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独裁政権

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第一章


第一章

                     独裁政権
 この国では政変が起こった。政変といってもクーデターであり政権を握ったのは所謂独裁政権だった。
「この国は私である!」
 政権に就いたルドルフ=シュツットガルトがまずこう叫んだ。軍の指揮官の一人であった彼はその当時の政権担当者が外遊中に政変を起こしたのだ。己の指揮下にある軍を動かし瞬く間に首都を制圧し政権に就いた。
 政権に就くと議会を解散させ憲法を停止させた。そのうえで各地に軍を送り国の全土を掌握した。軍政を敷き言論の自由も完全に統制した。
 しかもそれだけではなかった。彼は己に反対する者の存在を許さなかった。独裁者だからこれは当然だが彼の行動は実に徹底していた。
「ただ統制するだけでは何にもならない」
 彼は言う。
「だからだ。貴官を特殊警察の長官に任じたのだ」
「有り難い御言葉」
 彼の腹心の一人であるハインリヒ=リンデンベルグは彼の言葉に敬礼で応えた。鋭利な顔をして痩せた身体を持つ金髪碧眼の長身の男だった。
「それでは」
「幸い私は国民に人気がある」
 彼はそれもわかっていた。実際に彼の行動は政策は国民から絶大な人気があった。だからこそクーデターを起こせたのだ。そして今政権にもあるのだ。
「不穏分子は少ない」
「確かに」
「しかしだ」
 シュツットガルトはその岩の如き顔を顰めさせる。大柄で筋肉質の身体を軍服で包んでいる。
「不穏分子の存在を許してはならない」
「その通りであります」
「まず電話やあらゆる通信をチェックする」
「はい」
 まずはそれであった。
「無論インターネットにもな」
「それではすぐにそのように」
「しかしそれだけではない」
 これまでは科学的な方法だったが今度は別の方法を述べるのだった。
「その国民の力も借りよう」
「国民のですか。それでは」
「そうだ。密告だ」
 それであった。これは古来より独裁国家では常に使われる陰湿な方法だった。彼はそれを使うというのである。
「不穏分子を彼等の手で摘発してもらうのだ」
「我々の捜査以外にもですね」
「その通りだ。ではそちらの操作も頼むぞ」
「わかりました。それでは」
 こうして彼等はオーソドックスに秘密警察に情報統制、それに密告により不穏分子の摘発にかかった。その結果不穏分子はすぐにかなりの数が摘発された。
 シュツットガルトはその報告を受けて満足した。己のその武骨で味気ない執務室の机に座りそこで満足した笑みを浮かべていた。
「まずは順調だな」
「国民の協力がかなり大きいです」
 彼はこうシュツットガルトに敬礼のうえ述べた。
「やはり。彼等の密告が不穏分子を次々に捕らえています」
「そうだな。実に見事にな」
 シュツットガルトはリンデンバーグの言葉を聞いてまた頷いた。
「いっている。元々彼等は少数派だ」
「それに外国の勢力と結託していましたし」
 そうした勢力も多かったのだ。この国は隣国との関係が悪くその国からの工作員も多数潜り込みそれが政情不安の原因にもなっていたのだ。
「それを考えればこれも当然でしょう」
「そうだな。私にとっては不穏分子がいなくなって何よりだ」
 彼はそのことに満足することしきりであった。
「これで安心して国家の復興にあたれる」
「そうですね。今我が国は経済的に破綻しています」
 リンデンバーグの言葉はその通りだった。この国は経済的に完全に破綻してしまっており世界の中でも最貧国だった。シュツットガルトはそれを憂えてクーデターを敢行したのだ。
「今は国を完全にまとめそのうえで復興及び発展にかからなければなりません」
「その通りだ。ではこれからも」
「不穏分子の摘発には国民に協力してもらいそのうえで経済復興に専念する」
 シュツットガルトは述べた。
「それでいいな」
「そうあるべきです」
 リンデンバーグも彼の言葉に頷く。こうしてこの国は彼等の指導の下経済復興を進めていった。ある大国と国交を結びその援助も受けその復興はさらに早まった。しかしここで彼等を批判する勢力も出て来た。
 それは中になかった。外にあった。彼等はこの国の外からシュツットガルト達を声高に批判した。
「人権弾圧だ!」
「全体主義だ!」
 こうしたシステムの国家に対する批判としてはいささかステレオタイプになっている批判だ。だがこの時もそれが為されたのだった。
「独裁政権の延命を許すな!」
「打倒しろ!」
「勝手に言っていろ」
 しかしそれに対するシュツットガルトの態度はこうであった。
「勝手にな。言っていろ」
「全くです。せめて国内に来て言えばいいものを」
 リンデンバーグも彼と同じ意見であった。
「最もそうすれば即座に国外退去ですが」
「その場合は速やかに出してやれ」
 シュツットガルトはこう言っておくのを忘れなかった。
「外国人に何かすれば後が大変だからな」
「はい、それはわかっています」
 彼もそれは当然ながらわかっていた。すぐにシュツットガルトに対して応えることができた。
「実際に僅かに潜入している外国人はそうしています」
「文化人やジャーナリストはいい」
 シュツットガルトは彼等はいいとした。
 
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