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カウンターテナー

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第五章


第五章

「こんな声ですよ」
「そう、その声なんだよ」
 しかしオコンネルはずばりといった調子で述べてみせた。
「その声こそなんだよ、僕が言うのは」
「この女みたいな声がですか」
「そうさ、カウンターテノールというのは知っているかな」
「カウンターテノール!?」
 その言葉はマクドネルにとっては未知の言葉であった。
「何ですかそのカウンターテノールっていうのは」
「簡単に言えば君の声だよ」
 オコンネル自身の声だというのだ。
「君のその声がだよ。カウンターテノールなのだよ」
「僕のこの声がですか」
「そう」
 またはっきりと言い切った。
「その歌声こそがカウンターテノールなんだよ」
「これがですか」
「そう、そして」
 マクドネルに対してさらに告げる。
「君のその声こそが」
「変えるんですか」
「そうさ、オペラ界をね」
「オペラと言われましても」
「ああ、一つ言っておくよ」
 ここでこうも彼に言うのだった。
「君は今バンドをやっているけれど」
「はい」
「それはそのままでいいよ」
 こう告げるのだった。
「そのまましていいからね」
「オペラ歌手になってもですか」
「実際にロック歌手でもあるオペラ歌手はいるからね」
 だからいいというのである。これは本当の話である。ロック歌手をしながらワーグナーを歌ったドイツの歌手ペーター=ホフマンがその例である。
「だからそれはいいよ」
「そうですか」
「それでなんだよ」
 ロックをいいとしてさらに彼に問うのだった。
「どうかな。オペラを歌う気はないかな」
「僕がオペラを」
「約束する、君は偉大な歌手になる」
 またしても断言であった。
「オペラ界に燦然と輝くスターになる。絶対にね」
「スターに」
 この言葉に心を動かされない筈がなかった。歌を歌っていれば。そしてそれはマクドネルも同じであった。
「僕がですか」
「どうかな、それで」
 マクドネルのその目をじっと見て問う。
「オペラを歌う気はないかい?」
「いいんじゃないのか?」
「そうだよな」
「ジャッキーの為にもな」
 彼の仲間達、四人は彼の後ろで顔を見合わせて言うのだった。
「バンドも続けていいっていうし」
「俺達とも一緒にだったらな」
「別にいいんじゃないのか?」
「そうだよな」
「皆はそれでいいのか」
 マクドネルはその彼等の方を振り向いてそれを確かめた。
「僕がオペラに入ってもそれで」
「ああ、だから俺達とはこのまま一緒にやっていくんだろ?」
「バンドを」
「だったらいいじゃないか」
「ずっと一緒にやってこうぜ」
「そうなんだ」
 彼等はバンドを続けられればそれでいいというのだ。彼にとっては有り難い仲間達だがその彼等の言葉は強い後押しになった。
「そう言ってくれるんだね」
「それに御前がスターになれば」
「俺達も嬉しいしな」
「ほら、だからな」
「そっちも歌えよ」
 温かい笑みと共に彼の背中を押してみせるのだった。
 
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