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ロウきゅーぶ ~Shiny-Frappe・真夏に咲く大輪の花~

作者:46熊
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Nine

 それから二週間後、御盆の日に決行された慧心学園と硯谷女学園の親善試合は最後のフリースローで慧心の勝利に終わった。
 結局一度もまともにコーチング出来なかったが、結奈のフットワークは異常だった。最後の勝利を決めたフリースローのフォームもさる事ながら、全てにおいて何段階も成長していた。しっかり自分が言ったことを遂行したのだろう。最初は反発したかもしれないが、彼女にはプライドよりも大事なものがあったという事だ。
 硯谷の麻奈佳コーチも彼女の動きには釘付けだった。今回の親善試合はいろんな人が見に来ていたようだし、もしかしたら彼女には方々からスカウトが来るかもしれない。
 あの日の、もっかんみたいに……

 「……っとっと」

 両頬をパチパチと叩く。感傷に浸っている場合ではない。次は自分たちの番なのだから。
 慧心OGのメンバーは全員が赤い試合着に身を包んでいた。『RO-KYU-BU!』のロゴが眩しい。
 相手方のメンバーも試合着に身を包みコートに現れた。先陣を切るのはかつての最強のライバル、藍田未有(アイダミユ)だ。恐らく今でも現役で、第一線で活躍しているのだろう。
 最後にあったときよりもなお背が伸びている。チャームポイントのリボンは変わらず彼女の後頭部に花を添える。

 「よぉ、久しぶりだなちびリボン。今はでかリボンか?」
 「……そうね、ちゃんと全員集まってくれて嬉しい。あの日の礼、しっかりさせてもらわないといけないから」

 全身を流れるオーラがけた違いだった。紛れもない、比類なき達人。月日はこのプレイヤーを死角無き魔物に育ててしまったらしい。
 だが、それでも負けない。最高のコーチに調整してもらったんだ、五人の個性を融和した最強のチームが負けるわけがない。
 そうだろ、すばるん。日本のエース、最強のポイントフォワード、究極のユーティリティープレイヤーさんよ。

 「よっし、それじゃあ試合を始めます。……二人とも、本気でぶつかりなさい」

 本来ならジャンプボールはアイリーンに任せるのが適任だ。しかし、相手方のジャンプボールには未有が出てきた。他にもっと背が高い人もいるというのに。
 これは彼女からの挑戦状。受けない方が勝率は上がる。だが、それは出来ない。かつての自分なら売られた喧嘩は買う精神で一も二もなく受けていた話、だが今は違う。
 全力でぶつかりたがっている元ライバルの申し出を、突っぱねるなど無礼千万。

 「それでは……試合、スタート!!!!」
 「「はぁぁああああぁああっ!!!!!」」

 同時に飛翔。同時にボールに手が当たる。そして同時に二人の手が弾かれた。ボールはセンターラインの上に落ちた。まずは互角、ボールは相手チームの手に渡る。

 「行くよミユっ!!!」
 「当然っ……っ!?」
 「へへっ、別に個人的に恨みがあるわけじゃないけどさ、アンタはとりあえず封じないといけないでしょうに」

 このチームが現役の頃と同じやり方で行くなら間違いなく攻守の主軸はでかリボンだ。だったら、こいつを押さえられるのは私しかいない……っ!!!!

 「ちっ、友香(ユカ)パスっ!!!」
 「させないよ!!!」
 「なっ……っ!!!」
 
 パスが決まって進軍しようとした刹那にヒナのスティールが決まる。その今もなお低い身長と類稀なるバランス感覚から繰り出される低空ドリブルに相手方はとても1対1では止められない。

 「くっ……センター前出て!! 私が止めるっ!!!」
 「くっ……真打ち登場かい?」
 「強敵だって認定してあげる、でもこの牙城は崩させない!!!」

 でかリボンはゴールしたまで進軍したヒナの前に立ちはだかる。私にはわかる、これは別に彼女のワンマンプレーなどではない事を。
 でかリボンはそこまで身長が低いわけではないが、チーム内で相対的に見ればかなり小柄である。小柄でないと勢いの乗ったヒナは止められないのだ。

 「それなら……行くよ!!!」
 「無駄っ……そして温いっ!!!!」
 「くっ……!!」
 「ヒナ、あがって!!! 私が止めるっ!!」
 「だから無駄って……っ、パス!」

 サキの進軍にもっかんが後衛としてつく形で二人がかりで持っていこうとした策が即座に読まれ、別の人間にパスが渡る。
 サキと同等の視野を持ち、且つそれが個人内で処理されず周囲の仲間と共有できるだけのセルフコントロールが利くようになった彼女の能力が此処まで恐ろしいとは。
 正確で奪い取りがたいパスの押収ですぐに硯谷は上がってくる。そして再びでかリボンにボールは回った。
 ゴール前、守りはアイリーンだけしか物理的に間に合わない。そこを突破されれば間違いなく先制点を許してしまう。

 「久しぶりだね、雑誌越しにいつも見せてもらってるけど……コートの中で会うのはホントに久しぶり」
 「……………」
 「どれくらい変わったか……見せてみてよっ!!!!!」
 「ひっ……」

 かなり乱暴なオフェンスで、でかリボンはアイリーンを抜こうとした。アイリーンの体が横に逸れる。だが次の瞬間……

 「……なんて、いつまでも子供じゃ無いですから!!!」
 「おっしゃ、やったぜアイリーン!!!!」
 「智花っちゃん、パスっ!!!!」

 群を抜いて高い身長の名センターから繰り出されるパスは誰にもカットできない。前進したもっかんが難なく受け取り……
 リミッターを、外すっ……

 「行くよ、硯谷さんっ……!!」

 静かに、しかし煌々と燃える蒼い闘志。かつて県屈指のスピードを誇ったその小さなエースの潜在能力が炸裂した。
 その神速はもっかんのマークについていたディフェンスを完全に置き去りにして、私とサキのマークも動員して尚振り切られる。
 あっと言う間にゴール前、しかし相手のセンターもでかい。正直言って、飛べば余裕でネットに掴まれるくらいの身長を持っている。
 かといって迷っている暇はない、恐らくこのシチュエーションでもっかんの潜在能力を見せつけられた今なら彼女一人を止めるのに人材の投入は惜しまないはず。

 「さあ、どうするエース!?」
 「逃げませんよ……私のコーチも、逃げませんでしたからっ!!!」

 高く弧を描くシュート。圧倒的に命中精度の悪い一撃だったが、普通に打っても弾かれるのだからしょうがない。

 「くっ……入れさせない!!!!」
 「それなら、入るまで攻めるだけです!!!」
 「よっしゃ、任せろッ!!!!」

 もっかんが打ったのは多少右寄り、入るか微妙だが守る側としてはカットせざるを得ない微妙な位置に打ち込んだのだ。

 それをカットすれば必然的にボールは右寄りで弾かれる。それを私は受け取った。

 「ぶちかませっ、打ち上げ花火(ファイアー・ワークス)!!!!」

 「おうっ、任せろ!!!!」

 みーたんの声を聞いても気恥ずかしさなど微塵もない。足も軽い。意識もはっきりしている。そしてその瞳はゴールを捉えて離さない。
 今なら飛べる。あの日の失態を断ち切るために……

 (決めてみせる、すばるんが教えてくれたこと、此処でっ……)

 (全て出し切るんだっ!!!!)
 「いぃいっけぇええぇええーーーっ!!!!!」

 ボールはネットに吸い込まれ……
 ピピィイイーーーーッ!!!!! ホイッスルが高々と鳴り響いた。

 「よっしゃぁあぁああああっ!!!!!」
 「ふう、まあやったんじゃないの!!?」
 「お疲れ、マホ」

 近くにいたサキとヒナが冷淡ながらも暖かく祝してくれた。やっと……本当の意味で全てが繋がった気がする。
 やっと戻れた。自分が居たかった場所に。

 「よぉし、まだ二点差しかないんだ。まだまだ突き放すぞっ!!!」
 「「「「おおっ!!!!!」」」」


 「はぁっ、はぁっ……っ、そぉおおおっ!!!!!!」

 結論、負けました。いや、本来一言で言い表すべきではないのだけれども。色々なドラマがあったのであるけれど、それはまた次の機会に。
 私はコート内に寝っころがり叫ぶ。だが……これだけ充実した試合も無かった。もしかしたら中学最後の試合が終わって以来のことかもしれない。

 「はぁ、はぁ……ほら、マホ立って」
 「最後に並んで挨拶するまでが試合って前に教わらなかったのかい?」
 「あーもう、うっせぇな二人とも。ったく、昔はヒナはこっち寄りだと思ってたのに」
 「「あはは……」」

 苦笑するもっかんとアイリーン。すっかり真面目キャラに身を堕としてしまった(いてっ←当然サキさんのせいです本当に(ry)ヒナに悪態をつき、つきつつも迅速に跳ね起き並ぶ。

 「それでは、硯谷女学園OGと慧心学園OGの試合を終了する」
 「ありがとうございましたっ!!!!!!」

 終わってみれば懐かしの戦友同士、清々しいものだった。慧心学園OGのメンバーは実際に大会で結果を出していることなどは別に何の関係もないのだろうが、あの時のような居心地の悪さはない。お互いがお互いを最大最強の好敵手と思っているからこそ、最大限の力でぶつかり合えたのだ。

 「むかつくけど、やるじゃない……真帆」
 「あんたもな……未有」
 「……ふふっ」
 「……ははっ」

 「「はぁぁああああああぁあああっ!!!!!!」」




 がっしりと握手を交わした。相手が痛みで悲鳴をあげるくらい強く握りしめようとしたのだが、それはお互いに同じことだった。汗で互いの手が滲むが、二人の熱気でそれはすぐに蒸発する。

 「はぁ……」

 幾重にも連なる溜息が小綺麗な体育館を埋め尽くしていった…… 
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