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妖僧

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第三章

「あの、貴方は死んでおられますので」
「もうお身体がありません」
「ですからお願いですが」
「ここは生まれ変わってくれますか」
「留まられるのではなく」
「そうしてくれますか」
「いや」
 だが、だった。サッチャラーンはというと。
 首を横に振ってだ、こう彼等に言うのだった。
「私は今だ」
「今、ですか」
「今のままですか」
「悟りを開くのだ」
 透き通った身体でだ、熱心に書を読みつつjの言葉だった。
「ここでな」
「それが為ですか」
「残られるのですか」
「その様にされて」
「学ばれて」
「何としても達したかった」
 悟り、それにだというのだ。
「だからだ」
「残られますか」
「そして修行されるのですか」
「学ばれるのですね」
「誰にも迷惑はかけない」
 少なくともそれはなかった、彼は眠らず食事も摂らない。身体がないので物音も立てることなく実に静かだ。
「私のことは気にしないでくれ」
「ですか」
「そう仰るのですか」
「私はだ」 
 今も言う彼だった。
「こうしてだ」
「悟りを目指されますか」
「そうされるのですね」
「私は絶対に今悟りに達する」
 まだ言う彼だった。
「邪魔をしないでくれ」
「わかりました」
 取り付く島もなかった、それでだった。
 彼等は一旦引き下がるしかなかった、しかしこの世が生者の世であるのは摂理だ。彼等としてもサッチャラーンをこのままにしてはおけなかった。
 それでだ、今度はだった。
 バンコクでも有名な高僧マガバーン=タムリットに相談してみた。タムリットは齢九十に達している老僧だ。目はかなり弱り顔は皺だらけだ。身体もかなり小さくなっている。
 僧侶達はその彼に事情を細かく話したうえで相談した、タムリットは彼等の話を最後まで聞いて言った。
「わかった、それはな」
「老師はどう思われますか」
 僧侶達はタムリットにサッチャラーンのことを問うた。
「あの方のことは」
「どう思われますか」
「拙僧が言おう」
 タムリットはこう僧侶達に答えた。
「ここはな」
「といいますと」
「どうされますか」
「うむ、サッチャラーンのところに連れて行くのじゃ」
「そのうえで、ですか」
「老師があの方に話されますか」
「そうする、ではな」
 こう僧侶達に言ってだ、そのうえで。
 タムリットはすぐにサッチャラーンのところに赴いた。見ればサッチャラーンは瞑想に入っていた。タムリットはその彼に対して言った。
「御主、何をしておる」
「そのお声は老師ですか」
「そうじゃ」
 その通りだとだ、タムリットはサッチャラーンに答えた。
「わしじゃ」
「よく来られました」
「うむ、それでじゃが」
 タムリットはサッチャラーンに応えつつまた言った。
「御主は何故残っておるのか」
「悟りを開く為です」
 タムリットにもだ、サッチャラーンはこう答えた。 
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