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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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少しでも前に進めたら


「そんな事が・・・」

ザイールによって語られたシュランの過去に、ジュビアは目を見開く。
語った本人であるザイールは辛そうに表情を歪め、目線を逸らし落としている。
ぎゅっと握りしめた拳が、溢れ出そうな感情を無理矢理抑え込んでいるかのように小さく震えた。

「解るか?幽鬼の支配者(ファントムロード)はアイツにとって、誰からの差別も受けない居場所だったんだ。なのに・・・なのにお前等はァ!」
「きゃあああっ!」

抑え込んでいた感情が、爆発した。
一瞬にして向けられた右手に魔法陣が展開し、強い光を放った刹那、ジュビアの周囲が勢い良く爆発する。
吹き飛ばされたジュビアは壁に激突し、壁に背を預ける形で動きを止めた。

「それなら・・・妖精の尻尾(フェアリーテイル)だってそうです!」

力強いジュビアの声に、ザイールの動きが止まった。
右腕を中途半端に上げた状態で、静止する。

「シュランちゃんを差別する人なんていない・・・バケモノだなんて言う人はいません!」
「そうだろうな。彼奴等はシュランの事など、何も知らないのだから!」

ジュビアが放った水に、ザイールは躊躇う事なく手を突っ込んだ。
煌めき、水が内部から爆発し、飛び散る。
ダン、と地を蹴ったザイールは跳び上がり、魔力を集中させた。

「ジュビアはティアさんを助ける・・・こんな所で負けていられない!」

傷だらけの体に鞭を打ち、ジュビアも駆け出す。
駆け出した足はゆっくりと消え、その全身が水になる。
ザァァァァァ!と水が流れる音を響かせながら、ジュビアはザイールへと向かって行った。

(ティアさんを助けるって、約束したんだ)

青い瞳で真っ直ぐにザイールを睨みつけ、ジュビアは思う。
才女でありながらそれを鼻に掛ける訳ではなく、突然「友達になってほしい」と言ったジュビアを受け入れてくれた、同じ水の魔法を使う少女を。

(ジュビアの生まれて初めてのお友達を助けるって・・・シュランちゃんと、約束したんだ!)










「ジュビアと、お友達になってくれませんか!?」

ギルド間抗争が終わって1週間が経っていた、あの日。
壊れたギルドを新しく建て直す妖精の尻尾(フェアリーテイル)
ギルドメンバーであるグレイに一目惚れしたジュビアを見つけて声を掛けたティアに、ジュビアはそう言ったのだ。

「・・・はへ?」

随分とマヌケな声が出た、とティアは思った。
だが、それほどに大きな事だったのだ。

「えー・・・っと」

どう答えていいか解らず、ティアはジュビアをまじまじと見つめた。
青い髪をくるんと外にカールさせ、暗い色合いのコートを纏い、同系色の帽子を被っている。
色白の肌によく映える青い瞳に、胸元のにっこり笑顔のブローチ。
可愛い子ね、とティアは小さく頷く。
それと同時に、こんな可愛い子に好かれておきながら気づかないってどういう事よ、とグレイに対する怒りがふつふつと湧き上がってきたのは余談だ。

「あ・・・す、すみませんっ!突然こんな事言われても困りますよね」
「いや・・・困りはしないんだけど」

ティアが何も言わず自分を見つめていた事を、自分が突然友達になってほしいと言ったからだと勘違いしたジュビアはペコッと頭を下げる。
その様子にティアは慌てた。
何でも平均点以上に熟すティアだが、人間関係に関わる事は最も苦手で、『気に触らないように喋る』とか『宥めさせる』とかが出来ないのだ。

「でも、はっきり言ってアンタは珍しいわ」
「え?」
「私と友達になろうなんて言うの、アンタが初めてなの。どちらかといえば、人に嫌われるタイプだし、私って」

今度はジュビアがポカンとする番だった。
目の前で少し悩むように小首を傾げる少女は、嫌われるようなタイプには見えない。
好かれそうな―――――特に、世の男性が放っておかなさそうなルックスと、奥が見えないが透き通った声。紛れもない美少女なのである(この時のジュビアは知らない。ティアの口の悪さを・・・)。

「嫌われるタイプなんですか!?こんなに美人さんなのに!」

ずい、と身を乗り出して驚くジュビアに、ティアも一瞬たじろぐ。
美人だと言われる事は多々ある―――――クロスとかクロスとかクロスとかに、だ―――――が、それが関わってここまで驚かれたのは初めてだ。

「・・・嫌われ体質なのよ、ガキの頃からずっと」
「え?」
「昔からそうだった・・・そして、きっとこれから先も」

晴れ渡る空を見上げて呟くティアは、遠い人に見えた。
手を伸ばせば触れられる距離にいるのに、触れようとした瞬間解けて消えてしまいそうな、儚い姿。

「・・・そんな事、ないです」

気づいたら、ジュビアは口を開いていた。
ゆっくりとティアの目線がジュビアへと戻る。
それを感じながら、ジュビアは続けた。

「ジュビア、思うんです。神様はいるって。そして、その神様は平等なんです」

明日起きたら、晴れた空が見られますように――――――。
そう願った事も、少なくない。
その願いを、年月はかかったが叶えてくれた。
ジュビアの言う、“神様”は。

「今ティアさんは嫌われてるのかもしれないですけど・・・ずっとそのまま、なんて事はないです。ないハズです。だってそんなの、平等じゃないから」

ティアは何も言わない。
ただ、信じられないモノを見るような目でジュビアを見ている。
その体が小刻みに震えている事には、2人とも―――――本人であるティアさえも、気づいていない。

「だから、きっといつか、ティアさんを好きになってくれる人が現れます。ジュビアは予知とか予言とか出来ないけど・・・絶対に、現れます」

2人の青い髪が、風に靡く。
再建工事に励むメンバーの声が聞こえる。




「だって、ジュビアはティアさんが好きですから」




優しく、柔らかく、ジュビアは微笑んだ。
ティアの目が見開かれる。

「可愛くて、テキパキしてて、さり気なく誰かを気遣う事が出来る・・・それって、誰にも出来そうで、誰にも出来ない事だって、ジュビアは思うんです」

ジュビアの念に気づいたのか否か、ナツから弁当を取り上げてグレイに渡して。
きっとすぐ空腹になるだろうと予測して、1人で食べるには量の多い弁当を作って。
1週間グレイを見つめ続けるジュビアに、グレイを呼んでこようかと声を掛けて。
本人としては何でもない事だったのだろう。
その“何でもない事”が、全て繋がって今に至る。

「!ティアさん!?」
「・・・何?」

すると、ティアに目を向けたジュビアが目を見開いた。
どうしてそんな表情をするのかが解らないティアは首を傾げる。
その問いに答えるようにジュビアはハンカチを取り出し、差し出した。








「・・・泣いてますよ?」








言われて、気づく。
頬に触れると、濡れていた。
止めどなく溢れる涙を覆い隠すように両手で顔を覆い、ティアは俯く。

「ど、どうしました?ジュビア、何か嫌な事言っちゃいましたか!?」
「違・・・っ」

慌てるジュビアの誤解を解こうと、ティアは首を横に振る。
それでもなお、あわあわと慌てるジュビアに、ティアは呟いた。

「私にもよく解らないけど・・・こう、心がほわって温かくなって・・・涙が・・・」

手の甲で涙を拭うティアの目元を、ジュビアはハンカチで優しく拭っていく。
あまり感情を表に出さないティアは、“感情”をあまり知らない。
嬉しい、とか、悲しい、といった単純なものならともかく、複雑で曖昧な、たった今湧き出た感情を、表す事は出来なかった。






「・・・ごめんなさい、ハンカチは洗って返すわ」
「いえ、気にしないでください!」

しばらくして。
泣き止んだティアの言葉に、ジュビアは明るく笑った。
雨女だった頃は浮かべるどころか、作る事さえ出来なかった笑顔だ。
それもこれもグレイ様のおかげです、とジュビアは心の中で感謝する。
・・・その場にルーもいた事は、完全に忘れられているが。

「ジュビア・・・だったっけ」
「はい」

こくり、と頷く。
ティアは帽子の鍔をつまんで深く被り直し、目線をあちらこちらへ彷徨わせた。
やがて、彷徨わせるのを止めたティアは躊躇いがちに、呟く。







「その・・・と、友、達・・・にっ・・・なって、ほしいん・・・だけど」







途切れ途切れの、ぶっきらぼうな言葉。
今のティアにはこれが限界だった。
戸惑うように視線は落とされ、恥ずかしいのか頬は淡い朱に染まり、忙しなく視線が動く。

「・・・」

ジュビアは、言葉が出なかった。
雨女だから、と、今まで友達が出来た事は無かった。
今―――――初めて、友達が出来ようとしている。
しかも、不器用で、素直になれなくて、友達になってほしいの一言にここまで苦労する、見た目によらず随分と可愛らしい健気な友達が。

「・・・っはい!ジュビアでよければ、喜んで!」

パァッ、と。
ジュビアは笑った。花が咲くように。
それにつられたかのように、ティアも嬉しそうに目を細めた。











似ている、と思った。
ジュビアと、ティアと、シュランは。
3人とも人から嫌われる何かがあって、それに押し潰されそうになりながら生きている時があった。
シュランはガジルとザイールによって救われ、ジュビアはグレイ(ルーもいたけど知ったこっちゃない)によって救われた。

(だから・・・)

ティアは、まだだ。
救いを拒んだ訳じゃない。理由を誰にも教えなかったのだ。
知らない事に対して、手を差し伸べるなんて出来ない。
そして――――――知っている事に対して、無視を決め込む事も出来ない。

(ジュビアは・・・)

雨女じゃなくなった、あの瞬間。
一言じゃ片付けられない、片付けてはいけない嬉しさが込み上げてきた。
あの時の嬉しさは、きっと一生忘れないだろう。
シュランだって、きっとそうだ。
声がザイールに届いた時、言葉が外に届いた時、言いようのない嬉しさがあっただろう。

(ティアさんを・・・)

ティアもその嬉しさを味わったって、いいはずだ。
重く圧し掛かっていた出来損ないのレッテルを剥がして、カトレーンの一族の掟に縛られなくて、“ティア”として生きる事に嬉しさを覚えていいはずだ。

(助ける!)

―――――――傍にこんなに人がいるんだ、と知っていいはずだ。
嫌われ体質じゃないと知って―――――いいはずだ。

「はあああああああああっ!」

あの時の涙は、温かかった。
あの時の言葉は、凍てついたティアの心を溶かす鍵になった、とジュビアは思っている。
でも、まだ完全じゃない。
きっと、完全に溶ける事は、ない。

(それでも・・・)

そんなの解っていた。
人の心は、簡単なモノじゃない。過去1つを乗り越えるだけで全てが変わる訳がない。
17年も放っておいたのなら、尚更だ。
―――――――だけど。

(ほんの少しでも過去を乗り越える事で、ティアさんが前に進めたら―――――!)

0と1は違う。
進まないとの、1歩進む事は違う。
ただ数が増えただけだけど、0が1になる事は大きな事だ。

「なっ・・・・何だ、コイツは・・・」

ザイールは目を見開く。
先ほどまでと変わらない、ジュビアのはずだ。
なのに―――――なのに。

「シェラアアアアアアアッ!」

その青い目に強い意志を持ち、全身を水へと変え、床を削るような勢いで向かってくるジュビア。
先ほど、ザイールがグレイのフリをしていた事に怒っていたのとは違う、怒りでありながら怒りとは言い切れない感情。

(・・・そうか)

全てで表される意志に気づくのに、時間はかからなかった。
だから、避ける事をしない。
魔法陣を展開させる訳でもなく、ザイールはただ立っていた。
右手に集中させた魔力が、ふわりと消える。

(他の為に戦っている時・・・それが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)が最も強い時)

だからだ、と思った。
戦力とか、人数とか、そういう事ではない。
幽鬼の支配者(ファントムロード)が勝てなかったのは―――――こういう事なのだ。

(彼奴等を敵に回そうと考えた時点で、俺達の敗北は決まっていたのか・・・)

無意識に、微笑む。
その笑みは自然なもので、どこか清々しさを感じさせた。
黒いつり気味の目を細め、呟く。








「―――――――滑稽な」








その言葉は、誰かに向けたモノではない。
言うならば―――――自分に向けたモノ。
幽鬼の支配者(ファントムロード)時代にあれ程反対した妖精の尻尾(フェアリーテイル)との戦。
なのに―――――今、自分は妖精の尻尾(フェアリーテイル)と対峙している。

(馬鹿げているな・・・滑稽すぎて―――――)

結局、同じだった。
所属するギルドが違うと言うだけで、結果的には同じ。
妖精の尻尾(フェアリーテイル)を敵に回した事に、変わりはない。

「――――――笑えない」

そう呟いた、刹那。






水流激鋸(ウォータージグソー)!!!!」






ザイールは、ジュビアの水に呑み込まれた。
声はない。悲鳴の1つも響かない。
だが、濡れたザイールは床に抵抗なく落下し、傷だらけだった。
ゴロリ、と床を転がったザイールは大きく息を吸い込む。

「はぁッ・・・流石、元エレメント4、と言ったところか・・・」

喘ぎながら、ザイールはジュビアに目を向ける。
が、ジュビアはジュビアで、魔轟爆陣のダメージや魔力消費で座り込んでおり、両者共に動けない状況にあるのは明らかだった。

「何で・・・どうしてザイールさん・・・ジュビアの水流激鋸(ウォータージグソー)を・・・避けなかったんですか?」
「お前は本当に問い掛けが多いな」

ジュビアの問いにザイールはクスクスと笑い声を零す。
そして、天井を見上げた。
表情から冷たさは消え、晴れ晴れとした表情になっている。

「・・・何で、と聞かれても解らない。ただ1つ言うなら、滑稽だったからだろう」
「え?」

意味の解らない回答に、ジュビアは聞き返す。
それに対しザイールは、聞き返すのが当然であるかのような表情を浮かべ、目を閉じた。

「解らなくてもいい。知る必要もない。答えなど世に生きる人間の数だけ存在する。その全てを理解しようとしていては、答えを知るだけで生涯を終える事になる」

そう言って、沈黙する。
しばらく静寂が流れた空間。
沈黙を破ったのは、ジュビアの声だった。

「ザイールさん」
「・・・何だ?」

顔だけをジュビアに向ける。
ジュビアは微笑んで、口を開いた。

「・・・罪を償ったら、シュランちゃんに会いに来てくださいね」

シュランちゃんと一緒に、ジュビアも待ってますから。
そう言って、ジュビアは気を失った。
無理矢理起き上がったザイールは気を失うジュビアを見て、溜息をつく。

「ティア嬢を助けに来たんじゃなかったのか・・・?こんな所で気を失ってる場合じゃないだろ」

呆れたように言うが、返事はない。
こちらも力尽きたザイールは、目を閉じて意識を遠くへ飛ばした。
―――――気を失う前に、口元に弧を描く。

「ああ・・・必ず、会いに行くよ」












「生憎だが、私は消える訳にはいかない・・・そう言いましたよね?あなたは、デス」

どんな会話であれ語尾にデスを付けるのは、災厄の道化(ミスフォーチュンクラウン)のセス・ハーティス。
ブロンドのカーリーヘアに肉感的な肢体、とびっきりの美人顔の女魔導士だ。

「がっかりデス・・・言うほど手強くなかったデス」

はぁ、と溜息をつくセス。
そして、目線を少し上げた。
その目線の先には――――――







「ヴィーテルシアさん・・・デス」








傷だらけで倒れる、金髪を三つ編みに結えた少女に変身した、ヴィーテルシアだった。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
わりと早く更新出来ましたが・・・内容が。
書きたい事はこれだー!って書いたら、そのまんまになっちゃいました。
次はヴィーテルシアとセス・・・長くなるぞ過去編。

感想・批評、お待ちしてます。
・・・最近、いいタイトルが思いつかない・・・。 
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