『は?』

 質問に即答で返され、蒼月は思わず聞き返す。
 Cの世界に触れたおかげか、本当に人間らしくなったものだ、と思いながらもライは自分の考えを念話で相棒に伝えた。

『彼らが魔導師のリンカーコアを狙っているのであれば、少なくともこの世界に五人の該当者がいる』

『マスター、なのは様、フェイト様、アルフ様、リンディ様ですか?』

『うん。それに彼らは僕を追わなければならない理由も押し付けたから、しばらくすれば向こうから出てくると思うよ?』

『?』

 最後のライのセリフを理解出来なかった蒼月であったが、何の根拠もなしにそんなことを言うようなマスターではないと認識しているため、深く追求することはしなかった。

『とにかく、向こうが姿を現さない限り出来ることは少ない。管理局側が下手に藪をつつくことがなければ、シグナムさん達の方との会談もできるはずだから、それまでは大人しくこの世界に留まるよ』

 それで話はおしまいだと言う意味を込めて、ライは一方的に念話を打ち切る。
 そんな自分の行動が子供じみていて、その情けなさにまた気持ちが沈みそうになる。
 座っているベンチの背もたれに身を預けると、余り高くない背もたれの淵の部分に後頭部を乗せる形となり、自然と夜空を見上げる体勢になる。

「…………」

 ぼんやりと開かれている瞳には、欠けた月の姿が映る。
 月は満月でもないのにその光が強く、ライにはそれがどこか自分を責め立てているように感じた。その錯覚から逃げるようなことはせず、纏めて飲み込もうとした時、特徴的な緑色の髪とその髪の持ち主の泣き顔がライの脳裏に過ぎった。



八神家・リビング


 シャマルの言葉で部屋に沈黙が降りる。
 そこに人がいないわけではない。そのリビングには二人の女性と一匹の狼が確かに存在する。しかし、彼らは何を口にすべきかわからないのだ。
 敵である人物が、知り得るはずのない自分たちの主のことを知っている。
 ならば、自分たちのいるこの家に踏み込まれる前に、主を連れて逃げ出すべきか?
 その場にいる二人と一匹はそう考えるが、そんなことをすれば主の今の幸せを壊すことになる。
 彼らは今、主であるはやてが幸せであると感じている“今”を守るために行動を起こしたのだ。
 それを守るために、罪を背負い、騎士であることの誇りも、守るべき誓いも捨てここまで来たのである。
 それらを全て踏みにじるようなことはできないと、その考えを切って捨てる。

――――考えろっ、考えろっ、考えろっ、考えろ!――――

 何かに祈るようにそんなことを想い続ける。
 焦りを無理矢理ねじ伏せどうにか最善を引き出そうとする中、ザフィーラは口を開く。

「未だ、此処に誰も来ていないということは、この男は管理局に主のことを言っていない可能性がある」

 その言葉にハッとするシグナムとシャマル。
 可能性とザフィーラは言ったが、それは半ば確信した予想であった。戦闘が終了してから既に数時間が経つなか、管理局がなんのアクションも取っていないことからはやての情報を彼らが入手していないことは簡単に推測できることだ。

「問題は何故、この男が主はやてのことを知っているのか、か」

 確認するようなシグナムの言葉にシャマルとザフィーラは頷いて返す。
 だが、その当然の疑問も内容が不可解すぎて、答えを推測することしかできない。不確定要素もこれ以上のことは起こるまいと、半ば自棄気味にそんなことを考える一同であったが、取り敢えずの提案がザフィーラから挙げられる。

「私が匂いでこの男を追ってみる。下手に探知魔法で捜索すれば、管理局にも嗅ぎつけられる」

 消極的ではあるが、それぐらいしかできることもないかとため息を吐きながらも、そこで今後の彼らの活動方針についての話し合いは終了した。


 
 

 
後書き
ライの立ち位置が色々と複雑になってきました。
さぁ、作者はこの話に収拾をつけられるのでしょうか?

色々とプライベートの方で立て込んできていますが、更新頑張ります。



それと、これは聞き流してくださって大丈夫なんですが、新しく1本連載を始めました。
興味のある方は一読よろしくお願いします。


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