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インフィニット・ストラトスの世界にうまれて

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心を開いて、妹さん その二

「ちょっと待ってください!」

ようやく追いついた山田先生に俺はそう声をかけた。
俺のほうに振り返った山田先生がくれた返答は、パンッという左頬を叩かれた音と痛みだった。
お昼休みということもあって食堂近くの通路は人通りが多い。
俺が頬を叩かれた音を聞いた女子たちは足を止めているだろう。

「何? 今の音」

案の定、そんな声が聞こえてくる。
目に涙を浮かべた山田先生は色んな感情を秘めたような表情をしていた。
震えるような声で山田先生は話し出す。

「ベインズくん。一緒にいた彼女はクラスメイトですか? ずいぶんと楽しそうでしたね」

山田先生が言う彼女とは、簪さんのことだろう。

「ベインズくんは釣った魚にはエサをやらないタイプなんでしょうか。それとも先生のことは遊びだったんですか?」

叩かれた左頬がジンジンと痛み、熱を帯びてきている。
俺は左手で頬を擦りながら、

「あの、山田先生。これにはワケがあるんです」

と言ったが、俺の言葉は耳に届かないようだ。

「確かに彼女としていたようなことは先生の立場ではおおっぴらにできませんけど、だからといって、彼女と昼休みの食堂で、他人に見せびらかすようにあんなことをしなくてもいいじゃないですか。普通の男女交際がしたいのなら先生に……好きだなんて言わなければよかったのに」

言い終わった山田先生の目からは涙が溢れ出していた。
何かを堪えるように口元に手をもってくと、俺に背を向け走り去っていく。
だんだんと小さくなっていく山田先生の背中を俺は見ながら、やっちまったという思いが込み上げてきていた。
まさかこの俺が、山田先生相手に修羅場――というか、愁嘆場を演じるハメになるとは思わなかった。
俺と山田先生の会話を間近で聞いていたであろう女子たちから、こんな会話が聞こえてくる。

「今の状況はどういうことかな」

「山田先生の言葉を信じれば、ベインズくんが人目をはばかることなく他の女子と浮気していたのを山田先生が見た、ということかしら」

「ベインズくん、さいてー」

「今回の浮気相手って誰なんだろうね」

と言った女子たちの足音が俺から遠退いていった。
俺は山田先生を追いかけようと一歩足を踏み出したが、食堂に簪さんを残しているのを思い出す。
俺は一旦食堂に戻ることにした。
食堂の自分の席に戻ると、俺の顔を見た簪さんは、ほっぺたが赤いけどうしたの? と聞いてくる。
それに俺はなんでもないよと答えた。
食事を終えた俺たちは食堂を出る。
背後からはこんな会話が聞こえてきた。

「ねえ、彼女が今回の浮気相手?」

さっき廊下で俺と山田先生の話を聞いていた誰かだろう。

「彼女、なんて名前なのか知ってる?」

「あの髪の色は……更識さんとこの妹さんじゃないかな」

この話を聞いていた俺は、山田先生とのやり取りがあるから事実無根とまでは言えないが、それでも面白く脚色された俺の武勇伝がまた一つ増えたのだろうなと感じていた。

授業が終わり放課後になると、俺は自分の教室を飛び出し一年一組の教室と職員室に顔を出していた。
理由は言わずともわかるだろうが、一応言っておこう。
山田先生に会うためだ。
でも、合うことは叶わなかった。
仕方なく懐かしの職員寮の前で待つことにしたのだが、山田先生は現れず、ただ時間だけが過ぎていく。
今日はダメかと諦めかけたそのとき、俺に声をかけてきた人間がいた。

「おい、ベインズ。そこで何をしている」

聞き覚えのある声。
それは一組一組の担任、織斑先生の声のようだ。
俺は織斑先生に身体を向けると軽く会釈をする。

「なんだその顔は。今にも世界が滅亡するとでも言いたげな表情をしているぞ」

俺はそんな表情をしていたのか。

「お前は山田先生を待っているのだろうが、お前がここにいる限り戻ってこないと思うぞ」

やはり俺は山田先生に避けられていたか。

「今日の山田先生は近接格闘を熱心にしていたが、お前のことを浮気者といいながらだからな。どうせお前が、他の女子といちゃついていたのを山田先生に見られたのだろう?」

「確かにそうですが、これには深い事情があるんですよ」

「お前の言う事情など聞く気もない。夫婦喧嘩は犬も食わんぞ。夫婦のことは夫婦間で解決しろ。でないと周りが迷惑をする」

と言った織斑先生は俺の肩を一度ポンと叩くと、はははと快活に笑いながら去っていった。
簡単に解決できるなら苦労はしないよ――というか、そもそも俺と山田先生は法律に基づいた関係じゃないですよ、と言いたい。
織斑先生は俺と山田先生のことには不干渉を決め込むつもりらしい。
人の色恋沙汰に首を突っ込みたくないのだろうが、俺たちを放っておいたほうが面白いか、とか思っていたりしてな。
さすがにそれはないか。
織斑先生の姿が見えなくなると俺も職員寮の前を離れた。

俺が食堂近くの廊下で頬を叩かれてから三日が過ぎた。
あれからまったく山田先生先生には会えていない。
拝啓から始まり敬具で終わる、事の次第を書き記した(但し個人名は伏せている)謝罪メールを送ってはみたが、山田先生からの返事は返ってこず。
どうしたらいいものかと悩んでいるところだ。
それから、うちのクラスの噂好きの女子たちから簪さんが色々言われていたな。
不倫は不毛だとか、愛人希望なのかとかさ。
簪さんは俺の噂を耳にしたことはないのか、意味がよくわかっていないようだったがな。

今日の授業が終わった俺は、一夏を伴って学園施設の一つであるISの整備室にきていた。
俺は自分のISの調整をしたかったこともあるが、一夏に頼みたいことが二つほどあったからだ。

「なあ、アーサー。俺たちの目の前にある、このISみたいなものは何だ? 見た目はお前のISに似ている気がするけど」

一夏がそう思うのは当然だと思う。

「元になった機体がブルー・ティアーズだからな」

「で、このISモドキのロボットはなんに使うものなんだ? 同じ機体が四機もあるしさ」

「これは、あれだよ。俺とかセシリアのISに本体から切り離して使う武器あるだろ」

「ブルー・ティアーズだよな」

「そう。それの発展型だよ」

「俺たちの目の前にあるのがそうなのか? それにしたってデカすぎだろ、これ」

確かに目の前にあるロボットはISサイズだしな。

「この大きさに意味があるんだよ。攻撃も防御もできるし、人が乗らないから人ではできない変態マニューバもできるしな。しかも今までみたいにすぐにエネルギー切れにならない。まあ、まだ試験段階だけどな」

「これってどれくらい動けるんだ?」

「そうだな……スペック的にはIS並みだぞ」

「へえ。そりゃすごいな」

素直に感心したといった感じの一夏。

目の前にある四機のロボット。
これが新型のブルー・ティアーズになるため本体のものはオミットしてある。
代わりに肩の部分には可動式の物理シールド。
形状は野球で使うホームベースを細長くした感じ。
そのシールドには機動性を上げるためのスラスターとミサイル。
基本的にはビットロボがわも俺と同じ装備だが、ビットロボの主兵装はスターライトマークⅢではなく、連射がきくマシンガン系の武器を両手に装備している。
ただ問題なのが、俺がISを動かしつつ新型のブルー・ティアーズ四機を俺が扱い切れるかということだ。
本来なら六機同時運用も可能なはずだが、四機しか送ってこないところをみると、今の俺では六機ではもてあますだろうという開発側の判断だろう。

「なあ、タッグマッチ戦でアーサーとペアを組むと、味方が六機で相手が二機ってことだよな?」

見た目はそうなるな。

「それか問題でさ。俺の装備を知ったクラスの担任が、お前の装備ならタッグマッチ戦で一人でもいいだろうとか言い出してさ」

担任の言葉には従うが、一人で出るならタッグじゃないだろうと心の中でツッコンでいたがな。
今のIS学園には専用機持ちが十一人しかいないからどうなるかと思っていたら、これだよ。

「そうなのか? まあ、アーサーとペアを組んだやつは実力がどうこうより数の暴力に見えそうだからな」

確かにな。
まさに、戦いは数だよ、兄貴! って感じだろうしな。

「ビットロボの話は置いておくとして、ここからが今日の本題なんだが」

「俺に頼みごとがあるとか言ってたよな」

「その頼みごとなんだが、うちのクラスに更識簪って娘がいるだろ?」

「三日前にアーサーと食堂に来てた盾無さんの妹さんだろ」

「その簪さんなんだが、タッグマッチ戦で組むやつがいなくてさ、困ってるんだ。一夏、組んでやってくれないか? 引っ込み思案の娘だけど、いい娘だと思うぞ」

「そのことは盾無さんから聞いてるよ。そのうちアーサーが何か言ってくるかもしれないから、そのときは力になってやってくれってな」

いつ一夏に話したのかは知らんが、生徒会長はやることにソツがないな。

「なら、話が早い。簪さんが専用機を持っていない理由も聞いたのか?」

「ああ、聞いている。ともかく話はわかったけどさ――」

さすがは一夏。
男気に溢れているな。

「本人はタッグマッチ戦で俺と組むのを了承しているのか?」

「簪さんにはこれから交渉するつもりだ」

交渉と言っても、俺にできることは土下座くらいだかな。

「それともう一つ頼みごとがあるんだ。整備課に知り合いはいないか? 簪さんって一人コツコツ自分の専用機を作ってるんだよ。このままだとタッグマッチ戦に間に合わない気がするんだ」

原作では今頃の時期、二年生で新聞部の黛薫子に、雑誌社に勤める姉から一夏と箒がインタビューとモデルを受けてくれるように頼まれているはずだよな。
何でも、専用機持ちは国家代表かその候補生だからタレント的な活動もするとかなんとか。
幸いにしてイギリスには見映えのいいセシリアがいるからいいが、自分が笑顔でポーズを取りながら写真を撮る――しかも、その写真が全世界を駆け巡ることを想像すると、そら恐ろしくなる。 身震いが起きそうだ。
原作では確か、一夏が黛薫子に協力してもらう代わりにデート一回と独占インタビューで手を打つとか言われていた気がするな。
そっちは一夏に任せるとして、俺は簪さんを説得するために土下座をしにいかないとな。
のちに俺は今回の頼みごとのせいで一夏に一週間昼飯を奢ることになるが、これで物事が万事うまくいくなら安いものだ、と俺は思った。
それにしても、一夏は女子を落とすことにかけては天才――いや、天恵だろうな。
女子のために動くこと風の如く、女子の心を侵略すること火の如く、か。
一夏が一年四組の教室にきた瞬間に空気が変わったしな。
一夏が四組に来たのは俺がいるからだから、俺が所属でよかったなんて言っていた女子もいたな。
簪さんはというと、俺の土下座攻勢に心を動かされたのかどうかはわからないが、嫌悪していたはずの一夏と仲良くなるのにそう時間はかからなかったな。
多少予定は狂ったが、概ね作戦成功と言ってもいいだろう。
立っている簪さんの前で土下座していた俺が頭を上げようとしたとき、簪さんは頭を上げないでと言っていた。
最初は俺に対して怒り心頭なのかと思っていたら、どうやら俺があのまま頭を上げていたらスカートの中が……ということらしい。
短いスカートをはいた女子の前で土下座はしないほうがいいと簪さんに注意を受けてしまった。
次回、土下座するときは相手の装い見て――というか、土下座をするような事態に陥らないようにしないとな。

俺は人生初の土下座を簪さんに行ってから三日が過ぎた。
とある人物たちからの呼び出しをことごとく無視し続けていた俺なのだが、とうとう捕獲された。
今は何をしているのかというと、第三アリーナの上空二百メートルにいる。
俺を捕獲したとある人物たちによる、名目上は模擬戦だが、実際は俺の死刑執行が待っていた。
こうなるだろうという予感めいたものはあったが、現実には起こって欲しくなかったよ。
一夏さあ、もう少し彼女たちにうまく説明できなかったのか? と俺は思う。
一夏がどんなふうに彼女たちに言ったのか俺は想像してみる。
顔に笑顔を浮かべた一夏は、

「いやぁ、皆悪い。アーサーに頼まれて、四組の簪さんと組むことになっちゃたよ。ははは」

とか言ったんだろうな。

俺を囲むように菷、鈴、セシリア、ラウラ、シャルロットがいる。
まず口火を切ったのは箒だった。

『どういうことだ、アーサー。なぜ、あの女が一夏とペアを組むことになっている』

そう言った箒は装備した刀を振り上げ、俺から見て左斜め上から袈裟斬りをしてくる。
どうやら箒は俺の言いわけなど端から聞く気などなく、今すぐ俺をこの世から消滅するのが目的らしい。
俺は機体を左へと振り、軸をずらす。
攻撃をかわされた箒は、踏み込むように間合いを詰め、振り下ろした刀でそのまま切り上げてくる。
俺はその刀の切っ先を大きく後退することでかわし、ついでに距離をとる。

『へえ、箒の攻撃をかわすなんて、なかなかやるじゃない。少しは見直したわ。次はわたしの番ね。言っておくけど、わたしは箒みたいにアンタに理由なんてきかないわよ。一夏のペアにわたしを推薦しなかったことを今すぐに後悔させてあげるわ』

そんなにやる気を出すなよ、鈴。
そのやる気を一夏に好きだと告白するまで大事に仕舞っておけばいいだろ。
鈴の話が終わると攻撃体勢に入ったとハイパーセンサーが教えてくれた。
俺はすぐに身構える。
丸みを帯びた肩の装甲を持つ鈴のIS『甲龍』。
その両肩の装甲が上下に割れ、そこに装備された砲身も砲弾も見えないという武器、衝撃砲が俺を狙っている。
鈴とやり合うのは初めてだし、何より、見えないものをかわすという特技を俺は持っていない。
今回は逃げの一手だ。
俺が動き出した瞬間に何かが右頬の近くをかすめる。

「お、おい。顔を狙いやがって、俺を殺す気か?」

「だから、そう言ってるじゃない。今からアンタをあの世へと送って上げるから、そこで動かないでじっとしてなさい」

鈴はそう言うと衝撃砲を乱射してくる。
俺は殺されてはたまらんと、的を絞らせないように速度に緩急をつけ、大きく円運動をして攻撃をかわす――というか、逃げていると言ったほうがいいかもしれない。
そんな俺の行く手に一筋の光がやってくる。
今の光は……スターライトマークⅢのビームか。
次に俺の前に立ちはだかるのはセシリアのようだ。
なぜだかは知らんが、セシリアが偏光制御射撃をしているように俺には見えたんだが。
もしかして、俺への怒りによって今この瞬間に覚醒を果たしたのか? お前はどこぞのサイヤ人かよ。
俺も覚醒できないものか。
覚醒をするには死に対する恐怖が必要だという説があるらしいが、今がかなりそれに近い状況だと俺は思う。
見えない敵が見えるようになるとか、植物の種が割れるイメージが見えると急激に戦闘力が跳ね上がるとかさ。
まあ、そんな都合よくはいかないか。

『アーサーさん。わたくし、セシリア・オルコットが奏でるレクイエムであの世へと送って差し上げますわ。そして、わたくしを一夏さんのペアに推薦しなかったことを後悔なさい。あの世へ行ってからゆっくりと。ふふ、ふふふふ』

不気味な笑いをしつつそんなことを言っている。

『死ぬ前からレクイエムなんか奏でるなよ』

『その減らず口を二度と聞けないと思うと少し寂しい気持ちもありますけど、わたくしとアーサーはもともとこうなる運命だったのでしょうね。安心してくださいまし、同じイギリス出身の誼で苦しまぬよう優しく殺して差し上げますから』

俺はそんな運命も誼もいらねえよと俺は叫んでいた。
セシリアのISのビット兵器の四機が切り離される。
その意思のないはずのビット兵器すべてから俺に対しての敵意をひしひしと感じる。
これはもしかして……原作にあった全武装による一斉射撃か?

「ええい、やっかいな」

と俺は吐き捨てるに言うと、自分のISを加速させる。
俺とセシリアの距離は五十メートルほど。
その距離を一気に縮めにかかる。

『今のわたくに一夏さんの真似をして近距離格闘を挑もうとしても無駄ですわよ』

セシリアのそんな言葉が聞こえるが、そんなことは百も承知だ。
セシリアの攻撃を受けたくはないが、覚悟はしている。
今俺に必要なのはセシリアとの間合いなんだよ。
ISの生み出す加速で俺の見える世界が急激に狭まっていく中、五条の光が俺に向かって来ているのを視界にとらえていた。
セシリアの距離が詰まるころには攻撃を三発ほどくらいシールドエネルギーが削られる。
セシリアと俺の距離はもう十メートルもないだろう。
俺はここで新装備を試す。

肩にある物理シールドの舳先をセシリアに向けると、目標をセンターに入れてスイッチ。
ドドドというよりは、ロケット花火が飛んでいくようなシュシュシュといった感じの音だろうか。
片方のシールドに八発、両方で計十六発のミサイルがセシリアに襲いかかる。
これだけ近ければ全部はかわせまい。
セシリアも俺に攻撃を受けると思ったようで回避しようと動き出したようだが、気づくのが少し遅い。
セシリアも俺のISの見た目と装備が変わったのは知っていたかも知れないが、どう変わったのか知らなかったようだ。
俺とセシリアの間を爆煙が水落とした絵の具のように一瞬のうちに広範囲を黒々と染めていく。
それを目眩ましにして、今度は距離を取ろうとすると、ドンという腹の底に響いてくる音が俺の耳の奥にある鼓膜を震わせる。
これはラウラの『シュヴァルツァ・レーゲン』のレールカノンか。

『アーサー、知っているか? 人は首を切られても十分は生きていられるそうだ。それを今ここで試してやろう』

『ラウラがそんなこと言ってると一夏にチクっちまうぞ』

『今すぐ貴様の口を封じれば問題あるまい』

と言ったかと思うと、四つのワイヤーブレードが俺に向かってくる。
俺を捕まえてからどうにかするつもりか。
俺の将来の夢は小さな庭のついた一戸建ての家に嫁さん住み、子供は二人くらい欲しいかな。
で、犬か猫のどちらか一匹飼うのが夢なんだ。
だからこんなところで死んでたまるか!
俺は向かってくるワイヤーブレードをかわし、それができない場合は物理シールドで矛先をずらす。
そしてラウラの隙を見てスターライトマークⅢで攻撃をしようとしたとき、ヒュンヒュンと風を切り裂く音が聞こえてくる。
今度は……シャルロットか?

『ボクだって本当は大切な友達にこんなことはしたくないけど……でもね、礼儀を知らない野良犬には躾を教える必要があると思うんだよ』

俺を大切な友達だと言いながら、犬畜生扱いか? しかも野良犬って……ひでえな、おい。
せめて愛玩動物とくらいは言ってくれよ。

『四人との模擬戦は見ていたけど、ずいぶんとやるようにはなったみたいだね、それでも予想の範囲内。ボクは絶対キミを逃がさないよ!』

辺りに響き渡るように高らかに宣言をしたシャルロットは両手に武器を構える。
あのゴツくて長い砲身を持つ武器は――ショットガンか。
四人とやりあって俺のISのシールドエネルギーは少なからず消耗している。
そこに高速で武器を入れ換える『ラピット・スイッチ』を得意とするシャルロットが相手か。
歩が悪すぎるぞ。
俺もこの場に一夏を高速で召還したいよ。
ここにいる女子五人はさすがに一夏の前では何かをしようとは思わないだろうからな。
しばらくシャルロットの攻撃に耐えていた俺だが、しぶとく耐えている俺に業を煮やしたのか、全員で襲いかかってくる。
代表候補生一人相手に勝つのは難しくても、負けない戦をするならなんとかなるが、五人も相手ではな。
ついに撃墜された俺は、全機投入なんて大人げないぞ、と愚痴りながら意識を失うことになった。

目を覚ました俺にまず見えたのはどこかの部屋の天井らしい。
よくよく見れば医務室の天井に見える。
顔を動かし辺りを見渡したが誰もおらず俺が一人。
緑髪の眼鏡っ娘で、胸がとても魅力的な、俺にとっては女神さまのような存在がいて欲しかったという希望はあったが、そうはならなかったようだ。
そうならなかったことに少し寂しさを感じながら、俺は身体を動かしてみる。
四肢の無事を確かめるように、ゆっくりと。
あの模擬戦で俺に止めを差したのはシャルロットだったが、一応は手加減してくれたらしいな。
身体に痛みらしい痛みは感じない。
身体にかけてあるものを捲ってみたが、見た目ではたいした怪我をしていないように見える。
せいぜい打撲とか、そんな感じだろう。
俺はほどなくして医務室を出ることになった。
一夏が見舞いに来て悪かったと謝っていたが、俺がなんで謝っているのか理解できず聞き返すと、俺が模擬戦で気絶するまでボコボコにやられたのに違和感を感じて箒に理由を問いただしたらしい。
最初は誤魔化していたらしいが、一夏がしつこく俺をボコボコした理由を聞くもんだから、とうとう最後には白状したらしい。
俺は一夏が気に病む必要はないと言ってある。
一対五の模擬戦なんてなかなかできないからなとも言ったか。

噂では、俺が人の恋路に首を突っ込んで痛い目をみたことになっている日から時は流れてとある日の放課後。
学園の施設内、第二整備室に俺たちはいた。
俺たちとは、俺を含めた一夏と整備課の有志の皆さんだ。
一夏の呼び掛けにより簪さんの専用機を完成させるために集まっている。
集まって早々さっそく動き出したのだが、俺はビットロボ四機と自分のISの調整を先に終わらせることにした。
一夏はレーザーアームを持ってきてくれとか、超音波探索装置を持ってきてくれとか色々用事を頼まれていた。
その要求に文句を言うこともなく笑顔で答えていたな。
中には一夏に疲れたから胸を揉んでくれと言った強者もいたが、聞き間違いだと思いたい。
そんな光景を眺めながら考えてみる。
原作では簪さんの専用機の完成には、一夏のISのデータや生徒会長のISのデータが使われていたようだが、この世界ではどうなるか。
一夏がセカンドシフトしていない上に、簪さんが原作より弱体化したらあのゴーレムⅢ相手に戦力的に厳しくないか? 原作では五機だったゴーレムだが、俺がここに存在することで増える可能性も捨てきれない。
原作よりも激戦になること想像すると、俺の頭の中を不安感がよぎった。

ようやく自分の機体の目処がたったところで、ちょうど近くにいたのほほんさんに声をかける。

「猫の手は必要か?」

「うんとねー。じゃあー、疲れたから肩を揉んで~」

俺は一夏ほどうまくないぞと言いつつ手招きをしておほほんさんを呼び寄せる。
とはいっても、俺とのほほんの距離は数歩程度。
床にある何かを跨ぐように大股で近づくと、俺に背を向ける。
俺はそれを見てのほほんさんの肩に両手を伸ばしマッサージを始める。

「お客さん、ずいぶん肩がこっているようですな」

マッサージをしながら、冗談めいたことを言うと、肩こりしやすいとかなんとか。
のほほんさんのプライベートは謎だが、簪さん専属メイドらしからな、学園のほうと簪さんの世話とで大変なんだろう。
しばらくマッサージを続けていると、きもちいいーと言う言葉が聞こえてくる。
その言葉の響きが俺にはとてもエロチックに感じた。

「エロい声で気持ちいいとか言うな。周りにいる人間から誤解を受けるだろ?」

「えー、わたしー、エロい声なんて出してないよー。そう聞こえるのはー、いつもエロいこと考えてるからだよ~」

俺とのほほんさんのこんな一幕もありつつ、簪さんの専用機は無事完成をみた。

タッグマッチ戦の組み合わせが発表される開会式の日、壇上の壁にデカデカと写し出される対戦表。
総当たりではなく勝ち抜き戦のようだ。
俺は自分の名前を探すが一回戦の組み合わせに俺の名前がない。
確めるようにもう一度と見る。
すると、一番右端に俺の名前があった。
しかも、『シャルロット、ラウラ』対『鈴、セシリア』の勝者と戦う二回戦からの登場になっている。
これはどういうことだろうな。
シードするなら生徒会長と箒ペアのほうがいいだろうに。
優勝候補生筆頭、オッズも一番人気の学園最強と第四世代機のペアなんだから。
ちなみに一夏と簪さんペアはその学園最強と第四世代機のペアとあたることになっている。
まあ、ゴーレムが襲ってくればタッグマッチどころじゃないしな、対戦相手のことは気にしないでおこう。
こうして俺たちのタッグマッチ戦が始まった。
いや、ゴーレムⅢ戦と言ったほうがいいのかもしれない。
 
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