問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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乙 ⑨
某所温泉、女風呂。
日ごろの疲れを取ろう、という企画で“ノーネーム”のメンバーは温泉旅行に来ていた。
「ふぅ~・・・確かに、たまにはこうして休まないといけないわね。」
「はい。いつも気を張っていては、いつ切れてしまってもおかしくないですし。」
「それについては、一輝様が一番心配なのだがな。」
「だね~・・・やっぱり私、男湯の方に行って、」
「やめろ。一輝様が余計に疲れるだろう。」
当然ながら、一輝一行も来ている。
普段から別行動が比較的多めになっている一輝も、今回ばかりはのんびりとしているだろう。
「にしても、面白い温泉よね・・・」
音央が見る先では、温泉の水面から撥ねる水の魚が居た。
「確か、スクナビコナという神様による設計でしたっけ?」
「そう言ってたね~。黒ウサギのお姉さんも今そう言ってるし、間違いないと思うよ?」
そして、音央と同様に珍しそうに見ている鳴央と、一輝と一緒に風呂に入った際に見ていて、さほど珍しそうでもないヤシロが答える。
「スクナビコナか・・・一輝様は色々やらかした英雄、と表現していたが・・・」
「何、その一輝評価・・・それに、この感じならそうでもないんじゃないかしら?」
「そのようだな、っと。」
そして、いつの間にか背後に回っていた白夜叉をスレイブが手刀で殴りあげ、音央が茨で捕らえて黒ウサギに向けて投げ飛ばす。
「のわっ・・・だがこれはこれで役得ぶべら!?」
そして、そのまま黒ウサギによって殴り飛ばされた。
「ちょっと音央さん!何で黒ウサギに向けて投げたのですか!?」
「え・・・だって、ここは黒ウサギに向けて投げる場面じゃないの?」
「ちがいますよ!?」
「「「え・・・?」」」
「何で耀さんに飛鳥さんまで不思議そうなんですか!?」
相変わらず、黒ウサギの突込みには切れがあるのだが・・・いかんせん、問題児二人と一輝の影響を受けてきている音央が相手では分が悪い。
「そういえば、そっちの四人は一輝君のこと、どう思ってるのかしら?」
そして、そのタイミングで飛鳥が四人に向けて質問をした。
「どう思ってる・・・というのは?」
「異性として、じゃないの?」
耀の一言に、約三名の顔が真っ赤になった。
温泉であることとは、一切関係ないだろう。
「ちょ、耀!何言ってるのよ!?」
「いや、何言ってる、って・・・さすがの私でも、見てれば分かったし」
「黒ウサギも聞きたかったです!さあさあ、せっかくの温泉なのですから!ガールズトークとまいりましょう!」
そして、そのまま野次馬根性丸出しの三人と面白が手来たレティシア、リリによって追い詰められている。
「あはは~。三人とも初心だなぁ・・・私はお兄さんのこと、好きだよ?」
そんな中、唯一恥ずかしがるそぶりも見せていないヤシロが先陣を切る。
「あら、はっきりとしてるのね。」
「うんっ。隠しても仕方ないからね~。さすがに、お兄さんに聞かれてたら恥ずかしいけど・・・もうお風呂からは上がってるみたいだし」
「何でヤシロには分かるの?」
「隷属の契約、これってちょっと感覚を済ましてみると近くにいるかどうか位は分かるんだよね~」
そして、すぐ隣の男湯に居るかどうかを確認した、というわけだ。
「そ、そうなのですか・・・なんというか、こう・・・」
「期待通りの反応ができなくてごめんね?そのあたりはほら、こっちの三人がやってくれるから!」
そう、無責任に言ってからヤシロは方位陣から抜け出し、リリと共に風呂を上がっていく。
魂胆はこう、誰もいないうちに一輝と時間を過ごそう、というものだ。
そのついででのぼせる前にリリを回収できるあたり、かなり気配りも出来ているのだが。
「じゃあ、次は誰が話すのかしら?」
「・・・これ、話さないといけないのかしら?」
「・・・我慢大会でもする?」
耀の提案は、三人にとってもあまり喜べたものではなかった。
そして、
「私は、というより私達は、なのですけど・・・そういったことよりも、まずはお礼がしたいんです。」
まず、鳴央が口を開いた。
「お礼?」
「ええ。私達、助けてもらっただけで一輝に何も出来てないから。」
「一輝はそんなこと、気にしてないと思うけど。」
「間違いなく、気にしてないですね。」
「それでも、私達が気にしてるのよ。」
そう言う二人の表情は、再び温泉とは別の要素で紅くなっていた。
婉曲的に言っているつもりなのだろうが、それでも一輝のことが好きだといってしまっているようなもの。
それを察することが出来ない連中ではないため、思いっきりニヤニヤされているのだ。
「あーもう!これだけ言ったんだからいいでしょ!?それとも、まだ聞きたいの!?」
「そうね・・・出来ることなら、一輝君のどこが好きなのかを聞いてみたいんだけど・・・」
そう言いながら、飛鳥は耀、黒ウサギ、レティシアと協力して逃げ出そうとしていたスレイブを捕まえる。
「それより、ここまで必死になっているスレイブの事を聞きたいかしら?」
「うん。こっちの方が気になる。」
「確かに、これは黒ウサギも気になるのですよ!」
「遺憾ながら、ここまでされると私も気になるな。」
問題児もそうでないメンバーも、スレイブの様子がどうにも気になったようだ。
まあさすがに、ここまで必死になられると気にもなるのだろう。
「わ、私は一輝様の剣!そのような感情は、」
「ないわけじゃないみたいね。」
スレイブの言葉の途中で、飛鳥が否定に入った。
「飛鳥・・・分かるってことは、経験が?」
「ないわよ。」
「ちなみに、私も。」
「あ、私もです。」
「私もだな。」
「なら、何で分かるのですか・・・」
ごもっともな意見ではあるのだが、スレイブはそれほどまでにあからさまである、ということなのだろう。
そして、そのまま四人の好奇の視線にさらされて、スレイブは普段考えていない感情に視点を当てざるをえなくなっていき・・・
「・・・(ぷしゅ~~~~~!!)」
「あ、スレイブが剣になったわよ!」
「さわらないように気をつけて。切れ味抜群だから・・・って、意外と重いのね、大剣って・・・」
そう言いながら、音央は刃に触らないように柄を慎重に持って風呂を上がっていく。
その横に鳴央も着いていき、何かあっても対応できる体制である。
そして、残ったメンバーは・・・
「なんと言うか・・・スレイブ、中々にかわいい反応ね。」
「うん。普段クールな感じだから、たまにああなると中々面白い。」
「YES!そして、あんな子に慕われている一輝さんは幸せ者ですね!」
黒ウサギの一言で、話の矛先が一輝に向かった。
「そういえば、一輝君の周りって中々に個性的なメンバーが集まってるのよね。」
「というより、あれは人に好かれやすいんだと思う。」
「その好かれる、の方向性が一つではない、ということですね。」
「そうだな。元の世界でも、様々な友人がいたのではないだろうか。」
レティシアの予想は、かなりの面において当たっている。
だがしかし、そうでないめんが有るのもまた事実だ。
いろいろなところで、恨みも買っている。
「そういえば・・・一輝は、箱庭にきたことについて何か思ってたりはするのかな?」
「というと?」
「ほら。今の話があたってるなら、元の世界にも未練があるんじゃ・・・」
「・・・それはない、と言っていましたよ。」
耀の疑問には、戻ってきた鳴央が答えた。
「鳴央さん!スレイブさんは大丈夫なのですか?」
「はい。音央ちゃんが一輝さんのところに連れて行くと言っていました。私は、何か一輝さんについて話しているから聞いてくるように、と。」
そう言いながら、鳴央は再び湯船に浸かる。
「一輝さんは元々、家族を失った時点でどこにいても変わらない、と考えているみたいで。」
「・・・そう、なのですか。」
「はい。だから、この世界・・・箱庭の世界は、無駄なことを考えずに済むから居心地がいい、だそうです。」
その言葉には、一輝が何か大きなものを背負っているということが分かりやすく表れていたのだが・・・それについて聞ける人は、ここにはいなかった。
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